セキショウ 石菖
Acorus gramineus Soland. ex Aiton (1789)
科 名 : ショウブ科 Acoraceae
園の名札:  サトイモ科
属 名 : ショウブ属 Acorus Linn. (1737)
中国名: 金銭蒲 (ジン キアン プ)
漢 名 : 菖蒲、石菖蒲
英語名: grass-leaf sweet-flag , slender sweet-flag
原産地 : 本州以南から琉球諸島。 韓国、台湾、中国各地、フィリピン、ミャンマー、インド
用 途 : 庭園の水辺に植えられ、盆栽や水盤物などに利用される。 地下茎を乾燥したものは漢方薬として健胃・鎮痛薬として使われた。

樹木ではないが、ショウブやアヤメの名前を整理し、単子葉植物の分類変化を確認するためにも、取り上げてみた。

                 ① : セキショウ池            2011.4.22
下の段のメイン通路 70番通りを行き、標識75番から始まる「島池」の左側に回り込むと、斜面の下にセキショウがびっしりと生えた湧水地がある。 水は左手の小さな沢から流れ込み、右側から島池にあふれ出る。 植物園の中の別天地。

水辺に立って崖に向かうと周りの音が消え、穏やかな気持ちになる。

池の右手 湧き出す水
流出口
小道は 40番通り。


             ② : ハンノキ池のセキショウ       2011.4.22
セキショウ池まで行く前に、最初の池 ハンノキ池の右岸にセキショウが群生していて、立て札も立っている。

                  ② : 新 緑               2011.4.20
常緑の葉は 幅の広い所で1cm程度、長さ30cm。 じつは 花が咲いているのだが、地味なので目立たない。 そばを歩いても気が付かないだろう。

セキショウの葉 ショウブの葉
セキショウの葉には、ショウブのような中央の筋(中肋)が無い。 
これは葉が二つに折り畳まれているためで、元の方では内側の葉を抱いているが、上部ではそのまま閉じた状態である。 つまり、葉の両側共裏面ということになる。 合着しているので無理に開くこともできない。

                     花序               2011.4.22
花は水芭蕉の花と同じ「肉穂(にくすい)花序」だが、苞は白くなく、葉と同じ形状である。
                       満開の花                 2011.4.22
同じ写真を拡大しているが、ピントが正確ではない。 花被片(花弁)が6枚あるそうだが、雄しべが目立ってわからない。
花序の基部から左側に伸びている部分が苞(総苞)である。

                  咲き終わった花            2011.4.22
萎れた雄しべ以外に、子房の周囲が全体に茶色くなっている。 これが花弁だったのだろう。 なぜかわからないが滅多に実は生らないそうだ。


 
セキショウ の 位 置
写真①: E 7 セキショウ池
写真②: F 11 ハンノキ池

名前の由来  セキショウ Acorus gramineus

セキショウ
石菖 : 漢名の音読み
現在の中国名は「金銭蒲」であるが、漢名は 菖蒲・石菖蒲・石菖が使われ、その中の「石菖」が和名となっている。 日本各地に自生する植物なので、昔は別の呼び名があったのではないだろうか。 漢名のセキショウとなったのは、アヤメ、アヤメグサと呼ばれていた同属のショウブが、「菖蒲」と呼ばれるようになった事と関連しているに違いない。

石菖は「石菖蒲」の略で、「石」の字義から 「葉が硬い菖蒲」あるいは 「薬となる菖蒲」の意味だろう。

 ← ショウブ 菖蒲、 Acorus calamus Linn. (1753)
まず 菖蒲 の字の意味だが、「菖」の「昌」は ①盛ん、②美しい・良い で、「美しい草」という意味になる。 菖 ひと文字でショウブを表す。
「蒲」はガマ(ガマ科ガマ属)で古事記に登場する。 ショウブは「美しい ガマに似た草」である。 しかし、かつては「あやめ」と呼ばれていた。
ショウブ
健胃薬や強壮剤として また乾燥した根を湯に入れてリウマチや神経痛に用いた。 現在でも端午の節句にはショウブ湯の風習が残っている。

香りが良く、その香気が邪気を払い、疫病を除くとして神社の祭礼に使われ、ヨモギと共に束ねた菖蒲の束を軒に挿したり屋根に放り上げたりした。

アヤメグサとして、万葉集に12 首 詠まれているが、セキショウの可能性もあるのでは?

奈良 万葉植物園

 ← アヤメ 文目
文目とは、①模様・色合い、②物のすじ・筋 で、ショウブや現アヤメの葉にある平行な葉脈が由来である。

  現ショウブ の古名 : アヤメ (ショウブ科ショウブ属)
  現アヤメの古名 : ハナアヤメ (アヤメ科アヤメ属)
      現在の アヤメ  2000.6.11
 

セキショウ、ショウブ、アヤメ、ハナショウブ の比較

和 名 : セキショウ ショウブ アヤメ ハナショウブ
分 類 : ショウブ科(旧サトイモ科)ショウブ属 アヤメ科アヤメ属
分布域 : 本州以南から琉球諸島。 韓国、台湾、中国各地、フィリピン、ミャンマー、インド  世界各地  日本、朝鮮半島、
 中国東北部、
 シベリア
- 
(日本に自生する
ノハナショウブから改良された園芸品種)
古 名 : アヤメ ハナアヤメ
漢 名 : 菖蒲、石菖蒲 菖蒲、白菖    
中国名 : 金銭蒲 菖蒲 渓蓀 花菖蒲
英語名 :  grass-leaf
    sweet-flag
sweet-flag flag Japanese iris
 葉 : 中肋は無い 中肋がある 中肋は無い  中肋がある
 このため葉は
 ショウブに似ている
アヤメ(現材のショウブ)のことは、『枕草子』にも書かれていて、邪気払いのために頭に飾る「あやめの鬘」、子供が刀に見立てて遊ぶ「あやめ刀」、風呂に入れる「あやめの湯」、酒に浸して飲む「あやめ酒」などの風習があったが、漢名の菖蒲の音が 尚武、勝負に通じるということで、武家の時代から次第に ”ショウブ” と呼ぶようになった。



