スズカケノキ 篠懸の木
Platanus orientaris Linn. (1753)
科 名 : スズカケノキ科 Platanaceae
属 名 : スズカケノキ属 Platanus Linn. (1737)
英語名 : Oriental plane , Oriental planetree
中国名: 法国悟桐、三球懸鈴木
原産地 : ヨーロッパ南東部から西アジア、ヒマラヤにかけて
用 途 : 古くから緑陰樹として使われる。 現在でも 街路樹、公園樹に。
ただし、日本で街路樹として使われているのは ほとんどが別の種類 モミジバスズカケノキである。

青空をバックにそびえ立つ白い肌の巨木。 落葉樹が並ぶボダイジュ並木は、風さえなければ 最高の「冬の散歩道」。         2007.3.11 撮影

1876年(明治6年)に 日本に初めて導入されたスズカケノキのひとつである。
               ボダイジュ並木 は ズカケ並木     2011.11.24 午後3時
モミジバスズカケノキ、 ↑アメリカスズカケノキ        2本のスズカケノキ
ボダイジュ並木に立って奥を見ている。 手前にもう一本 モミジバがあり、いずれも高さ約30m以上の大木である。
        ① : 2本のスズカケノキ    2011.2.3

① : 象の足 幹の様子
幹を支えるために根元付近から出た根が肥大、一体化したもの。 幹の瘤は、切り落とされた枝の残りを 樹皮が蔽ったもの。 本来はもっと地面に近い所に多くの枝があったのだが、周囲の木と共に大きくなるに従って、切られたか枯れたかしたのだろう。

                        イギリス キュー植物園                   1999.8.28
直径2メートル以上のこの木が 自然な樹形とは限らないが、小石川植物園よりは伸び伸びと育っているだろう。

                  ② : 新 緑               2007.4.29
花が咲いているはずだが、観察不能。 そこで代わりに新宿御苑のものを。

                      モミジバスズカケノキの 雄花          2009.4.18 新宿御苑
スズカケノキではなくて モミジバスズカケノキだが、花は似ている。 新しい葉の展開と共に出てくる球状の集合花がぶら下がる。
左の黄緑の球は 雄花が開く前の状態。 右では一部が咲いている。

                      モミジバスズカケノキの 雌花          2009.4.18 新宿御苑
多数ある雌しべの先端部は赤い。

               ② : 剥がれ落ちた樹皮          2011.7.8
初夏に樹皮が剥がれ落ちる。 剥げかたは様々で、カゴノキのように斑になる場合もあるが、上部はほとんどが剥げて幹が白くなることが多い。
  2008.8.24                      2011.7.8
面白いのは 剥がれ落ちる樹皮の「周囲」や「穴の周り」が白くなること。 裏は全面が黄土色 一色である。

                     葉 の 形              1999.9.11
落ちていた枝を置いて。

               緑の森       2011.10.12

                黄葉したスズカケノキ         2011.11.24
実が生るのも高い所なので うまく撮れない。

              モミジバスズカケノキの果実       2001.10.14

                    集 合 果              2011.2.3
長い花柄に 3~6個付くが、柄の繊維が強靱なためになかなか落ちない。
果実は でこぼこのコアの周囲に無数に付き、球形となっている。 直径 35mm。果実の付け根の周囲に毛が生えており、風で飛ばされる助けとなる。

           ② :ふたたび 銀の幹     2010.1.24

                 ようやく落ちた果実           2011.4.8


 
スズカケノキ の 位 置
写真①: C7-8 10番通りとボダイジュ並木の間
写真②: B 7d 10番通りとボダイジュ並木の間、立て札付き

名前の由来  スズカケノキ Platanus orientaris

スズカケノキ
: 篠懸の木
球状の集合果実が 修験者の着る篠懸に付いている房に似ているところから。 『朝日百科/植物の世界』
細い繊維を束にして丸く作った「ポンポン」が、スズカケノキの「集合果」に似ているためである。
山伏の姿
Wikipedia より
広辞苑には 「篠懸、鈴掛」は 「① 修験者が衣の上に着る麻の衣
② 能楽で山伏の扮装に附属する結袈裟(ゆいげさ)」とある。 

