ラクウショウ 落羽松 (ヌマスギ 沼杉)
Taxodium distichum L. Rich. (1810)
← Cupressus disticha Linn. (1753)
科 名 : ヒノキ科 Cupressaceae
旧科名 :  スギ科 Taxodiaceae
属 名 : ヌマスギ属 Taxodium L. Rich.
            (1810)
別 名 : 植物園の名札:ラクウショウ 落羽松
ニレツバスイショウ 二列葉水松
中国名 : 落羽松
英語名 : bald cypress, swamp cypress
原産地 : アメリカ北東部、中北部、南東部、中南部
用 途 : 庭園・公園の池の周りに植えられる

以前はスギ科に分類されていたので、別名「ヌマスギ」でよかったが、APG 分類では ヒノキ科にまとめられてしまい、松 でも 杉 でもなくなった。

           新緑の全景          2011.5.24.
西側から。高さ 20m以上、大きな樹形、しかし、その実態は・・・

冬の様子    2012.1.28.
24m〜20mの ほぼ同じ高さの太い4本の木と、実生から育ったものか、低い木が3本ある。高い木は、いずれも高い所で 主幹が2本に分かれている。

幹の様子           2012.2.7.
シダレヤナギの大木があるので筆者が名付けた 「ヤナギ池」の北端に植えられている。前年に落ちた赤い葉が周囲にいつまでも残っていて、一見 陸続きのように見えるが、気根の一種「膝根 しっこん」が生えている所が水際。脚を踏み入れると泥沼なので、注意が必要。
湿地に生えているので 根は地下水レベル以下となる。木が大きくなってくると、地中で横に伸びる根から膝根を立ち上げる。特殊な通気組織があって「呼吸」をしているそうだ。ヌマスギの場合は横に伸びる根の ところどころが大きくなるが、パンヤノキなどの「板根」は根の背面全体が立ち上がる。

陸側から          2012.11.16.
この木が一番太く、目通り 約 95センチ。
幹の基部は線状に太って凹凸ができる。11月のこの時期では まだ落葉していない。 左側の緑の葉は、ヌマスギの間に植えられた 同属の 「メキシコラクウショウ」。

地上部から出た膝根      2010.1.11.
熱帯のクワ科などの植物は枝から「気根」を垂らすが、ヌマスギは地下から伸ばすということ。

沼畔に育つ実生 幼木の幹    2013.2.6.
同じヤナギ池のほとりで、奥の太い木々から30mほどの位置に、5年くらい経った実生の幼木がある。手前の幼木のさらに奥にも、もっと若いものが4本ある。すべて 水際に生えている。

右の写真は幼木の主幹。どんどん太くなっていく様子が伺える。

2012.1.28             枝の様子             2012.5.5
葉の付き方は互生で、見た目には枝の出方に規則性はない。また、木が隣り合っている所など、日がまったく当たらない枝は、じきになくなってしまう。

ヌマスギの枝には 近縁のメタセコイアと同じように、長枝 と 短枝(仮称 落枝) の二種類がある。左の写真、冬の姿として残っているのが「長枝」で、葉は主に長枝から出る短枝に付くが、毎年 短枝ごと落ちてしまう。


恐らく国内で一番太いのは新宿御苑のラクウショウで、並木となっている。膝根の高さは 約1m。          2013.4.7



長枝 と 短枝(仮称 落枝)
樹形を形作るのが長枝、短枝は長枝から出て、一見 羽状複葉のような葉を付けるが、冬には枝ごと落ちてしまうため、落枝と呼ぶ。

本当に枝か?       2012.9.27.
垂直の「長枝」から出た枝から さらに側枝が出ている。もし長枝から出る羽状複葉のようなものが「葉」だったら、このようなことにはならない。
二種類の葉        2012.8.9.
一年目の長枝には、短か目の葉 あるいはごく短い針のような葉があり、さらにその葉腋から短枝を出す。短枝の細長い葉も螺旋状に生えるが、日を受けるために両側に並んで二列互生状になる。

2013.3.19           前年枝からの芽生え           2012.4.9
前年枝(昨年伸びた枝)の葉腋から初めて出る短枝 (葉芽)。一年目に短枝が出たところ からは芽が出ない。枝によって成長の早い遅いがある。

三年枝からの芽生え      2013.3.12.
三年枝(一昨年に伸びた枝)および それ以上の枝では、昨年の短枝が落ちた跡 のすぐ脇から芽が出る。
2013.4.4.

