メタセコイア
Metasequoia glyptostroboides
Hu & E. C. Cheng (1948)
科 名 : ヒノキ科 Cupressaceae
旧科名 :  スギ科 Taxodiaceae
属 名 : メタセコイア属 Metasequoia
   Hu & E. C. Cheng (1948)
和 名 : アケボノスギ 曙杉
中国名 : 水杉 shui shan
英語名 : dawn redwood
原産地 : 中国湖北省
用 途 : 公園や学校などに植えられる

生きた化石として有名になったメタセコイアは、全国各地に植栽されてポピュラーな存在となった。

小石川植物園の特徴は、22本の高木が群れをなしていて、森林気分が味わえること。そのほかに 単独のものが2本ある。

           @ : 樹 形          2012.1.25.
高さ 約30m、円錐形の樹形、しかし、その実態は・・・
しっかりした枝が出ているのは 林の周囲だけで、日の当たらない林の内側の枝は、やがて枯れてしまう。さらに、林の中側の木は育ちが悪く、同時に植えられたはずなのに 幹が細い。円錐形の樹形にするためには、植栽間隔を大きくしないといけない。

2007.4.29           @:林の内側の様子           2007.2.12

@:幹の様子        2012.1.24.

幹の様子             2012.11.14.
幹が太くなると(樹高が高くなると)、2・3メートルの位置から 幹の一部が異常に肥大してすそ野を広げ、板根に近い形状となる。
このため、太い幹の下部は縦の凹凸、すじ状となる。

伐採されたメタセコイア          2000.3.25.
間隔が詰まりすぎていたためか、昔 一本が切られたことがあった。樹齢を知るまたとないチャンスだったのだが、現在ほどは樹木に関心が高くなかったため、残念ながら年輪を数えなかった。


2013.2.28          A:正門前のメタセコイア           2011.12.10

B:太郎神社前のメタセコイア 2012.9.14.
高さ 約28m。園の奥から 正門方向を見ている。太郎神社は左側。
上部は隣の木よりも高いので、きれいな円錐形となっている。


花は 葉が展開する前に咲くが、下枝には花が付かないので、花の詳細の写真は撮れない。

枝先に付いた 雄花        2013.2.28.
雌花は球状で小枝の先端に単生するそうなので、この写真にも写っているのかも知れない。


 
特徴は ”落枝”(仮称)にある
毎年繰り返す 葉と小枝の様子を、観察してみよう。
メタセコイアは、1〜2センチの小さな葉それぞれが 1枚の葉で、羽状複葉ではない。葉を付けているのが「枝」だが、細かな葉を付けたまま毎年落ちてしまう。この「枝」を便宜的に「落枝」と呼ぶことにする。長さは10〜20センチ。
イチョウのように、毎年ほぼ同じ場所から葉を出して少しずつ伸びる「短枝」と、目的は同じだが構成は異なる。
「枝ごと」落ちた 葉        2012.12.9.
中央の枝は「枝分かれ」して、まるで二回羽状複葉に見える。しかし、中央の枝に「単独の葉」が付いているので、それぞれの小さな単位が葉であることの、ひとつの証としなる。(単生と 羽状複葉のふたつの型があることも考えられるので、絶対的な証拠ではない)

中央の枝に並ぶ「単独の葉」は、次の写真がわかりやすい。

Wikipedia より

植物は落葉・常緑を問わず、新しく伸びた枝に葉が付く。短枝の場合は少しだけ枝が伸びているわけで、2年目以前の枝から「葉だけ」が出ることはない。このため、普通の樹木では常に枝を伸ばしながら葉を付けていく。樹冠内部の古い枝に葉を付けても、日が当たらなければ有効な光合成ができない。

メタセコイアが「枝」を落とす戦略は、分枝(枝分かれ)を少なくする代わりに、内側の古い枝でも「日の当たる場所」には毎年 短い枝と葉を出して、多くの場所で葉の量を確保する方法である。
古い枝を維持するために「太らせる」手間も省ける。

枝ごと落ちる落葉樹としては、近縁のラクウショウと ほかに ウワミズザクラ がある。
参考:イチョウの短枝
縦の枝が 長枝。短枝の先に葉を束生する。

メタセコイアでは、この短枝の代わりに落枝を出す。

5年目の枝の冬芽                 2012.2.28.
芽は 枝の落ち跡の脇に付いている。伸び出すと肥大して 前年の落ち跡は隠れてしまい、あたかも同じ場所から出ているようになる。

芽鱗も 十字対生      2012.2.21.
セコイアやラクウショウなどの近縁種は 螺旋状に葉が付くが、メタセコイアがほかと異なる特徴は「対生」である。

太い枝から伸び出した 枝と葉    2012.4.10.
直接生え出るわけではなく、あくまで 昨年の落ち跡にあった腋芽から枝が伸びて、新葉を付ける。
枝から生える葉       2012.4.13.
左の茶色い枝は 昨年伸びた「長枝」。


