ムレスズメ 群れ雀
Caragana sinica Rheder (1941)
← Robinia sinica Buc'hoz (1779-1784)
科 名: マメ科 Fabaceae
属 名: ムレスズメ属 Caragana Fabr. (1763)
異 名:  Caragana chamlagu Lam. (1785)
英語名: Chinese peatree
中国名: 錦鶏児 jin ji er 、金雀花
原産地: 中国全土
用 途: 江戸期に渡来した鑑賞木
備 考: 2014.5.22 掲載。同 6.11 中国名の由来と
スズメなどの写真を追加

売店近く、分類表本園と 常緑樹林を通り抜けた園の北部の 3箇所に植えられている。

① : 売店横のムレスズメ    2011.4.14.
薬園保存園方向を振り返っている。左奥が売店。サクラが散ってムレスズメ、もうひといきで満開の状態。

②:分類表本園  2000.4.16.

③:常緑樹林の先のムレスズメ   2011.4.14.
奥から シマサルスベリ方向を見ている。

③:根元 と 幹              2013.4.4.
年を経た幹には 直径に較べて大きな皮目が目立つ。

長 枝    2014.5.22.
今年伸び出した枝(長枝)には、葉が互生する。葉は複葉で、2対4枚の小葉がある。

若い枝(長枝)には 稜角がある            2013.4.4.
長枝にできる稜角は 枝が太くなるにつれて間隔が広がり、やがて取れて無くなる。
二年目からは その腋芽から葉が出て、短枝となっていく。

2年目の枝から出た葉      2014.5.22.
この写真の先端付近では 3枚の葉が出ている。托葉が刺化して残ることがあるが、あまり目立たない。

湾曲した短枝        2013.4.4.
短枝が伸びる量は一年間に数ミリだが、毎年同じ方向の ずれた位置に芽を出すため、次第に円弧を描き、時には円形となる。

それだけでは終わらない。何年も延び続けた短枝が「長枝化」することが多い。枝の元の方で、周囲の空間が大きくなった頃を見計らって、湾曲した短枝から長枝が出る。
長枝化      2013.4.4.
まるで 蛇腹ホースで曲げた先に、枝がぶら下がっているようだ。

それとは別に、長枝の先端付近で、短枝が早くに枝分かれの状態となることもある。

花の側面        2014.4.15.
短枝からは、毎年 2~数枚の複葉と ひとつの花を出す。蝶形の花は細長く 旗弁は180度 反り返る。萼は筒型で 先端は浅く5裂する。

花の正面        2011.4.14.
側弁は内側を巻き込ませる。なぜか日本ではめったに種子ができないそうだ。

 
ムレスズメの 位 置
写真①: E11 c 売店の裏、分類表本園の手前
写真②: E10 c 分類表本園、売店側から12列目、左側
写真③: B4 a 標識16番の手前 左側

名前の由来 ムレスズメ Caragana sinica

和名 ムレスズメ 群れ雀:
原産地は中国であり、江戸時代に伝わったものなので、和名が付いたのもその時だろう。江戸末期の飯沼慾斎(1782-1865) ほか による著書『草木図説』に、ムレスズメが載っている。
『草木図説』、後編 木部 巻七 第17綱(写し)
国会図書館デジタルコレクション より/筆者加工

ここでの漢名は「金花」であり、和名 ムレスズメは、日本に伝わった時に 漢名をアレンジしたものだろう。本文に「エニシダの花に似 形雀の如く 黄色愛すべし」とあるのも、漢名や和名を受けての表現である。

なお『草木図説』は、雄しべ雌しべの数に基づくリンネの分類法、「性体系」を早くに紹介した本のひとつである。図中央には ムレスズメのラテン語名としてリンネの『植物の種』に載っていた、
  スパルチュム スコルピウス Spartium scorpius
が書かれているが、残念ながらこれはヨーロッパ原産の別種で、その現在の学名は Genista scorpius である。

