タニウツギ 谷空木
Weigela hortensis K. Koch (1854)
← Diervilla hortensis Sieb. & Zucc. (1838)
科 名 : スイカズラ科 Caprifoliaceae
属 名 : タニウツギ属
Weigela Thunb. (1780)
原産地 : 北海道西部、東北の主に日本海側、北陸、山陰地方。雪の多い日本海側。
山地の谷沿いや渓流沿い、日当たりのよいブナ林の縁など。
用 途 : 庭木として植えられる。

若芽は食用になり、救荒植物とされた。
材は堅く、木釘や楊枝として使われる。

70番通りの標識74番附近には、数種類のスイカズラ科が植えられている。崖線のすぐ下なので地下水位が高く、谷間に自生するタニウツギには良い環境だろう。

樹 形         2011.4.29.
標識74番の所にある。新緑ですでにつぼみが大きくなっている。

根元の様子        2013.12.4.
3m程度にしかならない低木で、幹は長持ちはせず、根際から次々と新しい茎を伸ばす。

一年目の若い幹  2013.12.4. 一番太い幹   2011.4.29.
太さ 2センチ。 「樹齢」は不明。太さ8センチ。

枝振り         2013.12.4.
一年間に延びる長さが長いので、重みで湾曲する。その繰り返しで弓なりの茂みとなる。

つぼみ と 葉の様子      2011.4.29.

開 花          2011.5.3.
この木は特に赤味が強いような気がする。

満 開           2011.5.11.
雨上がりに 園の奥を見ている。高さは3m強。

黄 葉         2013.12.4.
決して きれいではない。

果 実               2013.12.4.
花の落ちあとはたくさん付いているのだが、実が入っているのはわずかしかない。

 
タニウツギ の 位 置
F9 ad    70番通り右側、標識74番
 分類標本園 井戸側10列目 右側
 
名前の由来 タニウツギ Weigela hortensis

タニウツギ 谷空木 :
山地の谷間や渓流沿いに自生するため。

古くから栽培され、開花が田植えの時期と重なるため、タウエバナの別名がある。『植物の世界』

種小名 hortensis:庭園栽培の
元の学名を付けたシーボルトが、タニウツギがもっぱら庭で栽培されている事を見聞きするだけで、自生地などを確認できなかったためと思われる。

Weigela 属 :人名による
命名者は 日本にやってきたスウェーデンの植物学者 ツュンベリー (1743-1828)で、同年代のドイツの植物学者 ヴァイゲル Christian Ehrenfried Weigel (1748-1831) を顕彰したもの。日本から1776年に帰国してまもなくの、1780年に属名をたてた。和名も タニウツギ属である。
ヴァイゲル
ヴァイゲルは科学者で、26歳で ドイツ北部の都市 グライフスバルト大学の、化学・薬学・植物学・鉱物学の教授となった。

また、チュンベリーの帰国時には すでにスウェーデン王室の医師となっていた。
なお、ツュンベリーが 初めて Weigel属に分類して命名した種は、Weigel japonica ツクシヤブウツギ であった。江戸参府にも参加しているが、九州地方で採取したのだろう。

ところで、1780年にタニウツギ属が定義されていたのに、なぜ シーボルトは Diervilla属 に分類したのだろうか? 
命名の経緯を調べてみた。
命名年 学 名 和 名 命名者 備 考
 ?  Lonicera  スイカズラ属  トゥルヌフォール  トゥルヌフォール(1656-1708)
 が命名していたが、学名規約以前
 Diervilla  アメリカタニウツギ属  トゥルヌフォール
1753  Lonicera diervilla    リンネ  『植物の種』では Diervilla と
 大文字の種小名となっている
1754  Diervilla  アメリカタニウツギ属  ミラー  北アメリカに産する
1768  Diervilla lonicera  (仮名 ヤブスイカズラ)  ミラー  リンネの Lonicera diervilla に
 基づく。カナダ原産
1780  Weigela  タニウツギ属  ツュンベリー  日本滞在中に採取
 1784『日本植物誌』にも掲載
 同  Weigela japonica  ツクシヤブウツギ  ツュンベリー
1830  Diervilla  ド・カンドル  アメリカタニウツギ属に タニ
 ウツギ属を含めてしまう
1838  Diervilla hortensis  タニウツギ  シーボルト  現在は タニウツギの異名
1854  Weigela hortensis  タニウツギ  コッホ  シーボルトの命名を訂正
解説:・






Diervilla アメリカタニウツギ属の有効な学名としては、1754年にミラーが『Gardeners Dictionary 第4版』で定義していた。
Weigela タニウツギ属は、1780年にツュンベリーが「ツクシヤブウツギ」を記載して有効となった。
ところが、スイスの有名な植物学者 ド・カンドルが、両者をひとまとめにして Diervilla アメリカタニウツギ属としたため、シーボルトはこれを受け入れて タニウツギをアメリカタニウツギ属として命名した。
ドイツのコッホは 早い時期にWeigela属に訂正したが、広く受け入れられるようになったのは、東大教授の中井猛之進(1882-1952)が タニウツギ属を独立させることを唱えてからであった。        参考資料:『植物の世界/朝日新聞社』


Caprifoliaceae スイカズラ科 : 保留名
トゥルヌフォール(1656-1708)が提唱していた Caprifolium 属は、リンネが『自然の体系 第一版』(1735)で発表していた。『植物の属』ではリンネがロニセラ属に統一して、スイカズラ科の基準属となっているものの、科名としては アントワーヌ・ジュシュー(1748-1836)が記載した Caprifoliaceae が一般に普及したために、保留名となっている。

ラテン語の caper ヤギ + folium 葉 がその由来だが、その名が付けられた Lonicera capifolium はヨーロッパ原産の種で、花冠の外側に毛が生える以外は無毛とのこと。
                  『園芸植物大事典』



植物の分類 : APG II 分類による タニウツギ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
マツムシソウ目  レンプクソウ科、スイカズラ科
スイカズラ科 ツクバネウツギ属、スイカズラ属、オミナエシ属、タニウツギ属など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

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