ナンテン 南天
Nandina domestika Thunb. (1781)
科 名 : メギ科 Berberidaceae
属 名 : ナンテン属 Nandina Thunb. (1781)
中国名: 南天竹、南天燭
英語名: heavenly-bamboo ,
southern heaven-bamboo
原産地 : 日本: 中部以南の暖地、山の中
中国、その他のアジア地域
用 途 : 庭木、盆栽、切り花
「困難を転じる」という語呂合わせでめでたい木とされて庭に植えられ、お節など 食べ物の飾りとして添えられる
乾燥した果実は漢方で「南天実」と呼ばれ 咳止めとされる。

日本の中部以南に自生するとなっているが、日本のものは中国から渡来したものが野生化した可能性もある。
その理由として、和名のナンテンが中国名の「南天燭」または「南天竹」の略であることと、ナンテンには「方言」がまったく無いことがあげられている。

           @:樹 形    2007.12.7
低木で高さは およそ 1m70cm。うしろに精子発見のイチョウ。

ナンテンの生え方の特徴は群がって生えること。地中から側芽が出るためで 「叢生」(そうせい)と呼ぶ。

       A:本館手前の株(開花中の写真)  2007.6.17
正門から本館へ向かう坂道を ほぼ登り切る手前の左側。 右側に本館の一部が写っている。

 1999.11.13   B : 分類標本園のナンテン    2000.1.29
常緑低木であるが冬の時期には全体に葉の色が赤くなる。
これは紅葉と同じ現象で、気温の低下や乾燥によって葉の細胞液の中に「アントシアニン」という赤い色素ができるためである。
若い芽の紅葉の場合は紫外線からの保護や、熱を吸収しやすくして代謝を盛んにする働きがあるが、冬場の紅葉も同じ効果を狙ったものであろう。

自然の状態で繁っていると 葉がどんな形なのか まるでわからない。そこで、自宅のナンテンの葉を採って広げてみた。

一枚の葉 部分詳細
が 葉柄の先端で、ここが幹に付いている。
「葉」は横幅の方が広く、よく成長したものは 90cmもあった。

ナンテンは複葉の中でも特に複雑な形態を持ったものの一つである。ナンテンの葉を「3回複葉」としている事典もあるが、実際には繰り返す回数が一定していないため、「数回複葉」が正解。

右の写真で Bの部分の3回目の複葉は単純な羽状複葉だが、Cの部分では三出複葉もあれば4回目の複葉もある、といった具合である。
この葉には なんと253枚の小葉があった!

            @:株の根元と幹の様子       2011.3.13
古い葉の第一節だけが二年間ほど残る。 それが落ちた跡が竹の節のように見える。

            春に伸長する新しい芽    2000.4.15
ナンテンの葉の芽吹きを観察していると、葉が出てくるというよりは、まるで小さな木がそのまま大きくなっていくように見える。もちろんすべての小葉は初めから用意されている。

              @:開花の様子         2000.6.17
                         2001.6.16
咲くと花弁は反り返る。  すでにいくつかは結実している。
開ききった花を見ると、花弁の数は6枚のように見える。 雄しべの数も6本。
ところが実際には薄茶がかった小さな萼に相当するものから、次第に大きな花弁まで無数にあり、途中の区別が付けられない。

花のひとつを分解してみた。

花を分解
一番上の黄色いのが残った雄しべなど。 枚数は32枚あった。
開くに従って外側の小さいものは どんどん落ちてしまうようだ。

 2007.12.29    赤 と 白の実          2010.11.11
左は京都茶碗坂。 変種の「シロミナンテン」が並べて植えられていた。 実がたくさん付くと 重みでたわんで垂れ下がる。


 
ナンテンの 位 置
写真@: C 9 c 精子発見のイチョウの足元
写真A: D14 d 本館への上り坂カーブ左側
写真B: 分類標本園内。 売店から6列目、通路左2つ目

名前の由来 ナンテン Nandina domestika

ナンテン
中国名 南天竹 あるいは南天燭 の音読みが省略されたもの。その由来は 中国名の項で。

種小名 domestika :「国内の、その土地の」という意味。
学名を命名するときはその種の特徴を表現する、ということになっている。その趣旨からすると極めて不適切なものである。

ナンテンの学名を付けたのは、1775年に商館付きの医師として来日したツュンベリー(1743-1828)で、江戸参府の帰り道に、北九州小倉の宿の庭でナンテンとアオキを見つけて標本を採取したという。

帰国後の1781年に始まる『植物の新属』シリーズ(〜1801年) にNandina domestica の学名が記載され、1784年の『日本植物誌』にも掲載された。(下図) 
『日本植物誌』 (1784)
師であるリンネの『植物の種』にならって、属名+種小名 「二名法」で学名を付けた。 
項目「日本名」の部分には、参考文献としてケンペルの『異邦の魅力』(第5巻776ページ)があげられ、三つの名称はそっくりそのままである。

ラテン語は不確かだが 最後の二行には 「どこにでも生えており、いなか屋敷?(villa)に植えられている」 とあって、庭木として人気があった事を示している。

このことから、見出しに書いた意味から派生して「栽培された」という意味で命名したのかもしれない。

Nandina 属 :
属名も ツュンベリーが定義したものが現在まで生きている。
由来は和名のナンテンによるといわれているが、なんとなくインド語の雰囲気がある。 Nantenia であれば納得できるのだが...。

