薬草園の幼果 2012.6.5
トチュウ 杜仲
Eucommia ulmoides Oliv. (1891)
科 名: トチュウ科 Eucommiaceae
属 名: トチュウ属 Eucommia Oliv. (1891)
中国名: 杜仲 du zhong
中国名別名: 木綿、思仲
原産地: 中国、中部・南部
用 途: 樹皮は漢方薬に、若い葉は茶に使われる。雌雄異株。
特 徴: 系統図では遅くに分化したガリア目に分類されるが、両花被花が一般的な中で、雌雄共に無花被花のめずらしい種である。 1科1属1種。

昔から 薬草園の外周部(位置図 ①)に植えられているのは、樹皮が漢方薬として利用されていたからだが、近年になって、下の段 70番通りの 仮称ヤナギ池の先(位置図 ②)に何本も植えられた理由がわからない。
 
トチュウ の 位置


薬草園の4本         2023.6.24.
薬草園内から西を見ている。右手前に売店がある。筆者が植物園に通い出した 1999年には、4本ともすでに大きな木だった。
ⓐは雌株だが、それ以外の雌雄は未確認。

幹の様子
左写真の 手前がⓑ、左奥がⓒ。樹皮は縦に深く割れて残る。

樹 形    2011.3.5.
手前がⓑ、奥にⓒとⓓがある。自然樹形はもっと下枝が多い。

2014.3.12           70番通りの4本            2023.6.24
左の写真:北方向を見ている。奥に 仮称中島池がある。70番通りの左側に植えられている。まだ 芽吹き前。
右の写真:北から正門方向を見ている。この奥に 仮称ヤナギ池がある。ⓕとⓗは雌株。ⓖは雄株。
2010年には すでに高さ6mほどになっていた。なお 左右の写真のスケールは異なる。


冬 芽          2014.3.12.
前年枝の太さ 約4mm。わずかに緑色が残っていて、皮目が多い。本種は春の伸びの終了時に茎頂を脱落するが、頂側芽が発達しないのが特徴で、ほかでは見られない特殊な形態である。平らな端部は、最後の葉の落ち跡。

芽鱗のずれ 2014.4.1. 同じ芽の芽吹き 2014.4.7.
内側の芽鱗は低出葉として長く伸びる。これは葉芽のようだ。

雄花 の 開花 90番通り 樹木番号ⓖ
無花被花        2014.4.7.
混合花芽で、出葉と同時に低出葉の腋に単生する花も伸び出す。
左:まだ伸びたばかりで花粉を出していない。事典には葯は赤いとあるのに、全く赤味が無いのは 単に若いためか?
右:別の枝では赤味が差したものもあった。2014. 4.10。

前年枝            2014.4.7.
ともにから右が前年枝。中央の枝の昨年の伸びは30センチ程度で、今年 側枝が伸びる混合花芽は先から数節だけ。それより下位の腋芽は花だけをつける 純正花芽となる。
一方で、奥から伸びている下の枝はすべて葉芽で、むしろ 花のつかない枝のほうが多かった。

雌花 の 開花 薬草園 樹木番号ⓐ
雌花も無花被花         2014.4.7.
雄花と同様に、枝先の混芽の低出葉の腋に単生する。
子房は扁平で、2心皮が合着して1室となっている。2胚珠があるが種子となるのはひとつだけ。凹んだ子房の先端に、ふたつの柱頭がつく。子房には柄があるが、この写真では判りにくい。
なお 芽鱗片のうち基部の数枚以外は、芽吹き時に多少とも成長して低出葉となる。

果実の成長 薬草園 樹木番号ⓐ
成長のトチュウ              2014.4.23.
雌株でも 枝の下位では花だけがつき、短枝となる。翌年にふたたび伸びるかどうかは、未観察。
左は拡大写真だが、2胚珠のひとつだけが成長している様子がわかる。まるで稚魚のようだ。
落 果     2012.6.5. 成 長    2023.7.30.
左:うまく受精しなかったのか、多くの緑の幼果が落下する。
右:開花から2ヶ月半ほど経った果実。片側だけが膨らんでいる。

葉        2014.5.15. 参考 ソメイヨシノ
楕円形で細かな鋸歯がある。葉脈が凹む様子などは ソメイヨシノの葉に似ているが、トチュウは厚手で 托葉や蜜線はない。

