タマリンド
Tamarindus indica Linn. (1753)
科 名: マメ科 Fabaceae
旧科名:  ジャケツイバラ科 Caesalpiniaceae
亜 科: デタリウム亜科 Detarioideae
属 名: タマリンド属
 Tamarindus Tourn. ex Linn. (1735)
別 名: チョウセンモダマ 朝鮮藻玉
英 名: Indian date, tamarind-tree, tamarind
中国名: 酸豆、別名:酸角・酸梅
原産地: GRINによると:広範囲のアフリカ諸国、イエメン
用 途: あらゆる部位が利用される有用種で、街路樹、日陰樹としても使われる。
観察地:小石川温室、セネガル、ガイアナ協同共和国、中国

有用種だけに古くから世界中で栽培されているが、日本には「生の果実」は輸入されていないようである。加工されたものは数多く見られるが、中にはダイエット食品などまである。
甘い果実がなる栽培品種もあるそうだが、通常の果肉はとても酸っぱくて、カレー料理をはじめとして酸味料として使われる。中国名「酸豆」は端的にこれを表している。
種子、葉、花、若い莢などを食用にするほかに、下剤、金属の研磨剤、染料、木工材料、薪炭材としても利用される。 


小石川温室 第2室
メインエントランスの第3室からの左隣の区画に入ってすぐの棚にある。高さは1m強。こんなに小さく細い木なのに、花が咲いていた!
茎頂につく花序      2022.7.30.
多くの小花が落下した後、今咲いている黄色い花も終わりに近いようだ。最後の蕾は半透明の白い萼に包まれている。



ドゥ・アン公園 入り口付近 幹の様子
看板の後ろに2本あるうちの 左側。看板は動物園や森林公園の案内板で、植物園はその一画にある。
適地で成長すると 25mにもなるそうだが、まだ小さな木で、太さは20cmぐらい。植物園にはほとんど名札が無いのだが、タマリンドには付いていた。
根元に立て札 現地名 Dakkar
名札の中央にある現地名はなんと「ダカール」である!
セネガルは自生地のひとつだが、ダカールを代表する木のようだ。それにしては街中ではほとんど見かけなかった。
芽吹き と 展葉           2012.6.21.
ハワイ島のとある農園で。芽吹き時には 数枚の低出葉の中から、フレッシュピンク色の複数の葉が一斉に伸び出してくる。
花         2005.11.18.
南米ガイアナの首都ジョージ・タウンで見たもの。残念ながら高い所に咲いていたため、アップの写真は撮れなかった。
赤色の部分は小苞で、開花前に脱落してしまう。
タマリンドはタマリンド属に1種しかない単型属で、その特殊性は花の構造にある。

花 序        2023.7.13.
前掲写真の翌年に ベストの状態を撮影できた。
花序は下降して小花は「そのまま」咲くので、ジャケツイバラなどとは上下が逆、旗弁が下向きの状態となっている。赤茶色の小苞が脱落する様子がよくわかる。

花 (蕾 ~ 開花)

flickr / creative commons / by Mark Yokoyama  2022.6.27
詳細を説明するために、ヨコヤマさんの素晴らしい写真をお借りする。文字は筆者が加筆したもの。

前掲写真の部分拡大。
本来5個の花弁のうち 2個は退化。また本来10個ある雄しべも、7個は退化して刺状になっており、写真では3つが見えている。雄しべ群は基部で合着。

リンネは『植物の種』に、雄しべの本数によって「Triandria 雄しべ3本、Mnogynia 雌しべ1本」の章に記載した。
マメ科は通常10本なので、ほかの種はまったく違う場所になってしまう。このようなリンネ分類は、「二名法」で記載したことを除いては、現在は受け入れられていない。


果 実       2003.10.4.
セネガルのもの。10月の初めだったが まだ完熟ではなく、落ちていたものはなかった。ただ、落ちたものは誰かがすぐに拾うだろう。
路上販売      2008.7.15.
中国雲南省 地方の村で。熟果を乾燥したもの(だと思う)。
果 肉 種子 と 莢のスジ
落花生にはもっと多くのスジがあるが、タマリンドの薄い殻と可食部を取り除くと、4本程度の まるで根のような形が残る。
ジュース
左 ドミニカのホテルの朝食(中央)、右は中国。砂糖などで味付けしてあるので酸味は弱い。



