2008.12 掲載
2022.7 更新


2008.12.4 千代田区 皀角坂
サイカチ 皂莢
Gleditsia japonica Miq. ( 1867 )
科 名: マメ科 Fabaceae
旧科名: ジャケツイバラ科 Caesalpiniaceae
属 名: サイカチ属 Gleditsia
  J. Clayton ex. Linn. ( 1754 )
英語名: Japanese honey locust
原産地: 本州、四国、九州、朝鮮半島、中国大陸
用 途: (サヤ)にはサポニンが含まれるため、昔は石鹸の代わりとして用いられた。また、莢や種子は利尿・去痰の漢方薬として使われる。材は建築・家具に用いた。
備 考: ミクエルが原著で記載した属名は
  Gleditschia

植物園には北の奥の方に2本がある。トップの写真は水道橋の皀角坂のもの。サイカチは落葉樹で、枝や 特に幹に、長さ10cm にもなる鋭いトゲを出す。
これは枝が変化したものだそうだが、とにかく凄まじい。目でも刺そうものなら、失明してしまう。このため、多数の果実が生って落下することと併せて、街路樹には適さない。
特記以外の写真は 小石川植物園で撮影。

① ②:2本のサイカチ
2022.7.9
右側①はほぼ直立、奥②は斜めに伸びた黒い幹がサイカチだが、周りに木が多く、不自然な樹形である。これは植物園の多くの木に言えることで、致し方ない。幸い、下枝を手に取ることができる。

トゲの様子
左:出たばかりのトゲは、緑色をしている。
時が経つにつれて、濃い茶色→焦げ茶色→黒に近い茶色 と変化していく。さらに古くなると白っぽく枯れた状態となるが、最後までその鋭さは変わらない。
刺は枝が変化したもの
2008.12.3
皂莢坂ビル前
細い枝にもトゲがつき、葉の付け根 (葉腋 ようえき) から刺が出ていることによって、このトゲが 「枝が変化したもの」という説明に納得がいく。

特殊な葉のつき方
1年目の枝(長枝)には「互生」につく
2013.10.19
茶色の枝が今年枝(1年生枝)で、葉(複葉)が互生についている。
2年目以降はイチョウのような、短枝的な葉のつき方となるが、いわゆる「短枝」が発達するわけではない。
初めての冬芽(腋芽)
2014.1.28
昨年伸びた枝(2年生枝)の腋芽。葉の付け根部分が肥大している。通常なら この芽が伸び出して側枝となるが・・・。
A:2年生枝の葉
2022.7.9
枝は伸びず、数枚の葉(複葉)が束生する。左側の数年前の枝でも、同じように束生している。
毎年ほぼ同じ位置から出葉
2017.5.3
前掲写真とは別の枝。芽吹きと落葉を繰り返して、数年後にはその落ち痕がこぶ状になる。通常の樹木は新梢に葉をつけるが、サイカチは分枝が少なくても、毎年ほぼ同じ位置に葉をつけることができる。
短枝状?のこぶ            2013.10.30.
頂芽があって、毎年わずかながらも成長するのが「短枝」なので、これは短枝とは言えない。次第に多くの冬芽がつくようになり、もとの葉腋とは離れた位置から出葉する。
この2枚は秋に撮影したもので、右写真では1枚が落葉した直後、上部には赤茶色の3個の冬芽が確認できる。

変わった葉の形
変則二回羽状複葉 羽状複葉
左:今年枝(長枝)の しかも先端寄りにのみ、一部の小葉が2回目の複葉となった変則的な二回羽状複葉がつく。この例の2枚の葉は3小葉だけ、もう1枚の葉は1小葉だけが二回複葉となっている。
右:2年目以降に束生する葉は、すべて偶数羽状複葉である。
二回羽状複葉
枝先につく3枚の葉が、すべて二回羽状複葉となるケースもある。必要以上に複葉をつけてしまって、葉の重なりが多い。
部が茎頂。

茎頂脱落と変則的な枝の成長
茎頂脱落
写真の左端から、脱落した茎頂()までが今年伸びた短い「長枝」。わずか2節に見えるが基部では葉が詰まってついていて、今年枝につく葉は6枚。先端の葉だけが、葉の面積を増やすために二回羽状複葉となっている。
本種は必ず茎頂が脱落する。翌年に、頂側芽が連続して長枝を伸ばすこともあるが(写真Aの例)、通常は伸長せず、2年生枝の各節に葉を束生するだけとなる。
数年すると、先端部、まれに次の写真のように、枝の途中の腋芽から長枝が伸長する。

これらは下枝での観察であり、樹冠上部での伸び方は未確認だが、冬に見上げてみると、枝の密度はやはり疎らである。
奥の木の枝振り         2014.1.28.

