セイタン 青檀
Pteroceltis tatarinowii Maxim. (1873)
科 名: バラ目 アサ科 Cannabaceae
      Martinov, nom.cons.
旧科名:  イラクサ目 ニレ科 Ulmaceae
属 名: セイタン属 Pteroceltis Maxim.
            (1873)
中国名: 青檀 qing tan
原産地: 中国全土。『GRIN』、『Flora of China』ともに19の省などがあげられている
用 途: 中国では庭木、公園樹となっているが、日本ではほとんど植えられていないと思われる。
樹皮から「宣紙」をつくる。
硬い材で器具・農具をつくる。
種子から油を絞る。

長らく名前がわからなかったが、何年か前に名札が付けられていた。複数の人が和名として「セイタン」の名を挙げているので、掲載することにした。

 黄 葉          2011.10.6.
植えられているのは中島池の南の端。右端にセイタンの幹がある。池に大きく張り出して枝垂れた枝が、黄葉を開始。


檀 の読み方 について

「青檀」を見ると どうしても「セイダン」と読みたくなるのだが、「セイタン」のようだ。その根拠となるのは、
① 『Flora of China』でのよみが qing tan。
② 檀の読みには、「タン(漢音)」と「ダン(呉音)」のふたつがあるが、青の読み「セイ」は漢音であるため(呉音は ショウ)。
日本では「檀」を マユミの漢字として使っているが、ほかにいくつかの植物や材に 檀 が使われており、タン・ダン 両方の読み方がある。

和名 漢字 中国名 備考
コクタン  黒檀  カキノキ科  いくつかの種の総称
シタン  紫檀  Diospyros ebenumなど、様々な種が含まれる
センダン  栴檀  楝 lian  センダン科
ビャクダン  白檀  檀香 tan Xiang  ビャクダン科  Santalum albumのほか、数種の総称
『角川漢和中辞典』で呉音とわかるのは「ビャク」だけで、総じて読みやすく響きが良い音で読まれている感じがする。



樹 形     2012.1.25. 横から    2012.5.23.
太い幹が3本、ほかに多数が株立状となっており、さらにヒコバエが無数に伸びている。左写真の両側はカツラ。
10年前には名札が無かったのだが、いつの時か、学名だけの名札が付けられた。科名が旧ニレ科なので、だいぶ前か?

枝の様子          2012.1.25.
池の上(北西方向に)長く伸びた大枝。

うねる枝   2021.12.25.
うねる原因は不確かだが、枝先が枯れ戻って側枝が伸びるためかもしれない。

ひこばえの様子     2021.12.25.
樹勢が衰えるとひこばえが出やすいが、特に衰えているようには見えない。昔からたくさん出ているので、性質のようだ。

径 約2cm

約6cm

径 約30cm
左:ひこばえの若い枝、疎らな皮目がある。中:太くなってくると表皮が縦に裂けるが、割れ目が深くなることはない。
右:部分的に剥がれ落ちるようになるが、同じ科のムクノキのようにささくれ立つことはない。

冬 芽         2021.12.25.
枝先は細く、針金のようだ。茎頂は脱落するようなので先端は仮頂芽で、高さはわずか3mm強。
 

芽吹き        2022.4.12.
芽鱗に続いて少数の低出葉が伸びる。雄花は新梢の下部の葉腋につくため、すでに開花している(中央)。

雄 花        2022.4.12.
長い花柄があるが、葉腋に単生か花序なのかは未確認。花被片は萼のみで、すでに葯が開ききっている。

新梢の伸長 托葉  2022.4.19.
細い枝が伸び出して展葉が続く。これらの枝には雄花がつかなかった。茎や葉柄には細毛がある。細長い托葉は早落性。

雌 花・幼 果       2022.4.19.
開花終了後 柱頭が茶色くなっているが、さほど日が経っていないもの。子房基部の萼片はまだ瑞々しい。子房の周囲にはわずかに翼が認められる。


幼果と葉裏        2012.6.3.
花は今年伸びた枝の葉腋につく。
葉の質感と形はムクノキに似ているが、鋸歯の形が違って鋭く尖っている。葉脈が葉縁に達しないことは、エノキに似ている。以下は参考。
ムクノキの葉
エノキの葉

未熟果         2012.6.3.
ほぼ成熟時の大きさとなった幼果が、次々と落下してしまう。サイズは幅15mm弱。杭の直径は 約10cm。

熟 果        2012.9.25.


