ムクロジ 無患子
Sapindus mukorossi Gaertn. ( 1788 )
科 名 : ムクロジ科 Sapindaceae
属 名 : ムクロジ属
   Sapindus Linn. ( 1753 )
英語名 : soap nut tree , Chinese soap-berry
原産地 : 本州 (中部以西)、四国、九州、台湾、中国、インド、ネパール
用 途 : 核は 数珠や羽つきの羽の重りに使われた。種を炒って食べることができる。
果皮にサポニンが含まれるため、古くから石鹸の代りに使われた。

樹木①:美しい 黄葉  2010.11.16.

樹木① : 樹形 高さ 約 17m
2010年9月 2007年3月
昔は、地面から 1.5m のところから手前にもう一本大きな幹があり、3本立ちであったた。 その一本が切られたか折れたかしたため、残った2本には手前側 に枝がない。

幹の様子


樹皮が剥がれる
次第に剥がれていった跡が、縞模様となっている。

樹木② : 中が腐ってしまった木 葉の様子 羽状複葉

つぼみの状態 6月16
花序の様子は モクゲンジと同じ。開花状態の写真がない。

地面に落ちた花       2011.6.26.
ムクロジの花には萼だけでなく花弁もあるそうだが 目立たない。王冠の形をした花が次々と落ち、静まりかえった林に ポツリ、パラリと 雨が降り始めたような音がする。
右側は、蜘蛛の巣に掛かって浮いている状態。

①:初めは 緑と黄色のミックス  2010.11.16.

③:最後は真っ黄色に 2012.11.27.

②:小学校の校外学習     2012.11.27.
ペットボトルに実を入れて泡立て、手を洗う体験をしていた。

落ちた 葉 と 実 12月3日
早くから落ちている実はベタベタの粘液が付いているが、この頃には半透明の淡い黄褐色になって乾燥する。
日に透かすと、中の核が見える。

①:遅くまで残る実 1月4日
①番のムクロジも 一度下枝をすべて切られてしまったが、また手の届くところに花が咲くようになった。
安全のためとはいえ、低いところの枝を切られてしまうと、花や実を手にとって観察できない。そんな木が多いのが残念だ。

3月にもなると、実はすっかり乾燥して飴色になる。落ちていた実を拾い集めた。

円錐花序なので複数の果実が付いている。  直径は 約2cm。
果実の付け根に2つの突起があり、乾燥すると剝がれてくるが、なかなか取れずに残っている。
穴が開くわけではない。

実の中の様子 種子の直径は 13~15mm
当然のことながら、核は内部で果皮と繋がっているが、付け根の部分の周囲には長く白い毛がある。しかし全体はきれいに果皮から離れていて、艶消しの真黒な丸い状態となっている。
中央は、果実を半分剥いて 中が見えるようにしたもの。

果実には「稜」(出っ張り) があるが、自然に割れることはない。
ただ さらに乾燥すると核が中で外れて、振ると カラカラ音がする。試しに乾燥したこの果実を水につけて混ぜてみたが、やはり「泡」は出なかった。


種子は食べられるか?           2011.3.2.
事典に種子が食べられるとあるので、長い間の懸案事項を試してみた。
生のままでは核(内果皮)を割るのが難しいので、強火でかなりの時間炒ってみた。核は 1~1.5 mmもあり、炒っても弾ける様子はない。表面が少し焦げたところで 金槌で強く叩く。こんなに堅くて どうやって発芽するのかが不思議だ。
内部には、上部に「鍋蓋 なべぶた」状のものがあって空隙がある。

黄色い種子を食べてみると、大豆のようなかすかな甘みがあった。十分に食べられる。落下後から時間が経ってしまったせいか 少し乾燥気味だった。

募金の一環として、売店で飴のほかに 「ムクロジ入りクッキー」を販売するのもいいと思うが、とにかく 割るのに手間が掛かる。


 
ムクロジの 位 置
写真① : B8 b 10番通り 左側
写真② : D6 a 30番通り 右側 道路際
写真③ : C5 b 30番通り 標識36の右側
F11 c 50番通り 左側 斜面
 
名前の由来 ムクロジ Sapindus mukorossi

ムクロジ 無患子
『図説 花と樹の大事典』のムクロジの項を見ると、「同じ科の樹木 モクゲンジの漢名 木欒子 が誤用されたことに由来する。」とある。 これだけでははっきりとしない。

『日本大百科全書』によると、モクゲンジの中国名 木欒子 を誤ってムクロジに充てたために、木欒子の日本語読み「モクロシ」が転じてムクロジになった とあった。 これらなら納得できる。

「欒」は団欒のランで、漢和辞典で確かめたが音読みは「ラン」以外にない。 たとえ 読みが「モクランシ」であっても、 ムクロジに転訛するのは不自然ではない。

木欒子 の現代の中国語読みは「 mu luan zi 」である。
ムクロジに対する漢字「無患子」は、古い漢名および現在の中国名にムクロジの読みを充てているだけである。

中国名 無患子 の由来は、これも 『日本大百科全書』によると、『植物名実図考 長編』 (注:清朝末期・呉其濬著、初版1848年) の出典で、「昔、神巫がこの木で作った棒で鬼を殺したので、鬼を追い払い、患(ワザワ)いを無くすと伝えられたから」とあった。

昔 ムクロジの果皮、種子、根や樹皮が、止血、解熱、咳止め、健胃、駆虫などの薬に使われたことによるものと思われる。
無患樹がムクロジの木を意味し、無患子はムクロジの種子のことである。
木患子とも書くようだ。
種小名 mukorossi 和名 ムクロジから といわれている
ドイツの医師で植物学者、サンクト・ペテルブルグ植物園の園長を務めたこともある ヨセフ・ゲルトナー (1732 - 1791) によって 1788年に命名された。
ところが、ゲルトナーはイギリスやフランス・イタリアには行ったようだが、日本には来ていない。
また、18世紀に日本にやってきたケンペルやチュンベリーの文献にも、ムクロジは載っていない。

「ムクロジ」の名が日本で古くから使われていたとしても、その名がインドあたりまで広まっていたとは考えにくいが、中国名「無患子」の中国語読み(現在)は「 wu huan zi 」であるため、そこから「ムコロッシ」とは名付けないだろう。
当然、和名の「ムクロジ」の方が音が近い。

一方、ムクロジと間違った「モクゲンジ 木欒子」の読みは「mu le zi」、上海方言では「mu li zi」である。 これも「mukorossi」には遠い。

ゲルトナーが、どこで採取した標本・資料をもとに命名したのかがわからないと、本当の由来はわからない。
Sapindus ムクロジ属:インドの石鹸 という意味
ラテン語の sapo (石鹸)+ Indicus , Indus (インドの) 。

リンネよりも半世紀前の、トゥルヌフォール (1656-1708) の時代から名づけられていた属名である。

リンネの『植物の種』 367ページにも、Sapindus saponaria という記載がある。どんな種かはわからないが、ムクロジ属の植物は古くから種皮を石鹸の代りに使っていたのが知られていて、その資料がインドで採取されたためである。
ムクロジ科 Sapindaceae : 
世界の熱帯から亜熱帯を中心に、約150属 2,000種。
小石川植物園の樹木-植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