つぼみ (雄花か?) 花 (雌花か?)
事典によると、花は雌花、雄花、または両生花が付く「雌雄同株」ということだ。さらに、『樹に咲く花』の著者 茂木 透さんの観察によると、同じ木でも、雄花のみが咲く年、雌花のみが咲く年、両方とも咲く年があるという。これもまた、驚きである。
さいかち坂 12月初めの熟果

熟した実 種子
莢の長さは 15~30cmで、軽くねじれるか螺旋状になる。
果実の写真は、筑波植物園もの。奥の小さな実は地面に近いところに生っていたもので、日当たりが悪いために極めて実の入りが悪く、20cmの莢に小さなタネが3・4個というありさまだった。手前の育ちのよいものには14個もはいっていた。
種子の大きさは、長さ8~9mm (切手のサイズは21×25)。


サイカチの莢には、サポニンという泡立つ成分が含まれている。戦時中、石鹸の配給がストップした時には、ムクロジ、エゴノキとともに、サイカチも石鹸の代用として使われたそうだ。
試しに筑波植物園でわけてもらった実をちぎって水に漬け、泡立ててみた。かなり熟した莢だったからか、泡立ちは今ひとつだった。もっと若いものなら泡立つのだろうか?
なんとか泡立った サイカチの果実


 
サイカチの 位 置
①:
②:
B3 d
B3 ac

標識26番の先 左側
標識26番の先 左側 ①の先

名前の由来 サイカチ Gleditsia japonica
 和名 サイカチ:昔の名前「サイカイシ」がなまったもの
漢方で種子を「皂角子 (ソウカクシ) 」といい、そこから生まれた「西海子 (サイカイシ)」という名前が古名として使われていた。それがさらに転訛したのが「サイカチ」ということである。

和名サイカチに「皂莢」の漢字を当てているが、本来、この漢名は、中国原産の別種、G. sinensis のことで、その現在の中国名「皁莢」の意味は「黒いサヤ」。
(サヤ) も薬として使われるが、その漢方名が「皂莢 (ソウキョウ) 」である。
 種小名 japonica: 日本の という意味
命名者は、18世紀のリンネとは ほぼ1世紀違う、19世紀 オランダの植物学者 ミクエル (1811-1871) である。
Wikipedia より
サイカチの原産地は、日本・朝鮮・中国にまたがっている。
ミクエルの命名は 1867年だが、前記の別種 G. sinensis を、その約80年前の1788年に ラマルク(1744-1829) が記載していた。このため、G. sinensis に対してサイカチを G. japonica としたものと思われる。
 Gleditsia (Gleditschia) サイカチ属:人名にちなむ
こちらはリンネと同世代、ドイツの植物学者 グレディチ (1714-1786) を顕彰して名付けられた。
クレイトンが命名していたものを、代わりにリンネが『植物の属 第2版』に記載したもの。
現在は Gleditsiaの属名が使われていが、古い図鑑 例えば『牧野 新日本植物圖鑑』(北隆館 1961)では、属名の綴りが Gleditschia となっている。
詳しくは、後半の 「命名物語」  で。
旧科名 ジャケツイバラ科 Caesalpiniaceae: 
APG分類でマメ科に統合される前には、ジャケツイバラ科を独立させる考えがあった。その属名 カエサルピニアは、ローマ法王クレメンス8世(在位1592-1605) の侍医で植物学者の、チェザルピーノ (A. Cesalpino ラテン語の綴りCaesalpinus) を顕彰している。
ジャケツイバラについては 別項を参照のこと。
 英語名:Japanese honey locust
日本産の honey locust。 では、honey locust とは?
 honey locust:アメリカサイカチ
ハチミツのように甘い locust。 では、locust とは?
 locust、locust tree:イナゴ、イナゴマメ
locust はイナゴあるいはバッタ類の総称で、イナゴマメの幼果がバッタに似ているために名付けられたとされる?
Wikipediaによるとイナゴマメの果肉は糖分を含んで甘く、そのまま、または乾燥して食用あるいは食品原料にする。古代から甘味料の材料として使われていたそうだ。
Ceratonia siliqua
Flickr より、カリフォルニア州 The Ruth Bancroft Garden 提供
アメリカサイカチはそれに honey が付けられているので、イナゴマメよりもさらに甘いことになるが、本当なのだろうか?