葉の様子        2012.9.27.
筑波植物園の観察会で拾った種子からの実生。写っている枝葉は、すべて一年の間に伸びたもの。斜め30度に伸びたこの側枝は、長枝として残った。垂直の主幹に、針のような小さな葉が付いている。

落花した枝        2012.12.9.
左は 短枝からさらに側枝が出たが、元から落ちたもの。中央二本は通常の短枝。右は先端で来年の雄花を付けていたものだが、落下ではなくて 風で折れたのかもしれない。 縁石の幅は 12センチ。


花 と 実
針葉樹のヌマスギは 初春に花を咲かせる。

まだ硬い 雄花        2013.1.8.
以降が 昨年に伸びた枝。先端附近の葉腋にこの枝では雄花だけが付いている。

膨らんできた 雄花(左) と 雌花(右)        2012.2.21.
左の写真では 雄花は短い側枝の先 あるいは 側枝の葉腋に付いている。

垂れ下がる雄花群      2012.2.21.
先端は枝が細いために 垂れ下がる。

雄花 と 雌花        2013.3.8.
雄花は前年に伸びた(二次)側枝に付き、雌花は前年に伸びた主軸の先端附近に付く。この写真は、2本の枝を交差させたもの。
次の写真のように同じ枝に雌雄両方の花が付くことも多い。
ひとつ前の写真と同じ日の撮影だが、花粉が出ているようだ。2012 年は寒く、逆に2013年は暖かくてサクラの開花が半月早かった。

遅かった 2012年      2012.3.30.

少し膨らんだ球果      2012.5.16.
裸子植物の果実は「球果」と呼ぶ。

いきなり大きく       2013.6.26.
1ヶ月あまりで すでに直径 2センチ。途中経過は 別途観察予定。
あたりが頂部。亀甲模様となるのは「種鱗」が肥大するためで、各 中央に若い時の突起が残っている。

なかなか落下しない     2012.11.16.

種 子         2012.12.9.
球果の中の赤茶色のものが種子で、各 種鱗に2個ずつ付いている。

光る脂         2013.3.12.
年を越して長く残るものもあり、中に溜まっていたヤニが表面に吹き出す事も。

黄色 から 赤茶 へ           2012.11.16.
2012.12.5
12月にはいっても葉がまったく落ちていない。このため 全体が みごとな赤毛色となる。


ヌマスギの実生
『園芸植物大事典/小学館』のヌマスギの項に「実生1年で高さ80cm あまりになり 樹齢30年で樹高25m、幹周囲150cmに育成する。」とある。
一年でそんなに伸びるものかと実際に育ててみたくなり、筑波植物園の観察会で、落ちている種子を分けてもらってプランターに蒔いた。 結果は 1メートル 33センチ だった!
2012.4.18 2012.4.23
最初に付く葉も成葉とほぼ同じ形・サイズだが、輪生となる。

途中経過は 残念ながら 熱心に観察しなかった。

伸びが止まった状態         2012.9.27.
落下せずに残った長枝は 6本。

半年で14ミリまで太くなった根元  2012.9.27.
太っても 針状の最初の葉が残っている。地面から5センチの位置から 短枝(落枝)を出している。

 
ヌマスギ(ラクウショウ) の 位 置
F8 d 70番通り左側、ヤナギ池の北端。計 5本

名前の由来 ラクウショウ Taxodium distichum

別名 ヌマスギ 沼杉 : 湿地に生えるため
原産地は北アメリカの東部・南部で、英語名も同様に swamp sypress (沼 糸杉) の名がある。英語版 Wikipedia には水の中に生えている写真が載っている。

ラクウショウ 落羽松 :
小さな葉が短枝に密生し、その枝ごと落下するので、落枝を鳥の羽に見立てて名付けられた。

もとはスギ科に分類されていた本種に「松」の名を付けたのは、杉の音が「サン」であり、「ラクウザン」、「オチバスギ」では発音しにくいためか ? あるいは、マツの落ち葉は目立つが スギの落ち葉は目立たないためか ?

英語名 bald cypress : 禿げ杉 の意味
bald は「表面にあるべきものが無い・頭髪が無い」という意味から、木に葉が無い・山に木が無いことにも使われる。
ラクウショウに通じる名だが、こちらはちゃんと cypress : イトスギ、スギ科 が付いている。

別名 ニレツバ スイショウ 二列葉水松 :
スイショウ Glyptostrobus pensilis は、中国名「水松」の音読みで、ヌマスギとは親類で呼吸根も出すが 別属である。葉は幼木と成木で違う形状になる。その多くは針状および鱗片状で、細長い葉も ラクウショウのようにきれいな羽根状には並ばない。種小名を意識したものかもしれない。
ヌマスギ スイショウ

