ツルウメモドキ 蔓梅擬き
Celastrus orbiculatus Thunb. (1784)
科 名 : ニシキギ科 Celastraceae
属 名 : ツルウメモドキ属 
Celastrus Linn. (1737)
原産地 : 日本。朝鮮半島、千島列島南部
英語名 : Oriental bittersweet
備 考 : 雌雄異株でつる性
観賞用、花材に栽培される。
茎の繊維が丈夫でしなやかなため、薪などを縛るのに使われた。

生け花の材料として よく見かける実。植物園では分類標本園に植えられている。

樹 形           2000.5.21.
毎年剪定される株からツルが伸び出した状態。雌株と雄株は間近に植えられていて、ツルは交錯する。 古い写真で発色が良くない。
長く伸びるツル(栄養枝)には 花が付きにくい。纏い付く樹木などがあると十数メートルになるが、単独では「低木」状態となる。筑波植物園や目黒の自然教育園には「幹」の太さ 10センチ以上の大木がある。ともに 国立科学博物館の付属施設。

筑波植物園の ツルウメモドキ!   2011.6.4.
分類標本園で見慣れていた目には、とても同じ種とは思えない太さ。
自然教育園の 幹の様子     2012.11.4.


新緑の様子        2007.5.19.

雌株の枝の様子         2013.5.6.
昨年の枝から 比較的短い側枝が出て、その葉腋、場合によっては「芽鱗の腋」に多くの花序が付く。雄株も花の付き方は同じ。

雄 花          2013.5.6.
雌花に較べて、雄花の小花の数は多い。

雄花 と 萼         2013.5.6.
萼もちゃんとあるが、花全体が緑色なので 目立たない。

雌 花         2013.5.6.
白い柱頭は3裂。雄しべもあるが退化している。

幼 果        2007.5.19.

丸くなった果実       2007.6.3.

黄色く色付いてきた果実    2008.10.5.
すでに朱色の実が見えるが、熟して色付くのではなく、果皮が裂けて中の仮種皮(かしゅひ)が露出したもの。
2008.11.2.
花弁などは5数性だが、子房は3室。仮種皮については後半に。

 
ツルウメモドキ の 位置















アオカズラ 





 


分類標本園:  売店側から 13列目 左側

名前の由来 ツルウメモドキ Celastrus orbiculatus
 和名 ツルウメモドキ : つる性の梅擬き
「真っ赤な果実が葉腋に群がってつく様子をウメモドキにたとえて名づけられた」『植物の世界/朝日百科』とあるが、ひいき目に見ても、ウメモドキには似ていない。
一般の人に馴染みのない植物を引き合いに出したのでは (元にしたのでは)、和名として受け入れられない という事情もあるのだろう。
 ← ウメモドキ 梅擬き Ilex serrata
モチノキ科モチノキ属の落葉低木。
2000.6.4   雌花     ウメモドキ     果実  2010.10.8
葉腋に付く実が落葉後も残るところだけは似ているが、実のサイズが小さく赤の色も違う。
 種小名 orbiculatus : 円形の
果実の形を表している。
ムレイがツュンベリーの原稿 articulatus を元に、2文字を変更して名付けたと考えられる。
 属名 Celastrus :ツルウメモドキ属
セイヨウキヅタの古代ギリシア名 Kelastros から転用されたもの。keias は「後半の季節、晩期」の意味で、両者の実が晩秋から初冬にかけて樹上に残ることに由来するようだ。
 ニシキギ科 Celastraceae :
ニシキギ 錦木 は秋に真っ赤に紅葉するところから。
ニシキギ   2001.12.1.
科の和名は ニシキギだが、基準となる属は 本属 (ツルウメモドキ属 Celastrus属)である。


 
ツルウメモドキ の命名物語
は正名、 は異名、
図版は主に Biodiversity Heritage Library より

『植物の種』以降の出版、記載  基準日:1753年5月1日
学 名 命名者 備 考
1753  Celastrus  リンネ  ツルウメモドキ属
Carl von Linné (1707-1778) は、スウェーデンの博物学者、植物学者。

