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科 名 : | モチノキ科 Aquifoliaceae nom.cons. |
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属 名 : | モチノキ属 Ilex Linn . (1735) | |||
中国名 : | 波羅樹 | |||
原産地 : | 本州静岡県以西、四国、九州。 中国東部 |
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用 途 : | 庭木、寺院に植えられる。 |
20番通り 水飲み場がある 標識25番の奥に何本かがある。 常緑で 雌雄異株。 |
@:樹 形(雄株) 2010.11.3. |
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高さ 約7m。鋭角ではないが円錐形の樹形。事典によると 高さ20m、幹の太さ 60センチにもなるそうだ。写真はちょうど北方向を見ており、見えている枝は東・南から西の部分である。 この木の反対側から南方向を見たのが 次の写真。 |
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見た目よりも明るく調整してある。枝葉が無いわけではないが、南側に較べると非常に葉が少ないことがわかる。 |
A:雌 株 ▲ 2015.2.3. |
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前掲写真の 雄株@ から 15mほど北側の木。園の名札では例外的に、名札に雌雄の別が記されている。できればほかの樹木にも記載して欲しいものだ。 |
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B:奥の雄株はサネブトナツメの位置 |
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20番通りから 右手(東方向)を見ている。奥の垣根が 1727年(享保12年)に植えられた サネブトナツメ。 |
若木の幹 2014.2.9. |
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直径20センチ強あるので若木とは言えないが、表皮が縦に細かく割れ、そこに皮目ができている。 名古屋東山植物園 |
幹の様子 | |
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太くなるとブツブツした皮目ができ、ゾウの脚のようだ。丸い瘤は枝を切った跡を樹皮が覆ったもので、下枝を切るためにこのようになってしまう。左側の木で
太さ 約 40cm。 皮目 (ひもく): 樹木の幹や枝に、気孔にかわって空気の出入り口として新たに作られる組織。樹種や枝の位置などによって色々な変化がある。 |
枝の出方 2007.5.2. |
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枝の出方は不規則で、太くなると枝の付け根を太らせる。 |
つぼみ 2011.4.26. | 雄花 2011.5.3. |
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雄花のつぼみと開花の様子。花は前年に出た枝の葉腋に付くのだが、事典には「花序ではなく、短い枝(短枝)に付いている」と書かれている。 雄花に関しては、その役割を果たす期間は開花期だけで,とても短かい。 いったい、花序軸と枝を分ける違いは何だろうか? 雌株で、枯れた「短枝」が数年間も残るあたりが根拠となろうか? |
雌 花 2015.5.5. |
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蕾から満開状態まで 5段階が写っており、右下にはできたての幼果も見える すばらしい写真 (自画自賛)。雄しべがあるが、退化していて花粉は出ない。雄しべの根元には蜜がある。 |
幼 果 2015.5.8. |
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昨年伸びたはずの枝はまだ緑色。次第にくすんでくるが緑色は長く残る。 |
落 葉 2009.5.8. |
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数年間ついていた葉は 5月に黄葉して落ちる。 |
伸び出した新梢 2014.6.4. |
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葉のサイズは 大きいもので 20cm。周囲には粗く鋭い鋸歯がある。2014年は枝の伸びが少ないなぁ と思ったら、タラヨウの枝の伸び方は特殊だった。 |
タラヨウの 枝の伸び方 |
タラヨウの成長を長期間観察した尾谷氏の記述に、「開花・結実すると その年には枝が伸びない。枝は隔年で伸長する」というものがあり、自分でも観察してみた。 ここでは概要に留め、ページの最後に「トピックス」として詳しく掲載した。 |
・ 雄株、雌株とも 開花した年には新梢が出ない | ||
・ 例外 (開花したのに枝が伸びる事)はあるが、数は少ない | ||
・ その翌年には枝を出し、丸い腋芽(ほとんどが花芽)を付ける | ||
・ 花芽ができても (次の年に) 開花しないことがある 特に北側や日陰など、成長が悪い場所に多い |
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・ 開花しなければ 初夏に新梢が伸びる |
