ウコギ 五加木
Eleutherococcus sieboldiana Koiz. (1839)
← Acanthopanax sieboldiana Makino (1898)
別 名: ヒメウコギ
科 名: ウコギ科 Araliaceae (1789)
属 名: ウコギ属 Eleutherococcus
        Maxim. (1859)
中国名: 五加 wu jia
ただし データベース「Flora of China」に E. sieboldiana は載っていない。
原産地: 中国とされている。 日本では雌株だけが栽培され、全国で野生化している
用 途: 古くに薬用として中国から渡来。若芽が食用になり、刈り込みに耐えるために、戦後まで 生垣に用いられた。

小石川植物園では売店前の「薬草園」と売店の先の「分類標本園」に植えられている。近年まではウコギ属といえば Acanthopanax だった。これを保留名として残すことも検討されたが認められず、現在は Eleutherococcus属 が使われている。
2012.9.25 2022.7.17
左:薬草園。名札の後ろに叢生しているのがウコギ。
右:分類標本園。別名のヒメウコギとなっているが、両方とも、学名は今も変えられていない。

樹 形

2014.5.20 薬草園

分類標本園 2022.7.17
左:薬草園の撮影は10年近く前だが、適宜剪定されるのと、落葉低木でさほど大きくはならず、2m程度。株元から次々と新しい茎を出して叢生する、それぞれの茎の寿命は長くはない。
ウコギの左には ウド、タラノキと、ウコギ科の植物が並ぶ。
右:標本園は畝の幅が狭く、刺が通路に伸びると危ないために、常に剪定されている。こちらも高さは2m程度。右後ろの大きな木はタラノキ。
株 元        2022.7.17.
薬草園の株。横に広がっており、さらに少し離れた所に、根から伸び出したひこばえが見られた。

長枝 と 短枝
1年目の枝(長枝)には「互生」につく
2013.10.19
株元                   枝先→
中央の白い枝が今年枝(1年生枝)で、葉(5出複葉)が互生についている。トップの写真は枝をアップにしたもの。
2年目以降はイチョウのように、短枝に葉がつく。
今年枝(1年生枝)につくトゲ
2013.7.17 2012.9.15
トゲがつくのは長枝の葉の基部。事典では1本の写真を見かけるが、この個体の多くは3本で、2本のこともある。枝の先の方では1本になることが多い。托葉が変化したものと思われるが、メギの刺ように第1葉が変化した可能性もある。
最初の冬芽 2年生枝の芽吹き
2012.3.7 2012.4.1
長枝にできた初めての冬芽。落葉痕は冬芽を囲むV字形となる。
束生する葉
2012.9.25
3年生枝。分枝が少なくても、毎年ほぼ同じ位置に多くの葉をつけることができる。
短 枝        2014.5.20.
4年か5年生枝で、短枝は2~3年分。
短枝の長枝化      2014.5.20.
この主軸が何年目のものかはっきりしないが、短枝の頂芽が勢いよく徒長したもの。3年目には伸び出すことがあることを確認した。このため、イチョウのような「長い短枝」はできない。
五出 掌状複葉       2013.7.17.
5小葉の掌状複葉は、互生につく長枝では大きく、束生する短枝のもの(中央部)は小さい。
小 葉
葉柄は長い。大きな葉の小葉にはごく短い「小葉柄」があるが、束生する小形の葉(写真右)にはほとんど無い。

花 と 実
花 序         2015.4.30.
短枝の茎頂につき、長い花梗をもつ散形花序。
蕾         2013.4.23.
萼片と花弁の数は同じで、この花序ではほとんどが6個だが、5個の小花も多い。
開 花          2015.5.8.
この花序には5数性の小花が多い。花序の周辺から開花していき、中央部には開きかけの蕾がある。開花直後は「雄性期」で、黄色い葯が花粉を出しているが、柱頭は閉じている。周辺の黒い葯の小花は「雌性期」で柱頭が開いている。
雌性期          2015.5.8.
雌しべの周位の花盤の密は、雄性期にも分泌されているようだ。
幼 果         2014.5.20.
結実性は非常に高い。最後は黒く熟すが、その様子は撮っていない。 さらには、雄株無しでできた果実の種子が発芽するのかどうかも未確認。