種小名 distichum : 二列生の
学名はリンネの『植物の種』(1753) によるが、短枝の葉の並び方に由来する。実際は螺旋状に生えているので,正確には「二列生に見える」「二列状に並ぶ」と訳さなければいけない。アメリカ大陸はリンネ以前に多くの人が探険しており、ヌマスギは以前から知られていた。

リンネは本種を Cupressus属 イトスギ属に分類して、ほかに2種1変種を記載した。
リンネが記載した学名 和 名 種小名の意味 現在の学名
@  Cupressus sempervirens  イトスギ  常緑の  同 正名
A  C. disticha 本種  ヌマスギ  二列性の  Taxodium distichum
B  C. Thyoides  ヌマヒノキ  不 明  Chamaecyparis thyoides
@ イトスギ B ヌマヒノキ
多くの先人が ヌマスギをイトスギ属とした「参考文献」があがっている。そのせいかもしれないが、精査することなく同類としたのは手抜きもいいところだ。三種を同属として本種をほかの二種と較べれば、「二列葉」が際立った特徴となってしまうことになる。

イトスギの種小名を「常緑の」としたのだから、せめて本種を「落葉の」とすればよかったのに・・・・。

以下、メタセコイアの項と 記述が重複する。
Taxodium 属 : 旧 スギ科は Taxodiaceae
分類学でのスギ科の基準属は ヌマスギ属 Taxodium属 である。日本では ヌマスギは自生していないため、スギ科 とされていたが、ヒノキ科に統合された。以前は 10属 15種 と種類が少なかったが、ヒノキ科と一緒になって倍増した。

学名 Taxodium の由来は、Taxus イチイ属に edios 似る ということだが、ヌマスギの葉は柔らかく また 短めのイチイの葉とは異質である。

セコイア(セコイアメスギ)に「イチイモドキ」という和名があるようだが、学名からすれば、本来 ヌマスギ属に付けるべき名称だ。これらの近縁種に混乱があった事を示している。
イチイ

ヒノキ科 Cupressaceae : 
ヒノキは昔からスギ科に近縁とされていたが、葉の形や並び方が違うために別の科と見なされていた。しかし、APG分類では スギ科のほとんどの属は ヒノキ科に含まれることになり、スギ科は消滅した。

スギの雄花は枝に群がり付くが、ヒノキの雄花は枝の先端にひとつずつ付くところも異なっている。
スギの雄花
ヒノキの葉と球果 ヒノキの雄花
ヒノキ科の元となっているのは イトスギ属 Cupressus属で、由来はいくつかあるようだが、「イトスギ C. sempervirens」 の原産地のひとつである キプロス島 Cyprus にちなむ、というのが分かり易い。

なお、ヒノキ属の学名 Chamaecyparis は、chamai (小さい) + kyparissos (イトスギ)で、ヒノキの果実がイトスギに比べて小さいことに拠る。

杉 ?、松 ?
名前に「スギ」と「マツ」が混在し、APG分類で「ヒノキ科」にまとめられた 旧スギ科の植物。代表的な属名と代表樹木名を一覧にしてみた。
科名 / 属名 属名の和名 代表種の和名 漢字 備考
ヒノキ科
  Chamaecyparis  ヒノキ属  ヒノキ  檜
  Cyptomeria  スギ(以下 属は略)  スギ  杉  旧スギ科
  Cunninghamia  コウヨウザン  コウヨウザン  広葉杉  旧スギ科
  Glyptostrobus  スイショウ  スイショウ  水松  旧スギ科
  Metasequoia  アケボノスギ  アケボノスギ
 (メタセコイア)
 曙 杉  旧スギ科
  Sequoia  イチイモドキ  セコイアメスギ  セコイア雌杉  旧スギ科
  Sequoiadendron  セコイアデンドロン  セコイアオスギ  セコイア雄杉  旧スギ科
  Taiwania  タイワンスギ  タイワンスギ  台湾杉  旧スギ科
  Taxodium  ラクウショウ  ラクウショウ  落羽松  旧スギ科
マツ科
  Cedrus  ヒマラヤスギ  ヒマラヤスギ  ヒマラヤ杉
  Pinus  マツ  クロマツ  黒 松
ナンヨウスギ科
  Araucaria  ナンヨウスギ  ナンヨウスギ  南洋杉
松も 杉も 大好きな?日本人だけに、ヒマラヤスギ や レバノンスギ のように マツ科の植物にまで、スギの名を付けてしまっている。


植物の分類 : APG II 分類による ヌマスギ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
以前の分類位置  スギ科
ヒノキ科 ヒノキ属、スギ属、コウヨウザン属、セコイア属、ヌマスギ属、他
ヌマスギ属  ヌマスギ、メキシコラクウショウ
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