上記は枝単位の話で、一つの株の中に様々な状態が混在しており、状況は枝によって異なる。 |
隣り合わせ 2014.6.4. |
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新梢が伸び出した枝 結実したために伸びない枝 |
さらに重要なポイントは、 必ず隔年で伸長を繰り返すわけではない事。つまり 連続して花が咲かず、続けて枝が伸びることもある。 |
雌株で 結実した年の例 2014.6.4. | |
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←枝先 | 主幹側→ |
▼に芽鱗痕がある。今年 開花・結実している枝は 新梢の伸びが無い。つまり 枝は昨年伸びて、約1年が経過した状態のである。(前年枝を二年枝と呼ぶことが多いが、今回は
前年の伸びから 丁度1年経った時期なので、前年枝を”一年枝” と呼ぶ。) 右写真は 一年枝に続く部分の拡大で、果実が落ちた枝が残っている。この枝は3年前に伸び、2年前に結実・落果したものと考えるので、枝が伸びてから「丸三年」が経過している。 一般的には、芽鱗痕の数を数えれば枝の年数をたどれるが、モチノキ属などは上記のような特殊な伸び方をするので、気をつけなければならない。 なお、すべて 二度伸び(春の以外の時期にふたたび枝が伸びる事)は無いものとして考える。 |
開花しなかった年の例 | |
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前掲写真のさら右側に続く部分と その部分拡大である。 丸い腋芽がそのまま「すべて」残っているので、次の年には枝が伸長したと考える。この部分は四年が経過している。 |
葉の様子 2000.6.25. |
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このように 一斉に葉が出る年もある。雨上がりで 新葉がいっそう光っている。 |
大きくなった実 2011.10.17. |
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葉は よく虫に食われる。実はなかなか色付かない。 |
真っ赤な実 2011.1.5. |
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いやというほど生っているが、餌の少ない時期でも鳥はあまり食べないようだ。実が生った枝からは 新梢が伸びず、一年間休み となる。(トピックスに詳細を) |
別名 郵便の木 |
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裏側は白く、傷を付けると 酸化酵素がタンニンに働いて茶色く変色する。相合い傘よろしく 両側に名前を書くのが定番だが、いたずら書きは禁止ですよ。 |
タラヨウの冬芽 2013.2.9. | |
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冬芽の一部にも サメの歯のような鋸歯がある。この一枚は 今年の枝の最後の葉で、普通葉になりそこなった高出葉と言えよう。 |
落 葉 2015.2.20. |
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5月に落葉する以外に、冬に緑のまま落葉することも多い。 |
タラヨウ の 位 置 |
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写真@: | C5 c | ● | 標識25番の先右側に太い木が1本、 |
写真A: | C5ac | ● | 雌株 |
写真B: | B4 b | ● | 雄株 |
そのほかにも雌株3本、雄株1本がある |
名前の由来 タラヨウ Ilex latifolia | |||||||
タラヨウ : 多羅葉 |
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ばいたらよう : 貝多羅葉 | |||||||
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貝多羅葉の材料 : | |||||||
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オウギヤシ | コウリバヤシ |
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ハワイ オアフ島 ホーマルヒア植物園 |
種小名 latifolia : 幅の広い葉の という意味 | |||||
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Ilex モチノキ属 : |
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モチノキ科 : Aquifoliaceae 保留名 | |||||
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年号 | 学名 | 命名者 | 備考 |
1735 | Ilex | リンネ | トゥルヌフォールが定義していたもの |
1754 | Aquifolium | ミラー | Ilex Linn. の異名 |
? | AQUIFOLIACEAE | Bercht. & Persl. (1781-1876) |
ミラーの Aquifolium を基準属として、科名を 立てた。これが 広く使われるようになった。 |