名前の由来 Tamarindus indica
 タマリンド Tamarindus属:
本種のアラビア名 Tamar-Hindi あるいは Tamr-Hindiy 「インドのナツメヤシ」に由来する。リンネ以前にトゥルヌフォール(1656-1708)が提唱していた。
樹木そのものに対してではなく、インドから交易品としてアラビア地区にもたらされた果肉が、ナツメヤシから作られたものと信じられていたからだそうだ。しかし「ナツメヤシのようなもの」であって、ナツメヤシの一種と考えたわけではない可能性もあるだろう。
ナツメヤシ
筑波実験植物園 サバンナ温室。果実のサイズは 20~52mm。
30年間の栽培の後に大きくなりすぎたために、2016年頃に伐採された。
 種小名 indica:インドの という意味
タマリンドの原産地は熱帯アフリカといわれている。
有用種だけに古くから各地に伝えられて栽培が広がり、それがまた野生化することが考えられる。何百年か後になってそれを「発見」したプラントハンターにとっては、原産地かどうかの判断が難しかったことだろう。
学名の元となっているリンネの『植物の種』(1753) にはアフリカは無く、インドのほかに アメリカ、エジプト、アラビアが記載されている。
属名と種小名で表す植物名は「インドのインドナツメヤシ」となってしまい、誤情報の「インド」が重複してしまっていて、よろしくない。
参考文献の Hendrik van Rheede(1636-1691)による『Hortus Indicus Malabaricus』第1巻(1678-79) p.39 図23 を見ると次の図版があり、丁度 温室で撮ったのと同じような終わりに近い花序(中央 下)が描かれていた。

Biodiversity Heritage Library より
マラバル地方の現地名は Balàm-Pullì。

 デタリウム亜科 Detarioideae:
マメ科の下位 亜科の構成が変わり、
ジャケツイバラ亜科、ハナズオウ亜科、デタリウム亜科、ディアリウム亜科、デュパルクエティア亜科、マメ亜科 の6亜科で、これまでのネムノキ亜科はジャケツイバラ亜科のなかの「節」となった。
本種が位置する デタリウム亜科には 84もの属があり、筆者が見たことがある属としては、バイキアエア属、ブロウネア属、キノメトラ属、ヒメナエア属、マニルトア属、サラカ属、そしてタマリンド属があった。
デタリウム属の名は もちろん初耳である。


別名 チョウセンモダマ : 朝鮮のモダマ?
以前は学名の属名 あるいは英語名の「タマリンド」しか知らなかったが、今回事典を調べて「チョウセンモダマ」という和名があることがわかった。しかし....
朝鮮人参とは違い、「チョウセンモダマ」を単純に「朝鮮のモダマ」とするのは不自然である。
まず、タマリンドは熱帯・亜熱帯の植物であるから、原産地ではないため。
次に「モダマ」だが、藻玉は屋久島や沖縄にも自生しているマメ科の蔓植物で、1m以上にもなる長い大きな莢(サヤ)を付ける。これに比べるとタマリンドの莢はきわめて小さい。月とスッポン、大人と赤ん坊ほどの違いがあり、莢や豆の形もかなり異なる。つまり「モダマ」に似ているために名付けられたものではない。
上記を考えると、「チョウセン」は今でいう「差別語」で「イヌ~」と同じように「劣った」という意味で使われたのではないだろうか。

チョウセンモダマ ←
 モダマ (藻玉): Entada phaseoloides Merrill (1914)
モダマはジャケツイバラ亜科、ネムノキ節の熱帯性つる植物で、日本では沖縄から奄美大島、そして屋久島が北限である。その実は大きく、莢の長さは1mから1.2m、種子の直径が5~7cmもある。 
モダマの実
写真は奄美大島中部の「奄美アイランド」の展示を撮影。
種子はほぼ円形だが、周辺の一箇所が少し凹んでいるため「ハート型」と呼んでいる。 
木に纏わりつく蔓

2007.4.9
奄美大島では住用村東仲間の沢沿いに自生地がある。
左写真:沢から尾根に広がる木々は、4月初めで早くも新緑となっていたが、それが半分隠れるほどに濃緑色のモダマのつるが垂れ下がっていた。
右の写真の白い部分はガードレール。黄色は電柱を支えるワイヤのカバーである。葉は艶々とした皮質の常緑で、ネムノキなどとは比べ物にならないほど美しい。
これで1枚の葉
葉のつくりは偶数の2回羽状複葉だが、羽片の数は4個(2対)と少ない。やや湾曲した小葉はオオベニゴウカンの葉に似ているが、そちらは2枚・1組だけ。
モダマの太い つる
枝から枝へ、まるで人が掛け渡したように伸びるツル。この写真で、太いものは径が約 10cm。
モダマ 藻玉:海藻の実 の意味
モダマの種は硬くて水を通さず、海流に乗って西日本の海岸にまで漂着するそうで、その名前は一種の”洒落”と思われるが、流れ着いた実を「海藻の種子」に見立てたものである。 

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