 トピックス
 さいかち坂 と 漢字名
総武線 水道橋駅から、線路の南側を お茶の水の方に登る坂を「さいかち坂」という。むかし この坂の脇にサイカチの木が生えていたために名付けられた。

説明板によると、サイカチの木は一度はすべて無くなったが、坂の名前にちなんで、歩道脇のスペースに後から3本が植えられたようだ。
さいかち坂
坂の途中から撮った写真で、左側が線路。左奥の緑が サイカチの木である。
4月末の撮影のため、右側の街路樹 アカバナトチノキ が咲いている。
   樹形 2000年5月
小石川植物園の木とは違って、樹形は丸い。
こちらが本来の形と思うが、剪定はされているだろう。
大きな3本とは別に、木から落ちたタネからの実生苗が大きくなったものがある。線路際の斜面に生えているために枝を切られることがなく、横に長く伸びた優雅な枝振りとなっている。
さて、
この坂にも名前を示す標識が立てられており、千代田区教育委員会によるその立て札は、「皀坂」となっている。
「皀角坂」の標識 大分市 ジャングル公園の名札


植物名としての「サイカチ」や「漢方の名前」の表記に、事典などによって数種の漢字が使われているので 調べてみた。
まず坂の名称であるが、2006 (平成16)年にプレートを張り直した気配がある。

『新編江戸志』という文献に、「むかし皀角樹多くある故に、坂の名とす。今は只一本ならではなし」とかかれていることを引用しており、これによって「皀坂」としたものである。

ところが、通常使われているのは 「皂」の字である。
 
朝日百科『植物の世界』には、「漢名としての皂莢は、本来 Gledistia sinensis を指す。」という注意書きがある。
これが正解だと思われるが、あくまで「本来」であって、皂莢が間違いだと言っているのではない。

各国の一般名称 (common name) やその表記方法については、「内政干渉」する必要はなく、日本では「サイカチ」を皂莢とし、中国では「シナサイカチ(仮名)」が皂莢でも問題はない。
その「シナサイカチ」の中国名だが、『園芸植物大事典』では「皁莢」となっている。

以下は『字通』/白川 静 および 『日本国語大事典』/小学館 で調べた結果である。
文字 読み 意味・解説
ヒョウ
キュウ
キョウ
かんばしい。 穀物の良い香り。
「白」の部分は例えて言えば、米がモミの中に在る形を表す。 「ヒ」の部分は匙で扱うことを示す。
ソウ
皁 の俗字 『日本国語大事典』(出典:正字通)

ソウ
ゾウ
しもべ、馬屋、かいおけ、黒い、黒い布、早い、
橡などの実、しいな
 

となると、一番正しいのは現在の中国名「皁莢」ということになるが「皂莢」でも良いだろう。また「皁莢」の意味が、黒いサヤだということがわかる。

余談だが、坂の途中に「皂莢坂ビル」という名の建物がある。
こちらは「角」ではなくて正しい字を使っているが、ただ屋上のビル名は、漢字では読み方がわからないためか「さいかち坂ビル」と平仮名になっている。
皂莢坂ビル


玄関脇の植え込みにサイカチの木が1本だけ植えられ、幹の直径が20cm強になっていた。
もちろん幹からは刺が出ている。

 

 
そして、読み人知らずの小さな句碑があった。 
      皂角子の 実はそのままの 落葉哉
と、こちらも「皂」の字が使われている。
サイカチを読んだ句碑


 トピックス その続き

 切られたサイカチ
2010年の春に皀角坂の大きな木が 2本とも切られてしまった。

中央の街灯の左横。
歩道の間近だったので、刺や実の落下が切られた原因だろうと考えた。やはり、街路樹には向かなかったのだろう。
おが屑がまだ新しく、切られたのはほんの少し前だった。
ただ 切り株を見て、切られたもうひとつの原因が腐った幹による事が分かった。右の木の長径は 約 50cm。 
樹齢は 40年ちょっとなので、1970年頃植えられたことになる。
皀角坂のシンボルだったが やむなく切ったもののようで、柵の外(線路側)の若い木は残されており、さらに新たに若木が植えられていた。

残された木 植えられた木


生きている切り株     2010.8.20.
5ヶ月後の姿。 中が空洞になっていた方の切り株であるが、周囲から無数の枝が再生している。しかし 刺を出し始めたら また切られてしまうかも知れない。


