スダジイ すだ椎
Castanopsis sieboldii Hatusima
      ex Yamazaki & Mashiba (1971)
← Castanopsis cuspidata var. sieboldii Nakai (1939)
← Pasania cuspidata var. sieboldii Makino (1909)
科 名 : ブナ科 Fagaceae
属 名 : シイ属 Castanopsis Spach (1842)
異 名 : Castanopsis cuspidata var. sieboldii
別 名 : イタジイ、ナガジイ、シイ
原産地 : 本州の中部以南から 沖縄、韓国南部
用 途 : 庭木、公園樹として植えられる。
果実は生食もできるぐらいに渋みが無く、煎るとさらにおいしい。太古から食用にされていた。材は建築材、器具材、シイタケのほだ木とする。樹皮にはタンニンが含まれ、染色に使われる。

ブナ科の樹木には和名に統一が無く、カシ 樫 の名が、色々な属にまたがって付けられている。たとえば、マテバシイ属の Lithocarpus glaber に「シリブカガシ」の和名が付いている。
     ブナ科の 和名 比較一覧表は 別項で掲載した。
以前スダジイは、ツブラジイ(コジイ) Castanopsis cuspidata の変種 あるいは同種と考えられていたが、近年に両者は別種とされ、APG分類でも別種の見解が支持されている。

園内のスダジイのほとんどは 傾斜地に生えている。古くからの自生(実生更新)のものか、植えられたものかは未確認。
 
スダジイ の 位 置

@:メインスロープの左      2013.10.19.

@:新緑の様子       2011.5.15.
葉はこの後 次第に濃くなってゆく。
秋の様子       2013.10.19.
少し登った所から。

@:幹                2013.10.19.
斜面の下部に 斜めに生えている。代表的な「陰樹」のひとつ。
樹皮の残り具合は中程度で、縦の裂け目がランダムにできるので、網の目状になる。

A:コクサギ坂のスダジイ
標識62番から始まる 変則的な50番通り。その始まりの(仮称)コクサギ坂右手斜面に生えている。斜面の下側の土が流れ出してしまい、かなり根が露出している。

 B:シイノキ坂の老木(左) C:シイノキ坂右手    2012.4.24.

 写真では ともに 坂の下 (園の奥) から見返している。

シイノキ坂は 震災記念碑のある標識35番から、マツ林上部に下りていくスロープで、コンクリートで整備された緩やかな坂である。
山側にBの大木があり、谷側に3本が並んでいる。

B:老木の幹の様子 幼木の幹
     

初めは縦に少しの割れ目ができる。太くなるまでは縦の割れ目が目立つが、やがて不規則な網の目状になる。


新梢の伸び        2013.4.23.
先年枝の先端とその附近から、複数の枝が伸び出す。葉は 早落性の托葉に包まれている。

花序が伸び出す     2007.4.7 奄美.
新しく伸びた枝の、先端附近を除くすべての葉腋から、主に雄花の花序が出る。 さすがに奄美大島は伸び出す時期が早い。

満開の雄花          2013.5.15.
蕾の状態では直立していた花序は マテバシイやクリよりも軸が細いために、先端部は垂れる。独特の香りで虫を引き寄せる。

雌花序の位置      2007.4.7 奄美.
先端寄りの葉腋から 雌花が出る。雄花ばかりで 雌花が付かない枝もある。 マテバシイやクリでは雄花序の下の方に雌花が付くが、スダジイでは雌花だけの花序となることが多い。

雌 花    2013.5.15. 雌花の詳細
          撮影:福岡教育大学 福原教授、植物形態学テキストより↑
アップの写真がうまく撮れていないので、福原先生の詳細写真をお借りする。 通常花はひとつずつで、苞の中に まれに2、3花がある事があるそうだが、見たことがない。
子房が3室であるために、雌しべが3裂しているが、ひとつだけが1年半掛かって熟す。ごく希に ひとつの穀斗(かくと)に2、3個の果実ができるそうだが、これも見たことがない。

↓雌花序 と   雄花序     2013.5.15. 雄花の詳細    2011.5.15.
雄しべばかりが目立つが、雄花には6裂した花被片がある。

落下した雄花  2011.5.22.
雄花の滓がワタのように積もる。サツキの上にあるのは落ち葉。


葉の様子          2013.10.19.
葉は皮質で細長い。葉の先端半分に浅い鋸歯があることが多いが、小さな葉などでは完全に「全縁」の葉もある。

葉 裏
新緑時はもっと白いが、成長すると淡褐色に。

初秋の実        2013.10.19.
鹿の角のような今年の果実序。花の時と大きさは変わらず、このまま越冬する。実が大きくなるのは来年の花が咲き終わる 初夏以降。
一方で、左に写っているのが昨年の果実。
若い果実         2013.8.8.
夏からぐんぐんと大きくなる。初めは花序の多くの果実が大きくなり出すが、いくつかは途中で落ちてしまう。無受精のものだろうか。
実を包んでいるのは苞(総苞)が変化した「穀斗(かくと)」である。クリのイガに相当する鱗片は同心円状だが、波打っていたり不揃いだったりする。
顔見せ        2013.10.19.
果実が生長すると穀斗は3つに(あるいは不規則に)割れる。果軸ごと、穀斗付き または 実だけ、と 様々な落ち方をする。
シイノキ坂はドングリだらけに  2011.11.15.
タンニン分が少ないため、生でも食べられる。煎るとクリのような甘みも出て、近年までは子供たちのおやつだったという。