 
ウコギ の 位 置
 E12 a    薬草園、ほぼ中央
 E10 c    分類標本園、中央部からすぐの右側


名前の由来 ウコギ Eleutherococcus sieboldiana

 ウコギ 五加木:
中国から渡来したとされ、中国名「五加」に 木 を付けたもの読み。ところが、
現在でも中国ではウコギ属は「五加属 wu jia shu」だが、米国ケンブリッジ大学のデータベース「eFloras」の中の中国植物『Flora of China』には本種が見当たらない。
また、筆者が学名の拠り所としている GRIN-Global の本種の「分布」は、栽培地:日本 とあるだけで、原産地が示されていない。
 別名 ヒメウコギ:
同属の ケヤマウコギ、別名オニウコギ に較べて、全体に小振りであるため。
 Eleutherococcus 属:
ギリシア語で Eleuthero は 独立した、coccus は 漿果。
命名者はロシアのマキシモウィッチ (1827-1891)。
なぜこの属名としたかの確証はないが、その推論は「命名物語」で行う。
Wikipedia より
 種小名 sieboldiana :
シーボルトを顕彰したものだが、シーボルトがウコギを観察・採取に関与したものか?
この検証も 「命名物語」で行う。
 科名 ウコギ科 Araliaceae nom.cons.
ウコギ科の基準属 Aralia はタラノキ属である。日本にも自生するのに、なぜタラノキ科としなかったのかは不明。
『植物學名辞典/牧野』によると、Aralia はカナダでの「ツタ」のフランス語名 aralie から付けられた、とある。
命名者はジュシュー(1748-1836)で、古くに保留名となったようだが、除外された元の科名はわからない。


 
ウコギ属 Eleutherococcus および
  ウコギ E. sieboldiana の命名物語

ウコギ属の学名は長らく Acanthopanax だった。
現在の学名との関係を考えるために、ウコギ科のほかの属名とウコギの命名の経緯を調べた。
は正名、 は異名
内は 推定事項
  肖像写真は Wikipediaより
  図版は、Biodiversity Heritage Library より

 
属名 Eleutherococcus の命名経緯
まず マキシモウィッチが記載した属名 Eleutherococcus の命名年である1859年以前の、ウコギ科の属名について調べてみた。

『植物の種』以降の出版、記載  基準日:1753年5月1日
植物の名前を「属名と種小名」で表す「二名法」は古くから使われていたものの、一般には形容詞を列記する自由な形で記載されていた。
リンネの『植物の種』が学名の出発点として選ばれた最大の理由は、記載したすべての種に「二名法」による学名を付けたことである。
それ以前に発行された書物の記載は、学名の対象とはならない。
学 名 命名者 属 名
1753  Panax 属  リンネ  トチバニンジン属
リンネは『植物の種』(第1版)に3種を記載したが、そのうち2種は現在でも正名で、ともに北米原産。散形または複散形花序で両性花。
 Aralia 属  リンネ  タラノキ属
同書に北アメリカ産3種、アジア産1種を記載。複散形花序で、上部に両性花の花序、下部に雄花序をつけることが多い。
 Hedera 属  リンネ  キヅタ属
同書に H. herix セイヨウキヅタを記載。
散形または複散形花序で両性花。
1854  Fastia 属  ドケーヌ & プランション  ヤツデ属
フランス国立園芸協会の機関誌『Revue Horticole』の シリーズ4. 第3巻、105ページに、ツュンベリーの Aralia japonica を新属に訂正。複散形花序で、上部に両性花の花序、下部に雄花序をつけることが多い。
 Dendropanax 属  ドケーヌ & プランション  カクレミノ属
同書 107ページに、リンネの Aralia arborea その他を新属に訂正。散形または複散形花序で、両性花だけの花序と雄花が混ざる花序がある。
1856  Hedera senticosa  ルプレヒト、マキシモ.  エゾウコギの異名
『Bulletin de la Class Physico-Math. de l'Academie Imperiale des Sciences de Saint-Petersbourg 15巻』p.134。
1859  Eleutherococcus  マキシモウィッチ  ウコギ属
 Eleutherococcus senticosus  エゾウコギ
『Primitiae Florae Amurensis』p.132。新たに属をたてて ①を訂正。
ウコギは雌雄別種で、花序がひとつだけの散形花序。
ウコギ属以前の各属は複散形で、両性花または雌雄同株であることが多いので、マキシモウィッチがその点に注目したのではないかと、いくつかのウコギ科の属について調べてみたが、肝心の 彼が新属として記載した「エゾウコギ」は、
 ・複散形花序
 ・雌雄同株
 ・上部に両性花の花序、下部に雄花序をつける
という、ヤツデと同じ構造の花だった。
マキシモウィッチが新しいウコギ属の名に「独立した 漿果」という名をつけたのは、自身も関係して3年前に記載した、キヅタ属/エゾウコギ① をウコギ属に訂正するにあたって、キヅタ属との花の違いに注目したためだった。
キヅタの花 両性花 エゾウコギ

