ソテツ 蘇鉄
Cycas revoluta Thunb. (1782)
科 名 : ソテツ科 Cycadaceae
属 名 : ソテツ属 Cycas Linn. (1737)
中国名 : 蘇鉄
原産地 : 九州南部、奄美、琉球諸島
ジャワ島にかけて分布
用 途 : 庭木、盆栽として 植栽
葉は花材に使われる

昔大飢饉の時に、種子や幹の澱粉をさらして食用にしたという。

正門をはいって 緩い坂を登り始めたすぐ左側、「精子発見のソテツ」の看板があるソテツ群である。

                ソテツ園          2010.11.3
高さは 大きなもので 約 2.5m。7株ほどがあるが、看板の右横にある雌株が「精子発見のソテツ」から取り分けて植えられたものである。

             夏の様子(雄株)    2010.9.20

ソテツは裸子植物(種子が果肉などに包まれずに そのまま露出している植物)であり、イチョウと共に 最も原始的な性質を持っている。 そのひとつが精子の存在。

雄株から「精子」が飛んでいくわけではなく、被子植物と同じようにまず花粉が雌株に到達する。 詳しくは後半に・・・・。

       幹の形 立教大学 1010.12.26       葉の様子 分類標本園 2007.6.3
若木では枝分かれしないが、古い株では分枝する。見た目が悪いので 栽培時には古い葉を切り取るが、残った葉柄の基部はいつまでも落ちない。
立教大学の中庭の株では葉をまとめてあった。東京では化粧に近いが、大雪に見舞われた時に 葉が折れてしまうのを防ぐためである。
 
             新葉の展開       2001.7.20
葉は1回羽状複葉。 初めは柔らかいが、成長して色が濃くなると先端が尖って痛くなる。

ソテツは雌雄異株で、共に幹の頂部から 花に相当する生殖器官が出てくる。雄株 ・雌株の成長の様子を並べてみよう。
年によって成長の具合は前後するので 日付はあくまで参考である。

雄 株 雌 株
2002.7.28 2004.7.3
2001.7.20 2001.7.20
2001.8.5 2002.8.24
2002.9.29 2004.9.11

この後は 雌株 大胞子葉の柄の部分にできた朱色の種子が成熟する。年が明けても 見た目には ほとんど形は変わらない。

           崩れた 雌の生殖器官     2005.3.26
本当は もっと種子が残っていたはずだが・・・・。種子にも毛が付いている。
そして、夏になると 中心を突き破って 新芽が出てくる。大胞子葉が、「葉」の変化した器官だと考えれば、新芽が中央から出てきてもおかしくない。

2003.6.22
      まるで巨大なユズリハのようだ 2008.7.5
2003.7.20
下の枝が剪定されると 一年間のサイクルが終了する。

 
ソテツ の 位 置
写真① : F15 a 正門をはいって すぐ左手
分類標本園にもある
 
名前の由来 ソテツ Cycas revoluta

ソテツ 
蘇鉄  :
中国名も同じでともに自生しているので、どちらで付いた名前か ハッキリしない。 由来は、木が弱った時に「鉄分」を与えると元気になる「蘇る」ということからだが、実際に有効かどうかは怪しい。
 
種小名 revoluta : 反巻きの という意味 
羽状複葉の葉(小葉)が 内側に向き合って丸まっている事から。 シダ類などでは 当たり前の事だが・・・。

 
Cycas ソテツ属 :
『朝日百科/植物の世界』によると、紀元前のギリシアの哲学者 テオフラトスが、エジプト産の「ドームヤシ」に付けた koikas という名に由来するという。  その後 koikas は kykas と書き間違えられ、属名のCycas のもととなったそうだ。 オーストラリア、ポリネシア と マダガスカル、アフリカ東部に分布し、日本にはソテツ一種のみが自生している。


          奄美大島 あやまる岬のソテツ自生地    2007.4.7

         奄美大島 笠利崎付近のソテツ    2007.4.7



 トピックス

精子発見のソテツ
植物園の説明板
ソテツの精子発見は 1896年(明治29年) 東京帝大農科大学(現 東京大学農学部)助教授であった 池野成一郞博士によるもので、平瀬作五郎助手による イチョウの精子発見と同じ年であった。

イチョウの観察資料は植物園内の木から採ったものであるが、ソテツの方は 園内のものではなく、池野博士が鹿児島で採取したものであった。

「精子発見のソテツ」がここに植えられた経緯は?
2003年(平成15年)まで植物園の助手をしていた 下園文雄氏が、1983年の鹿児島出張の折に 鹿児島県立博物館に依頼して、持ち帰ったものである。

雌株でないと意味がないのだが、それがはっきりしないままに 30~40 cmの分枝 2本を切り取り、挿し木して本園の温室で育てた後、1992年に現在の場所に植えられた。

20年後の 2003年になって ようやく雌の花序(生殖器官)が咲き 安堵した、ということである。
参考 : 小石川植物園後援会ニュースレター 第35号/下園文雄
 
 
精子はどこに
昔から イチョウとソテツは「精子」によって受精することは、看板を読んで知っていた。 しかし 詳細は調べることなく、実態はわからずにいた。
種子が「心皮」で覆われる 被子植物 と 裸子植物であるソテツ との違いを、簡単に述べてみたい。

花の構造が違うとはいえ、花粉を飛ばして受粉、花粉管が伸びるところまでは同じである。

被子植物 ソテツ
雄の生殖器官: 雄しべ
葯の中に花粉がはいっている
雄株の小胞子葉(小胞子囊穂とも)の裏に無数の花粉囊があり その中に花粉がある
雌の生殖器官: 雌しべ(通常は柱頭・花柱・子房からなる)。
子房の中に「胚珠」がある
雌株の先端に大胞子葉が付き、その柄の部分に種子の元である「胚珠」が剥き出しとなっている
花粉の付き方: 雌しべの先端である柱頭に着く 胚珠の中に直接はいる
花粉管の延び: 柱頭から花柱の中を 胚珠まで伸びる 卵細胞に向けて少し伸びるが 到達はしない
受精のしかた 伸びた花粉管が卵細胞に到達し、「精細胞2個」を 直接卵細胞に送り込む 伸びた花粉管から、繊毛が生えた「精子」が出てきて 泳いで卵細胞に到達する

雄花の花粉を観察しても 精子はまだできていない
受粉した朱色の種子の中を観る必要があるが、ソテツの精子はイチョウの精子(約 0.1mm)よりずっと大きく、約 0.2~0.4 mmあって 肉眼で見えるそうだ。



植物の分類 : APG II 分類による ソテツ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
ソテツ科  ソテツ属
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