![]() |
|
|||
科 名: | バラ科 Rosaceae | |||
属 名: | シロヤマブキ属 Rhodotypos Sieb. & Zucc. (1835) |
|||
異 名: | Kerria tetrapetala Sieb. (1830) R. kerrioides Sieb. & Zucc.(1835?) (1841) R. tetrapetala Makino (1903) |
|||
中国名: | 鷄(鶏)麻 ji ma | |||
原産地: | 本州。 中国、韓国 | |||
用 途: | 庭木 |
白で一重。大好きな花で、鉢植えで育てている。ヤマブキとは近縁で ともに一属一種だが、色だけでなく 形も違う。 まず 両者の違いから。 |
白ヤマブキ | ヤマブキ | ||
葉の付き方 | ![]() 対生 |
![]() |
|
萼・花弁の数 | ![]() 4枚 |
![]() 5枚 |
|
萼のサイズ |
![]() |
![]() |
|
大きい・葉脈がはっきり | 小さい | ||
萼の形態 | ![]() |
− | |
針状の「副萼」がある | 副萼は無い | ||
果実 | ![]() |
![]() |
|
核果で4個 | 痩果で5個 | ||
右側、ヤマブキの実は入りが悪く、5つとも大きくなっているものは ひとつもなかった。2015.6.28 撮影。 |
場所は分類表本園 2015.4.9. |
![]() |
売店側から9列目 左側。シロヤマブキは数株が植えられているが、いずれも小さい。つぼみは少し付いていた。黄色いヤマブキは花がはっきりとわかる。 |
根 元 2015.4.9. |
![]() |
手前通路側の一番大きな株。毎年地際から新しい枝が出て、長く伸びる。 |
芽吹き 2015.3.2. |
![]() |
前年に伸びた枝は、1〜3節が枯れ戻る。対生なので2つずつの芽が伸び出して、先端に花を付ける。 |
新葉 と つぼみ 2015.4.1. |
![]() |
前年に伸びた4節目につぼみを付けた。一般的に、つぼみを付ける側枝の伸びは短い。地際から 新しく長く伸びる枝は、数十センチとなる。 |
ふくらんだつぼみ 2012.4.18. |
![]() |
萼には はっきりとした葉脈や鋸歯がある。 |
満 開 2002.4.27. |
![]() |
山形県で。 |
2015.4.1. |
![]() |
それぞれの花の開花期間は 一週間程度。 |
膨らみ始めた果実 2015.4.29. |
![]() |
平らだった花床の上膜を突き破って、4つの果実が膨らみだした。周囲に残る雄しべの葯と、萼片1枚は取り除いてある。次の写真は 同じ日に撮影した別の果実で、雄しべが残っている状態。 |
![]() |
若い実 2002.5.5. |
![]() |
ひとつの花の 4個の心皮が別々の果実(分果)となる。 |
実の様子 2009.7.28. |
![]() |
果実はこの後 艶を保ったまま真っ黒になり、落葉後も長く枝先に残る。 |
核 果 |
![]() |
黒い果皮は極めて薄く、中に網目模様の付いた核がある。サイズの割に核の厚みがあり(約1ミリ)、とても割りにくかった。 |
シロヤマブキ の 位 置 |
![]() |
E11 a | ● | 分類表本園内、売店から9列目 左側 |
名前の由来 シロヤマブキ Rhodotypos scandens |
和名 シロヤマブキ 白山吹 : | |
全体として、特に重鋸歯を持つ葉がヤマブキに似ており、白い花が咲くため。 ヤマブキとは別属。 |
← ヤマブキ 山吹 : Kerria japonica | ||
『大言海』によれば、「細い枝が風に随って揺れるので、山振 の義」だそうだ。この点も ヤマブキとシロヤマブキには違いがある。 |
ヤマブキの枝は細く長く優雅な弧を描く。花を付ける側枝は短く、遠目には黄色い線に見える。 これがゆらゆらと揺れる様子は、いつでも観ることができる。 『語源辞典』によると、フキ(振)は 動詞フル(振)の古語で、古代だけに使われたそうだ。 |
![]() |
種小名 scandens : よじ登る の意味 ? | |
ラテン語の scando は「上がる、よじ登る」で、牧野の『植物學名辞典』にも「攀縁(よじ登る)の」とある。 シロヤマブキは「よじ登り」とは無縁の植物であるため、チュンベリーがなぜこの種小名を付けたのかを見るために、原著にあたることにした。 |
Transactions of the Linnean Society of London 2号 | ||
![]() |
||
