オオリキュウバイ 大利休梅
Exochorda racemosa Rehd. (1913) 'The Bride'
← E. × macrantha K. Schneid. (1905)
← E. macrantha Lemoine (1904)
科 名: バラ科 Rosaceae
属 名: リキュウバイ属 Exochorda
       Lindley (1928)
中国名: 白鵑梅 bei juan mei
原産地: 中国 (河南省・江蘇省・江西省・浙江省、標高 200~500mの日陰がちな斜面)、
韓国、キルギスタン、タジキスタン
備 考: リキュウバイの園芸品種。
園の名札は 「E. × macrantha」となっているが、参考にしているアメリカ農務省のデータベースに従って、遺伝子的にはリキュウバイとする。そのコメント欄には 園芸品種 'The Bride' とあった。
リキュウバイ 利休梅
Exochorda racemosa Rehd. (1913)
← Amelanchier racemosa Lindl. (1847)



極上の香りがする中国原産の樹木。和名を聞くと古来からの茶道に関係するのかと思ってしまうが、日本に導入されたのは近年になってからのようで、千利休とは関係がない。

 満開の樹形          2013.4.4.
大型低木で 根際で分かれて叢生する。高さは5m弱。ピンク色はハナズオウ、ここから左が梅林となる。
芽吹き時の様子       2022.3.1.
9年前の前掲写真と較べると、左側にあった太い主幹 (部分)が枯れてしまい、ほかの古い枝も弱りがちである。
冬 芽           2022.3.1.
左は、前年に茎頂に花をつけた枝の側芽の芽鱗ががずれ出した状態、右は花をつけなかった枝の芽吹き寸前の状態。茎頂は脱落していないようだ。
新 梢         2012.4.10.
花芽は混芽で、葉を数枚出した先の茎頂に花序がつく。花序はシンプルな総状で、種小名の由来となっている。
各部の名称
各花柄の基部に苞葉があり、さらに花柄にも小苞がつく。花序を主軸と考えれば、普通葉の腋から伸び出しているのは一種の「同時枝」である。花は5数性。
満 開          2011.4.14.
花         2012.4.18.
花は大きく、径3センチ以上。花弁はほぼ円形で基部は細く、団扇のような形となる。子房は花托筒の中にあるため、中心位(周位)子房。
幼 果               2015.7.2.
見かけることが少ないので、結実しにくいのではないか。特徴は5稜があることで、心皮の腹側で合着している。バラ科では珍しい。
蒴 果         2022.3.1.
裂開したのがいつだったかは不明。種子は各室に2個ずつだが、成長しなかったものが多い。
種 子
未熟な種子が多い。バラ科では、周囲に翼がある種子がをもつ属は、ほかには無いのではないか。


 
リキュウバイ(オオリキュウバイ) の 位 置
E6 cd  番通りの左側


名前の由来 リキュウバイ Exochorda racemosa

 リキュウバイ 利休梅:
導入当初、別種の E. serratifolia にヤナギザクラ、本種にマルバヤナギザクラ という和名が付けられたようだが、いつの間にか、桜が梅に変わってしまった。
千利休とは直接の関係は無い。茶花として用いるため という説があるが、茶室でたくお香や茶の香りを殺してしまうので、一般的に匂いが強い花、例えばジンチョウゲ・クチナシ・ユリなどは禁花とされている。リキュウバイは上品な香りだが、やはり 使われないのではないか。
別の説として、利休の切腹は1591(天正19)年2月28日 新暦4月21日で、現在は3月下旬に「利休忌」が催されるため、その時期に咲く花だから リキュウバイ とした、いうものがある。いずれにせよ、侘び茶を完成した千利休にあやかった命名だろう。
*)天正19年には「閏1月」があるために、約二ヶ月遅れとなっている。
 Exochorda 属:
ギリシャ語の exo(外側の) と chorde(ひも) を合成したもの。事典によると、子房の胎座にひも状のものがあるため、とあるが、「胎座の外側」とはどこなのか? 
実態は未観察。
命名者はイギリスの植物学者 リンドリー John Lindley (1799-1865)で、他の数名と創刊して編集長を務めた『園芸家年鑑 The Gardeners' Chronicle』に記載した。
リンドリーは本種を最初に記載した人物でもある。
リンドリー
 種小名 racemosa : 総状の
以前は本属には4種あるとされ、別々の種小名が付けられていたが、アメリカ農務省のデータベースでは現在3種であり、リキュウバイのほかの2種は、その亜種 subsp. とされている。