 
サイカチ属 の命名物語
サイカチ属はどの事典を見ても、Gleditsiaの属名が使われている。ところが古い図鑑 例えば『牧野 新日本植物圖鑑』(北隆館 1961)では、属名の綴りが Gleditschia となっている。
なぜ Gleditschia が使われたのか?
また『園芸植物大事典』(小学館 1994) の属名の命名者は L. (Linnaeus) だが、現在は Clayton とされる。変更された理由は?、などの命名の経緯を探ってみた。

は正名、 は異名
内は 推定事項
  肖像写真は Wikipediaより
  図版は、Biodiversity Heritage Library より

『植物の種』の出版  基準日:1753年5月1日
植物の名前を「属名と種小名」で表す「二名法」は古くから使われていたものの、一般には形容詞を列記する自由な形で記載されていた。
リンネの『植物の種』が学名の出発点として選ばれた最大の理由は、記載したすべての種に「二名法」による学名を付けたことである。
それ以前に発行された書物の記載は、学名の対象とはならない。
学 名 命名者 備 考
1753  Gleditsia triacanthos  リンネ  アメリカサイカチ
リンネは『植物の種』第1版 第2巻にアメリカサイカチを記載した。
属名は『植物の属』第2版❶ と同じ Gleditsia である。

タイトルページ

1056ページ

1056ページ から 1057ぺージにかけての 一部を掲載
本書が学名の出発点であるから、通常ならば「Gleditsia属」の命名者はリンネということになる。
『園芸植物大事典』はこれを根拠とたものと思われる。
しかし、国際命名規約では少なくとも2011年より「『植物の種』第1版に記載されている属名は、『植物の属』第5版(1754) に記載されている属名と関連する」(Article 13.4.)となっているため次の②が有効となり、明記されているクレイトンが命名者ということになる。
学 名 命名者 備 考
1754  Gleditsia  クレイトン ex. リンネ  サイカチ属の正名
『植物の属』 第5版 p.476。
サイカチ属の命名者として クレイトン の名前が挙げられている。
 ジョン・クレイトン John Clayton (1694-1773)
今回クレイトンの名を初めて知った。Wikipediaによると、
イギリス生まれで、20代始めに父とともにアメリカのバージニア州に移住。リンネ(1707-1778)とほぼ同世代である。
クレイトンは膨大な量の標本や記録を、イギリスのマーク・ケイツビーや、リンネの後援者であったオランダのフロノウィウスに送った。1735年から1737年にかけてオランダに滞在したリンネは、この標本をチェックしたそうだ(2014/大場秀章、秋山 忍)。
①でのアメリカサイカチの生育地がハージニアとなっているので、①②の記載はクレイトンから送られた標本あるいは記載文に基づいたものであり、そこに Gleditsia の属名が書かれていたものと考えられる。
フロノウィウスはこれらの標本を使って、クレイトンに無断で出版を行ったそうだが、リンネはしっかりと敬意を表していることになる。
クレイトンと彼が属名で顕彰したグレディッチュとの関係は不明。
ドイツの医学・植物学者 ヨハン・グレディッチュ Johann Gottlieb Gleditsch (1714-1786)は、32歳でベルリン植物園の園長となった。
同植物園にあったナツメヤシの雌株は一度も結実しなかったが、ライプツィヒから開花中の雄株を運び込んで結実に成功し、植物の有性生殖を証明した「ベルリン実験」を行ったという。
グレディッチュ
1777  Gleditschia  スコポリ  異名
イタリアの医師・博物学者のスコポリ Giovanni A. Scopoli (1723-1788) は医学のほかに、植物・動物・鳥類・昆虫、金属学などについての多くの著作を著し、①②の約20年後『Introductio ad historiam naturalem』(1777)の 295ページに、綴りを訂正したサイカチ属を記載した。
属名の数が多く、リンネとはスペリングが違っていることからも、単なる転載ではないことがわかる。
スコポリ
顕彰者名の綴りが Gleditsch であるため、スコポリとしては「正しい属名」に記載し直したものと考えられる。
学 名 命名者 備 考
1784  Fagara sp.  ツンベリー ex.ムレイ  サンショウ属の異名
1775年に来日し、1年半ほど滞在した ツュンベリー(C. P. Thunberg 1743-1828)が、帰国後にまとめた『日本植物誌 Flora Japonica』の後半には、不明種のコーナー Plantae Obscurae があり、その3項目(下図右 赤の四角部分)がサイカチだった。 ツュンベリー

