リンゴの品種 ケントの花
Malus domestica Borkh. (1803)
cv. Flower of Kent
科 名 : バラ科 Rosaceae
属 名 : リンゴ属 Malus Miller (1754)
英 名 : common apple "Flower of Kent"
中国名 : 苹果 ping gou
原産地 : はっきりしていない。
アジア西部 といわれている。
用 途 :


リンゴ または 西洋リンゴ: 様々な品種が実を食べるために栽培されるが、平年気温が10度前後の比較的涼しい地域が多い。 
栽培されるリンゴは ジュース・ジャム・酒・酢の原料、菓子の材料などに使われる

園内にはリンゴの木はこれ1本で、ニュートンの生家にあった木「ニュートンのリンゴ」として、小石川植物園の『看板植物』のひとつとなっている。


カエデ並木が始まる10番通り、そのスタート地点の右側。根の回りが踏みつけられないように、園内の樹木としては珍しく、垣根をめぐらせている。また 毎年剪定されいて、枝振りが大きくなり過ぎないように手入れされている。

さらに万一に備えて、すぐ近くの管理区域内で、別に接ぎ木したものを育てている。


その説明板の文章は、
ニュートンのリンゴ
物理学者ニュートン Sir Isaac Newton (1643-1727年)が、リンゴの実が木から落ちるのを見て 「万有引力の法則」を発見したという逸話は有名。 ニュートンの生家にあったその木は、接ぎ木によって各国の科学に関係ある施設に分譲され育てられている。 この木は昭和39年(1964年)に英国物理学研究所サザーランド卿から日本学士院長 柴田雄次博士に贈られた枝を接ぎ木したもので、植物園でウイルスを除く処置を受けた後に、昭和56年(1981年)に植え出された。
あくまで逸話であって、その話が「真実」かどうかはわかっていないようだ。

                    幹の様子              2011.5.24

               枝の様子        2010.6.19
枝だけではなく、若葉にも毛がある。

花の様子
つぼみが固いうちはピンク色が濃く、開くと白とのバランスが良い。
花が落ちた後     2010.5.3.        果実 2011.5.24
結実性は悪くないが、それ程多くの実が生るわけではない。果実には萼が残ったままだが、もっと大きくなっても、日本のリンゴのように萼の部分が凹むことはないようだ。

            育ちの良い兄弟      2010.6.19
小石川植物園では 実が大きくなったのを見たことがないが、「山梨フルーツパーク」に接ぎ木で分けられたこの木では、直径5cm以上まで大きくなって、色づき始めていた。

 
ニュートンのリンゴ の 位 置
C13 ab

10番通り イロハカエデ並木の右手

名前の由来 リンゴ Malus domestica

リンゴ 林檎 :中国語による
日本に自生するリンゴ属は 「エゾノ コリンゴ
M. manshurica」と「ズミ M. toringo」の二種であり、古くに中国から伝わった Malus asiatica を「ワリンゴ」と呼んで栽培していた。その古名として、「リンキン、リンキ、リンゴウ、リュウゴウ」などがある。
       『図説 花と樹の大事典/植物文化研究会』

中国語で「林」の発音はリン。「檎」の発音は 漢音がキン だが、呉音はゴン ということで、渡来した時から「リンキン」だけではなく、「ringom リンゴム」の音もあったようだ。
             『語源辞典 植物編/吉田金彦』
それが現在は「リンゴ」と呼ばれている。

「禽 キン」の字は猛禽類などと使われるように、「鳥」の意味である。
「檎 キン」は形声文字だが、意味を解釈すれば、「鳥の木、鳥が集まる木」となろう。しかし、鳥はもっと小さい実の方が好みのようなので 「林檎」が リンゴである必然性がまったく無い・・・・。
現在の中国語のリンゴは 苹果 ping gou であり、中国の植物データベース・ホームページである 『Flora of China』 では、「林檎」の字は リンゴ属のほかの種に見られるだけで、ほとんど使われていない。他方、リンゴ の別名としている例が見受けられた。

いつの時から 現在の「ピンゴウ」が使われるようになったのかは不明。
なお 「苹」の字は”水に浮いている草”を表し、「うきくさ」の意味で、小さなリンゴの実を 浮き草の膨らんだ丸い部分に例えたもののようだ。