? | ILICACEAE | Dumort. (1797-1878) |
リンネの Ilex を基準属として 科名を立てた。 本来 こちらが命名規約に合った名だが、すでに 知れ渡って使われていた AQUIFOLIACEAE が 「保留名」とされた。 |
植物の分類 : | APG II 分類による タラヨウ の位置 |
クロンキストの分類では、モチノキ科は ニシキギ目にあったが、APG分類では 最後に分化したグループ キキョウ群に、新しくモチノキ目(モク) として新設された。 |
原始的な植物 |
↑ | 緑藻 : | アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など | |||||
シダ植物 : | 維管束があり 胞子で増える植物 | ||||||
小葉植物: | ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など | ||||||
大葉植物(シダ類): | マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど | ||||||
種子植物 : | 維管束があり 種子で増える植物 | ||||||
裸子植物 : | 種子が露出している | ||||||
ソテツ 類: | ソテツ、ザミア、など | ||||||
イチョウ類: | イチョウ | ||||||
マツ 類 : | マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など | ||||||
被子植物 : | 種子が真皮に蔽われている | ||||||
被子植物基底群 : | アンボレラ、スイレン、など | ||||||
モクレン亜綱: | コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など | ||||||
単子葉 類 : | ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など | ||||||
真生双子葉類 : | キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など | ||||||
中核真生双子葉類: | ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など | ||||||
バラ目 群: | |||||||
バラ亜綱: | ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など | ||||||
マメ 群: | ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など | ||||||
以前の分類場所 | ニシキギ目 | ニシキギ科、モチノキ科、クロタキカズラ科、など | |||||
アオイ群: | アブラナ、アオイ、ムクロジ、など | ||||||
キク目 群: | |||||||
キク亜綱: | ミズキ、ツツジ、など | ||||||
シソ 群 : | ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など | ||||||
キキョウ群: | モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など | ||||||
モチノキ目 | 新設 ヤマイモモドキ科、ハナイカダ科、モチノキ科、など | ||||||
↓ | モチノキ科 | モチノキ属 | |||||
後から分化した植物 (進化した植物 ) | ||
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トピックス タラヨウの着葉年数 |
タラヨウの成長を長期間観察した尾谷氏の記述に、「開花・結実すると その年には枝が伸びない。枝は隔年で伸長する」というものがあった。「隔年」に疑問を持ったので、植物園の許可を得て
2014年、2015年に観察した。 タラヨウの花は前年枝の腋に付く。花が咲き 実が生る年には枝を伸ばさず、常緑樹の特性を使って古い葉で果実を育てる。 この戦略はタラヨウだけでなく、ほかにもモチノキ科の種を中心に行われている。 この結果、芽鱗の落ち跡を数えただけでは、何年目の枝かを見誤ることになる。 |
1.タラヨウの枝の伸び方 | |
ケース F: | ・ 雄株、雌株とも 開花した枝では新梢が出ない | |
(開花年) | ・ その翌年には枝を出し、丸い腋芽を付ける | |
・ 例外 (開花後に枝が伸びる事)はあるが、その例は非常に少ない | ||
ケース N: (未開花年) |
・ 先年枝に花芽ができていても、開花しないことがある 特に北側や日陰など、成長が悪い場所に多い |
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・ 開花しなければ、初夏に頂芽が伸びる 茎頂のほかに頂側芽が複数伸びて、枝分かれすることもある |
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・ 必ず隔年で伸長を繰り返すわけではない。 つまり 連続して花が咲かず、続けて枝が伸びることもある |
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F:Flowering 開花、N:Non-flowering |
上記は「枝単位」の話で、一つの株の中に様々な状態が混在しており、状況は枝によって異なる。 |
隣り合わせの枝で(雌株) 2014.6.4. |
