ヤマモモ 山桃
Morella rubra Lour. (1790)
← Myrica rubra Sieb. & Zucc.(1846)
← Morella rubra Lour. (1790)
科 名 : ヤマモモ科 Myricaceae
属 名 : ヤマモモ属 Morella Lour. (1790)
異 名: Myrica rubra Sieb. & Zucc.(1846)
中国名: 楊梅 yang mei
英語名: Chinese-arbutus
原産地 : 本州から 琉球諸島まで
中国 各地、台湾、南韓国、フィリピン
用 途 : 街路樹、公園樹、庭木として。
果実は甘酸っぱく、生食したり、ジャム・果実酒・ワインなどに加工される。 最近では実が大きい園芸品種が植木屋でも売られている。

今回 掲載するにあたって アメリカ合衆国農務省のデータベース『 GRIN 』を確認したところ、Morella属となっているために 学名としては、これを採用した。


園内には上の段の2カ所に、計5本のヤマモモがある。ヤマモモは雌雄異株なのだが、高い木だと花が見にくく 推定のものがある。

樹 形     2011.12.28.
高さは 約17m、雄株のようだ。次が花の写真。

光学ズームを超えて 望遠にすると、画質が悪い。雄花だと思う。

A:常緑樹林内の 4本のヤマモモ     2013.4.4.
珍しく、雄株 雌株を明記した名札が付いている。園内すべての雌雄異株に付けてもらいたいものだ。同じ属の中でも、同株と異株の植物が混在する場合もある。

B:一番奥の ヤマモモ    2013.4.4.
2013年1月の雪で かなりの枝が折れ、隙間が空いている。その時、落ちた枝に付いていた花序から、この木が雄株だと判明した。

B:幹の様子 @:幹の様子
幹は灰色で、初めはザラザラした状態の表面が、やがて黒い傷が付いたようになり きたない。この点は街路樹としてはいまいち。

葉の様子
葉の長さは 10センチ弱。葉は艶があり、細長い楕円か元がすぼんだヘラ型の常緑樹で、雌雄異株である。

B: 雄 花               2013.4.4.
Bの木は低い位置に枝があり、雄花を観察できる。花弁はなく、ひとつの花は苞に包まれた雄しべが数本ある。もともとは黄色だが、日光がよくあたる所では赤くなる。
雌 花         2013.4.7.
小石川では雌花を観察できない。新宿御苑の西休憩所の脇に 背の低いヤマモモがあり、写真を撮ることができた。赤い雌しべの先がふたつに割れている。

若い実         2009.5.9.
小石川では 実も観察できていない。
高知県で。徳島との県境付近だったと思う。

街路樹の実        2012.7.1.
港区の高層マンションの植え込み。実のサイズは小さく、18ミリ。ジューシーな果肉は外果皮で、中に モモと同じく核がある。

 
ヤマモモ の 位 置
写真@: B7 b 10番通りと20番通りの間、説明板のあるユリノキの隣
写真A: B5 c 雌株の表示付きの名札、写真Aは 4本が写っている
写真B: B5ac ほかの3本は 雄株。 計4本


名前の由来 ヤマモモ Morella rubra

ヤマモモ : 山に生えるモモ か?
ヤマモモは常緑高木で、大きくなると高さ20m、太さ1mにもなるという。植物園の @の木は 17mあり、これに近づいている。
ヤマモモは日本に自生しており、一方 モモ は中国から渡来したもので、当初には「ケモモ(毛桃)」と呼ばれていた。
「ケ・モモ」と呼ばれていたということは、日本にすでに別の「モモ」が存在していたことを示している。
毛モモ
その古代の「モモ」こそ現在の「ヤマモモ」である、というのが『植物の名前の話』の著者 前川文夫氏の考えである。

モモの実の方が大きくておいしいために次第に主流となり、呼び名も「ケモモ」から単に「モモ」となっていった。
そこで「もともとのモモ」に別の名が必要となり、ヤマモモの中国名である「楊梅」の読み、「ヤンメイ」に「モモ」を付けて「ヤンメイ - モモ」としたのが短くなって「ヤマモモ」となった、という説を前川氏が述べている。

日本古来の モモ  →  ヤンメイ-モモ  →  ヤマモモ
中国から  ケモモ   ケモモ・モモ   モモ

前川氏の考えは理論的である。時代はわからないが、日本に渡来していた中国人がヤマモモの事を「ヤンメイ」と呼んだり、本草学者?が中国名を知っていて、「ヤンメイ - モモ」と名付けた可能性はあるだろう。「ヤンメ」と呼ぶ地方もあり、現在の中国名もる。ヤンメイ である。

しかし私は、単純に「ヤマ 山」を付けたのではないかと思う。

ヤマモモは日本に自生し、昔からモモと呼んで栽培もされてきた果樹である。 庶民からすれば、日本の「モモ」に何かを付け加えて、中国渡来の「モモ」と区別しようとする時に、裏山に生えている木が中国にも自生していることなど、意識するでだろうか・・・・。

