タラヨウ 多羅葉
Ilex latifolia
Thunb. ex A. Murray (1784)
科 名 : モチノキ科 
  Aquifoliaceae nom.cons.
属 名 : モチノキ属 Ilex Linn . (1735)
中国名 : 波羅樹
原産地 : 本州静岡県以西、四国、九州。
中国東部
用 途 : 庭木、寺院に植えられる。


20番通り 水飲み場がある 標識25番の奥に何本かがある。
常緑で 雌雄異株。

@:樹 形(雄株)       2010.11.3.
高さ 約7m。鋭角ではないが円錐形の樹形。事典によると 高さ20m、幹の太さ 60センチにもなるそうだ。写真はちょうど北方向を見ており、見えている枝は東・南から西の部分である。
この木の反対側から南方向を見たのが 次の写真。

見た目よりも明るく調整してある。枝葉が無いわけではないが、南側に較べると非常に葉が少ないことがわかる。

A:雌 株        2015.2.3.
前掲写真の 雄株@ から 15mほど北側の木。園の名札では例外的に、名札に雌雄の別が記されている。できればほかの樹木にも記載して欲しいものだ。

B:奥の雄株はサネブトナツメの位置
20番通りから 右手(東方向)を見ている。奥の垣根が 1727年(享保12年)に植えられた サネブトナツメ。

若木の幹    2014.2.9.
直径20センチ強あるので若木とは言えないが、表皮が縦に細かく割れ、そこに皮目ができている。    名古屋東山植物園

幹の様子
太くなるとブツブツした皮目ができ、ゾウの脚のようだ。丸い瘤は枝を切った跡を樹皮が覆ったもので、下枝を切るためにこのようになってしまう。左側の木で 太さ 約 40cm。

皮目 (ひもく): 樹木の幹や枝に、気孔にかわって空気の出入り口として新たに作られる組織。樹種や枝の位置などによって色々な変化がある。

枝の出方    2007.5.2.
枝の出方は不規則で、太くなると枝の付け根を太らせる。

つぼみ    2011.4.26. 雄花     2011.5.3.
雄花のつぼみと開花の様子。花は前年に出た枝の葉腋に付くのだが、事典には「花序ではなく、短い枝(短枝)に付いている」と書かれている。
雄花に関しては、その役割を果たす期間は開花期だけで,とても短かい。 いったい、花序軸と枝を分ける違いは何だろうか? 雌株で、枯れた「短枝」が数年間も残るあたりが根拠となろうか?

雌 花         2015.5.5.
蕾から満開状態まで 5段階が写っており、右下にはできたての幼果も見える すばらしい写真 (自画自賛)。雄しべがあるが、退化していて花粉は出ない。雄しべの根元には蜜がある。

幼 果         2015.5.8.
昨年伸びたはずの枝はまだ緑色。次第にくすんでくるが緑色は長く残る。

落 葉         2009.5.8.
数年間ついていた葉は 5月に黄葉して落ちる。

伸び出した新梢       2014.6.4.
葉のサイズは 大きいもので 20cm。周囲には粗く鋭い鋸歯がある。2014年は枝の伸びが少ないなぁ と思ったら、タラヨウの枝の伸び方は特殊だった。


タラヨウの 枝の伸び方

タラヨウの成長を長期間観察した尾谷氏の記述に、「開花・結実すると その年には枝が伸びない。枝は隔年で伸長する」というものがあり、自分でも観察してみた。 ここでは概要に留め、ページの最後に「トピックス」として詳しく掲載した。
・ 雄株、雌株とも 開花した年には新梢が出ない
・ 例外 (開花したのに枝が伸びる事)はあるが、数は少ない
・ その翌年には枝を出し、丸い腋芽(ほとんどが花芽)を付ける
・ 花芽ができても (次の年に) 開花しないことがある
   特に北側や日陰など、成長が悪い場所に多い
・ 開花しなければ 初夏に新梢が伸びる

上記は枝単位の話で、一つの株の中に様々な状態が混在しており、状況は枝によって異なる。
隣り合わせ       2014.6.4.
   新梢が伸び出した枝   結実したために伸びない枝

さらに重要なポイントは、 必ず隔年で伸長を繰り返すわけではない事。つまり 連続して花が咲かず、続けて枝が伸びることもある。

雌株で 結実した年の例            2014.6.4.
←枝先 主幹側→
に芽鱗痕がある。今年 開花・結実している枝は 新梢の伸びが無い。つまり 枝は昨年伸びて、約1年が経過した状態のである。(前年枝を二年枝と呼ぶことが多いが、今回は 前年の伸びから 丁度1年経った時期なので、前年枝を”一年枝” と呼ぶ。)

右写真は 一年枝に続く部分の拡大で、果実が落ちた枝が残っている。この枝は3年前に伸び、2年前に結実・落果したものと考えるので、枝が伸びてから「丸三年」が経過している。

一般的には、芽鱗痕の数を数えれば枝の年数をたどれるが、モチノキ属などは上記のような特殊な伸び方をするので、気をつけなければならない。

なお、すべて 二度伸び(春の以外の時期にふたたび枝が伸びる事)は無いものとして考える。

開花しなかった年の例
前掲写真のさら右側に続く部分と その部分拡大である。
丸い腋芽がそのまま「すべて」残っているので、次の年には枝が伸長したと考える。この部分は四年が経過している。