 
セイタン の 位 置
E8 b 中島池の南側のほとり、70番通りの右側

名前の由来 セイタン Pteroceltis tatarinowii

セイタン 青檀:
中国名 青檀 qing tan の漢音読み。 
Pteroceltis 属:
翼のある(果実をもつ)エノキ属 の意味で、pteronが翼、celtis はエノキ属。葉が同じアサ科のエノキに似ており、本種の大きな特徴である翼のある果実の、ふたつの特徴を属名に取り入れたもの。
セイタン属とセイタンを記載したのは、ロシアのマキシモウィッチ Carl Johann Maximowicz(1827-1891)。
江戸時代末期の開国直後に日本を訪れ、日本の植物界の発展に重要な役目を果たした人物である。
種小名 tatarinowii : タタール地方に産する の意
Wikipediaによれば、タタール地方とは 北アジアのモンゴル高原、シベリア、カザフステップから東ヨーロッパのリトアニアにかけての広い地域。
マキシモウィッチは、生物学会雑誌である「サンクトペテルブルク帝国科学院紀要」に投稿した、『日本・満州産新植物の記載』に記載したもの。本種のほかにも7種の植物に tatarinowii の種小名をつけている。
:中国のセイタンの分布域

は アメリカ農務省 National Plant Germplasm System による分布域
分布域には、東北部の旧満州 遼東省が含まれており,また別資料の Kewのデータ()では、満州地域も分布域となっている。このため、マキシモウィッチが1853年から3年間にわたってアムール地方の植物を調査した時に、採取したものと思われる。



 参考: 現在の中国名では、以下の種に 檀 が使われている
中国名 学名 和名 属名・備考
 青檀  qing tan  Pteroceltis tatarinowii  セイタン  アサ科  セイタン属
 黄檀  huang tan  Dalbergia hupeana  ローズウッド  マメ科  ツルサイカチ属
 ローズウッドの一種
 紫檀  zi tan  Pterocarpus indicus  インドシタン  マメ科  インドカリン属
 木材業界ではカリン
 檀香  tan Xiang  Santalum album  ビャクダン  ビャクダン科  ビャクダン属
 檀梨  tan li  Pyrularia edulis  ビャクダン科  Pyrularia
雲南檀栗  yun nan tan li  Pavieasia yunnanensis  ムクロジ科  Pavieasia属
 白檀  bai tan  Symplocos paniculata  クロミノニシゴリ  ハイノキ科  ハイノキ属
 烏檀  wu tan  Nauclea officinalis  アカネ科  Nauclea属




植物の分類 : APG IV 分類による セイタン の位置
クロンキストノ分類では、真生双子葉類の早い位置にイラクサ目ニレ科として分類されていたが、APGではバラ目となり、科もアサ科に変更された。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
基部被子植物 : アンボレラ、スイレン、アウストロバイレア
モクレン類 : カネラ、コショウ、モクレン、クスノキ
 独立系統 : センリョウ
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ
以前の分類場所  イラクサ目  ニレ科
中核真生双子葉類: グンネラ、ビワモドキ
バラ上群 : ユキノシタ
バラ類 : ブドウ
マメ 群 : ハマビシ、マメ、バラ、ウリ、ブナ
 バラ目 バラ科、グミ科、クロウメモドキ科、ニレ科、アサ科、クワ科 など
  アサ科 セイタン属、ムクノキ属、エノキ属、アサ属、など
 未確定 : ニシキギ、カタバミ、キントラノオ
アオイ群 : フウロソウ、フトモモ、アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク上群 : ナデシコ、ビャクダン、など
キク 類 : ミズキ、ツツジ
シソ 類 : ガリア、リンドウ、ムラサキ、ナス、シソ、など
キキョウ類 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物(進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とする。構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではないが、なるべく近い位置に当てはめた。


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