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学名の出発点『植物の種』(1753) 以前の記載 |
正名・異名の対象外 |
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学名の出発点に定められたリンネの『植物の種』には、その種を掲載している自書とともに、既刊の書名と著者名(略称)が挙げられており、これによってリンネ以前の命名の様子を覗うことができる。
さらには、その文献内にも同様な記載があり、リンネよりも200年以上前の状況を知ることができた。ただし ラテン語が一部しか訳せないために、十分な説明はできていない。 |
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| 発刊順に掲載するため、筆者が調べて遡っていったのとは逆になる。 |
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年 |
学 名 |
命名者 |
属名・備考 など |
| ❶ |
1576 |
Draco arbor |
クルシウス |
? |
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Carolus Clusius (1526-1609)はフランス生まれでフランドルの医師・植物学者。ライデン大学付属植物園の設立に尽力。一般の植物のみならず、高山植物の研究や園芸植物の品種改良も行った。
本種の記載は『Rariorum aliquot stirpium per Hispanias observatarum historia 非常に珍しい幾つかのスペイン植物の観察』。➋の1行目に既刊の文献として挙がっていたために、見つけることができた。 |
クルシウス |
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本書の11ページ、巻頭に位置する「巨大な樹木」第1章に掲載されており、次のページに大きな図版(右)があった。
まさに リュウケツジュ であり、葉の形状や花、実もリアルに描かれている。 Draco という言葉は植物名以外にも、Draconis, Draconem, Dracone などがあり、「巨大な、大きな」という形容詞として使われていると思われる。
またリンネよりも200年前に「二名法」による植物名の記載(欄外 赤線 Draco arbor)を行っている。 |
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| クルシウスは16世紀には非常に影響力のあった学者であり、リュウケツジュは奇怪な樹木として広く知れ渡ったに違いない。 |
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| ➋ |
1623 |
Draco arbor |
ボーアン 弟 |
? |
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| Gaspard Bauhin (1560-1624)はスイスの植物学者。リンネよりも100年以上前に、一部「二名法」で植物名を表していた。 |
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| 『Pinax theatri botanici 植物の劇場総覧』p.505。記載した位置は本の最終盤で、PICE トウヒ、ABIES モミ、TAXUS
イチイの次で、さらに PALMA ヤシ(属)が続いている。前掲 1576年のクルシウスの本(❶)の名称をそのまま受け継いでおり、DRACO に
'ARBOR' が付いているのは本書内のほかの項目には無い特徴である。 |
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| また、ほかの命名例として「草本の Draco」もあった。 |
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| サトイモ科 Dracunculus 竜のしっぽ(尻)属 の項に、「Draco herba 草の竜」の名がある。そこには、ボーアンよりもさらに100年前の、ドドエンス
Dod. (1517-1585)の時代から使われていることが示されている。 |
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| Dracunculus属は現在も健在で、葉は鳥足状、花は暗紫紅色の仏炎苞。これに似ているのがテンナンショウ属のウラシマソウ。 |
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| 参考:ウラシマソウ Arisaema urashima |
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2011.4.20 小石川植物園 |
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西洋の dragon のイメージは、東洋の龍とは違って右図のような ヘビ~翼竜 だったので、葉(翼)の間から突き出る付属体を Dracun-culus
竜の尻・しっぽ と名付けたものと思われる。
『牧野辞典』には「龍の縮小形」とあるが、これは間違い。 |
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| ❸ |
1720 |
Palma folis longissimis |
ブールハーフェ |
ヤシ科 |
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Herman Boerhaave (1668-1738)はオランダの医師・植物学者。
『Hortus Lugduno Batava』p.169に記載。
リンネが参考文献として①に記載。 |
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1735 |
Asparagus 属 |
リンネ |
ユリ科 |
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| ❹ |
1740 |
Cordyline folis inermibus |
ロイエン |
ユリ科? |
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| リンネと同時代の植物学者 Adrian van Royen (1704-1779)が『Florae Leydensis prodromus』p.22
に記載したもの。ユッカ属から切り離して新属としたようだ。リンネが参考文献として①に記載。 |
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| | | 『植物の種』以降の出版、記載た | 基準日:1753年5月1日 | |
| | | 様々な形で記載されてきた植物の名前を「属名と種小名」で表す二名法に統一するためには、どこかに線を引かなければならない。一部では以前から使われていたが、『植物の種』で記載の全ての種について定めたことが、後に学名の出発点として選ばれた最大の理由である。 | |
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年 |
学 名 |
命名者 |
属名・備考 など |
| 1753 | Asparagus 属 | リンネ | ユリ科アスパラガス属 |
