タイサンボク 泰山木
Magnolia grandiflora Linn. (1759)
科 名: モクレン科 Magnoliaceae
属 名: モクレン属 Magnolia Linn. (1735)
英語名: bull bay , southern magnolia
中国名: 洋玉蘭、荷花玉蘭
原産地: 北アメリカ東南部。アメリカ合衆国のノースカロライナ州からフロリダ州にかけて。
ルイジアナ州とミシシッピー州の州花。
用 途: 庭木。

常緑樹が混んだ所に3本 かたまって植えられている。下枝が無いために、花を間近に見られることは少ないが、いくつも咲いていると香りが漂ってくる。
新宿御苑などで撮影した写真も交えて掲載する。

@:樹 形   2012.1.11

@:タイサンボク 3兄弟    2011.6.16
高さ 20m以上になる常緑樹で、本来は枝が横に張る樹形であるが、森の中で下枝が無い状態となっている。

樹 形(高さ 約9m)

常緑樹の美しい葉     2003.6.8.
葉のサイズは通常20cm程度。 裏には赤茶色の毛が残る。
アップの写真は1月撮影なので、新葉時に較べると毛の量は少なくなっている。

つぼみ と 開きかけの花    2003.6.8

2000.7.1            甘いかおり            2001.6.12
9枚の花弁のように見えるが、外側の3枚は萼が花弁化したもの。そういわれて見ると 中心の6枚とは離れて輪生しているし、形状も異なる。花弁は「匙(さじ)型」であるが、萼の方はくびれがほとんど無い。下図は落ちた花弁。
丁度開花時に 茶色くなった古い葉が落ちる。

大量の雄しべ      2000.6.25.
役目が終わると バラバラと落ちてくる。

2000.7.27  若い実 膨らんできた実 2000.11.11
ひとつの軸の周りに大量に付く雄しべと雌しべ(子房)、モクレン科は早くに分化した植物のひとつである。子房には毛が生えている。

熟した実     2009.10.1
赤い種子は 白い糸でぶら下がることもある。花が枝の先端に付く(頂生する)ために真っ直ぐには伸びられず、新しい枝は花の直下から湾曲しながら伸びる。

 
タイサンボク の 位 置
写真@: B6 b
10番通り 左側、標識15番のところ。3本
 
名前の由来 タイサンボク Magnolia grandiflora
 タイサンボク 泰山木: 
アメリカ原産で いわば「帰化植物」なのに、泰山木という中国風の名前が付けらている。 モクレンやコブシなど、好んで植えられるモクレン属の木はアジア原産が多い中で、葉も花も大柄のタイサンボクは、導入から100年間で日本に同化したように見える。

タイサンボクは 1873年(明治6年)に渡来したとされ、1879年(明治12年)に来日したグラント将軍夫妻によって、上野公園に記念植樹されて有名になった。

吉田金彦氏『語源辞典/植物編』によると、泰山木の名を最初に使ったのは園芸の権威、松崎直枝ということである。 
松崎は昭和初期に小石川植物園の園芸主任を務め、詳しい知識で植物学者のような立場だったようだ。 1934年(昭和9年)に『近世渡来園芸植物』を著しているが、そこにはタイサンボクは書かれていない。
さて、
泰山とは中国山東省にある 道教の聖地のひとつで、世界遺産に指定されている。 しかし、吉田氏の見解では、”葉や花が大きく立派で堅い常緑の木が巨大なために付けた名「大山木」の意味で、泰山との直接の関係はない。 しかし、「大」に「泰」の字を当てた意識には中国泰山を連想し、天子祭政の野山の意識を呼び起こしたものがあったかもしれない。” としている。
 
 種小名 grandiflora:大きな花の の意味
同じ属のホオノキの花も大きいが、異論はない。 
 モクレン科 Magnoliaceae:人の名前に由来する
17世紀フランスの植物学者で、地中海に面するモンペリエの植物園園長であった、ピエール・マニョール(1638-1715) を顕彰したものである。 



トピックス  グラント玉蘭
本文で触れた上野公園のタイサンボクは現在でも健在である。
左 : グラント玉蘭、 右は グラント檜
第18代アメリカ合衆国大統領 グラント将軍は、大統領を二期務めた後に世界を周遊し、日本にも立ち寄った。 将軍が記念植樹した ローソンヒノキは弱ってしまっているが、婦人が植えたタイサンボクは元気である。 上野東照宮の参道入口脇という一等地が当てられた。 植樹は 1879年(明治12年)8月25日なので、樹齢は140年近くということになる。 説明板にも植え替えられたとは書かれていないので、オリジナルであろう。

当時 タイサンボクは渡来して日が浅かったために 現在の名は付いておらず、ハクモクレンの中国名「玉蘭」に グラントを付けて「ぐらんとぎょくらん」とした。
ちなみにタイサンボクの中国名は「洋玉蘭」。

植樹5年後の1884年(明治17年)に測量された測量の 5千分の1地図に、はっきりと2本の木がプロットされていた。

グラント檜 と グラント玉蘭
1884年(明治17年)測量 1886年発行 東京五千分之一 東北部 / 参謀本部陸軍部測量局

上図左上には、当時開園した上野動物園も出ているがまだ規模は小さく、入口は離れた所だった。正門は一時 都美術館の裏に移されたが、最終的に現在の位置となり、来園者はすぐ左手にタイサンボクを見ながら入場している。

50年後の 1929(昭和4)年 には、将軍の来日と記念植樹を永く後世に伝えるために、渋沢栄一 と 益田 孝 が立派な記念碑を建てている。

グラント将軍植樹の碑
神社仏閣のみならず、各地の公園などには多くの記念碑・歌碑が建てられていて、参考になることも多い。石で作れば数百年は自分の名前が残る。

人に見てもらうためには目立つ所に と考えるのは当然で、個人的な句碑・歌碑などには 時に目障りなものもあるが、この碑は由緒あるもので、長く保存してほしい。



植物の分類: APG II 分類による タイサンボク の位置

花の各器官は「葉」が変化したものと考えられている。モクレン類は 1本の軸の周りに「花弁・雄しべ・雌しべ」が多数付く花の構造が原始的であり、早くに分化した植物とされている。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類) : マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
モクレン目   ニクズク科、モクレン科、バンレイシ科、など
モクレン科   モクレン属、ユリノキ属、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