以下 略
5種を記載したが、C. scandens 1種は 現在もそのまま有効。
『Flora Japonica 日本植物誌』の出版を準備していたツュンベリーは、師であるリンネの著作『自然の体系 Systema Naturae』の改訂版『植物分類体系 Systema vegetabilium』第14版を発行しようとしていたムレイに、自分の原稿の引用を許可した。
ムレイによる発刊が『日本植物誌』よりも少しだけ早かったために、命名規約上の 先取権 は彼のものとなったが、ツュンベリーの研究成果であることは明らかであるため、命名者の標記を
  Thunb. ex Murray
とすることが通例となっている。
学 名 命名者 備考、種小名の意味
1784  Celastrus orbiculatus  ムレイ  正名、円形の
5月

6月
Johan Andreas Murray (1740-1791) はスウェーデン生まれ、ドイツの植物学者、薬学者。ウプサラ大学で学び、リンネの講義も受けたことがある。ドイツのゲッティンゲンに移り、大学教授や植物園長を務め、薬用植物を研究して多くの著作を残した。本種を記載したのは『リンネの植物分類体系 Caroli a Linné equitis Systema vegetabilium』第14版 237ページ。 Murray

以下 略
Celastrus属 17種のうち、第8~11種の4種はツュンベリーの原稿を元にしたもので、緑の下線部にツュンベリーの名が記されている。またムレイは、前書きでもツュンベリーへの謝辞を述べている。
4種とも「inermis 刺が無い」種であるために、第12種以降の「spinis 刺のある」種の前に挿入したが、掲載順序は『日本植物誌』と同じである。説明文は同書のそれぞれ冒頭部分2行程度を書き写している (次に掲げるツュンベリー本文参照)。
ツュンベリーの種小名「articulatus」をムレイが「orbiculatus」に変更した理由はわからない。写し間違いということは考えにくい。
種小名を変更したことによって C. orbiculatus が正名となったが、元の名はツュンベリーが付けたことが明らかなので、命名者は ムレイではなく、ツュンベリーとされている。本種に関しては、筆者が参考にしているGRIN*注) では、「ex Murray」 も付いていない。
注) GRIN:アメリカ農務省のデータベース
学 名 命名者 備考、種小名の意味
1784  C. articulatus  ツュンベリー  異名、関節のある
8月
Carl Peter Thunberg (1743年-1828) はスウェーデンの植物学者、医学者。ウプサラ大学でリンネに学び、南アフリカ喜望峰や日本の植物をリンネの分類法で記載して、今でも 多くの種に命名者としの名前が残っている。ツュンベリーが日本に滞在したのは、江戸時代中期の1775~76年 安永年間のことで、徳川家治への謁見も行った。 Thunberg

以下 略
『日本植物誌』はムレイの出版にわずかに遅れて出版された。Celastrus属の1種目が本種で、詳しい属性が記載されている。ツルウメモドキ属として4種を記載したが、そのうちの1種、本州・九州・沖縄に分布する C. punctatus テリハツルウメモドキは、現在でも有効となっている。



植物の分類 : APG II 分類による ツルウメモドキ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
ニシキギ目  ニシキギ科、カタバミノキ科
ニシキギ科  ツルウメモドキ属、ニシキギ属、モクレイシ属、クロヅル属、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           


 
色々な 仮 種 皮

ツルウメモドキの赤い部分は 仮種皮(かしゅひ、かりしゅひ)と呼ばれる。ニシキギ科や その他時々現れる言葉「仮種皮」とは何か?
モクレイシの項の掲載と 重複。
 
受精後、種子が完成するまでの間に、珠柄または胎座などが肥大して、種子全体を覆うまでに成長した構造。種衣(しゅい)とも。
糖質や油質成分があることが多く、動物による種子散布に役立っている。(胎座:子房の中の胚珠の付く壁面。側膜胎座や中軸胎座など、様々な型がある)

・液質の仮種皮の例
イチイ    2000.9.17. イヌマキ   2012.12.23.
 種子を取り囲んでいる。  花床が肥大したもので 甘くて食べられる。

・肉質の仮種皮の例
ツルウメモドキ  2008.10.5. トベラ    2011.11.5.

果皮はみっつに割れる。仮種皮の中にはゴマのような小さな種子がたくさんある。

花は5数性なのに 果実は3裂する。
ヒゼンマユミ              2012.1.4.
 種子は落ちやすく、果皮が残る。  丸い種子を包んだ橙色の仮種皮
ライチ ニクズク
 白い果肉状の部分を食べている。  赤い仮種皮を乾燥させたものがメース。

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