2014.11.9

Flickr creative commons / by Tatters
キヅタ属は両性花、これに対してエゾウツギは、上部に両性花の花序、下部に雄花序をつけることが多いため「複散形花序の中で、果実となる花序がひとつだけ独立している」ということだと考えられる。



属名 Acanthopanax の命名経緯
次に、現在は Eleutherococcus の異名となっている Acanthopanax 。
命名にはヤマウコギが関係している。番号①~ は 前表とは異なる。

学 名 命名者 属名・和名 など
1781  Panax spinosa  リンネの息子  ヤマウコギの異名
『Supplementum Plantarum Systematis Vegetabilium Ed. 13, Generum Plantarum Ed. 6, et Specierum Plantarum Ed. 2』p.441。父リンネの書物の「補遺」で、P. spinosa (正しくは spinosum) はチュンベリーの資料に基づくとあり、『日本植物誌』(1784)よりも前に記載したもの。異名だが、日本固有種を記載することになった。
1784  Aralia pentaphylla  ツュンベリー  ヤマウコギを記載
『日本植物誌』p.128。タラノキ属として記載。そこには和名として「Wu Ko Gi、Kioh、Dara」がある。①に先を越されたうえに、種小名に①とは別の名をつけたために、有効な命名とはならなかった。
1859  Eleutherococcus  マキシモウィッチ
  
 ウコギ属
 Eleutherococcus senticosus   エゾウコギ
『Primitiae Florae Amurensis』p.132。新属の定義。
1863  Acanthopanax  ミクェル
 
 ウコギ属の異名
 Acanthopanax spinosum   ヤマウコギの異名
マキシモウィッチの記載の4年後、当時 ユトレヒト大学植物学教授のミクェル(1811-1871) が、『Annales Musei botanici lugduno-batavi ライデン王立植物標本館紀要』第1巻、p.10 に記載した。
①(=②) をまとめて訂正したもの。
すでに属名が決められているのに新たに対抗する形で新属をたてる。それは18世紀には当たり前の事だった。当時はようやく命名法制定のための会議は行われていたが、まだ規約は確立していなかった。初めての「国際規約」の発行は1867年だった。ほかにも、
ロシア サンクトペテルブルクで発行され ③が記載された本よりも、ライデンのミクェル教授の影響の方が強く、Acanthopanax がウコギ属として広まった。そして もうひとつ、
『植物の種』『植物の属』でリンネが Panax (ギリシア語で 全てを治す、万能薬の意) を定義して以来、ウコギ科の属名として様々な
~panax が命名されていた。このためEleutherococcus よりも、Acanthopanax「トゲのあるpanax」の方が受けがよかった。
などが考えられる。
Panax quinquefolius/Wikipedia
アメリカニンジン
1980年頃に、さかんに Eleutherococcus への変更が行われている。
『園芸植物大事典』1988 のウコギ属は Acanthopanax、『植物の世界』1987では Eleutherococcus(=Acanthopanax) となっている。その頃までは使われていたということだ。
そして2005年以降に、Acanthopanaxを保留名にする提案がなされたが、認められなかった。



