オガタマノキ 招霊の木
Magnolia compressa Maxim. (1872)
← Michelia compressa Sarg. (1894)
← Magnolia compressa Maxim. (1872)
園の名札:  Michelia compressa Sarg.
科 名 : モクレン科 Magnoliaceae
属 名 : モクレン属 Magnolia Linn. (1735)
旧属名 : オガタマノキ属  Michelia Linn. (1737)
原産地 : 関東南部、東海、近畿南部、中国、四国、九州、沖縄などの 海岸近くの林の中
台湾、中国雲南省
用 途 : 神社の境内に植えられ、神事に使われる。
庭木。
葉は香料に、材は床柱や器具材に使われる。

大木で手の届くところに枝が少なく、また花が小さい。 しかも春の早い内に、いつの間にか咲いてしまっている。 植物園に来てこの花の良い香りを嗅ぐ人は、残念ながらめったにいないようだ。 
APG分類になって、オガタマノキ属は モクレン属に統合された。

                 @ : 樹 形          2011.1.5
高さ 15 m以上の常緑樹である。 もともと下枝は枯れやすいそうだ。

@ : 10番通り A : 林の中、曇りの日に
象の足のようだ。

                常緑樹で真冬でも美しい葉       2011.1.25

               新芽やつぼみには褐色の毛が      2011.1.25

                     淡いかおり             2011.3.11
真下まで行っても 香りはせず、直接嗅いで ようやくわかる。

            葉の形 と 花      2000.3.15 葉の裏


 葉の長さは 約10cm。

 花の長さは 3cm弱で、大きなモクレンと
 較べたら 6分の1ぐらいだ。

                      若い実               2008.8.4

色付いた果実           2012.11.11
通常は枯れるまで枝に付いているが、たくさんの果実が枝葉ごと落ちていた。 カラスの仕業か。 熟すと割れて種子が出てくる。

                 ひとつだけ遅れて熟す実         2008.11.2
完熟すると 果実全体が褐色になる。

 

オガタマノキ の 位 置
写真@: B8 d
10番通り 左側
写真A: C6 c 20番通り 標識24番右手 林の中
B13-14 柴田記念館の裏

  オガタマノキの学名

植物園の名札は
  Michelia compressa (Maxim.) Sarg.
である。

最初の命名者マキシモウィッチは1872年、 タムシバ(Magnolia salicifolia)、シデコブシ(Magnolia stellata)と共に 本種を「モクレン属」として命名した。

オガタマノキ属( Michelia属) はその 100年以上前から定義されており、「間違い」に気付いた アメリカのサージェントが、22年後に訂正した。

ところが近年のAPG分類では、オガタマノキ属はモクレン属に統合されてしまった。 
これまで分類学は、細分化の歴史だった。
顕微鏡でしかわからない 「花粉」の形態の違いなどで分ける事もあった。

それが今、アオギリ科がアオイ科に統合された例に見られるように、「統合化」に向かっている。 形態の違いよりも DNAの違いを重視するもので、その方が 進化 ・分化の過程はハッキリする。

個々の植物の遺伝子解明が進むと、このオガタマノキ属のように 消滅 してしまう属がもっと出てくるかも知れないが、研究者にとっては 自分の名前を学名に残すまたとないチャンスである。

Figlar氏(人物の詳細は不明)はオガタマノキ属の統合に際して、一度もモクレン属の名前が付いたことのない 「Michelia △△」 を 「Magnolia △△」 に訂正する事で、少なくとも13種もの学名に 命名者としての名前が付いた。

マキシモウィッチの場合は、もともと括弧内に「元の命名者」として名前が残っていたが、怪我の功名か 完全復活した。


名前の由来 オガタマノキ Magnolia compressa

オガタマノキ
 : 招魂(オギタマ)の木 の意味
昔は榊・賢木(さかき:神事に使う木)として神社に植えられた。

招霊の木: 
サカキ(ツバキ科)、シキミ(シキミ科)と同様に神前に供えて、霊を招くために おき奉ることから、オギタマノキ、が オガタマに転訛したもの。
「オギ」は、招くという意味の動詞 「ヲグ」の未然形「ヲガ」の転。
                      『語源辞典 植物編』吉田金彦

ほかにも、小香玉:オガタマ、拝魂:オガミタマ から、という説も。

種小名 compressa : 扁平の の意味
モクレン属の果実がひと塊になるのに対して、オガタマノキの実はいくつかに分かれ、それが扁平な形をしているため、であろう。
 
オガタマノキ モクレン属 コブシ

旧属名 Michelia 属 : 人名による
イタリアの植物学者 ミケーリ Pier Antonio Micheli (1679-1737) を顕彰したものである。
フィレンツェに生まれて後にピサ大学教授となった。 キノコの研究で大きな業績を残した人物である。

モクレン科 Magnoliaceae : 人の名前に由来する
17世紀フランスの植物学者で、地中海に面するモンペリエの植物園園長であった、ピエール・マニョール(1638-1715) を記念したものである。

  モクレン属 と オガタマノキ属 の違い

以前の分類では、両属を分ける根拠として次の項目が挙げられていた。

外観や花の構造上に、いくつもの 明瞭な違いがあるのだが、遺伝子学上は 別の属にするほどの違いが無い、 ということなのだろう。
相違点 モクレン属 オガタマノキ属
頂生する 腋生する
花の付き方
タイサンボク オガタマノキ
無柄 柄がある
雌しべが付く軸


雄しべ群と
雌しべ群が
離れている
ヤマハクモクレン カラタネオガタマ
集合果となる 離生する
果実の付き方
モクレン オガタマノキ
胚珠の数 2個 多数


植物の分類 APG II 分類による オガタマノキ の位置

花の各器官は「葉」が変化したものと考えられている。 モクレン類は 1本の軸の周りに「花弁・雄しべ・雌しべ」が多数付く花の構造が原始的であり、早くに分化した植物とされている。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類) : マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
以前の分類場所  モクレン科   オガタマノキ属 (オガタマノキ属はなくなる)
APG分類  モクレン科   モクレン属
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