 
リキュウバイ の 命名物語

リンドリーはリキュウバイを最初に記載し、さらに 現在使われている新たな属も定義したにもかかわらず、その命名者とはなっていない。その経緯を探ってみた。

学名 命名者 備考
a 1789  Ameianchier 属  メディクス Medicus ザイフリボク属、バラ科
Friedrich Kasimir Medicus (1736-1808) は、ドイツの植物学者・医師。
バラ科にザイフリボク属を立てた。もちろん現在も正名。
1847  Ameianchier racemosa  リンドリー Lindley  本種の元の学名
 リンドリーはリキュウバイを、フォーチュンが考えた? Ameianchier ザイフリボク属 として
 記載した。(推定次項を含む)
『Edward's Botanical Register』33巻 第38種、シモツケ属の一種 Spiraea pubescens の項の2ページ目に「付け足し」で記載したもの。フォーチュン(1812- 1880)が中国北部で採取したもので、ザイフリボク属のアジアで2種目となり、Amelanchier japonica (=A. canadensis)よりも端正だ、としている。
図版は無い。
ザイフリボク属 A.canadensis の園芸品種
花弁の形が違うが、花を見る限りでは似ているとも言える。しかし、もし 果実や樹形・樹皮の状態などを比べていれば、①がザイフリボク属でないことがわかったはず。
1854  Spiraea grandiflora  フッカー Hooker リキュウバイの異名
  ウィリアム・カーチスによる図集『Botanical Magazine』
  第80刊に掲載された、図版番号 4795。
  学名は 大きな花のシモツケ の意味で、リキュウバイを
  シモツケ属として記載した。リキュウバイには すでに
  ①の種小名がつけられていたため、異名となる。
図版の所有者:ミズーリ植物園
 
1858  Exochorda 属  リンドリー Lindley   新属 リキュウバイ属
1858  Exochorda grandiflora   同 上  ②を訂正、 異名
   『The Gardeners' Chronicle』1858年版に記載した。(下図はその一部、前半のみ)
「新種」という見出しで冒頭に 新種名 Exochorda grandiflora を記載。続くカッコ内にフッカーが記載した ②Spiraea grandiflora (赤線)を異名として挙げ、本文でそれを訂正したこと、フォーチュンのザイフリボク属やシモツケ属でもないとしている。そして後半で新しい属 Exochorda を記載した。
リキュウバイについて自身が10年前に書いたことを忘れてしまったのか、あるいはちょっと紹介しただけで正規に記載したつもりがなかったのかもしれない。
また、まだ命名規約の議論が始まる前だったので、新属の場合は、フッカーの学名②を訂正すればそれでよいと考えた可能性もある。
いずれにせよ、リキュウバイには①の名があり、新しく命名された③は異名。
その後 Exochorda属として、いくつかの異名が記載された。(別種の掲載は省略)
1867  初めての植物命名規約 ド・カンドル法が発行される
1880  Exochorda korolkowii  Lavallée  リキュウバイの異名
1884  Exochorda alberti  レーゲル Regel  リキュウバイの異名
1912  植物命名規約 ウィーン版
1913  Exochorda racemosa  レーダー Rehder  リキュウバイの正名
ドイツ生まれアメリカ人の植物分類学者 レーダー(Alfred Rehder 1863-1949)が、『Plantae Wilsonianae』第1巻 p.456 に記載。
この本は「1907~1910年にアーノルド植物園のために中国西部で集められた樹木の目録」で、リキュウバイにこれまでに付けられた学名(赤線部分、上記 ①~③)と、それらが掲載された書物名が網羅されている。
レーダーは①を 現在の正名 ④に訂正した。
現在のようなデジタルのデータベースが無くても、このようなリストを作れたのは、それ以前に書物や記録の収集と整理を行っていた機関・人物がいたからで、ゼロから調べるのはほぼ不可能と思われる。
1935  植物命名規約 ケンブリッジ版  改定は以後も続く
1934  Exochorda tianschanica  Gontsch.  リキュウバイの異名


