ホソバタイサンボク 細葉泰山木
Magnolia grandiflora Linn. (1759) タイサンボクと同種
← Magnolia grandiflora forma lanceolata Rehder (1949)
← Magnolia grandiflora var. lanceolata Aiton (1789)
科 名 : モクレン科 Magnoliaceae
属 名 : モクレン属 Magnolia Linn. (1735)
英語名: bull bay , southern magnolia
  (タイサンボク)
原産地 : 北アメリカ東南部。アメリカ合衆国のノースカロライナ州からフロリダ州にかけて。
ルイジアナ州とミシシッピー州の州花。
用 途 : 庭木。



やはり! と言うべきか。 APG分類では、葉が細長いだけでは 変種や品種とはならず、遺伝子に違いのない場合は同一種となる。


 左 : タイサンボク と 右 : ホソバタイサンボク
見た目は 明らかに細長い。

               @ : ホソバ 3兄弟          2011.6.16
タイサンボクのすぐ隣に植えられている。

@ : 樹 形
例によって、狭い間隔のために上に伸びた形。 左側に 下向きの枝があり、タイサンボクとは違って間近に観察できる。

毛に包まれた冬芽            2011.2.3
花を含まない 葉芽。 前年の葉柄や葉の裏側の毛は 残ちずに残る。

常緑樹の美しい葉           2011.6.16
つぼみができなかった枝は、主軸がそのまま延びる。 もちろん枝分かれすること (複数の芽が成長すること)も多い。 葉の長さは タイサンボクと変わらず、通常20cm前後。
できたばかりの冬芽          2014.6.17
花が付かない場合は、来年もそのまま伸びる。 このあと、前掲の冬芽のように大きくなる。

つぼみ               2014.6.17
花は枝の先端に付く。 花が付いた枝では、そのすぐ下の葉腋にいくつかの芽ができる。 この枝の場合には、2つの芽が付いていた。

枝振り              2012.1.11
周辺の枝では、延びた枝のうち 下側が次々と主軸になっていく。 枝は3本が多いが、2本のこともある。

              開ききった花            2011.6.16
トップの写真が咲き始めで、この状態は終末期。 落ちた大量の雄しべが、スプーン状の花弁にたまっている。

終わった花              2011.6.16
同じ日に撮った別の花。 平らに広がった葉が、花被片を支えている。

                   落ちた花被片            2011.6.19
大きなものは 丁度ボールペンと同じくらい、14センチ前後。 9枚の花被片のうち、内側の6枚は細長く柄が付いた「匙状」になっている。

2011.6.16                      実の様子                      2012.9.15
モクレン科は早くに分化した(原始的な)植物で、ひとつの軸の周りに大量に付く雄しべ(赤いのがその落ち跡)と、同じく多数の雌しべ(子房)にその特徴が表れている。 毛に覆われた子房にはそれぞれ種子ができる。

赤い種子             2013.10.19
赤い色は種子の「外種皮」で、白い糸でぶら下がることもある。
白い糸は 珠柄(種子の元である胚珠と胎座をつなぐもの)の中の、道管が伸びたものだとか。

花の落ち跡             2014.6.17
花が大きいだけに それを支える枝も太く、落ち跡はハサミで切ったみたいだ。 側枝の基部の色が濃いので、昨年の内に 2・3枚の葉を出していたことがわかる。


 
ホソバタイサンボク の 位 置
写真@: B6 b
10番通り 左側、標識15番のところ。 3本


 
名前の由来 ホソバタイサンボク Magnolia grandiflora

ホソバタイサンボク 細葉泰山木 :
葉が小さいことから「細葉」の修飾語が付けられた タイサンボクの変わり種だが、じつは 同種。
人間なら、背が低かろうが 色が黒かろうが、皆 Homo sapiens

タイサンボク 泰山木 : 再掲
アメリカ原産で いわば「帰化植物」なのに、泰山木という中国風の名前が付けらている。 モクレンやコブシなど、好んで植えられるモクレン属の木はアジア原産が多い中で、葉も花も大柄のタイサンボクは、導入から100年間で日本に同化したように見える。

タイサンボクは 1873年(明治6年)に渡来したとされ、1879年(明治12年)に来日したグラント将軍夫妻によって、上野公園に記念植樹されて有名になった。

吉田金彦氏『語源辞典/植物編』によると、泰山木の名を最初に使ったのは園芸の権威、松崎直枝ということである。 
松崎は昭和初期に小石川植物園の園芸主任を務め、詳しい知識で植物学者のような立場だったようだ。 1934年(昭和9年)に『近世渡来園芸植物』を著しているが、そこにはタイサンボクは書かれていない。
さて、
泰山とは中国山東省にある 道教の聖地のひとつで、世界遺産に指定されている。 しかし、吉田氏の見解では、”葉や花が大きく立派で堅い常緑の木が巨大なために付けた名「大山木」の意味で、泰山との直接の関係はない。 しかし、「大」に「泰」の字を当てた意識には中国泰山を連想し、天子祭政の野山の意識を呼び起こしたものがあったかもしれない。” としている。

種小名 grandiflora : 大きな花の の意味
同じ属のホオノキの花も大きいが、異論はない。

モクレン科 Magnoliaceae : 人の名前に由来する
17世紀フランスの植物学者で、地中海に面するモンペリエの植物園園長であった、ピエール・マニョール(1638-1715) を顕彰したものである。



植物の分類 APG II 分類による タイサンボク の位置

花の各器官は「葉」が変化したものと考えられている。 モクレン類は 1本の軸の周りに「花弁・雄しべ・雌しべ」が多数付く花の構造が原始的であり、早くに分化した植物とされている。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類) : マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
モクレン目   ニクズク科、モクレン科、バンレイシ科、など
モクレン科   モクレン属、ユリノキ属、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