| | | リンネは『植物の種』(第1版)のアスパラガス属に10種を記載し、現在でも正名となっているものが多数ある。 | |
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| ① | 1762 | Asparagus draco | リンネ | 異名 本種の元の名 |
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| Carl von Linné (1707-1778) はスウェーデンの博物学者。 |
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| | 『植物の種 第2版』第1巻の p.451。
リンネはこの本でアスパラガス属に14種を記載した。その最後が本種だが、属名に疑問符?が付いており、自信が無かったことを示している。脚注には、(未確認だが?)スペイン産、花はアスパラガス属に似ている、などが書かれている。 |
| ❹ ❸ ➋ は『植物の種』以前の記載(前掲)。 |
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1764 |
Draco-arbor |
ガルソー |
学名の対象外? |
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| フランスの植物学者・動物学者の François A. P. de Garsault (1691- 1778)は『Les figures des
plantes et animaux d'usage en medecine』に記載したが、ハイフンで繋げられているため、属名と種小名とはならず、もちろん異名だが
Draco属の命名者にもならなかった。 |
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1767 |
Dracaena 属 |
バンデリー |
命名時は ユリ科 |
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筆者が基準としている GRIN-Global のデータやその他のサイトでは、ドラカエナ属の命名者を Domenico A. Vandelli (1735-1816) としている。バンデリーはイタリアの自然科学者で、おもにポルトガルで活躍した。
ところがこの年に、バンデリーがこれを記載した気配は無い。ではなぜバンデリーがドラカエナ属の命名者とされるのか?
その解答は、リンネの1767年の著作『Mantissa plantarum 植物補遺 第1版』p.9 にあった。 |
バンデリー |
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リンネが初めて Dracaena属を記載したものだが、属名に続けて
authore Vandelio (赤線部分) とある。
authore は auctor 命名者のことで、Dracaena属の命名者がバンデリーであることを明記しているためだった。 |
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| ② | 1767 |
Dracaena draco |
リンネ |
正名、命名時はユリ科 |
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| | 『自然の体系 第12版』第2巻の p.246。
これまでに記載した数種を Dracaena属に変更したもので、1. が本種。各記述は極めて短く、参考文献としてAsparagus Draco
が『植物の種』451ページに記載されていることが示されている。 |
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| 相変わらず頭文字を大文字 D にしている。人名ではないから、地名あるいは何らかの固有名詞と考えていたのかもしれない。 |
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1768 |
Dracaena yucciformis |
バンデリー |
本種の異名 |
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リンネの2つの著作の翌年、バンデリーは Dracaena属についての40ページほどの冊子を書いた。タイトルは、正確ではないかもしれないが、『巨木(リュウケツジュ)についての論文
あるいは ドラカエナの詳細論文』といったところだろうか。
リュウケツジュについてのこれまでの記載履歴、生態、薬の効果、経済効果、栽培法、属性、流通などについて述べている。これはリュウケツジュの樹液が、塗料や薬として使われていたためだろう。折込の図は、❶のクルシウスの図版と違って実物を忠実に描いている。 |
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Draco 属 |
クランツ |
Dracaena属の異名 |
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Doraco dragonalis |
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本種の異名 |
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| Heinrich J. N. von Crantz (1722-1797)はルクセンブルグ生まれの医者・植物学者。新たに Draco属を立てて本種を記載したものだが、さすがに
Draco draco とはしなかった。 |
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Palma draco |
ミラー |
本種の異名 |
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| スコットランドの植物学者 Philip Miller (1691-1777)は、②をヤシ属として命名し直した。 |
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1771 |
Dracaena yucciformis |
バンデリー |
本種の異名 |
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| 1768年出版の数年後に、同じ図を『Fasciculus plantarum cum novis generibus, et speciebus』に載せている。 |
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| 着色はのちに施された可能性があるが、葉の付け根が赤く塗られているので、これは本種の本来の性質と思われる。 |
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1836 |
Drakaina draco |
ラフィネスク |
本種の異名 |
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| Constantine S. Rafinesque (1783-1840)による命名。 |
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