種小名 gramineus : イネ科の、穀粒の という意味
果実が粒状となるのかも知れない。
単子葉植物だがイネとの共通点はあまりに少ないので、「イネ科の」という意味ではないだろう。

Acorus  ショウブ属 : 
いくつかの説があるようだ。

① ギリシアの哲学者・植物学者で『植物誌』を表している テオフラストス
  (紀元前371-紀元前287)が用いた akoros に由来する。
② ギリシア語の「a 否定」+「coros 装飾」で、花が地味なため。
③ ギリシア語の「a 否定」+「kore 瞳孔」で、薬効による。
                       ③は『園芸植物大事典』による
有力候補は②であろう。

ショウブ科 Acoraceae
エングラーの分類では、ショウブ属は「サトイモ科」に分類されており、園の名札も サトイモ科のままである。

確かにその肉穂花序は似ているが、子房の中で種子の元となる胚珠の付き方がサトイモ科とは異なっているそうだ。 また、花序の基部にに付く苞が線形で花序を包んでいない、などと相違点が多いために、クロンキストの分類では独立した「ショウブ科」とされた。 ショウブ科にはショウブ属ひとつだけがある。
セキショウの苞


APG分類となっても ショウブ科が独立していることは変わりはないが、クロンキストの分類とは、科の構成(順番)が大幅に違っているので、その比較表を作ってみた。 
 
植物の分類 APG II 分類による 単子葉植物 の分類

小石川植物園の樹木では単子葉植物が少ないので、いつも掲載するAPG分類の分類表では、「単子葉植物」の中は細分化していない。

双子葉植物では、クロンキストの分類APG分類 で分類場所が大きく変わった科や属があるが、改めて単子葉植物に注目してみると、やはり、構成がかなり変わっている。 そもそも、これまで単子葉植物は双子葉植物に続いて最後に分化したと考えられていたものが、割と早い時期、モクレン亜綱の次に分化した、となった。

馴染みのある科について、両分類で大きく変わったものに色を付けた。

これまで多くの学者が頭をひねって、何百年も掛かって出した結論が随分と変わってしまった事が、今回の分類見直しが面白い点でもある。


クロンキストの分類 APG分類
主な科名
1. オモダカ亜綱
1. オモダカ目: ハナイ科、
リムノカリス科、オモダカ科
2. トチカガミ目
3. イバラモ目
4. ホンゴウソウ目: サクライソウ科、
ホンゴウソウ科
2. ヤシ亜綱
1. ヤシ目: ヤシ科 のみ
2. パナマソウ目: パナマソウ科のみ
3. タコノキ目: タコノキ科のみ
4. サトイモ目:
 ショウブ科
サトイモ科、ウキクサ科
3. ツユクサ亜綱
1. ツユクサ目
 2. ホシクサ目: ホシクサ科 のみ
 3. サンアソウ目:
 4. イグサ目: イグサ科、ツルニア科
 5.カヤツリグサ目: カヤツリグサ科、イネ科
6. ヒダテラ目:  →APGではスイレン目へ
 7. ガマ目: ミクリ科、ガマ科
4. ショウガ亜綱
 1. パイナップル目: パイナップル科 のみ
2. ショウガ目:
5. ユリ亜綱
 1. ユリ目 ユリ科(ヒガンバナを含む)
アヤメ科、ヤマノイモ科、
など
 2. ラン目 ブルマンニア科、
イヌサフラン科、ラン科
  主な科名
(分化したと考えられている順)
1. オモダカ目:
 ショウブ科
サトイモ科(ウキクサ科を含む)
オモダカ科、
以前のトチカガミ目・イバラモ目
の多くの科を含む。
2. サクライソウ目: サクライソウ科
 (旧ホンゴウソウ目の名称変更)
3. ヤマノイモ目: タシロイモ科、ブルマンニア科、
ヤマノイモ科、など
4. タコノキ目: ホンゴウソウ科、パナマソウ科、
タコノキ科、など
 5. ユリ目 シオデ科、ユリ科、
イヌサフラン科、など
 6. キジカクシ目: ラン科アヤメ科
ヒガンバナ科、ネギ科、など
ツユクサ群
7. ダシポゴン目: ダシポゴン科 のみ
8. ヤシ目: ヤシ科 のみ
 9. イネ目:

 多くの目が
  まとめられた
パイナップル科、ミクリ科、
ガマ科、ホシクサ科、ツルニア科、
イグサ科、カヤツリグサ科、
サンアソウ科、イネ科、など
10. ツユクサ目:
11. ショウガ目:

 「ランは最も進化した形態」などと言われていたのが
 嘘のようだ。

 ショウブは 単子葉植物の中では最も早くに分化した
 と考えられている。



植物の分類 APG II 分類による ショウブ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類) : マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、アウストロベイレヤ
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
オモダカ目  ショウブ科、サトイモ科、オモダカ科、ハナイ科、アマモ科、など
ショウブ科   ショウブ属 のみ
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )
 
小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