冬 芽         2013.10.30.
夏前にできていた冬芽は、秋までに大きくなる。

 
スダジイ の 位 置
写真@: E14 d メインスロープ左側
写真A: F12 a 50番通り、コクサギ坂右側
写真B: D5 c 震災記念碑(標識35)から下るスロープの 右側
写真C: D5 ab  同 上 スロープの左側 斜面 3本

 
名前の由来 スダジイ Castanopsis sieboldii

和名 スダジイ : 由来は不詳

 ← シイ 椎 : 強いる から
一般には 漢字「椎」の音「スイ」が転訛したもの、という説が有力とされるが、『語源辞典/植物編』吉田金彦氏の説を取り上げたい。 以下は 要約。
シイの名は『古事記』(712)、『日本書紀』(720)、『万葉集』(8世紀?) にも登場して「椎」の字を使っているが、新井白石が『東雅』で述べているように、わが国の初めに 樹名 シヒ を漢字音から転じたとは考えられない。
シイの材は固くて強さが求められる用具に使われた。舟を漕ぐ、刑罰として叩く、枷に使うなど 強引に行う・強要する行為が シフ(強)で、その活用形のひとつが シヒ(強)の具として用いられた。万葉の歌でも、誣(し)いられる人の心情を シヒ(椎)に掛けた用例が多い。
和語 シヒ(強)が樹名となり、漢字音が似ている「椎 スイ」を漢字とした、と思う。
「椎」には「ツイ」の音もあって 槌 ツイ に通じるところから、物を打つ「つち」の意味があり、字義の一つ目には、うつ・つちで打つ・たたくが載っている。吉田氏の説が裏付けられる。
角川『漢和中辞典』
種小名 sieboldii : 人名による
1823年から29年までの6年間、一回目の来日で日本の植物を研究し ヨーロッパに紹介したシーボルトを顕彰したものである。しかし、この学名に落ち着くまでには何度かの変更があった。

命名年 学名 和名 命名者 備考
@1784  Quercus cuspidata  ツブラジイ  ツュンベリー ex Murray
1835  Quercus cuspidata  ツブラジイ  シーボルト 解説※  スダジイに付けてしまった
A1866  Pasania cuspidata  ツブラジイ  A. S. Oersted  @の属名を変更
B1909  Pasania cuspidata
  var. sieboldii
 スダジイ  牧野富太郎  スダジイを
  ツブラジイAの変種とした
1912  Castanopsis cuspidata  ツブラジイ  Schottky  Aの属名を変更
1939  Castanopsis cuspidata
  var. sieboldii
 スダジイ  中井猛之進  Bの属名を変更
  近年までこれが使われていた
1971  Castanopsis sieboldii  スダジイ  初島住彦  変種から「種」に格上げ
  変種名を種小名とした
解説 ※:
シーボルトは『日本植物誌』に「シイノキ」(京都大学電子図書館の画像にリンク)を記載している。ところがその学名は、ツュンベリーが命名した「ツブラジイ」Quercus cuspidata だった。シーボルトは ツュンベリーの著書『日本植物誌』(1784)を携えていたのだが、スダジイとツブラジイは似ているために、同じものと見なしたようだ。(図の中にもツブラジイの果実と思われる小さな円いもの、番号13 が含まれている)

属名 シイ属 Castanopsis : クリに似た の意味
クリを意味するギリシア語 kastana あるいは ラテン語 castanea と ギリシア語 opsis (似ているの意) の合成。
類似点は、総苞の中に 2〜3つの花があるところだろう。

植物園には クリ は無いが、クリ属の木が一本だけある。

ブナ科 Fagaceae
ギリシア語 phago 食べる に由来する。
小石川植物園には イヌブナは大木と枯れかかったものが一本ずつあるが、ブナ は無い。



植物の分類 : APG II 分類による スダジイ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
以前の分類位置 ブナ目  バラノプス科、ブナ科、ナンキョクブナ科、カバノキ科、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
ブナ目 ナンキョクブナ科、ブナ科、ヤマモモ科、カバノキ科、クルミ科、など
ブナ科  クリ属、シイ属、ブナ属、マテバシイ属、コナラ属
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

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