ナニワイバラ 難波茨
Rosa laevigata Michx. (1803)
科 名: バラ科 Rosaceae
属 名: バラ属 Rosa Linn.
異 名: R. cherokeensis Donn ex Small
中国名: 金桜子 jin ying zi
英語名: Cherokee rose
原産地: 中国中南部、台湾
用 途: 生け垣、庭木に使われた

その名から てっきり国産だと思っていたが、モッコウバラなどと同じく、中国原産だった。
以前は売店横に植えられていたが、現在は分類表本園の中間部分に移植されている。白で一重と 筆者の好きな花であり、知人に分けてもらって自分でも育てている。

在りし日の姿      2011.5.3.
左側が売店で、薬草園の低い垣根を覆うほどの勢いだった。

現在の場所       2013.6.4.
分類表本園の中ほどにある、水槽か何かの遺構の脇に移植された。

植物園近くの家の生け垣      2014.4.23.
生け垣の例。何百という花が咲く見事なものだ。
ナニワイバラの花期は短いが、これだけ花があると、ある程度の期間 楽しめる。しかし 蔓がよく伸びるので、道路側に張り出しており、剪定に苦労しているようだ。
『園芸植物大事典/小学館』(1988)には 以下の記述がある。
花も葉も美しく 病気や害虫も少ないので、関西以西ではよく生け垣に使われていたが、株が大きくなりすぎ また花期が短いために、最近は敬遠されている。
筆者が分けてもらった知人の家が まさにその通りで、二階まで伸びて一杯になった株は、ある時、根こそぎ "伐採" されてしまった。「花期が短い」理由は、ほぼ一斉に咲くことと、園芸種に較べてひとつひとつの開花期間が短かく、丸3日もすると散ってしまうため。しかも 秋咲きは 無しである。

2015.3.17             新 芽             2015.3.31
多くの園芸バラと違って「常緑」。自宅のものは冬芽も赤味がかかることが多い。古い葉は春から初夏に黄葉して、順次落ちていく。

トゲの様子
→ 枝先



新しく伸びて 半年が経った枝。枝には通常のトゲが付く(少し下向きに曲がっている)。伸び始めの枝は緑だが、冬に赤くなる。

植物園    2015.4.1.
移植後 数年経って、勢いが出てきた。太さ 1センチ強。

自宅の葉       2015.3.31.
複葉の小葉は3個。左から低出葉、初生葉、成葉、黄味が増した2年生葉。托葉は長く尖っており、古くなると落下する。

2014.4.23           つぼみの状態            2012.5.2
側枝・花柄・萼筒・萼片には細い刺が密生する。細いからといって 侮れない。萼の上部は葉の形となり、トゲはない。

満 開        2001.4.28.
薬草園の竹垣時代。花弁は5枚、幅広で互いに重なっている。
直径 6〜8センチ。匂いも良い。

花 後         2015.4.27.
このスターなら いつまででも楽しめるが、自宅の鉢植えでは、負担を減らすために摘んでしまう。

赤い枝        2015.2.16.
アメリカ農務省のデータベース GRIN (Germplasm Resources Information Network) の、「経済的な重要性」の項に ”染料”があった。自宅の枝を剪定した時に、表面だけでなく内部まで赤い色があったので、これに違いないと感じた。

実の様子       2015.3.29.
春までほっておいた果実(萼筒が肥大したもの)。『園芸植物大事典』によると「種子はほとんどできない」そうだが、内部に種子(正確には果実)があった。一応 撒いてみたが、採取が遅すぎで乾燥していたため、発芽するかどうかはわからない。


 
ナニワイバラ の 位 置
写真@: E10 c 分類表本園内

名前の由来 ナニワイバラ Rosa laevigata

和名 ナニワイバラ 難波茨 :
中国原産で、18世紀初めに日本に渡来したものを、大坂の植木屋が広めたためといわれている。
別名 ナニワバラ 浪速薔薇。

← バラ 薔薇 :
いばら うばら 茨 が省略されたもの。
茨には「かや」の訓があって くさぶきの意味もあるが、現在はもっぱらトゲのある灌木の総称として使われる。

似ているが少し違う説として、「うまら」が転訛したもの がある。万葉集に「うまら」が詠まれており、これが →「まら」→「ばら」となったという説である。
漢字の薔薇 がバラを表すことになった由来は不明。漢名からきているのだろうが、別々になると「薔」が ミズタデ、「薇」はゼンマイの意味であるのが不思議。
薔薇の音「そうび」は平安時代の『古今和歌集』、『源氏物語』、『枕草子』にも見られるという。薔薇 は 襲 (かさね)の色目にもなっており、表は”紅”、裏は”紫”。

種小名 laevigata : 平滑な の意味
落葉の一般的なバラの葉は 葉脈が目立ち、薄手で軟らかい。常緑のナニワイバラは厚手、平滑でツヤがあるところから。
ナニワイバラ 原種 ロサ・ガリカ
中国原産 柔らかな葉の例、コーカサス地方原産
中国名 金櫻子 jin ying zi :
漢方で ナニワイバラの 実・種子などを「金櫻子」と呼び、それが植物名ともなっている。由来は不明。
中国原産のバラ属は多いが、『Flora of China』によると現代の名称は「○○薔薇」がほとんどで、「子」の付いているものは本種だけである。

英語名 Cherokee rose :
異 名 Rosa cherokeensis Donn ex Small :
チェロキー・インディアンのバラ の意味で、合衆国ジョージア州の州花となっている。中国原産のバラが なぜアメリカで州花となっているのか? 原住民の迫害の歴史が関係しているようだ。

西 暦    事 柄
1780頃 ナニワイバラがアメリカ東南部に移入され、ほどなく野生化する
1803 ナニワイバラの学名 R. laevigata が記載される。現在の正名
1807 J. Donn が「R. cherokeensis」を記載するも、必要な様式を
満たしていなかった
1829 ジョージア州で金鉱が発見され、ゴールドラッシュで 白人が
インディアンの土地に立ち入るようになる
1838 チェロキー族の強制移住が実施される。疫病などで、多くの人が
亡くなる。歩いたルートは「涙の道」と呼ばれている
1903 Small が改めて Donn の学名を正式に記載。しかし正名ではない
ナニワイバラが なぜ チェロキー族と結びつけられたかは判らない。ジョージア州のインディアンの居留地に、ナニワイバラが繁茂していたのだろうか。
命名は強制移住の30年も前なので、直接の関連はないかもしれない。現在では、その白い花弁は チェロキー族の女性の涙を、黄色い雄しべは チェロキー族が奪われた金を象徴しているとされる。
ジョージア州がナニワイバラを州花としたのは、過去の過ちを忘れないようにするためかも知れない。

とにかく ナニワイバラは 不明なことだらけだ。

Rosa 属 :
ギリシア語の rhodon バラ に由来し、さらにその語源は ケルト語の rhodd 赤 に由来する。



植物の分類 : APG III 分類による ナニワイバラ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、アウストロバイレア、センリョウ
モクレン亜綱: カネラ、コショウ、モクレン、クスノキ
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群:
バラ亜綱: ブドウ
以前の分類場所  バラ目  トベラ科、ベンケイソウ科、ユキノシタ科、バラ科、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
 バラ目  バラ科、グミ科、ニレ科、アサ科、クワ科、イラクサ科、など
バラ科  モモ属、サクラ属、リンゴ属、カリン属、バラ属、キイチゴ属、など
アオイ群: フウロソウ、フトモモ、アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群:
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