コレクション

科 名 : ツツジ科 Ericaceae
属 名 : ツツジ属 Rhododendron Linn. ( 1753 )
植物園には各所にツツジが植えられているが、サクラ林が終わる場所、4本大楠の手前に「ツツジ園」がある。 
まず、2013年に撮影した 一部の種を掲載する。 残りは また来年に。


原産地や種類別にロープで区分けされているので、区画番号を付け 色の小見出しでリストを作った。 園内にはほかにも各所にツツジがあるが、場所別にするよりも 種類別に並べた方が分かり易いので、ツツジ園コーナーに続けて 色の小見出しで リストアップし、備考欄に場所を記載した。

ツツジの学名も難しいが、例によって まず 『GRIN』 の学名を基準に、次に『 INDEX Kew』、 さらには各種事典を参考にした。

解説については 『園芸植物大事典/小学館』(1994)のツツジ属、国重正昭/竹内照雄 両氏による記述が詳しいので 各所で引用させていただくが、遺伝子解析が進んだ現在では、分類や学名が違ってきているかもしれない。

ツツジの原種 および 園芸品種
 
ツツジ園 の 位 置
D 9 ~ D10 20番通り と 30番通りの間

ツツジ園の 区画番号
区画 ❶ 台湾産 コーナー  :サクラ林側入り口の 手
名称・花の撮影日 学 名 花 ・ 葉 備 考
ケシベツツジ
毛蘂
R. lasiostylum
(1913)
GRIN にある
ケシベツツジ
変種

ウライツツジ
烏来?
R. laslostylum
var. kanehirai
キンモウツツジ
金毛

2013.4.28
R. oldhamii
Maxim.
(1870)
GRIN にある

葉などの毛が
  黄色いため
シカヨウツツジ
志佳陽
R. sikayotaizanensis
(1939)
GRIN には無し
INDEX Kew にはある

台中 志佳陽大山で採取されたため
ナカハラツツジ
中原
R. nakaharae
(1908)
GRIN にある

記載は nakaharai
中原 げん氏を顕彰
別名:タイワンアザレア
ナンオウツツジ R. breviperulatum
(1913)
GRIN には無し
INDEX Kew にはある
R. は Rhododendronの略、  以下同様

 
区画 ❷ ヒラドツツジ コーナー  : サクラ林側入り口の手前 左側
ツツジ園の 区画番号 ❷ ヒラドツツジ
ヒラドツツジ R. x pulchrum はその名の通り 長崎県平戸市に由来する。
平戸市は江戸時代に貿易港として栄えた町であり、貿易船と共に 沖縄のケラマツツジ [R. scabrum]や 中国のタイワンヤマツツジ [R.simsii]が早くから紹介され 武家屋敷に植栽されて、日本産のモチツツジ 、キシツツジ との間で自然交雑が起こった。
その中から 1951年(昭和26年)以降に選抜されて、ヒラドツツジとして 300近い品種が命名されている。 世界中で最も大型のツツジのひとつといえる。
              『園芸植物大事典/小学館』 ヒラドツツジの要約
雑種名 pulchrum は 「美しい」の意味。

なお GRIN には、ヒラドツツジは サツキ R. indicum と リュウキュウツツジ R. mucronatum の交雑、と明記されている。
名 称 学 名 花 ・ 葉 備 考
ヒラドツツジ
園芸品種

シュンセツ
春雪
2013.4.23
R. x pulchrum
cv. Shunsetsu
R. x pulchrum は
GRINにある
ヒラドツツジ
園芸品種

センエオオムラサキ
千重大紫
2011.4.29
R. x pulchrum
cv. Sen-e-
ohmurasaki
オオムラサキツツジの八重品種

⑧:メタセコイアの前にもある
ヒラドツツジ
園芸品種

タイホウ
大鳳
2013.4.23
R. x pulchrum
cv. Taihou
 
ヒラドツツジ系 その他の場所
名称 学 名 花 ・ 葉 備 考
ヒラドツツジ
園芸品種

オオムラサキ
大紫
2009.5.5
R. x pulchrum
cv. ohmurasaki
⑤:  ⑧:
20番通り ツツジ園を過ぎて、標識23番の先 両側が、オオムラサキの植え込みとなっている。  メタセコイアの前
 千重大紫もある

 その他いたる所に
     ハナショウブ池 マツ林入口
ヒラドツツジ
平戸
( 雑種 )

2011.4.5
R. x pulchrum ⑥:
日本庭園からの階段をのぼった所

GRIN にある


 
区画 ❸ オオヤマツツジ コーナー  : サクラ林側入り口の すぐ右側
ツツジ園 の区画番号 ❸ オオヤマツツジ
オオヤマツツジの名は、過去にヤマツツジ R. kaempferi の地方変種と考えられていた事に由来する。 植物園の名札や『朝日百科/植物の世界』では R. transiens で、独立した種としている。 違いはヤマツツジの雄しべが通常5本なのに対して、(6~)10 本。
種小名 transiens は、「間種を作る」 つまり 雑種ができやすいという意味である。
名称 学 名 花 ・ 葉 備 考
オオヤマツツジ
大山