中国名 錦鶏児、金雀花 :
『園芸植物大事典/小学館』には 中国名として、上記ふたつが載っている。ハーバード大学による『Flora of China』では 錦鶏児なので、こちらが現在の中国名、金雀花は漢名となろう。
キンケイ
Wikipedia
より
「錦鶏児」は キンケイのヒナの意味となる。キンケイは中国原産、キジ科の鳥。雄の頭が金色だが、ヒナの状態がどのようなものかは不明で、なんとも言えない。

「金雀花」は 花を黄色いスズメに喩えたもの。
スズメ
Wikipedia
より
スズメはユーラシア大陸に広く分布し、中国にも生息しているので、問題ない。同じマメ科の花でも、例えばフジのように、ひとつの花序に多数付いていると スズメには見えない。
一箇所に「ひとつ」の花しか付かないので混み合うことがなく、「電線にぶら下がった スズメ」と言えよう。短枝が長枝化しない限り,毎年 ほぼ同じ場所に咲き続ける。



種小名 sinica : 支那の
原産地の中国を示している。

Caragana 属 :
ムレスズメ類の 蒙古での名前 caragan による。
   『植物学名辞典/牧野ら』、『園芸植物大事典/小学館』
その意味は わからない。

英語名 Chinese peatree : 中国のマメの木
中国産の マメ科 代表種ということになる。

マメ 科 : Fabaceae , ( Leguminosae )
クロンキストの分類では花の形態・構造の違いから、ジャケツイバラ科 ・ネムノキ科 ・マメ科 に分けられていたが、APG分類ではそれ以前のように ひとまとめになった。
ソラマメ亜科は雄しべの基部が合着していることから、他の2つよりも後からできたと考えられているのだが、遺伝子的には大きな違いがなかった、ということだ。
なお、Fabaceae は保留名である。
ジャケツイバラ亜科
Caesalpinioideae
ネムノキ亜科
Mimosoideae
非常に大きな科で、約 650属、約 18,000種があるという。



ムレスズメ の 命名物語  二つの名札

小石川植物園では ムレスズメに 二種類の名札がある。
②:分類表本園 正名 ③:常緑樹林の奥 異名
売店近くの①の株は、以前 異名の名札が立っていたが、今は引き抜かれて名無しとなっている。GRIN と、最近出版された『樹木の葉/林 将之』は Caragana sinica であるが、主な事典である『樹に咲く花』、『園芸植物大事典/小学館』の学名も C. chamlagu で、近年までは こちらが主流だったようだ。

関係する学名の 記載の経緯を示すと 次のようになる。

以前は b.の出版が早かったとされていたものが、不確かながらも a.の出版年が、b.よりも前だということがはっきりしたためだろう。
命名年 学名 和名 命名者 備考
1737  Robinia  ハリエンジュ属  リンネ
1763  Caragana  ムレスズメ属  P. C. Fabricius  ドイツの植物学者
a. 1779-1784  Robinia sinica  ムレスズメ  Buc'hoz  フランスの医師、著述家
b. 1785  Caragana chamlagu  ムレスズメ  Lamarck
 
 フランスの有名な植物学者
 a.よりも後の出版
c. 1941  Caragana sinica  ムレスズメ  Rehder
 
 ドイツ出身アメリカの園芸家
 a.を訂正
GRIN の関係項目には 特にコメントはないのだが、通常は単年で記載されている「出版年」(命名年)が、a.に関しては 1779-1784 となっていた。

a.の著者 ピエール・ヨセフ・ Buc'hoz が記載した書物は『Plantes Nouvellement Decouvertes』という本だが、出版年が確定できていないものと思われる。
『Plantes Nouvellement Decouvertes』 ムレスズメ

二行目によって、初めて記載された学名が Robinia sinica だったことがわかる。



植物の分類 : APG II 分類による ムレスズメ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物 (シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
  マメ目   キリァイア科、マメ科、スリアナ科、ヒメハギ科
マメ科   アカシア属、ネムノキ属、ムレスズメ属、など多数
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

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