落ち葉のガタパーチャ            2023.7.30.
トチュウには「ガタパーチャ」と似た天然樹脂が含まれる。
『樹に咲く花』で、葉を千切って引っ張ると「糸を引く」写真が載っていた。枝についている葉を試すには植物園の許可がいるが、落ちていた枯葉なら構わないだろうとやってみたところ、はっきりとした糸が確認できた。
葉には2%、樹皮には7%の樹脂が含まれているそうだが、効率よく採取できないために利用されていないそうだ。
「ガタパーチャ(Gutta Percha)」は、アカテツ科のグッタペルカノキ Palaquium gutta から採れる樹脂で、パラゴムノキから採れる天然ゴムよりも硬質で弾性が低い。初期のゴルフボールの芯材に使われたが、現在はカバー材に使われている。
Wikipedia より

茎頂脱落
茎頂脱落とは、落葉樹を中心に晩春あるいは初夏の「新梢の伸びの終了時」に先端が枯れ落ちる現象である。
一般的には頂芽の代わりに頂側芽(先端の葉の腋芽)が成長する。
参考 フサザクラの茎頂脱落痕

冬芽の左下が 落葉痕。

仮頂芽が代伸するが、冬芽は脱落痕を横に押しやってほぼ真っ直ぐに伸び出すため、その痕跡は年を経るとあいまいになる。


本種は、ほかでは見られない特殊な茎頂脱落の形態となる。

2014.5.15            茎頂脱落             2014.5.1
雌雄両株ともに茎頂を脱落する。新梢の成長が止まった段階では、先端の葉はまだ色が薄くて成葉になりきっておらず、頂側芽の気配もある。
冬芽の成長      2023.6.24.
頂側芽は成長せず、複数の下位の腋芽が大きくなり始めている。
1節分は 枯れ戻る
次年には、1節下の側芽が伸び出して主軸となる。この枯れ残り現象は、短い側枝でも同様に生じる。
先端の1節分が残るので、数年分の年枝境は容易に確認できる。しかし数年後には朽ちて脱落していくため、次第にわかり難くなるが、わずかな屈曲はいつまでも残る。
せっかく伸びた「1節分」を無駄にしている。なぜこのような生態となったのかは、トチュウに聞かないとわからない。



名前の由来 トチュウ Eucommia ulmoides
 トチュウ 杜仲 : 中国人名の音読み
『養命酒』のホームページに「こぼれ話」として、トチュウの名の由来が『本草綱目』に書かれている、とあったので調べてみた。

本草綱目 第21冊 (国会図書館 蔵)
赤枠の中が その記述で、左がその拡大。意味を類推すると
(時珍曰く) 晋に杜仲有り。此を服して道を得る。それが之の名の由来のようだ。思仲、思仙も 皆これによる。
李 時珍(り じちん 1518-1593)は、明時代の医師・本草学者。『本草綱目』は 1578年頃に脱稿、出版は死後の1596年。
「得道」について、養命酒のページでは「仙人の悟りを開いた」としている。別名 思仙 はこれによるものだろう。

 属名・科名 Eucommia
ギリシア語の eu 良い と kommi ゴム の合成。
本種から採れる樹脂に由来。
 種小名 ulmoides:ニレに似た の意味
粗い鋸歯があって葉脈が凹む葉と、果実の形状による。
参考:ニレ属

北海道大学植物園

Wikipedia より
左:ハルニレの葉、右:Ulmus minor の幼果



植物の分類 : APG IV 分類による トチュウ の位置
クロンキストの分類では、真生双子葉類の早い位置にトチュウ目トチュウ科として分類されていたが、APGではガリア目に含まれることになった。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
基部被子植物 : アンボレラ、スイレン、アウストロバイレア
モクレン類 : カネラ、コショウ、モクレン、クスノキ
 独立系統 : センリョウ
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ
以前の分類場所  トチュウ目  トチュウ科
中核真生双子葉類: グンネラ、ビワモドキ
バラ上群 : ユキノシタ
バラ類 : ブドウ
マメ 群 : ハマビシ、マメ、バラ、ウリ、ブナ
 未確定 : ニシキギ、カタバミ、キントラノオ
アオイ群 : フウロソウ、フトモモ、アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク上群 : ナデシコ、ビャクダン、など
キク 類 : ミズキ、ツツジ
シソ 類 : ガリア、リンドウ、ムラサキ、ナス、シソ、など
 ガリア目  ガリア科、トチュウ科
トチュウ科  トチュウ属
キキョウ類 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物(進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とする。構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではないが、なるべく近い位置に当てはめた。

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