ウコギの命名物語
ウコギの元の学名 Acanthopanax sieboldiana は牧野富太郎の命名で、シーボルトを顕彰したものである。なぜ牧野はシーボルトの名を付けたのか?
はたして、シーボルトがウコギに関与していたのだろうか?
番号は 前表と共通で、関係する種について掲載の重複がある。

学 名 命名者 属名・和名 など
1781  Panax spinosa  リンネの息子  ヤマウコギの異名
『Supplementum Plantarum Systematis Vegetabilium Ed. 13, Generum Plantarum Ed. 6, et Specierum Plantarum Ed. 2』p.441。
1784  Aralia pentaphylla  ツュンベリー  ヤマウコギを記載
『日本植物誌』p.128。タラノキ属として記載。そこには和名として「Wu Ko Gi、Kioh、Dara」がある。①に先を越されたうえに、種小名に①とは別の名をつけたために、有効な命名とはならなかった。
1845
または
 Aralia pentaphylla  シーボルト
  & ツッカリーニ
 ヤマウコギ か?
  実際は ウコギ だった
1846
『Florae Japonicae familiae naturales 日本植物誌分類大綱』②と同名。
1859  Eleutherococcus senticosus  マキシモウィッチ  ウコギ属 エゾウコギ
『Primitiae Florae Amurensis』p.132。新属の定義。
1863  Acanthopanax  ミクェル
 
 ウコギ属の異名
 Acanthopanax spinosum   ヤマウコギの異名
『Annales Musei botanici lugduno -batavi ライデン王立植物標本館紀要』第1巻、p.10 。①(=②) をまとめて訂正したもの。
学 名 命名者 属名・和名 など
1898  Acanthopanax sieboldianus  牧野富太郎   ウコギの異名
『The Botanical Magazin, Tokyo 植物学雑誌』第12巻、英語の記載。
1939  Eleutherococcus sieboldianus  小泉   ウコギ
『Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 日本植物分類学会誌』第8巻。
答えは牧野の論文⑤にあった。後半に解説があり、シーボルトの❶の記載は「ウコギ」だったというもの。以下はその概要。
本種は日本では一般的なもので、雄株は知られていない。
日本のほかのウコギ属の植物はすべて「子房が2室」だが、本種は 5~7室。
ツュンベリーが記載した②は2室であり、シーボルトが同じ名称 Aralia pentaphylla の名で記載した❶は5室だった。このため両者は別種で、シーボルトの記載は 本種ウコギ だった。
牧野は Eleutherococcus属は雌雄同株、 Acanthopanax属は雌雄異株と考えていたようで、「本種は両者をつなぐものになるだろう」と記している。
結果的に両者は同属としてまとめられ、現在は、先取権のあるEleutherococcus が属名となっている。



植物の分類 : APG IV 分類による ウコギ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
基部被子植物 : アンボレラ、スイレン、アウストロバイレア
モクレン類 : カネラ、コショウ、モクレン、クスノキ
 独立系統 : センリョウ
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ
中核真生双子葉類: グンネラ、ビワモドキ
バラ上群 : ユキノシタ
バラ類 : ブドウ
マメ 群 : ハマビシ、マメ、バラ、ウリ、ブナ
 未確定 : ニシキギ、カタバミ、キントラノオ
アオイ群 : フウロソウ、フトモモ、アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク上群 : ナデシコ、ビャクダン、など
キク 類 : ミズキ、ツツジ
シソ 類 : ガリア、リンドウ、ムラサキ、ナス、シソ、など
キキョウ類 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
 セリ目 セリ科、ウコギ科、トベラ科、ほか
 ウコギ科 タラノキ属、ウコギ属、ヤツデ属、ハリギリ属、トチバニンジン属、
後から分化した植物(進化した植物 )           

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