葉の様子       2000.6.25.
このように 一斉に葉が出る年もある。雨上がりで 新葉がいっそう光っている。

大きくなった実     2011.10.17.
葉は よく虫に食われる。実はなかなか色付かない。

真っ赤な実       2011.1.5.
いやというほど生っているが、餌の少ない時期でも鳥はあまり食べないようだ。実が生った枝からは 新梢が伸びず、一年間休み となる。(トピックスに詳細を)

別名 郵便の木
裏側は白く、傷を付けると 酸化酵素がタンニンに働いて茶色く変色する。相合い傘よろしく 両側に名前を書くのが定番だが、いたずら書きは禁止ですよ。

タラヨウの冬芽         2013.2.9.
冬芽の一部にも サメの歯のような鋸歯がある。この一枚は 今年の枝の最後の葉で、普通葉になりそこなった高出葉と言えよう。

落 葉    2015.2.20.
5月に落葉する以外に、冬に緑のまま落葉することも多い。


 
タラヨウ の 位 置
写真@: C5 c 標識25番の先右側に太い木が1本、
写真A: C5ac 雌株
写真B: B4 b 雄株
そのほかにも雌株3本、雄株1本がある


名前の由来 タラヨウ Ilex latifolia

タラヨウ : 多羅葉
古代インドでヤシ類の葉(貝多羅葉:ばいたらよう)が 紙の代わりに用いられていたので、それになぞらえたもの。 「バイ」は省略されている。
貝多羅葉
Wikipedia より
 
  ばいたらよう : 貝多羅葉
サンスクリット語の「pattra 木の葉」+「tala オウギヤシ」の音を漢訳した「貝多羅」に「葉」を付けたもの。 サンスクリット語では「pattra tala」だけで「多羅 葉」なのだが・・・・。  貝葉 と略称される。
  貝多羅葉の材料 :
オウギヤシ(パルミラヤシ Borassus flabelifer)や コウリバヤシ(Corypha umbraculifera)などが使われた。

乾燥漂白した葉に鉄筆で文字を書き、炭の粉を混ぜたココヤシ油で擦って着色する。
オウギヤシ コウリバヤシ

Wikipedia より
ハワイ オアフ島
ホーマルヒア植物園

種小名 latifolia : 幅の広い葉の という意味 
タラヨウは、モチノキ属の中では 幅の広い大きな葉である。

Ilex モチノキ属 :
セイヨウヒイラギ Ilex aquifolium L. のラテン名に由来する。             『園芸植物大事典』
aquifolium は凸頭葉の意味で、セイヨウヒイラギの葉の形による。
セイヨウヒイラギ

モチノキ科 : Aquifoliaceae 保留名
和名 モチノキは、モチノキの樹皮から「とりもち」を作ったことから。

学名の Aquifolium属を F. ミラーが定義したのは1754年であり、リンネの『植物の種』(1753) よりも後だ。それなのに、なぜ科名に属名の Ilex ではなくAquifolium が使われているのか。 以下のような経緯がある。

ただし、科名の命名年を知るすべがないため、科名の前後は憶測に過ぎない。二人の命名者の存命期間はほぼ同じ。

年号 学名 命名者 備考
1735  Ilex  リンネ  トゥルヌフォールが定義していたもの
1754  Aquifolium  ミラー  Ilex Linn. の異名
 AQUIFOLIACEAE  Bercht. & Persl.
 (1781-1876)
 ミラーの Aquifolium を基準属として、科名を
 立てた。これが 広く使われるようになった。
 ILICACEAE  Dumort.
 (1797-1878)
 リンネの Ilex を基準属として 科名を立てた。
 本来 こちらが命名規約に合った名だが、すでに
 知れ渡って使われていた AQUIFOLIACEAE が
 「保留名」とされた。




植物の分類 : APG II 分類による タラヨウ の位置
クロンキストの分類では、モチノキ科は ニシキギ目にあったが、APG分類では 最後に分化したグループ キキョウ群に、新しくモチノキ目(モク) として新設された。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物: ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類: ソテツ、ザミア、など
イチョウ類: イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱: コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群:
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
以前の分類場所 ニシキギ目  ニシキギ科、モチノキ科、クロタキカズラ科、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群:
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
モチノキ目  新設 ヤマイモモドキ科、ハナイカダ科、モチノキ科、など
モチノキ科  モチノキ属
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。


 
トピックス タラヨウの着葉年数

タラヨウの成長を長期間観察した尾谷氏の記述に、「開花・結実すると その年には枝が伸びない。枝は隔年で伸長する」というものがあった。「隔年」に疑問を持ったので、植物園の許可を得て 2014年、2015年に観察した。

タラヨウの花は前年枝の腋に付く。花が咲き 実が生る年には枝を伸ばさず、常緑樹の特性を使って古い葉で果実を育てる。
この戦略はタラヨウだけでなく、ほかにもモチノキ科の種を中心に行われている。
この結果、芽鱗の落ち跡を数えただけでは、何年目の枝かを見誤ることになる。