BHL(Biodiversity Heritage Library より) | ||
p. 335〜6 に載っている部分を灰色の枠で囲った。 Corchorus属は シナノキ科 (APG分類では アオイ科) ツナソ属であるし、シロヤマブキの一つ前の植物 Corchorus serratus は、ケヤキ (ニレ科)を記載したもので、チュンベリーの見解が不正確なことを示している。 |
||
|
緑のアンダーライン scandens に注目して、シロヤマブキの記述を可能な限り訳してみると、 |
Corchorus scandens: 葉は卵円形、刺状の鋸歯があり 対生、茎は 分枝し、左右に湾曲して scandentibus |
|
茎: 円柱形、scandens、枝が多い 枝: 対生に付き、similes、広い開度で分かれる 葉: 対生、ごく短い葉柄、基部の丸い卵円形、以下 略 花: 枝の先端に付き、単生、flavus 鮮やかな黄色 |
花の色が黄色!との記述があるので、これが本当にシロヤマブキなのかと疑ってしまうが、学者の研究の結果なので、心配無用なのだろう。 それはともかく、scandens の使い所からすると、よじ登るではなく 「よじれる」の意味ではないだろうか? |
![]() |
ヤマブキが大きく湾曲して枝垂れるのに対して、シロヤマブキは枝の所々が まさに 捩れることが多い。 |
Rhodotypos 属 : バラの形 の意味 | |||||
シーボルトが『日本植物誌』第1巻の最後の時期、第99 図に記載した新属である。ギリシア語の rohdon バラ + typos 形 からなり、花の色やサイズが ノイバラなどに似ているため。ただし、バラは花弁が5枚。 | |||||
|
シロヤマブキの命名物語 |
新属を立てたのはよかったが、シーボルトは 新たに kerrioides (ヤマブキのような)という種小名を付けてしまった。チュンベリーが記載していた種小名
scandens が不適切だと考えたのか、それとも気付いていなかったためか? シーボルトは 別の名前も付けているので、整理してみた。 |
命名年 | 学 名 | 和 名 | 命名者 | 備 考 | |
1735 | Corchorus | ツナソ属 | リンネ | トゥルヌフォールが命名していた | |
1775 | 〜 1776 | チュンベリー 滞日 | |||
@ | 1794 | Corchorus scandens | シロヤマブキ | チュンベリー | 現在は異名 |
1817 | Kerria | ヤマブキ属 | カンドール父 | ドゥ・カンドール(1778-1841) は スイスの植物学者 |
|
同 | Kerria japonica | ヤマブキ | 同 上 | ||
1823 | 〜 1828 | シーボルト 滞日(チュンベリーの50年後) | |||
A | 1830 | Kerria tetrapeta | シロヤマブキ | シーボルト | 種小名は「花弁4枚の」 |
1835 | 〜 『日本植物誌』第一巻の出版が始まる。〜1841 | 最終はシーボルトの死後の1870年 | |||
1841 | Rhodotypos | シロヤマブキ属 | シーボルト | 『日本植物誌』ツッカリーニと共著 | |
B | 同 | Rhodotypos kerrioides | シロヤマブキ | 同 上 | 当初から 異名 |
C | 1903 | Rhodotypos tetrapeta | シロヤマブキ | 牧野富太郎 | Aを訂正した |
D | 1913 | Rhodotypos scandens | シロヤマブキ | 牧野富太郎 | チュンベリーの命名から119年後 に、@を訂正し直した |
. | |||||
・ ・ ・ ・ ・ ・ |
並べてみると、いくつかの事実の確認と「想像」ができる。 シーボルトは 帰国直後の 1830年に、シロヤマブキを「ヤマブキ属」として記載した ( A )。 シーボルトとツッカリーニによる『日本植物誌』は 1835年から刊行が始まった。その途上の研究成果だと思われるが、新しくシロヤマブキ属を立てて Rhodotypos kerrioides とした ( B )。学名の意味は、「バラのような花で ヤマブキ属に似た植物」。 10年前に自分で付けた種小名 tetrapeta とは また違うものなので、学名の先取権の概念は無かったと考えられる。 この学名が 長らく通用していたのではないか? シーボルトの著作を調べた牧野が Aに先取権があると考えて、シロヤマブキ属に訂正した ( C )。 さらに、100年以上忘れ去られていた チュンベリーの「ロンドン リンネ協会」への寄稿を調べて、@が シロヤマブキであることに気がつき、現在の学名に訂正した ( D )。 |
