ナツメ 棗
Ziziphus jujuba Mill. (1768) nom. cons.
科 名 : クロウメモドキ科 Rhamnaceae
属 名 : ナツメ属 Ziziphus Mill. (1754)
園の名札:  Zizphus jujuba Mill.
中国名 : 棗 zao
原産地 : 中国 あるいは インドといわれているが、はっきりしない。
用 途 : 果実を生食し、乾燥したものを菓子や料理に使う。
漢方では利尿、滋養強壮のために、ほかの薬に混ぜて処方される。 薬用酒は冷え性、不眠症、病後回復に。
材は非常に硬く、かつては 車軸、印材、家具材として使われた有用な樹木。 

ナツメは分類標本園に植えられている。上の段の奥には 看板商品のひとつである 「サネブトナツメ」があり、ナツメの「変種」とされている。

ナツメやサネブトナツメ の学名は事典によって異なるので、その詳細は後半で検討することにして、まずは 分類標本園の木を ナツメ として掲載する。 ただし標本園の木は常に小さく剪定されているので、園外の写真も多用する。


ナツメ     2000.7.1.
10年以上前の写真だが、剪定されるために 今と大きさは さほど変わらない。 この木には棘があるので、本来の ナツメ である。

落葉樹    2014.1.21.
前掲写真とは反対側から 売店方向を見ている。


筑波植物園    2012.9.1.
『植物の世界/朝日百科』によると、高さ 10mになるという。この木の名札は Ziziphus jujuba var. inermis(トゲのない) となっているので、「トゲ無しナツメ」のはずである。 確かにトゲは少ないのだが、よく見ると小枝の所々に小さなトゲがある。

幹の様子     2014.2.1.

筑波のナツメ 3年目の若い枝  2011.4.24.
前掲写真とは別の「ナツメ」の木。
ナツメには長枝と短枝がある。短枝にはトゲはできない。この枝はまだ若いので 短枝はできていない。長枝にできるトゲは托葉が変化したものだろうと思っていたら、『図解植物観察事典/家永ほか』には 枝が変化したもの、とあった。トゲには長短があり、短い方は反転している。
壮年の 枝

枝振り         2014.2.1.
この写真では 短枝の様子はよく分からない。

短枝から出た落枝       2014.2.1.
薄茶色の細い枝が、昨年短枝から出て葉を付けていた 細い枝である。枝ごと落ちるはずなのだが、年を越してもまだ残っている。

短枝 の詳細       2014.2.1.
黒く太い部分が 短枝。ほぼ同じ所から、毎年複数または一本の細い枝を出しては落ちる事を繰り返すために、短い太い「枝」ができる。

冬芽 と トゲ        2014.2.1.
短枝の周囲には、目立ったトゲはできない。

小石川植物園 分類表本園の トゲ  2014.1.21.
小石川の写真が少ないが、確かに「トゲ」がある。

落枝(仮称) と 葉の様子     2012.9.1.
葉は 短枝から出た細い枝に「互生」で付いている。一見、羽状複葉のように見えるが、葉腋に花が付き実が生るので、そうではないことがわかる。葉は左右のサイズが微妙に異なり、対称形ではない。

花の付き方    2000.6.25.
葉腋に複数の花が付く。

花の詳細        2011.6.14.
五数性。黄緑で目立つ三角形のものは萼で、その間に位置する花弁は小さく、開花後は後ろに反り返る。 

若い果実         2009.8.2.
形は「ナツメ型」。ナツメの実の方が先で、ナツメの実の形に似ているものを「ナツメ型」「ナツメ」と呼ぶようになった。ひとつの葉腋に 複数の実が生ることはまれのようだ。

落下して乾いた果実      2012.9.1.
筑波植物園


 
ナツメ の 位置













アオカズラ






分類標本園:  売店側から 14列目 右側

名前の由来 ナツメ Ziziphus jujuba

和名 ナツメ : 夏芽の意
ナツメの新葉は初夏になってから出るため、「夏芽」の名が付いた。

ナツメは日本原産ではないが、『本草和名』(918年)や『延喜式』(927年)に記載があり、6世紀には中国から伝わっていたとされる。このため 初めは中国名の「棗」(当時の読み方は判らない)が使われていたはずだが、『本草和名』にはすでに和名として「オオナツメ 於保奈都女」が記録されている。
オオナツメ があったということは、その元である 単なる「ナツメ」(小さなナツメ)もあったはずだ。

また 別項で取り上げる予定の「サネブトナツメ」は、18世紀に導入されたとされ、その名はナツメよりも種子(核)が太いことを指す。

しかし、3種の実物を並べて観察したことがないばかりか、学名と和名の対応が確立していないので、これまでに3種とも確実に見たのかどうかも、確信が持てていない。

漢名 棗 : 棘のある 
朿(キ)の字は訓が無く、現在では使われることはないが、四方に トゲが出ている様の象形文字に由来する。それを横に並べたのが 「棘 キョク・とげ」であり、つくりに 刀を並べた字が 「刺 さす」である。
本種の漢名「棗」は 朿 を縦に並べたもので、やはりトゲが多い事を示している。日本語の音「ソウ」は、中国語の「zao」からきている。

訓の「なつめ」は日本で付けられた本種の和名であり、その実の形が似ているために「茶入れ」の呼び名にもなっている。

漢字からすると「棗」にはトゲがあるべきで、トゲのない変種
  var.inermis
は「トゲナシナツメ」とすべきだ。

しかし 奈良時代以前に日本に伝わる前に、中国で長い栽培の歴史があり、薬や甘味料として利用されていた。トゲが無く、果実の大きいものが選抜され続けたうえで、それが「棗」として日本に伝わった可能性もある。
中国には 300 あるいは 400 ものナツメの品種があるそうなので、複数の種(品種も含めて)が伝えられたのかもしれない。だからこそ、その一つが 「おおなつめ 於保奈都女」の名前で呼ばれたのだろう。

野生に近いといわれる「サネブトナツメ」が伝わったのは、奈良時代の6~8世紀からすると千年も後の、1727年(享保12年)とされている。     (植物園の説明板による)

種小名 jujuba : 
本種のアラビアでの呼び名に由来する。『植物の種』(1853) でリンネが種小名として使用する以前から、いくつかの種の名前として使われていた。

属名 Ziziphus : 意味は わからない
Ziziphus lotus のアラビア名 zizouf に由来する。
               『園芸植物大事典/小学館』
ペルシャ語でナツメを表す zizfum ジズフム あるいは zizafun ジザフン に由来する。    『植物の世界/朝日百科』
という説明がある。

クロウメモドキ科 : 黒い実の生る ウメモドキ の意味
次に掲げる「ウメモドキ」と較べると、葉の付き方が違うので、あまり 似ていない・・・。
クロウメモドキ
3枚とも 日光分園
クロウメモドキ科 Rhamnaceae / Rhamnus属 Linn.
クロウメモドキ属 Rhamnus は Rhaphithamnus の短縮形で、ギリシア語の raphis 針 + thamnos 灌木、つまり 「針のある低木」を意味する。

前掲写真でも見られるクロウメモドキのトゲは、短枝が変化したものである。


 
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  ウメモドキ 梅擬き Ilex serrata Thunb. (1784)
モチノキ科 ウメモドキ
東大付属植物園 日光分園
モチノキ科モチノキ属のウメモドキの名は「ウメに似た」「ウメのような」という意味だが、いったい どこが似ているのというか?
強いて言えば、「葉の形」だろうか?
葉のサイズはウメよりも少し小さく、やはり 似ていない。
ウメ ウメモドキ

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