① として描かれている絵には前掲写真のような丸い飾りは無い。 3本の帯を結んで肩から掛けているのが結袈裟、② のスズカケであろう。
どちらの字を使っても良いのなら、スズカケノキの漢字も両方 OKということになる。

いずれにせよ、ぶら下がる果実が「鈴」に似ているから 「鈴掛の木」という説は俗説である。

種小名 orientaris : 東方の、東方原産の という意味
『植物の種』 999ページのスズカケノキの項には、原産地として 「アジア・ Tauro ・ マケドニア ・ Atho ・ Lemno ・ クレタ 」 の地名が記載されている。 1753年までに これら各地から標本やスケッチなどが集まっていたことになる。 リンネが住むスウェーデンや オランダなどから見れば、ヨーロッパ南東部も「東方」になるかもしれない。

アメリカスズカケノキ P. occidentalis も同時に記載している。

Platanus  スズカケノキ属 : 広い の意味
スズカケノキのギリシア名 platanos に由来するが、その起源はギリシア語の 「platys 広い」で、大きい葉にちなむという。『園芸植物大事典』

植物園のスズカケノキの葉では、それ程大きいとは思えない。 『植物の種』に同時に記載されている アメリカスズカケノキの方がずっと大きい。

ただ、属名はリンネ(1707-1778)が立てたのではなく、一世代前のトゥルヌフォール(1656-1708)が定義したものなので、その頃はまだスズカケノキ が知られておらず、アメリカスズカケノキに基づいて属名を定義したのかもしれない。

スズカケノキ属には6~7種類があるそうだが、植物園にはボダイジュ並木に代表的な3種があって、②の木の前に立てられた説明板にも その違い・見分け方が書かれている。



 

スズカケノキ、モミジバスズカケノキ、アメリカスズカケノキ の比較

和 名 : スズカケノキ モミジバスズカケノキ アメリカスズカケノキ
分布域 :  バルカン半島 ~
       ヒマラヤ地域
- (交配種)  北米東部
葉の切れ込み:  深い    中間   浅い
樹 皮 :  剥離する。
 白っぽい
 剥離する。
 緑白色と暗緑色の斑
 縦の細かい割れ目。
 暗褐色
果実の付き方:  1本の軸に~7個 付く  2~3個 付く  1個ずつ 付く
英語名 :  Oriental plane  London plane  American plane
中国名 :  法国悟桐
 三球懸鈴木
 懸鈴木  美国悟桐
 一球懸鈴木
中国語の「法国」とはフランスのこと。 フランス租界地などにスズカケノキが植えられたためであろう。 「悟桐」はアオギリなので、法国悟桐は フランスアオギリの意味となる。
スズカケノキを表す「懸鈴木」は、日本の「鈴懸」からだろうか?



植物の分類 APG II 分類による スズカケノキ の位置

クロンキストの分類では、スズカケノキ科は「マンサク目」に分類されていた。

球状の集合果の形態が似ているためである。 ところが、APG分類では「マンサク目」だった5つの科は様々な場所に分散してしまい、マンサク目はなくなってしまった。

それぞれの植物が独自に変化した結果が、偶然同じような形になっていたわけで、これまで多くの学者が頭をひねって、何百年も掛かって出した結論がかなり変わってしまった。 今回の分類見直しが面白い点でもある。

クロンキスト分類の マンサク目  → APG分類
フサザクラ科  →  真生双子葉類  キンポウゲ目
スズカケノキ科  →  真生双子葉類  ヤマモガシ目
カツラ科  →  中核真生双子葉類  ユキノシタ目
マンサク科  →  中核真生双子葉類  ユキノシタ目
ミロタムヌス科  →  中核真生双子葉類  グンネラ目

原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類) : マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、アウストロベイレヤ
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
以前の分類場所  マンサク目  フサザクラ科、スズカケノキ科、カツラ科、マンサク科、など
 ヤマモガシ目   ハス科、ヤマモガシ科、スズカケノキ科
スズカケノキ科   スズカケノキ属
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。
 
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