オオリキュウバイ の 命名物語

オオリキュウバイは以前は雑種とされていた。小石川植物園にはリキュウバイがないために両者の比較ができないが、今回調べた結果では雑種ではなく、栽培品種という結果になった。
以下の一覧表の前半は、リキュウバイを単純にしたもの。

学 名 命名者 備 考
a 1789  Ameianchier 属  メディクス Medicus  ザイフリボク属
1847  Ameianchier racemosa  リンドリー Lindley  本種の元の学名
1854  Spiraea grandiflora  フッカー Hooker シモツケ属、本種の異名
1858  Exochorda 属  リンドリー Lindley   新属 リキュウバイ属
1858  Exochorda grandiflora   同 上  ②を訂正、 異名
1884  Exochorda alberti  レーゲル Regel  リキュウバイの異名
ドイツの植物学者で、ロシア帝立植物園の園長を務めた レーゲル(Edward von Regel 1815-1892)が、『Trudy Imperatorskago S.-Peterburgskago botanicheskago sada.Acta Horti Petropolitani』の p.696 に記載したもの。別図で折込の第13図に果実期のスケッチがある。
種小名 alberti は人名に由来するものだが、誰を顕彰したものかは未確認。
1904  Exochorda macrantha  ルモワーヌ Lemoine オオリキュウバイの異名
フランスの園芸家・育種家のルモワール(Victor Lemoine 1823- 1911)が、『Cat. 1904』に記載したものだが、詳細は不明。macrantha は「大きな花の」の意味。
1905
 Exochorda alberti × grandiflora  シュナイダー Schneider
オオリキュウバイの異名
ドイツの植物学者・造園家のシュナイダー(Camillo Karl Schneider 1876-1951)が、『Illustriertes Handbuch der Laubholzkunde』p.493 に記載。
まず ❶ E. alberti について冬芽のイラスト入りで説明を行った後、
❷ E. macrantha を交雑種として、❸の学名を提起している。
この本は ドイツ語・ラテン語・フランス語混じりで正確には理解できないために、はっきりしたことは言えないが、❷ E. macranthaの記載者であるルモワーヌが、「E. alberti を母、E. grandiflora を父とした交雑種である」と示唆していたことに基づいているようだ。
リキュウバイが、まだ E. grandiflora で通っていることがわかる。
園の名札の学名は、上記の経緯から生まれたものだが、アメリカ農務省のデータベースでは父母ともにリキュウバイの異名であるため、同種による掛け合わせで雑種ではないことになる。このため、❷がルモワールが作出したものか、あるいは自然交雑種を見出したものなのかはわからないが、いずれにせよオオリキュウバイはリキュウバイの園芸品種(栽培品種)ということになる。
1913  Exochorda racemosa  レーダー Rehder  リキュウバイの正名
  ドイツ生まれアメリカ人の植物分類学者 レーダー(Alfred Rehder 1863-1949)が、
  『Plantae Wilsonianae』に記載。 「リキュウバイの命名物語」参照。



植物の分類 : APG IV による リキュウバイ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
基部被子植物 : アンボレラ、スイレン、アウストロバイレア
モクレン類 : カネラ、コショウ、モクレン、クスノキ
 独立系統 : センリョウ
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ
中核真生双子葉類: グンネラ、ビワモドキ
バラ上群 : ユキノシタ
バラ類 : ブドウ
マメ 群 : ハマビシ、マメ、バラ、ウリ、ブナ
 バラ目  バラ科
 バラ科  リキュウバイ属
 未確定 : ニシキギ、カタバミ、キントラノオ
アオイ群 : フウロソウ、フトモモ、アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク上群 : ナデシコ、ビャクダン、など
キク 類 : ミズキ、ツツジ
シソ 類 : ガリア、リンドウ、ムラサキ、ナス、シソ、など
キキョウ類 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物(進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