一枚の葉のサイズは長さ 2センチ、幅2〜3ミリ程度。芽鱗では、はっきりと十字対生しているのが分かったが、葉が展開すると2列に並んでいるように見える。
これは 完全ではないがほぼ 十字対生している葉が、すべて南を向くように 身をよじって並ぶためである。

羽状複葉のような葉        2008.5.26.
先端付近の枝では、さらに枝分かれして葉を付け、できるだけ多くの光を受けようとしている。写真上部の"落枝"が並んでいるところでは、2回羽状になると 却ってお互いに受光の邪魔をするだけ。先端部の芽は、自分の位置と役割がわかっていて分枝しているわけだ。

同じ工夫をしているのがマメ科のサイカチ。ほとんどの葉は羽状複葉だが、長枝の先端の一部で2回羽状になって受光面積を増やしている。
参考:サイカチ

枝(長枝)の様子   2012.5.16.
枝は水平に張りだし、長くなると垂れ下がることもある。枝分かれは少ないが、葉は満遍なく分布していて、下から見上げると 見える空は少ない。

来年の準備        2012.5.31.
葉が展開して1ヶ月ほどで、今年の枝の付け根に 早くも来年用の芽ができ始める。秋になると 今年の”落枝” (羽状複葉のように見える枝と葉) は、新しい芽の縁で落下する。

来年の準備 その2      2013.9.21.
長枝の先端付近に たくさんの雄花が付いている。

本当の短枝        2012.12.1.
落下を繰り返すと、本来の「短枝」 ができる。


紅葉は12月になって       2012.12.4.
午後3時15分、夕日を浴びるといっそう黄色くなる。

そしてまた 内側から見上げる 水平の枝

大風のために 中枝ごと落ちた葉  2012.11.27.
実はまだ緑色。

種子のつまった球果        2012.12.9.
厳密な意味での「果実」は、被子植物の子房やその周辺が発達したものを言う。しかし、裸子植物の場合でも 松かさなどを便宜的に「果実」と呼ぶこともある。普通は「球果」と呼んでいる。

メタセコイアの場合は、直径15ミリ、長さ20ミリ程度。なお 硬い鱗片の数は 22〜26個とのこと。『園芸植物大事典』

種 子
種子は非常に小さく、周囲に翼(うすい膜)がある。

落ち葉で埋もれたシュロ    2012.1.11.

 
メタセコイア の 位 置
写真@ : F13 60番通り と 70番通りの間
写真A : F15 c 正門 正面
写真B : F10 b ハンノキ池の先 標識73

名前の由来
メタセコイア Metasequoia glyptostroboides

メタセコイア、Metasequoia 属 :
最初の命名は 日本の植物学者 三木 茂博士で、和歌山県や岐阜県で発見した化石(正確には 植物遺体) を、1941年に新種として発表した。
『園芸植物大事典/小学館』によると、ギリシア語 meta は「〜の後に」の意味で、メタセコイアが化石植物として セコイア属と混同されていたものを、後に区別したために名付けられた としている。
確かに英語でも meta- は「後〜、共〜、超〜、変化した」の意味があるが、ラテン語『研究社/羅和辞典』には「後の」の意味はなく、かわりに、「円錐体」があった。

セコイア (セコイアメスギ)も 若い頃は円錐形の樹形のようだが、大きくなると下枝を落として上部だけに枝が付く。

メタセコイアの きれいな円錐形の樹形を捉えて、「円錐形になるセコイア」としたのではないか? ただし、巨大なメタセコイアは見たことはなく、小石川植物園の 高さ 約30m が最高記録なので、「円錐形」に関しては なんとも言えない。

とにかく「セコイアとは異なる」という意識である。
メタセコイア と セコイア セコイア Sequoia sempervirens
筑波植物園、葉の色が淡いのがメタセコイア Wikipedia より
三木博士が化石を発見したのと同じ頃に、中国で自生しているものが発見され、1948年に中国人学者によって正式に記載された。

三木博士の記載は化石に対するものだったためか、正式な記載としては受け入れられなかった。しかし たとえ正式なものでなくとも、以前に Metasequoia という同名があるために、現在の学名 Metasequoia Hu & E. C. Cheng (1948) は保留名 nom. cons. となっている。(GRINのコメントによる)

 ← Sequoia 属 : 人名による
アメリカインディアンを母とする混血の Sequoyah セクォイア (1770 - 1840) を顕彰したものとされる。セクォイアは チェロキー属のためのアルファベットを考案した。
セクォイア
Wikipedia より



メタセコイア と セコイア  では、両者の違いはどこなのか、
 ポイントは メタセコイアの「対生」
部 位 メタセコイア セコイア(セコイアメスギ)


