ナギイカダ 梛筏
Ruscus aculeatus Linn. (1753)
科 名 : アスパラガス科 Asparagaceae
植物園の名札  ユリ科
属 名 : ナギイカダ属 Ruscus Linn. (1735)
英 名 : butcher's-broom, Jew's myrtle, box holly
原産地 : ヨーロッパ南部、ハンガリー、トルコ
用 途 : 観賞用
かつては血行促進の薬用として利用した
 

ナギイカダ属は、一見 葉の中央に花が咲いているように見える、珍しい植物。 大西洋のアゾレス諸島・マデイラ諸島と、地中海から黒海沿岸にかけて 6種が分布する。

ナギイカダ と 甘藷試作跡
園路からは見にくいが、甘藷の石碑を探せば その左隣である。

雌 株          2009.4.7.
雌雄異株で、手前の部分には赤い実が生るので 雌株。しかし、ほとんどに雌花が付いていて、雄株を探しても見つからない。一緒になってしまっているのだろう。常緑の低木で、高さは 40センチ程度。
白くなった枯れ枝や 枯れ葉がつまっていたりして、見た目が悪い。 しかし、トゲが鋭いために手入れが厄介だ。

地面からの生え方       2000.6.4.

枝 と 葉 ?        2012.12.12.
枝には多数の溝がある。葉?の先は鋭く尖って 手に突き刺さる。

葉 ではなく
大きな枝分かれは一回まで。そして、葉のように見えるものも、枝が変化したもの (葉状枝) 。

枝の先端
先端にも 葉状枝が付く。葉状枝は付け根で 30〜90度ねじれ、軸に対して斜め あるいは横向き(地面に対して垂直)になる。

ほころびた 雌花       2012.4.7.
葉状枝の厚みは 0.5〜1約ミリ、長さは3センチ程度。もちろん もっと小さなものもある。
花の下部に薄い膜状の鱗片があるが、これが葉あるいは苞葉が退化したものと考えられている。シュートの出始めには、各 葉状枝の基部にも付いている。

雌 花          2009.4.7.
花は軸側(枝側)に付く。通常は1個、時に2個。花被片は6枚で、外側の3枚は大きい。12月になっても咲いているが、ほとんどが雌花のような気がする。

若い実          2009.4.7.

赤くなった実      2012.12.12.
実の直径は 6ミリ弱。葉状の枝に直接付くのではなく、短い曲がった柄の先に生る。2012年には 大きくてきれいな実がたくさん付いた枝があった。他のほとんどは 小さく 少ない。

 
ナギイカダ の 位置
D10 d 甘藷試作記念碑に向かって 左側

名前の由来 ナギイカダ Ruscus aculeatus

ナギイカダ 梛筏 :
明治時代に観賞用として渡来した時に名付けられたもの。

葉のように見える茎 (偽葉) が マキ科の「ナギ」の葉に似ており、また花は、日本各地に自生する「ハナイカダ」のように葉の上に付くため、ナギ葉のハナイカダ の意味である。
ナギ ハナイカダ

種小名 aculeatus : 針のある という意味
枝の先端のトゲを示している。リンネが『植物の種』(1753) に記載した 5種 1変種の中で、現在もその学名が生きているのは3種だが、ほかの2種の先端は尖らない。
 
英語名 butcher's-broom : 肉屋の箒
おもしろい名だ。「かつて 肉を飾るのに使われたため」とのことだが、なぜ「箒 ほうき」なのかがわからない。bloom ならば 花・開花・花盛りという意味だが、broom である。

『朝日百科/植物の世界』には、「乾燥させた枝はほうきの材料に使われる」とあるが、尖った葉状枝を取り去る作業が大変だ。それとも トゲ付きのまま箒にするのだろうか。それなら、butcher には「殺りく者」の意味もあるので、痛い箒・危ないほうきを使う人のたとえに選ばれたのかも知れない。

英語名 Jew's myrtle : ユダヤ人のギンバイカ (直訳)
キリスト教には詳しくないので 間違っているかも知れないが、「イエス・キリストの冠」 ということになるのだと思う。
ギンバイカ
ギンバイカ Myrtus communis は地中海沿岸に自生する フトモモ科の常緑樹で、古代エジプト時代から女神に捧げられ、ギリシア・ローマ時代には、ギンバイカとゲッケイジュの枝輪で凱旋将兵の額を飾ったという 人気の植物である。
神話・伝説に登場するギンバイカを、死者の頭に飾る風習も 近世まで行われていたそうだ。『園芸植物大事典/小学館』

キリストが磔にされた時には 茨の冠を載せられたといわれているが、先が尖ったナギイカダの葉の形が ギンバイカの葉に似ていることから、Jew's myrtle という喩えの名が付けられたのだろう。

リンネ (1707-1778) 以前の トゥルヌフォール(1656- 1708) が、ナギイカダの名として「Ruscus myrtifolius aculeatus、ギンバイカの葉に似た 刺のある ルスクス」 という表現を使っていた。

Ruscus 属 :
ラテン語の古い名に基づくと言うことだが、由来は不明。
クロンキストの分類までは ユリ科に含まれていた。

アスパラガス科 Asparagaceae :
和名は クサスギカズラ科 または キジカクシ科。

学名の由来は二説あって、ひとつは ギリシア語の asparasso 刺す から、もうひとつは、仮葉が細かな線状に分かれた状態を表したギリシア古名の asparagos 甚だしく裂ける、から。
Asparagus officinalis
Wikipedia より
アスパラガスの枝に付く 細い葉のようなものは、ナギイカダと同じく 枝が変化したもので、柔らかいものは 「仮葉・葉状茎」などとよばれている。初めに名付けられたものがトゲ状だったのなら 前者の説、そうででなければ、後者の説が由来となる。
食用にするアスパラガスは 図 Asparagus officinalis の変種で、地下の鱗茎から伸び出してくる若い茎を収穫する。今はグリーンアスパラガスが主流だが、昔は 土を被せた白く柔らかい茎を缶詰とした。

 旧 ユリ科  Liliaceae :
世界でもっとも古くから栽培されていて、キリスト教のマリアのシンボルでもある、マドンナ・リリー (Lilium candidum) に付けられたギリシア名 leirion と同じ意味を持つ、ラテン古名が lilium であったことによる。『園芸植物大事典』

ケルト語で li が「白」の意味を表す。

ユリはかなり寒い地方も含めて、広く世界中に分布しており、日本でも古事記や日本書紀にも登場している。

しかし、百合の花の色も、白のほかに 黄・橙・朱・赤・ピンクがある。



植物の分類 : APG II 分類による ナギイカダ の位置

APG分類で最も変化したのが 単子葉植物である。これまでは、植物の中で最後に分化した とされ、ランなどは「進化の頂点に位置する」などと言われてきた。

APG分類では 被子植物の中で早い時期に分化した とされ、しかも、科・属の位置も大幅に入れ替わった。例えば、ユリ科だったスズラン属・ギボウシ属・ナルコユリ属や、リュウゼツラン科だったリュウゼツランも アスパラガス科になった。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
キジカクシ目 ラン科、アヤメ科、ヒガンバナ科、ネギ科、キジカクシ科、など
キジカクシ科
(アスパラガス科)
リュウゼツラン属、アスパラガス属、スズラン属、センネンボク属、ギボウシ属、ヒアシンス属、ナルコユリ属、ナギイカダ属、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
以前の分類場所 ユリ目 ユリ科  ナギイカダ属、ほか 多数
後から分化した植物 (進化した植物 )           

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