ところで、初めてナンテンをヨーロッパに紹介したのは、オランダ商館付きの医師として1690年(元禄3年)から2年間、出島に滞在したドイツ人の ケンペル (1651-1716)である。 ツュンベリーが参考文献とした1712年刊行の『異邦の魅力』 には、一部を除いて漢字で当時の和名が記載され、読みも出ている。
『異邦の魅力』 第5巻 日本の植物(1712)
ナンテンは 776ページで、和名は ナンテン でも ナンテンショク でもなく、
「Nandsjokf, 一般には Natten または Nandin Tsikku」
と書かれており、
「ナンジョク、ナッテン、ナンディンチク」である。 もちろん日本人の発音通り正確に書かれているかどうかはわからないが、中国名を短縮した名称がトップである。

ケンペルの時代には、二名法での命名という概念は まだ普及していなかったので、命名されていないものが多い。。
ツュンベリーが属名を Nandina としたのは「ナンテン」ではなく、「Nandsjokf やNandin」の音をもとにしたためであろう。

ナンテン属には「ナンテン」一種しかない 単型属である。
メギ科のほかの属、メギ属やヒイラギナンテン属などと染色体の数が違うために、以前は独立した「ナンテン科」に分類する考えもあったが、遺伝子解析による新しい分類 でも メギ科の一員なので、遺伝子構成には大きな違いはなかった という事であろう。

中国名 南天燭 :
「ナンテンは中国名から」 ということばかりで、肝心の「南天」について説明している事典がない。幾多のホームページもしかり。
「燭」は 明かり であり、「南天の明かり」は太陽の事であろうか? それとも単に「天国の明かり」のことか。
あるいは 中国のもっと南、日本で言う「南蛮(渡来)」の意味であろうか。

『花木ウォッチング100/菱山忠三郎』によってようやく納得ができた。南天とは「南天竺」すなわち インドの南ということで、やはり「南方から渡来したもの」という意味で名付けられたものだ。

「燭・燭光」は 日本で、1951年(昭和26年)まで光の単位として使われていた。その後はカンデラに置き換えられた。
夕日に映えるナンテンの実
中国名 南天竹 :
「竹」の由来は、葉が落ちた跡が茎 (幹)に残って節のように見えるのと、茎がほとんど枝分かれせず、上部だけに細かな小葉を付けて叢生する様子を、竹に見立てたものである。

メギ科 目木科 Berberidaceae :
メギ科には 16属約650種あるが、そのうち約500種がメギ属である。主に北半球の温帯域に分布する。
メギ属の学名は Berberis Linne (1753) で、メギの果実に対するアラビア名に由来する。意味はわからない。

和名 メギは、葉および樹皮の煎汁を目の充血や炎症の洗眼薬として用いたことによる。

メギ 目木 : Berberis thunbergii DC. (1821)
2mぐらいになる日本原産の落葉低木。日本ではほとんど栽培されていないが、ヨーロッパではいくつかの園芸品種が作られているそうだ。

細い鋭い刺があり、別名は「コトリトマラズ」。 姿、形はナンテンとは違うが、ひとつひとつの花の形が ヒイラギナンテンによく似ている。

種小名は ツュンベリーにちなんで命名されている。

 2000.6.4          分類標本園の メ ギ          2000.4.22
細菌性の下痢などに良く効くベルベリンという苦味アルカロイドの名は、初めにメギ属の植物から発見されたために名付けられた。

現在ではミカン科のキハダから大量に抽出されているが、日本は主に中国から輸入しているそうだ。



 
 トピックス

難を転ず
ナンテンが初めて文献に現れるのは鎌倉時代、藤原定家の日記『名月記』(1180〜1235年)である。
ツュンベリーが見たように 広く栽培されていたのは、今とは違って頼るものといえば神様しかなかった庶民が、南天 ナンテンは「難転」に通じるという縁起担ぎから、さまざまな場面で使っていたためである。
 
 縁起を担ぐ :





正月の掛け軸としてナンテンとスイセンを描いた「天仙図」を縁起が良いとした
妊婦が安産を祈願して床の下に敷いた
武士が出陣の前に床の間に挿して勝利を祈願した
祝事の床の間に生ける
進物、赤飯の重箱、魚などを贈るときに毒消しのおまじない(掻敷き)として葉を用いる(その葉をつみ取るためにも庭にナンテンを植えた)
これには 多少の科学的根拠もあるようだ。
 災難をよける :





厠のそばに植えて不浄除けとする。
「南天手水(ちょうず)」といって手洗水がないときにナンテンの葉で手を清めた。
材を箸として使い、食あたりを避ける。
火災除けに庭に植える。
鬼門の方向に植える。

ナンテンの実は「南天実」という生薬で咳止め・喘息・百日咳に用いられる。現在でも「のど飴」の原料に使われている。

また葉を乾燥したものを「南天葉」と呼び、扁桃腺のうがい薬や入浴剤として湿疹やかぶれに用いる。
上記の俗信は難転の語呂合わせだけでなく、これらの薬効によるところも大いにあるのだろう。

ナンテンの茎はなかなか太くならないが、肥大したものはまれに床柱に使われるそうで、京都金閣寺のものが有名とある。

関東地方でのナンテンの生長ぶりからは信じがたい事であるが、箸の太さなら普通の木でも作れるだろう。
100円ショップで売っている南天材の箸が本物の「シロナンテン」なら、そして、それで食あたりが避けられるのなら、店中で一番のお買い得品だと思う。



植物の分類 : APG II 分類による ナンテン の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
以前の分類場所 キンポウゲ目  キンポウゲ科、アワブキ科、メギ科、ツヅラフジ科、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
キンポウゲ目  フサザクラ科、アケビ科、メギ科、キンポウゲ科、ケシ科、など
メギ科  メギ属、イカリソウ属、ナンテン属、トガクシソウ属、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