1.タラヨウの枝の伸び方
ケース F: ・ 雄株、雌株とも 開花した枝では新梢が出ない
(開花年) ・ その翌年には枝を出し、丸い腋芽を付ける
・ 例外 (開花後に枝が伸びる事)はあるが、その例は非常に少ない
ケース N:
(未開花年)
・ 先年枝に花芽ができていても、開花しないことがある
   特に北側や日陰など、成長が悪い場所に多い
開花しなければ、初夏に頂芽が伸びる
  茎頂のほかに頂側芽が複数伸びて、枝分かれすることもある
・ 必ず隔年で伸長を繰り返すわけではない。
  つまり 連続して花が咲かず、続けて枝が伸びることもある
F:Flowering 開花、N:Non-flowering
上記は「枝単位」の話で、一つの株の中に様々な状態が混在しており、状況は枝によって異なる。
隣り合わせの枝で(雌株)    2014.6.4.
   新梢が伸び出した枝   結実したために伸びない枝

2014.6.4 撮影        雌株で結実した枝 ケース      ↓左写真の部分拡大
今年結実している枝は 前年に伸びたもの(1年枝)。に芽鱗痕がある。右の写真は、1年枝に続く部分の拡大。この枝は3年前に伸び、2年前に結実・落果したもの。枝が伸びてからまる三年が経過している。
雄株でのケース  2015.1.22.
雄花の場合は、花序軸(短枝?)が比較的早くに落ちてしまうので、古い枝で葉がない場合は、二つの落ち跡が確認できれば開花したことが判る。

開花しなかったために枝が伸びた ケース
同じ枝のさらに右側。芽鱗痕2 - 3間には 丸い腋芽が「すべて」残っているので、次の年には枝が伸長したと考える。この部分は四年が経過している。
前年枝を2年枝と呼ぶことがあるが、ここでは前年枝を1年間を経た状態という意味で ”1年枝” と呼ぶ。なお、二度伸び(春の以外の時期にふたたび枝が伸びる事)は無いものとして考える。


2.観察結果
以上を前提に、休眠期である2015年1月下旬〜2月上旬に観察を行った。観察樹は A の雌株である。
もともと付いていた葉の枚数は、普通葉の落葉痕を数えた。

タラヨウの着葉年数は枝によってかなり違うが、3年から4年だった。


3.観察データ
以下に 観察データを 数例掲げる。

観察樹 A: 雌株 南側で3例とも日当たり良好 の枝
観察枝 A
1年枝 2年枝 3年枝 4年枝 5年枝 6年枝 7年枝 8年枝
 伸長年 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 備 考
 開花の有無 開花 無し 無し 無し 無し 無し 開花 無し  花は6年
 振りに開花
 枝伸びの有無 無し 伸び 伸び 伸び 伸び 伸び 無し 伸び
 元の葉の枚数 9 9 10 7 5 9  合計 35枚*
 残存枚数 7 8 4 0 0 0  残り 19枚
 年毎の残存率 78%* 2 78% 89% 40% 0 % 0 % 0 % 0 %  合計 285%
備考:  4年間付いていた葉が 40%残っている。
 *)5年間の葉の残存率は 54% (= 19/35)
丸4年間付いていた葉が 4割 で、個々の着葉期間は3年から4年以上ということになるが、途中で落ちる葉もあるので、ひとつの目安として、次の計算で年数を出した。
 枝ごとの残存率の合計= 78×2+89+40 = 285 %
  平均着枝年数 2. 9 年
*2) 枝が伸びなかった年の残存率は、便宜的にその前の年を使う

観察枝 B
1年枝 2年枝 3年枝 4年枝 5年枝 6年枝 7年枝 8年枝
 伸長年 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 備 考
 開花の有無 開花 無し 開花 無し 開花 無し 開花 無し  花は隔年
 に開花
 枝伸びの有無 無し 伸び 無し 伸び 無し 伸び 無し 伸び
 元の葉の枚数 7 8 8 7  合計 15枚
 残存枚数 7 8 1 0  残り 15枚
 年毎の残存率 100% 100% 100% 100% 13 % 13 % 0 % 0 %  合計 425%
備考:  4年間の葉が100%残っている わかりやすい例。
 5年間の葉の残存率も 100%、6年間で見ると 70%
 平均着葉年数 4.2

観察枝 D
1年枝 2年枝 3年枝 4年枝 5年枝 6年枝 7年枝 8年枝
 伸長年 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 備 考
 開花の有無 開花 無し 開花 無し 無し 開花 無し 無し  花はほぼ
 隔年に開花
 枝伸びの有無 無し 伸び 無し 伸び 伸び 開花 伸び 伸び
 元の葉の枚数 9 8 8 9 8  合計 25枚
 残存枚数 7 3 1 0 0  残り 11枚
 年毎の残存率 78% 78% 38% 38% 13 % 0 % 0 % 0 %  合計 244%
備考:  落葉の多い例。5年間の葉の残存率は 44%、平均着葉年数 2.4


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