名前の由来 ムクロジ Sapindus mukorossi |
ムクロジ 無患子 |
『図説 花と樹の大事典』のムクロジの項を見ると、「同じ科の樹木 モクゲンジの漢名 木欒子 が誤用されたことに由来する。」とある。 これだけでははっきりとしない。
『日本大百科全書』によると、モクゲンジの中国名 木欒子 を誤ってムクロジに充てたために、木欒子の日本語読み「モクロシ」が転じてムクロジになった とあった。 これらなら納得できる。
「欒」は団欒のランで、漢和辞典で確かめたが音読みは「ラン」以外にない。 たとえ 読みが「モクランシ」であっても、 ムクロジに転訛するのは不自然ではない。
木欒子 の現代の中国語読みは「 mu luan zi 」である。 |
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ムクロジに対する漢字「無患子」は、古い漢名および現在の中国名にムクロジの読みを充てているだけである。
中国名 無患子 の由来は、これも 『日本大百科全書』によると、『植物名実図考 長編』 (注:清朝末期・呉其濬著、初版1848年) の出典で、「昔、神巫がこの木で作った棒で鬼を殺したので、鬼を追い払い、患(ワザワ)いを無くすと伝えられたから」とあった。 昔 ムクロジの果皮、種子、根や樹皮が、止血、解熱、咳止め、健胃、駆虫などの薬に使われたことによるものと思われる。 無患樹がムクロジの木を意味し、無患子はムクロジの種子のことである。
木患子とも書くようだ。 |
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種小名 mukorossi 和名 ムクロジから といわれている |
ドイツの医師で植物学者、サンクト・ペテルブルグ植物園の園長を務めたこともある ヨセフ・ゲルトナー (1732 - 1791) によって 1788年に命名された。
ところが、ゲルトナーはイギリスやフランス・イタリアには行ったようだが、日本には来ていない。
また、18世紀に日本にやってきたケンペルやチュンベリーの文献にも、ムクロジは載っていない。
「ムクロジ」の名が日本で古くから使われていたとしても、その名がインドあたりまで広まっていたとは考えにくいが、中国名「無患子」の中国語読み(現在)は「 wu huan zi 」であるため、そこから「ムコロッシ」とは名付けないだろう。
当然、和名の「ムクロジ」の方が音が近い。
一方、ムクロジと間違った「モクゲンジ 木欒子」の読みは「mu le zi」、上海方言では「mu li zi」である。 これも「mukorossi」には遠い。
ゲルトナーが、どこで採取した標本・資料をもとに命名したのかがわからないと、本当の由来はわからない。 |
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Sapindus ムクロジ属:インドの石鹸 という意味 |
ラテン語の sapo (石鹸)+ Indicus , Indus (インドの) 。
リンネよりも半世紀前の、トゥルヌフォール (1656-1708) の時代から名づけられていた属名である。
リンネの『植物の種』 367ページにも、Sapindus saponaria という記載がある。どんな種かはわからないが、ムクロジ属の植物は古くから種皮を石鹸の代りに使っていたのが知られていて、その資料がインドで採取されたためである。 |
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ムクロジ科 Sapindaceae : |
世界の熱帯から亜熱帯を中心に、約150属 2,000種。 |
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