なお、「モモ」のもともとの言葉の意味は、単に「丸い果実」のことである。ヤマモモも丸くて中に硬いタネがあるということでモモと言える。

種小名 rubra : 赤い の意味。
実が赤く熟すため。
中国大理 観光地 物売りのヤマモモ
Morella 属 : クワ に由来する
ギリシア語の 「moron 桑」 が語源で、ヤマモモの実が クワの実に似ているところから。
     ヤマモモ(園芸品種) ヤマグワ

ヤマモモ科 Myricaceae :
ギョリュウ または別の 芳香のある低木に付けられた、古代ギリシア名 myrike に由来する。『園芸植物大事典/小学館』
とあるが、これでは本当の由来はわからない。
確かに、ラテン語の myrica は「ギョリュウ 御柳」そのものを意味する。
そして ギョリュウ科 Tamaricaceae には、ギョリュウ属のほかに Myricaria属が立てられたこともある。
ギョリュウ       2008.5.4.


ヤマモモの分類について
ヤマモモ科は約30種の小さい科である。長い間 3つの属に分けられるとされ、基準属の Myrica属に多くの種が分類されて ヤマモモも はいっていた。

最近は、以前から定義されていた4つ目の属 Morella 属が「復活」し、むしろ Myrica 属は2種だけ、という考え方が出ている。
ヤマモモは 通常の事典ではこれまでの分類に従った
  Myrica rubra Sieb. et Zucc. (1846)
と表記されている。

じつは小石川植物園には ヤマモモがあるだけでなく、ヒメヤマモモも 分類標本園に植えられていて、Myrica nana となっている。
これも GRIN では Morella nana が採用されている。
ヒメヤマモモ 小石川植物園
中国雲南省のヒメヤマモモ    2010.7.7.

なお、『植物分類表』の著者 大場秀章氏は、ヤヤモモ属として今まで通り Myricaを使っている。


両属の命名の経緯 (備考はGRINの解釈)
年号 和名 学名 命名者 備考
1735  ヤマモモ属  Myrica  Linne  ヤマモモ属
1790  モレラ属  Morella  Loureiro  和名:新ヤマモモ属(仮称)
1790    ヤマモモ  Morella rubra  Loureiro  現在は 正名として復活
1846    ヤマモモ  Myrica rubra  Sieb. & Zucc.  150年間採用されていた
1901    ヒメヤマモモ  Myrica nana  A. Chev.  現在は 異名となる
2005    ヒメヤマモモ  Morella nana  J. Herb.  現在の正名
通常は、新しい名前が認められると 過去の名前が「異名」となる。
ヤマモモは、一度 異名となって、約150年後に復活するという 希なケースである。

英語名 Chinese-arbutus : 中国産の イチゴノキ
欧米にはヤマモモ属の植物がないので、南ヨーロッパその他の原産で果実が似ているイチゴノキに、「中国の」という形容詞を加えた名前である。Arbutus属は ツツジ科の常緑樹で、ツツジ科としては珍しく果実が液果で赤く色付く。
イチゴノキ Arbutus unedo   2012.12.23.
冬の京都植物園。果実の付き方は違うが、表面がブツブツしている様子も ヤマモモに近い。
イチゴノキの花      2009.10.25.

 
 トピックス

雌雄異株
名前の由来とは関係のない話題をひとつ。

ヤマモモは街路樹に使われる時は「雄株」だけが植えられる。ところが旧 浦和市で、一本だけ間違えて「雌株」のヤマモモが植えられているのを見かけたことがある。

ヤマモモはイチョウ程ひどくはないが、写真のように、車道・歩道共に小さい実が一面に落ちていた。
素人にとっては、花や実のなっていないヤマモモの、雄株と雌株を区別するのは不可能だが、これは 植木屋 (造園会社)の「ミス」である。

現在は雄株に植え替えられてしまった。
ヤマモモの街路樹の中で一本だけが雌株

街路樹ナンバー・ワンはイチョウだが、雌株は銀杏(ギンナン) が落下して道路を汚し、臭いもするため ヤマモモ以上にたちが悪い。そのため 植えられるのはやはり雄株だけのはずなのだが、雌株が使われて迷惑をかけている例がたくさんある。白山通り、霞ヶ関あたりで何本も見かけている。
歩道・車道に落ちた ギンナン 春日付近

霞ヶ関付近       2011.9.21.
春日付近では、ようやく数本を見つけて「やはり 少ない」と思っていたら、国会図書館付近では何本もあって、いつもここを歩く人は大変だろうと 気の毒になった。



植物の分類 : APG II 分類による ヤマモモ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
以前の分類場所  ヤマモモ目  ヤマモモ科
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
 ブナ目  ブナ科、ヤマモモ科、カバノキ科、モクマオウ科、クルミ科、など
ヤマモモ科  ヤマモモ属
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