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新梢が伸び出した枝 結実したために伸びない枝 |
2014.6.4 撮影 雌株で結実した枝 ケース F ↓左写真の部分拡大 | |
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今年結実している枝は 前年に伸びたもの(1年枝)。▼に芽鱗痕がある。右の写真は、1年枝に続く部分の拡大。この枝は3年前に伸び、2年前に結実・落果したもの。枝が伸びてからまる三年が経過している。 |
雄株でのケースB 2015.1.22. | ||
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開花しなかったために枝が伸びた ケース N | |
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同じ枝のさらに右側。芽鱗痕▼2 - ▼3間には 丸い腋芽が「すべて」残っているので、次の年には枝が伸長したと考える。この部分は四年が経過している。 |
前年枝を2年枝と呼ぶことがあるが、ここでは前年枝を1年間を経た状態という意味で ”1年枝” と呼ぶ。なお、二度伸び(春の以外の時期にふたたび枝が伸びる事)は無いものとして考える。 |
2.観察結果 | |
以上を前提に、休眠期である2015年1月下旬〜2月上旬に観察を行った。観察樹は A の雌株である。 もともと付いていた葉の枚数は、普通葉の落葉痕を数えた。 タラヨウの着葉年数は枝によってかなり違うが、3年から4年だった。 |
3.観察データ | |
以下に 観察データを 数例掲げる。 |
観察樹 A: 雌株 南側で3例とも日当たり良好 の枝 |
観察枝 A | ||||||||||
1年枝 | 2年枝 | 3年枝 | 4年枝 | 5年枝 | 6年枝 | 7年枝 | 8年枝 | |||
伸長年 | 2014 | 2013 | 2012 | 2011 | 2010 | 2009 | 2008 | 2007 | 備 考 | |
開花の有無 | 開花 | 無し | 無し | 無し | 無し | 無し | 開花 | 無し | 花は6年 振りに開花 |
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枝伸びの有無 | 無し | 伸び | 伸び | 伸び | 伸び | 伸び | 無し | 伸び | ||
元の葉の枚数 | − | 9 | 9 | 10 | 7 | 5 | − | 9 | 合計 35枚* | |
残存枚数 | − | 7 | 8 | 4 | 0 | 0 | − | 0 | 残り 19枚 | |
年毎の残存率 | 78%* | 2 | 78% | 89% | 40% | 0 % | 0 % | 0 % | 0 % | 合計 285% |
備考: | 4年間付いていた葉が 40%残っている。 *)5年間の葉の残存率は 54% (= 19/35) |
丸4年間付いていた葉が 4割 で、個々の着葉期間は3年から4年以上ということになるが、途中で落ちる葉もあるので、ひとつの目安として、次の計算で年数を出した。 |
枝ごとの残存率の合計= 78×2+89+40 = 285 % 平均着枝年数 2. 9 年 |
*2) 枝が伸びなかった年の残存率は、便宜的にその前の年を使う |
観察枝 B | |||||||||
1年枝 | 2年枝 | 3年枝 | 4年枝 | 5年枝 | 6年枝 | 7年枝 | 8年枝 | ||
伸長年 | 2014 | 2013 | 2012 | 2011 | 2010 | 2009 | 2008 | 2007 | 備 考 |
開花の有無 | 開花 | 無し | 開花 | 無し | 開花 | 無し | 開花 | 無し | 花は隔年 に開花 |
枝伸びの有無 | 無し | 伸び | 無し | 伸び | 無し | 伸び | 無し | 伸び | |
元の葉の枚数 | − | 7 | − | 8 | − | 8 | − | 7 | 合計 15枚 |
残存枚数 | − | 7 | − | 8 | − | 1 | − | 0 | 残り 15枚 |
年毎の残存率 | 100% | 100% | 100% | 100% | 13 % | 13 % | 0 % | 0 % | 合計 425% |
備考: | 4年間の葉が100%残っている わかりやすい例。 5年間の葉の残存率も 100%、6年間で見ると 70% 平均着葉年数 4.2 年 |
観察枝 D | |||||||||
1年枝 | 2年枝 | 3年枝 | 4年枝 | 5年枝 | 6年枝 | 7年枝 | 8年枝 | ||
伸長年 | 2014 | 2013 | 2012 | 2011 | 2010 | 2009 | 2008 | 2007 | 備 考 |
開花の有無 | 開花 | 無し | 開花 | 無し | 無し | 開花 | 無し | 無し | 花はほぼ 隔年に開花 |
枝伸びの有無 | 無し | 伸び | 無し | 伸び | 伸び | 開花 | 伸び | 伸び | |
元の葉の枚数 | − | 9 | − | 8 | 8 | − | 9 | 8 | 合計 25枚 |
残存枚数 | − | 7 | − | 3 | 1 | − | 0 | 0 | 残り 11枚 |
年毎の残存率 | 78% | 78% | 38% | 38% | 13 % | 0 % | 0 % | 0 % | 合計 244% |
備考: | 落葉の多い例。5年間の葉の残存率は 44%、平均着葉年数 2.4 年 |
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