セイシカ 聖紫花
Rhododendron latoucheae Franch.
             (1899)
科 名 : ツツジ科 Ericaceae
属 名 : ツツジ属 Rhododendron Linn.
(1753)
中国名 : 西施花 xi shi hua
原産地 : 沖縄(石垣島、西表島)、台湾、中国
備 考 : ツツジ園内
用 途 : 園芸種の開発が期待されている

ツツジ園には様々な品種がそろっているので、いずれツツジ・コレクションとして一覧にまとめたいと思っているが、セイシカは 名前が気になって調べてみた。

樹 形            2008.5.4.
常緑の低木で 原産地の自然状態では 5mまで大きくなり、時に10mになるものまであるそうだ。植物園では 約3m。

2000.5.3             同じ木の12年後            2012.11.14
の木は、12年経っている割には それほど大きくなっていない。
すぐ奥の株立ちの木は 1mぐらいだったのが 2mになっている。

柵内に 3株

幹の様子
高さ1.8mの所、太さは4センチ弱。非常に細かくひび割れる。

葉         2012.11.14.
皮質の葉は 8~10センチ。厳密には互生だが 見た目には輪生のように枝の先に付く。葉柄が赤い。

冬 芽        2012.11.14.
来年花が咲くとすれば、周囲の6つが花芽で 中央の小さな芽(カーソルを乗せると印)から 枝葉が出る。

中心の新葉が先に展開      2011.5.4.
緩むのは同時だが、真っ赤な葉の方は枝が急に伸び出し、常緑の葉をバックにして映える。その足元を取り囲んで花が咲くと、いっそう華やかになる。

ひとつの花芽に ひとつの花    2011.5.4.
茶色の芽鱗の中から さらなる苞に包まれた花が ひとつ咲く。とても良い香り。
淡いピンクの花       2008.5.4.
花冠(花弁)の上側内面に付く斑点は、咲いた直後だけ 左下のように赤いが、すぐに黄茶色になってしまう。

徒長枝    2000.5.3. 一年間の伸び  2012.11.14.
成長モードの時は、花を咲かせずに すべての芽が枝葉となる。前年の葉は ユズリハ状態。古い写真で 色が良くない。(左)

花を咲かせる場合は 中央の一本だけが伸びる。一年で伸びる長さは、10~15センチ。(右 ▼▼間が一年)

実の様子       2012.11.14.
柱頭を付けたまま 子房が細長く伸びる。

果実の裂開       2012.11.14.
極小さい種子で、すでにこぼれてしまっている。

赤くなった葉       2012.11.14.
秋になって、まだ10度以下になっていないのに 赤くなる葉もある。下の真っ赤なものは 昨春の葉で、紅葉してもうすぐ落ちる。1年半の寿命が分かり易い。

 
セイシカ の 位 置
D10 a ツツジ園内

名前の由来 セイシカ Rhododendron latoucheae

セイシカ 聖紫花 :
『植物の世界』には「花が清楚で美しいことからこうよばれたという」とある。すでに江戸時代に、幻の花として八重山列島から持ち出されて珍重された、とあるので 日本で付いた名前のようだ。
それにしては漢字の音読みで、第一、花の色は紫ではない。
 
西施花 xi shi hua
インターネット上のデータベース『Flora of China』でのセイシカの中国名は「西施花」である。
セイシカは福建省・湖南省など 中国の中南部が自生地となっている。いつの時から 西施花 の名が使われているのか不明だが、もし昔からの名だとすると、セイシカ は漢名の音読みで、聖紫花は後から当てた字となる。
魚が泳ぎを忘れるほどの美人であった? 西施 の名の方が、紫の聖人・聖なる紫の花よりも似合っている。
latoucheae : 由来や意味は不明
属名や種小名のほとんどを網羅している 牧野富太郎の『植物学名辞典』にも載っていない。
命名者は フランスの植物学者 フランチェット(1834-1900) である。
フランチェットは 同世代であった デビット(1826-1900)、デラバイ(1834-1895)、ファーグス(1844-1912)らが収集した植物や標本などをもとに、中国と日本の植物誌を進展させた。
Wikipedia より
学名の綴りの語尾に -eae が付くのは「亜科」なので、latouche あるいは latoucha にような、という意味かも知れない と思って検索した結果、以下のことが分かった。
フランチェットが セイシカ を記載したのは『フランス植物学会(協会?)会報』の 46号 210ページだが、同じ号の 212ページに Latouchea fokienensis を リンドウ科の 新属 新種として発表している。
『Kew/The plants List』や『Flora of China』では承認された種であるが、『GRIN』には無い。その姿は、
匙葉草
中国名は「匙葉草」で、地面から葉を出す形となっているが、残念ながら セイシカとの共通点は見いだせない。

強いて言えば、葉が輪生状になるところか。
セイシカの種小名として、「匙葉草属に似た」という意味で latoucheae を付けたのは間違いなさそうだが、真意は分からずじまいである。
 
Rhododendron 属 : バラの木 の意味
ギリシア語の rhodon バラ + dendron 木 から、ということだが、バラにも紅白その他いろいろあるので、一概に赤い花とは限らないだろうが、つつじ色と言えば、少し紫を帯びた鮮やかな赤を指す。当然のことながら 一重の花。
つつじ色の オンツツジ
ツツジ属・科 躑躅 : 
まず 漢字の「躑躅」は ツツジに漢名のひとつを当てただけで、ツツジの直接の由来ではない。平安前期から使われ始めたそうだ。
「躑躅 てきちょく」の意味は 「躊躇する、足踏みする」であり、本来 中国に自生して猛毒のある「シナレンゲツツジ 羊躑躅」のことを指す。羊がこの葉を食べてもがいて死んだという話、あるいは 食べるのに躊躇するため、とされる。
ツツジの由来には様々な説がある。
『語源辞典』の吉田金彦氏は それを一つに絞らず、①ツヅキサキキ(続き咲き木)、②ツヅリシゲル(綴り茂る)、に加えて、中国の「躑躅 teki-tchok」が伝わってさらに変化した朝鮮語の ③ tchyok-tchyok あるいは tchol-tchuk という言葉も伝来していただろう事を重ね合わせて以下のように推定している。

「ツツジが次々と咲いて 群がっている」様を、” ツドウ 集う ” の語根 ” ツ 処 ” を重複させた「ツツ」に、似たようなものを表す接辞語 ” ジ ” を付けた語となった。

Ericaceae :
ツツジ科の基準となる属が Erica属で、科名は Ericaceae である。
erica の由来は、ギリシア語の ereiko 破る ということだが、
ツツジ類で「破る、破れる」といえば、果実だろうか?
なお、中国のツツジ科は 杜鵑花科である。「杜鵑 du juan」 はホトトギスで、5月頃「ホトトギスが鳴くころに咲く花」の意味。



植物の分類 : APG II 分類による セイシカ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
以前の分類場所  ツツジ目  キリラ科、ツツジ科、リョウブ科、イチヤクソウ科、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
 ツツジ目  サガリバナ科、ツバキ科、カキノキ科、ツツジ科、エゴノキ科、など
ツツジ科  ホツツジ属、エリカ属、ネジキ属、アセビ属、ツツジ属、など多数
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

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