ウツギ 空木
Deutzia crenata Sieb. et Zucc. (1835)
APG分類: ミズキ目 アジサイ科 Hydrangeaceae
旧 分類  バラ目アジサイ科 Hydrangeaceae
属 名 : ウツギ属 Deutzia Thunb. (1781)
別 名 : ウノハナ
原産地 : 北海道から九州、奄美大島までの山野。
中国
用 途 : 材は細いが硬く、爪楊枝・木釘として使われた。 庭木、生け垣として植えられる。


長い間 ユキノシタ科 とされてきたが、クロンキストの分類で「アジサイ科」とされ、APG分類体系では アジサイ科全体が、バラ目から ミズキ目へと別グループに変更された。

ウツギは本種の固有名称(特定の種を指す和名)だが、ガクウツギ(アジサイ属)、カナウツギ(バラ科)、タニウツギ、ツクバネウツギ(スイカズラ科)など、色々な科の植物に使われている。 
これは、成長した枝の中心部が空洞となる「空木」の現象は、ウツギ属に限ったものではないためである。

              ウツギの空木       2000.10.1

                 @ : 開花の様子            2008.6.1
標識76番、梅園が終わるところ。 この写真は奥から正門方向を見ている。
                           葉 と 花 の様子                   2011.5.24
葉は対生。 大きさはいろいろだが、1枚が4cm〜8cm。

                    若い実              2011.7.8


 
ウツギ の 位 置
写真@: E5 b 標識76番
標本園内
 

名前の由来 ウツギ Deutzia crenata

ウツギ 空木 : 
幹が古くなると中心に空洞ができるため。 若い時にはそこに綿状の「髄」がある。
 
種小名 crenata : 細かな鈍鋸歯のある の意味
葉の周囲はわずかに鋸歯があり、さらに表側に針状に飛び出している。
全体に細かな毛が生えているために触るとザラザラするが、トゲは気にならない。

別名 : ウノハナ 卯の花
ウツギノハナ が短縮されて ウノハナ となった、 という説が有力。
ウノハナが咲く頃の 旧暦4月(現在の5月頃)を 「ウヅキ 卯月」と呼ぶ。
卯の花月 の意味である。

逆に、卯月に咲くから「卯の花」だとする説があるが、それでは「卯月」の由来がはっきりしなくなる。 

万葉集でも ウノハナ で読まれている。 旧暦 卯月の初め頃に「立夏」が来て、小学唱歌の『夏は来ぬ』でも馴染みがあるが、この歌を歌う年頃には、ウノハナが「ウツギ」を指すなどということには関心がないだろう。 

Deutzia 属 ウツギ属 : 人名による
命名者チュンベリー (1743-1828) と同じ国、オランダの後援者であった Johan van der Deutz (1743-1788) に献じたものである。

チュンベリーが『植物の新属』第1巻(1781)に記載したのは Deutzia scabra マルバウツギ であった。 シーボルトが本種を命名した 約50年前である。
マルバウツギ
日本植物誌 Flora Japonica 』 (1835) シーボルト、ツッカリーニ
ウツギの命名者 シーボルトが日本からの帰国後刊行した『日本植物誌』には、ウツギの図が掲載されている。 京都大学のデジタルアーカイブは「リンク自由」となっているので、ご覧いただきたい。

   ・ 第 6 図 ウツギ

『日本植物誌』の図版は、すべてにおいて各植物の特徴をよく捉えている。 その図版の多くは、シーボルトが滞在していた約6年間のみならず、追放後もシーボルトの仕事をしていたという日本人絵師、川原慶賀 による原画を元にしている。
川原慶賀については 『シーボルトと町絵師慶賀 / 兼重 護』に詳しい。
 
旧 ユキノシタ科 :
エングラーによる分類では ウツギ属はユキノシタ科だった。
科を代表する名前「ユキノシタ」の由来には数説があるが、多年草で、冬の雪に埋もれても、緑の葉が見え隠れするところから 「雪の下」、という説が良さそうだ。
ユキノシタ Saxifraga stolonifera
kasuga@mue.biglobe.ne.jp
ユキノシタは花の写真がないので、春日健二さんの『日本の植物たち』からお借りした。 

エングラーのユキノシタ科には、形態は似ているが よくわからない様々な植物が分類されていて、いうなればメチャクチャだった。

遺伝子分析によってユキノシタ科の混迷状態が明らかになり、アジサイ科はミズキ目に分類された。 (下記、植物の分類 一覧表を参照)
 
アジサイ科 : Hydrangeaseae
アジサイ属、イワガラミ属、ウツギ属、バイカウツギ属、その他が含まれる。 詳しい説明は 後日 アジサイ の項で。


植物の分類 APG分類による ウツギ の位置

エングラーの分類までは、アジサイ科の各属は ユキノシタ科に含まれていた。
クロンキストの分類では、基本的に草本はユキノシタ科に、木本を「アジサイ科」として独立させたが、大きなグループ 「目 もく」としては「バラ目」のままだった。

APG分類による 新しいアジサイ科はまったく違う位置、ミズキ目となった。 花の構造などの見た目だけでは騙される、というわけだ。

原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類) : マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
以前の分類場所 バラ目   トベラ科、スグリ科、ベンケイソウ科、バラ科、ユキノシタ科、
  など    アジサイ科( ミズキ目に移された↓)
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
ミズキ目   ミズキ科、ヌマミズキ科、アジサイ科
アジサイ科   ウツギ属、アジサイ属、バイカウツギ属、イワガラミ属
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

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