タイトルページ

350ページ
Fagara はサンショウ属 Zanthoxylum の異名と思われる。2行目に、日本人から聞き取った "Saikat Si" の和名が記載されている。わざわざスペースを挟んで、しかも大文字で Si としていることから、「サイカイ_シ」のニュアンスが含まれているのかもしれない。
ところでツュンベリーは、当然のことながら、師であるリンネの『植物の種』を読み込んていたはずだが、アメリカサイカチ① を見落としてしまったようだ。
『植物の種』に、幹に生える鋭いトゲの図のひとつでもあれば、サイカチもチュンベリーの命名になっただろう。
1788  Gleditsia sinensis  ラマルク  トウサイカチ
京都植物園で見たことがあるが、落葉時の 12月だったので、葉(小葉)が大きいことのほかは、サイカチとの違いがわからない。
1809  Gleditsia caspica  デフォンテーヌ  正名
『Histoire des Arbres et Arbrisseaux qui peuvent etre cultives en pleine terre sur le sol de la France』第2巻 p.247。
カスピ海地方 原産のサイカチ属。
学 名 命名者 備 考
1867  Gleditschia japonica
 → Gleditsia japonica
 ミクェル  記載時は属名の
  綴りが違う
本種を記載したミクェル Friedrich Anton W. Miquel (1811- 1871) は、19世紀のオランダの植物学者で、晩年にはライデン国立植物標本館の館長を務めた。
シーボルトとツッカリーニの『日本植物誌』に関わり、ふたりの死後、この3年後の1870年にその後半部分を出版した。
ミクエル
サイカチが記載されたのは、4巻からなる『ライデン王立植物標本館紀要 Annales Musei botanici lugduno- batavi』。その中に、2回に分けて掲載された『日本植物誌試論 Prolusio Florae Japonicae』である。
(書物の和名はともに『シーボルトの21世紀』大場/2003 による) 
大場氏によれば、これらの標本研究がシーボルトの『日本植物誌』の出版に繋がったのではないか、とのこと。
1行目に「Fagarae species THUNB. Fl. pl. obsc. p.350」とあるのが、チュンベリーの『日本植物誌』後半の Plantae Obscurae ④、を示している。
属名がスコポリと同じ Gleditschia で、これをリンネの命名としているのは間違いだが、種小名は生かされていて正名となっている。
ツュンベリーの渡日以後の約100年間で、ライデンには様々な人から送られた標本が集まっていた。その中にサイカチもあったようで、本書には以前には無かった「多くは複葉だが、二回複葉もある」というサイカチの特徴を示す記述が見える。
ミクェルのこの記載以降、属名を「Gleditschia」 とする命名が出現する。
ミクェルが誤認したためか、Gleditschiaの命名者を リンネ とした人も複数名いる。以下に そのいくつかを掲げておく。
学 名 命名者 備 考
1887  Gleditschia australis
 → Gleditsia australis
 ヘムズリー  正名、ただし
 記載時は Gleditschia
『Journal of the Linnean Society. Botany』第23巻 p.208 および 図5

分布地は中国・ベトナムなので、種小名「オーストラリアの、あるいは 南半球の」は不適切。
1890  Gleditschia delavayi  フランシェ  G. japonica
  var. delavayi の異名
『Plantae Delavayanae デラヴェ神父採集植物』p.189
デラヴェはフランスの宣教師で、中国 特に雲南省の植物を採取してイギリスやフランスに送った。
1892  Gleditschia amorphoides
.→ Gleditsia amorphoides
 タウベルト  正名、ただし
 記載時は Gleditschia
『Berichte der Deutschen Botanischen Gesellschaft』第10巻 p.638
南米各地に分布する。
1892  Gleditschia officinalis  ヘムズリー  G. sinensis の異名
『Bulletin of miscellaneous information, Kew 1892』p.82
1788年にラマルクが記載した ⑤Gleditsia sinensis とは関連が無く、中国の植物研究家である Augustine Henry(1857-1930)がイギリスに送った標本に対して記載したもの。しかし同じ種であったため、異名。
1950年代 Gleditschiaを保留名とする動き?
このような状況があったためか、米国スミソニアン自然史博物館のデータベースに、Gleditsia に代わって Gleditschia を「保留名」とする審議が行われた気配がある。
しかし「プロホーザル番号」が付されていないので、正式な決定ではなかったものと考える。
権威ある『牧野 新日本植物圖鑑』(北隆館 1961) が Gleditschia としているからには、何らかの根拠があったのだろう。




植物の分類 : APG II 分類による サイカチ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
マメ目  キリァイア科、マメ科、スリアナ科、ヒメハギ科
マメ科  アカシア属、ネムノキ属、サイカチ属、 など多数
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