2013.4.18
R. transiens
(1922)
GRIN には無し
INDEX Kew にはある
オオヤマツツジ
品種
シロバナ
オオヤマツツジ

白花大山
2013.4.18
R. transiens
f. Shirobana-
oyamatsutsuji
花弁の先が丸い
オオヤマツツジ
園芸品種

エドハナビ
江戸花火
2013.4.28
R. transiens
cv. Edohanabi
萼が花弁と同型の二重咲き
花が多すぎて、二重の様子がわかりにくい
オオヤマツツジ
園芸品種

シラタキ
白滝
2013.4.28
R. transiens
cv. Shirataki
二重咲きだが、が「花弁化」したもので、非常に珍しい
オオヤマツツジ
園芸品種
チョウトン
朝暾
R. transiens
cv. Chôton
オオヤマツツジ
園芸品種

ニシキノツカサ
錦の司
2013.4.18
R. transiens
cv. Nishikinotsukasa
白、赤紫の単色と
絞りが枝変わりに
オオヤマツツジ
園芸品種
ニシキノツカサ
フクリン
錦の司覆輪
R. transiens
cv. Nishikinotsukasa
fukurin
オオヤマツツジ
園芸品種
ムラサキザイ
紫ザイ
R. transiens
cv. Murasakizai
オオヤマツツジ
園芸品種
ヤマンバ
山姥
R. transiens
cv. Yamanba
 
オオヤマツツジ系 その他の場所
名称 学名 花 ・ 葉 備考
オオヤマツツジ
園芸品種
アスカガワシボリ
飛鳥川絞
R. transiens
cv. Asukagawashibori
10番通り 左側
イロハカエデ並木
オオヤマツツジ
園芸品種

アスカガワ
飛鳥川
2013.4.13
R. transiens
cv. Asukagawa
⑧:70番通り
  メタセコイアの前
オオヤマツツジ
園芸品種

ハツシモ
初霜
2013.4.13
R. transiens
cv. Hastushimo
⑧:70番通り
  メタセコイアの前

飛鳥川と隣り合わせ

 
区画 ❹ モチツツジ コーナー  : サクラ林側入り口の すぐ左側
ツツジ園 の区画番号 ❹ モチツツジ
モチツツジの名は、葉や萼などに腺毛があって ネバネバする事に由来する。

しかし 種小名の macrosepalum はその特徴を捉えたものではなく、「萼片が長い」という意味である。
名称 学名 花 ・ 葉 備 考
モチツツジ
R. macrosepalum
(1870)
GRINにある

正門右手 フェンスにも
モチツツジ
変種

シロバナモチツツジ
白花黐
2013.4.28
R. macrosepalum
var. leucanthum
変種名 leucanthum は「白花の」の意味

花冠中央の斑紋は 濃い黄緑色
モチツツジ
変種

アワノモチツツジ
阿波の黐
2013.4.28
R. macrosepalum
var. decandrum
変種名 decandrum は「雄しべが十本の」の意味
通常のモチツツジ系は五本
モチツツジ
園芸品種

フイリモチツツジ
斑入り黐
R. macrosepalum
cv. Varieratum
モチツツジ
園芸品種

ホシグルマ
星車
R. macrosepalum
cv. Hoshiguruma
モチツツジ
園芸品種

シデグルマ
四手車
R. macrosepalum
cv. Shideguruma
モチツツジ
園芸品種

ギンノサイ
銀の「サイ」
2013.4.23
R. macrosepalum
cv. Ginnosai
「サイ」の字は、「摩」の手が毛で、漢字一覧表に無かった 
「サイ」は 鷹匠が昔合図に使った道具と言われ、戦国時代の「采」「采配」(右図)と同じような物だと考えられる。

「サイ咲き」「采咲き」(さいざき)は、細長く変化した花弁を 采配の「房」に見立てたもので、「紙垂」「四手」(しで)と同じである。             (図は Wikipedia より)
モチツツジ
園芸品種

セイカイハ
青海波
2013.4.23
R. macrosepalum
cv. Seikaiha
モチツツジには、花弁や葉が細い品種がいくつもある。
モチツツジ
園芸品種

コチョウゾロイ
胡蝶揃
R. macrosepalum
cv. Kochouzoroi
モチツツジの特徴である長い萼に、多くの毛がある
 
モチツツジ系 その他の場所
モチツツジ
園芸品種

ハナグルマ
花車
R. macrosepalum
cv. Hanaguruma

③:メインスロープ上部
 

 
区画 ❺ 琉球ツツジ コーナー  : サクラ林側入り口の 左手
ツツジ園 の区画番号 ❺ リュウキュウツツジ
リュウキュウツツジの名は、沖縄諸島に由来するものだが、本州や四国にもあるようだ。 GRIN では、独立した種となっているが、以前はモチツツジとの雑種と考えられていため、小石川植物園の名札は R. x mucronatum である。
モチツツジと同様に新芽などに腺毛があり、近縁と考えられている。