種小名 domestica : 国産の という意味
なんらかの特徴を示すべき 学名 としては意味をなさない。
リンゴがヨーロッパに伝わったのは ギリシア時代ともローマ時代ともいわれる。それまでの長い間に、そしてその後も、野生の中から甘くて大きいものが選別されてその種を撒き、またそれらの中から良いものを選んで・・・ という事が繰り返されて、18世紀には原種とは違うものが栽培されるようになっていた。

『朝日百科/植物の世界』では、ドイツの自然科学者 ボルクハウゼン(1760-1806)による本種の学名を、 Malus × domestica つまり雑種と解釈しており,数種が関与しているということである。

「国産」といえば、おいしいリンゴは 何といっても日本産! その名も「富士」は世界的に栽培されている。最高峰は「密入り富士」だろう。

Malus 属 :
・ リンゴのラテン名に由来する。 『園芸植物大事典』
・ ギリシア語の「リンゴ malon あるいは malos」に由来
  する。
    『花と樹の大事典』、『植物学名事典/牧野 ほか』

バラ科 Rosaceae
ケルト語の 「赤色 rhod あるいは rhodd」 を語源として、古代にバラのラテン名となっていた。
バラ科の中は次の3つのグループ(亜科)に分けられる。
主な属として、
  ・ シモツケ亜科 :シモツケ属
  ・ サクラ亜科 :サクラ属、バラ属、キイチゴ属、
          ヤマブキ属
  ・ ナシ亜科 : セイヨウカリン属、ビワ属、ナシ属、
          リンゴ属、ボケ属

品種名 Flower of Kent
Kent の由来として考えられるのは、「イングランドのケント州」と「ケント公爵 Duke」 であるが、爵名を呼び捨てにしている?ので、地名の方なのではないだろうか。

英語版 Wikipedia の「Fliower of Kent」には こんな文章が載っている。
「ケントの花」は緑色の料理用リンゴの一変種である。話しによると、”この木から実が地面に落ちるのを見て、アイザック・ニュートンが万有引力の法則を思いついた” というリンゴの木である。その実はナシの形でパサパサしており 少し酸っぱくて、今の基準からすると品質が劣っている。
その(ケントという)名前にもかかわらず、フランスが起源(原産)のようだ。

今はほとんど栽培されないが、何百もの「ケントの花」が残っている。その全部ではないかも知れないが、ほとんどはニュートンの生家である Woolsthorpe Manor の木に由来すると言われている。しかし、そのほとんどすべての木は、ケント州東モーリングにある一本から分けられたものである。 (以下省略)

ニュートンの生家 Woolsthorpe は、ロンドンの北方リンカンシャー州であり、東方にあるケント州とは異なる。
ウールスソープ・マナー
Wikipedia より
 
小石川植物園の「ニュートンのリンゴ」の出自は保証付きの筈だが、やはり「Kent」の名は、ケント州にあるのだろうか・・・。

なお イギリス・ナショナル・トラストによると、生家の木は 1820年に倒れてしまったが、幹から根が出て今も健在だそうだ。

 トピックス 引力の発見

皆さん、リンゴ園でもどこでも、「リンゴが落ちる瞬間」を目撃する事などは滅多にないでしょう? 超熟状態か台風でも来ない限り、そんなに簡単には落ちないもの。では、ニュートンはなぜ「ケントの花」の実が落ちる時に立ち会えたのか?

小石川植物園の栽培担当者の話によると、この実は大きくなる前にどんどん落ちてしまうのだそうだ! 

それならば、ニュートンが毎日、いや時々でも? 庭で本を読んだり考え事をしていれば、リンゴが落ちるのを何回も見られたに違いない。
たわわに生る果実      2013.7.17.
確かに落ちていました     2013.7.17.


植物の分類 : APG II 分類による リンゴ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
以前の分類場所  バラ目 トベラ科、アジサイ科、ベンケイソウ科、ユキノシタ科、バラ科、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
バラ目  バラ科、グミ科、ニレ科、アサ科、クワ科、イラクサ科、など
バラ科  カナメモチ属、サクラ属、ボケ属、リンゴ属、ビワ属、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

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