筑波植物園
2012.2.4
落 葉 常 緑
葉の付き方 対生(十字対生) 螺旋状 (2列生)
雄花 穂状または円錐状の花序 単 生
雄しべ 対 生 螺旋状
球果の鱗片 十字対生 螺旋状
左側が上から見た状態 この写真は ハワイ大学カー教授 撮影
染色体の数 2n = 66 2n = 22


種小名 glyptostroboides
ギリシア語で glyptos は「溝のある、えぐる、彫刻する」で、strobilus が「球果」である。果実の鱗片に凹んだ溝ができるためだと思われる。

一方で、近縁のスイショウ 水松属 Glyptostrobus (1847) も同じ語源であり、命名はずっと早いので、「スイショウに似た メタセコイア」という意味で名付けられた可能性が大きい。

そうなると、もとの Glyptostrobus は近縁の ヌマスギ属 Taxodium Rich. (1810) の球果と対比したものとなろう。
ヌマスギ属 ラクウショウ スイショウ
小石川植物園 Tony Rodd氏の写真をお借りした
ラクウショウの果実の鱗片は 表面が平滑な盾状で、細かくバラバラになる。スイショウの鱗片はへら型で、瓦重ねの状態。また 表面に細かな突起がある。
glyptos「溝のある、えぐる、彫刻する」が意味するところは はっきりしないが、割れて溝ができる・表面に突起がある、などの違いを捉えたのだろう。最後はこれもバラバラになる。

英語名 : dawn redwood
dawnは「夜明け」で、和名の「アケボノスギ」はこの英語名を参考にしたのだろう。しかし なぜ英語名で「夜明け」と命名したのか? 「植物学の新たな夜明け・幕開け」、「セコイアの真相が明らかになった」などのイメージだろうか。

redwood は、材が赤いため。
 
ヒノキ科 Cupressaceae : 
ヒノキは昔からスギ科に近縁とされていたが、葉の形や並び方が違うために別の科と見なされていた。しかし、APG分類では スギ科のほとんどの属は ヒノキ科に含まれることになり、スギ科は消滅した。

スギの雄花は枝に群がり付くが、ヒノキの雄花は枝の先端にひとつずつ付くところも異なっている。
スギの雄花
ヒノキの葉と球果 ヒノキの雄花
ヒノキ科の元となっているのは イトスギ属 Cupressus属で、由来はいくつかあるようだが、「イトスギ C. sempervirens 」の原産地のひとつである キプロス島 Cyprus にちなむ、というのが分かり易い。

なお、ヒノキ属の学名 Chamaecyparis は、chamai (小さい) + kyparissos (イトスギ)で、ヒノキの果実がイトスギに比べて小さいことに拠る。

旧科名 スギ科 Taxodiaceae :
分類学でのスギ科の基準属は ヌマスギ属 Taxodium属 である。日本では ヌマスギは自生していないため、スギ科 とされていたが、ヒノキ科に統合された。以前は 10属 15種 と種類が少なかったが、ヒノキ科と一緒になって倍増した。

学名 Taxodium の由来は、Taxus イチイ属に edios 似る ということだが、ヌマスギの葉は柔らかく イチイの葉とは異質である。

セコイア (セコイアメスギ)に「イチイモドキ」という和名があるようだが、本来、ヌマスギ属に付けるべき名称である。これらの近縁種に混乱があった事を示している。


杉 ?、松 ?
名前に「スギ」と「マツ」が混在し、APG分類で「ヒノキ科」にまとめられた 旧スギ科の植物。代表的な樹木名を一覧にしてみた。
科名 / 属名 属名の和名 代表種の和名 漢字 備考
ヒノキ科
  Chamaecyparis  ヒノキ属  ヒノキ  檜
  Cyptomeria  スギ(以下 属は略)  スギ  杉  旧スギ科
  Cunninghamia  コウヨウザン  コウヨウザン  広葉杉  旧スギ科
  Glyptostrobus  スイショウ  スイショウ  水松  旧スギ科
  Metasequoia  アケボノスギ  アケボノスギ
 (メタセコイア)
 曙 杉  旧スギ科
  Sequoia  イチイモドキ  セコイアメスギ  セコイア雌杉  旧スギ科
  Sequoiadendron  セコイアデンドロン  セコイアオスギ  セコイア雄杉  旧スギ科
  Taiwania  タイワンスギ  タイワンスギ  台湾杉  旧スギ科
  Taxodium  ラクウショウ  ラクウショウ  落羽松  旧スギ科
マツ科
  Cedrus  ヒマラヤスギ  ヒマラヤスギ  ヒマラヤ杉
  Pinus  マツ  クロマツ  黒 松
ナンヨウスギ科
  Araucaria  ナンヨウスギ  ナンヨウスギ  南洋杉
松も 杉も 大好きな?日本人だけに、ヒマラヤスギのように マツ科の植物にまで、スギの名を付けてしまっている。

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