イタリア ヤマナラシ イタリア山鳴らし
Populus nigra Linn. ' Italica ' (1986)
= Populus nigra L. (1753) の栽培品種
← Populus nigra L. var. italica Münchh. (1770)
科 名 : ヤナギ科 Salicaceae
属 名 : ハコヤナギ属、ポプラ属
      Populus L. (1735)
別 名 : イタリアポプラ
セイヨウハコヤナギ
植物園の
 名札:
Populus nigra L. var. italica
中国名 : 黒楊 hei yang ( Populus nigra )
原産地 :  -
Populus nigra はヨーロッパから中央アジアにかけて
用 途 : 並木など

ハコヤナギ属は落葉の雌雄異株で、小石川植物園のイタリアヤマナラシは雄株である。咲いているのを確認したことはなかったが、雄株だとわかったのは、折れて落下した枝に雄花が付いていたためだ。

冬のイタリアヤマナラシ  2015.1.4.
2024年現在 約 33m。
左手はラクウショウ、右の薄緑の葉は名無しのユーカリ。

場所はヤナギ池の横
左手がシダレヤナギ。イタリアヤマナラシは奥の細長い木。本種はヤナギ科なので、シダレヤナギを意識して植えられた可能性がある。

夏の様子   2010.10.11.

板根状の根元            2015.1.4.
後ろに見える道が70番通り。事典には記述がないが、植物園の木は完全な板根状態を呈している。
その上部からひこばえが多数出て、幹の様子がよく見えない。
新緑の様子       2011.5.18.
夏はひこばえだけでなく、ツタが繁るためにいっそう幹は見えなくなる。

葉の様子       2014.6.14.
ひこばえの葉を写したもの。形は三角形、裏は白くない。


雪で折れた枝       2013.1.17.
2013年1月14日成人式の大雪で、植物園は甚大な被害を受けた。落ちていた枝の冬芽はまだ堅く閉じていた。



風で折れた枝       2012.4.1.
前日の風で、枝が一本だけ落ちていた。赤い雄しべの塊が付いていたために、雄株だということがわかり、見上げてみるとつぼみがたくさん付いていた。


雄 花         2012.4.1.
花序は前年枝の葉腋に付くが、同じ場所に葉芽もある。葉が開く前に開花する。まだ花粉は出ていなかった。
ヤナギ類と同じように、花弁や萼は無い。

種子の様子 P. nigra
雌株がないので、綿毛の付いた種子の様子は Wikipediaから。


 
イタリアヤマナラシ の位置
F9 b
 70番通りヤナギ池、標識74番の少し先

名前の由来 イタリアヤマナラシ
Populus nigra Linn. ' Italica '

イタリアヤマナラシ :
植物園の名札や『園芸植物大事典/小学館』では
 Populus nigra L. var. italica
となっているが、GRIN は Populus nigra の栽培品種としている。
italica の変種名を付けたのはドイツの植物学者 Otto II F. von Münchhausen (1716-1774)で、リンネと同時代人である。

本種をイタリアで採取したのだろうが、事典には Populus nigra との相違点が書かれていない。
Münchhausen

 ← ヤマナラシ  山鳴らし P. sieboldi :
風 特に落葉前の秋風が吹くと、葉がカサカサ音を立てるため。事典には「葉柄が長く、葉身に付く部分が縦に扁平になっているため、横に揺れやすい」とある。
確かに、微風の時には葉が左右に揺らめく 独特の動きをする。しかし、横に揺れるからぶつかり合うわけではないだろう。第一、葉はランダムな向きに付いている。要は 葉柄が長くて弾力があるためだ。

ヤマナラシは日本特産種で、九州以外の山野に生える。
ヤマナラシ        京都植物園 2001.12.1.
幹の太さは30センチ弱で、まだ平滑だった。もっと太くなると縦にひび割れる。

別名 セイヨウハコヤナギ 西洋箱柳 :
セイヨウハコヤナギの名には混乱があったようだ。
ふたつの事典の記述を整理してみると、
『園芸植物大事典/小学館』: Populus nigra L. var. italica
イタリアヤマナラシの別名、ポプラ並木のポプラ
『植物の世界/朝日百科』: Populus X canadensis
以前は起源がはっきりせず、Populus nigra の変種や栽培品種とされていたが、現在は P. deltoides と P. nigra の雑種とされた。北海道大学校内の並木はよく知られる。
『植物の世界』の方が発行年は新しく、P. nigra 'Italica' → Populus X canadensis で決着したかと思われたが、本ホームページが拠り所としている GRIN には両方共に載っており、本種は 雑種の P. X canadensis カナダポプラとは別起源ということになる。
和名としては、雑種の方をセイヨウハコヤナギとすればよいだろう。

 ← ハコヤナギ  箱柳 :
ハコヤナギ類の材は白くて柔らかく、マッチの軸や 箱を作るのに使われたため、箱柳の名で呼ばれた。


種小名 nigra : 黒い
P. nigra の和名は クロポプラ。幹の色が濃いことによる。命名者のリンネが『植物の種』(1753) に記載した5種は すべて現在も有効な学名だが、本種も P. alba ウラジロハコヤナギも、リンネ以前のボーアンらが命名していた。
ウラジロハコヤナギの幹は灰白色であり、葉裏が毛で真っ白なので納得の命名だが、「黒っぽい幹」はほかの種にもあり、どれにするか迷ったかもしれない。
参考:ウラジロハコヤナギ    秋田植物園 2008.5.26.

Populus ポプラ属 :
紀元前の古代ローマ詩人 ウェルギリウス (70 BC - 19 BC)が用いたラテン名に由来する。ローマ人がハコヤナギ類を「民衆の木 arbor populi」と呼んでいたため。
文学には疎いが、ウェルギリウスの作品は西洋文学に深い影響を与えたそうだ。

なお、中国名は 楊属 yang shu である。

Salicaceae ヤナギ科 :
水辺を好むため、ケルト語の sal 近い + lis 水 に由来する。別の説として、成長が早いのでラテン語の salire あるいは salo 跳ぶ に由来する、があるが、早いと跳ぶでは関連がうすいように思う。

ヤナギ の由来には各種あるが、以下の二つの説を『語源辞典 吉田金彦』から。
①:ヤノキ 矢箆木 の転訛。矢箆木とは矢を作る細く真っ直ぐな竹で、昔ヤナギをその材料としたため。
②:中国では現在でもヤナギ科を楊柳科としているが、中国から伝わったヤナギを「楊の木 ヤンノキ」と呼び、これがヤノキないしはヤナギに転訛した。


 植物の分類 : APG III 分類による イタリアヤマナラシ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、アウストロバイレア、センリョウ
モクレン亜綱 : カネラ、コショウ、モクレン、クスノキ
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
以前の分類場所 ヤナギ目  ヤナギ科
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、キントラノオ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、等
キントラノオ目  ヤナギ科、スミレ科、トケイソウ科、トウダイグサ科、など
ヤナギ科  イイギリ属、ヤマナラシ属、ヤナギ属、クスドイゲ属、など
アオイ群: フトモモ、アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

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