種小名 mucronatum は、「微凸頭の」。 おそらく 葉の形状を捉えたものだと思うが、はっきりしない。
名称 学名 花 ・ 葉 備考
リュウキュウツツジ
琉球
R. mucronatum
(1834)
 園には植栽無し GRIN にある
キシツツジ
R. ripense
(1908)

R. mucronatum
var. ripense
GRINでは リュウキュウツツジの変種

和名は、川岸に生えるところから
リュウキュウツツジ
園芸品種

シロリュウキュウ
白琉球
R. x mucronatum
cv. Shiroryukyu
リュウキュウツツジ
園芸品種

シラユキ
白雪
2013.4.28
R. x mucronatum
cv. Shirayuki
ヒラドツツジ
園芸品種

ユキドウジ
雪童子
2013.4.28
R. x pulchrum
cv. Yukidouji
ヒラドツツジ系が紛れ込んでいる

確かに雰囲気が違う
リュウキュウツツジ
園芸品種

ナンキンムラサキ
南京紫
2013.4.28
R. x mucronatum
cv. Nankinmurasaki
リュウキュウツツジ
園芸品種

キョウカノコ
京鹿の子
2013.4.28
R. x mucronatum
cv. Kyoukanoko
大きく絞りがはいったもの以外に、ほぼピンク一色や赤紫もある
リュウキュウツツジ
園芸品種

オビキシボリ
尾引絞
R. x mucronatum
cv. Obikishibori
リュウキュウツツジ
園芸品種

フジマンヨウ
藤万葉
2013.4.3
R. x mucronatum
cv. Fujimanyo
雄しべが
   花弁化したもの
花弁は5枚
 
リュウキュウツツジ系 その他の場所
名称 学名 花 ・ 葉 備 考
リュウキュウツツジ
園芸品種

セキデラ
関寺
2013.4.28
R. mucronatum
cv. Sekidera
20番通り沿い。 ツツジ園入口よりも手前
リュウキュウツツジ
園芸品種

ウスヨウ
薄葉
2013.4.28
R. x mucronatum
cv. Usuyou
20番通り沿い。 ツツジ園入口よりも手前


名前の由来 ツツジ Rhododendron

ツツジ属・科 躑躅 : 
まず 漢字の「躑躅」は ツツジに漢名のひとつを当てただけで、ツツジの直接の由来ではない。平安前期から使われ始めたそうだ。

「躑躅 てきちょく」の意味は 「躊躇する、足踏みする」であり、本来 中国に自生して猛毒のある「シナレンゲツツジ 羊躑躅」のことを指す。羊がこの葉を食べてもがいて死んだという話、あるいは食べるのに躊躇するため、とされる。
ツツジの由来には様々な説がある。
『語源辞典』の吉田金彦氏は それを一つに絞らず、①ツヅキサキキ(続き咲き木)、②ツヅリシゲル(綴り茂る)、に加えて、中国の「躑躅 teki-tchok 」が伝わってさらに変化した朝鮮語の ③ tchyok-tchyok あるいは tchol-tchuk という言葉も伝来していただろう事を重ね合わせて以下のように推定している。

「ツツジが次々と咲いて 群がっている」様を、” ツドウ 集う ” の語根 ” ツ 処 ” を重複させた「ツツ」に、似たようなものを表す接辞語” ジ ” を付けた語となった。

Rhododendron 属 : バラの木 の意味
ギリシア語の rhodon バラ + dendron 木 から、ということだが、バラにも紅白その他いろいろあるので、一概に赤い花とは限らないだろうが、つつじ色と言えば、少し紫を帯びた鮮やかな赤を指す。当然のことながら一重の花。
つつじ色の オンツツジ

Ericaceae
ツツジ科の基準となる属が Erica属で、科名は Ericaceae である。
erica の由来は、ギリシア語の ereiko 破る ということだが、ツツジ類で「破る、破れる」といえば、果実だろうか?
なお、中国のツツジ科は 杜鵑花科である。「杜鵑 du juan」 はホトトギスで、5月頃「ホトトギスが鳴くころに咲く花」の意味。



植物の分類 : APG II 分類による ツツジ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
以前の分類場所  ツツジ目  キリラ科、ツツジ科、リョウブ科、イチヤクソウ科、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
 ツツジ目  サガリバナ科、ツバキ科、カキノキ科、ツツジ科、エゴノキ科、など
ツツジ科  ホツツジ属、エリカ属、ネジキ属、アセビ属、ツツジ属、など多数
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