ナナミノキ 七実の木 ?
Ilex chinensis Sims (1818)(異名)
科 名 : モチノキ科 Aquifoliaceae nom. cons.
属 名 : モチノキ属 Ilex Linn . (1735)
正 名 :  Ilex purpurea Hassk. (1844)
中国名 : 冬青 dong qing
原産地 : 本州静岡県以西、四国、九州。
中国雲南省
用 途 : 材を器具やろくろ細工に使う。樹皮から鳥もちを取った。
漢方薬では樹皮・葉・果実を火傷、強壮、出血時などに使われた 

常緑樹林内に 2本の巨大なナナミノキがある。雌雄異株であり、1本には大量の実が生るので、もう片方は雄株だろう。

大木なだけに、花の写真が撮れないのが残念。近くに植えられているクロガネモチとの比較をしながら掲載する。

樹 形       2014.1.21.
      雌株          ▲雄株(推定)
自然の樹形は、こんなに ひょろ長くないだろう。

雌株        幹の様子         雄株
雌株の幹↑が捩れているので、てっきり「ナナメノキ」=「斜めの木」だろうと思ったのだが、隣の雄株や 京都植物園の雌株はねじれていなかった。

幹の膚
細かな皮目(ひもく)がある。落ち葉の長さは 葉柄を含めて10センチ。

葉の様子         2013.10.19.
2013年10月16日に 関東地方を通過した台風26号は、気象庁が「10年に一度の強い台風」との警報を出し、伊豆大島で土石流の被害が出た。ナナミノキは枝のしなやかさが少ないようで、青い実を付けた小枝が大量に落下した。

葉は細長くて先端が尖り、浅い鋸歯がある。長さは8センチ前後。

ナナミノキ と クロガネモチ の葉の比較
写っているナナミノキの葉は一枚だけ。落ち葉をクロガネモチの上に乗せて撮影。 (赤い実もクロガネモチ)

実の写真が先に出てしまったが、花の時期に枝が落ちていたことはなく、お借りできる写真もないので、近縁のクロガネモチで代用する。事典の写真を見ると ナナミノキの花の直径は約5ミリ、クロガネモチよりも細やかで、淡い紫色が美しい。
クロガネモチの雌花      2012.6.5.
今年の花の時期に 落花を探すか、京都に出かけるか・・・。

若い実        2013.10.19.
花・実は 今年出た枝の葉腋に付く。黒いものは、台風以前に落花していたもの。

ナナミノキの赤い実      2001.12.1.
京都植物園。
赤い実の生る常緑樹を好む人が多いようだ・・・・。花の少ない冬に 長い間 実が残るところが良いのかも知れない。東京では1月になってもまだまだ実が残っていた。
落ちていた実       2012.1.12.

左:クロガネモチ 右:ナナミノキ   2012.11.16.
熟した実は、果序ごと あるいは 果実だけが落花する。ナナミノキの葉は黄葉するが、冬は緑のまま落ちることの方が多い。

果実 と 核       2012.11.22.
果実の中には 核が4〜5個はいっており、その中の種子は各1個。


 
ナナミノキ の 位 置
B6 ab 標識15番附近、雌株
B5-B6 雄株(推定)

名前の由来 ナナミノキ Ilex chinensis

ナナミノキ : 
事典によく書かれているのは、赤い実がたくさん生るので 「七実の木」という説。そのような木はいくらでも例があるが、早い者勝ちというか、標準和名としてはどれか一つしか選べない。

もう一つの説は、同属の モチノキ あるいは クロガネモチ よりも 実が長いので「長実の木」が転訛した、というもの。
モチノキ クロガネモチ と ナナミノキ
そういわれれば そうかもしれないが、あまり変わらない・・・。

幹の様子のところで述べたが、斜めに捩れているので 別名の「ナナメノキ」が先にあったのかと思ったが、この説はどこにも出てこない。

中国名 冬青 : 常緑の植物を意味する
何千 ・ 何万?とある常緑樹の中から選ばれた 代表選手。
決め手はなんだろうか? 緑を際立たせる「赤い実」は欠かせないところだろう。
冬に青いままで落葉することと 関係ないだろうか?
2014.1.21

日本では同じ仲間の「ソヨゴ」の漢名として誤用されている。

種小名 chinensis : 中国原産の
原産地のひとつを指すが、日本にも広く自生する。
 
Ilex モチノキ属 :
モチノキの樹皮から「とりもち 鳥黐」を作ったことから。

学名は、セイヨウヒイラギ Ilex aquifolium L. のラテン名に由来する。           『園芸植物大事典』
 
モチノキ科 :Aquifoliaceae Bercht. & J. Presl. nom.cons.
F. ミラーが Aquifolium属 を定義したのは1754年であり、リンネの『植物の種』よりも後であるため、無効な属名となっている。それなのに、なぜ科名に リンネが使った属名Ilex ではなく Aquifolium が使われているのか ?

推定では、科名が有効になるためにも正式な記載が必要で、Friedrich von Berchtold (1781-1876) は、ミラーが立てたAquifolium属を基準属として Aquifoliaceae モチノキ科を定義し 普及したのだが、Aquifolium属が無効な属名なので、この科名も本来は無効。そこで保留名として認められている。

 
Ilex chinensis の 命名物語

アメリカ農務省が所管する学名データベース GRIN (Germplasm Resources Information Network) では、ナナミノキの学名を
   Ilex purpurea Hassk. (1844)
としている。その理由を具体的に書くと・・・・

掲載された「ボタニカル・マガジン」の種と、現在 一般的に Ilex chinensis Sims が指す種とは 異なっているため。

植物園の名札や事典で使われている学名は、
   Ilex chinensis Sims
であるが、GRIN では、
   Ilex chinensis auct.
に変更され、purpurea が正名となっている。auct. はラテン語 auctorum の略で、その意味は「著作者たち」である。

「著作者たち」だけでは意味不明だが、「”多くの著者” によって、元の著作者が記載した時(記載した植物)とは違う意味で引用されている、使われている。」 ということである。つまり、シムズが記載した種と ナナミノキは別物ということだ。では それはどんな植物だったのか?
インターネット時代の恩恵で、200年前の書物を見ることができる。
ボタニカル・マガジン Vol.XLVI 図版2043番 Ilex CHINENSIS
BHL(The Biodiverssity Heritage Library) より。
ミズーリ植物園の蔵書をスキャンしたもの。著作権は not specified で、自由な利用が許されている。
アンダーラインは筆者が加筆
モチノキ科であることは間違いなさそうだが、本文中に「白い花」と明記されており、淡い紫〜ピンク色の ナナミノキとは異なる。Ilex chinensis は図版だけなので、実物標本を伴わないために遺伝子鑑定もできず、今となっては真の正体は 不明である。

このため GRINでは、ドイツの探検家で植物学者の ハスカール(1811-1894) によって少し後に記載された種、Ilex purpurea Hassk. を正式な名称としている。



植物の分類 : APG II 分類による ナナミノキ の位置
クロンキストの分類では、モチノキ科は ニシキギ目にあったが、APG分類では 最後に分化したグループ、キキョウ群に新しい目(モク) として新設された。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
以前の分類場所 ニシキギ目  ニシキギ科、モチノキ科、クロタキカズラ科、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
モチノキ目  新設 ヤマイモモドキ科、ハナイカダ科、モチノキ科、など
モチノキ科  モチノキ属
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。
  
小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