今から100年前。植物を採取・研究するするだけでなく、虱潰しに?文献にも目を通した、博覧強記の牧野博士ならではの業績である。 |
参考までに、シロヤマブキの一つ前の記載「ケヤキ」についてもチェックしてみたら、牧野が訂正するまでは、別名(異名)が通用していたという 同様の結果となった。 |
命名年 | 学 名 | 和 名 | 命名者 | 備 考 | |
1735 | Corchorus | ツナソ属 | リンネ | トゥルヌフォールが命名していた | |
1775 | 〜 1776 | チュンベリー 滞日 | |||
E | 1794 | Corchorus serratus | ケヤキ | チュンベリー | 現在は異名 |
1841 | Zelkova | ケヤキ属 | スパック | エドゥアール・スパックはフランス の植物学者 |
|
F | 1861 | Planera acuminata | ケヤキ | リンドレイ | 当初から異名だった |
G | 1872 | Zelkova acuminata | ケヤキ | プランチ | Fを訂正した |
H | 1903 | Zelkova serrata | ケヤキ | 牧野富太郎 | チュンベリーの命名から109年後 に、Eを訂正した |
. | |||||
ケヤキを訂正したのは 1903年で、シロヤマブキのケースでは、シーボルトの初めの記載を訂正した時期 C である。ということは、そのときに Corchorus scandens も見たはずで、すぐにはシロヤマブキだと決められなかったのではないだろうか? 訂正したのは 10年後の 1913年だった。 |
中国名 鷄(鶏)麻 ji ma : | |
シロヤマブキは中国大陸にも分布している。なぜ ニワトリのアサ なのか? チュンベリーが分類した「Corchorus ツナソ属」の中国名は「黄麻 属」であることと、関係はないだろう。 |
植物の分類 : | APG III 分類による シロヤマブキ の位置 |
原始的な植物 |
↑ | 緑藻 : | アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など | |||||
シダ植物 : | 維管束があり 胞子で増える植物 | ||||||
小葉植物 : | ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など | ||||||
大葉植物(シダ類): | マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど | ||||||
種子植物 : | 維管束があり 種子で増える植物 | ||||||
裸子植物 : | 種子が露出している | ||||||
ソテツ 類 : | ソテツ、ザミア、など | ||||||
イチョウ類 : | イチョウ | ||||||
マツ 類 : | マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など | ||||||
被子植物 : | 種子が真皮に蔽われている | ||||||
被子植物基底群 : | アンボレラ、スイレン、アウストロバイレア、センリョウ | ||||||
モクレン亜綱: | カネラ、コショウ、モクレン、クスノキ | ||||||
単子葉 類 : | ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など | ||||||
真生双子葉類 : | キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など | ||||||
中核真生双子葉類: | ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など | ||||||
バラ目 群: | |||||||
バラ亜綱: | ブドウ | ||||||
以前の分類場所 | バラ目 | トベラ科、ベンケイソウ科、ユキノシタ科、バラ科、など | |||||
マメ 群: | ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など | ||||||
バラ目 | バラ科、グミ科、ニレ科、アサ科、クワ科、イラクサ科、など | ||||||
バラ科 | モモ属、サクラ属、リンゴ属、カリン属、バラ属、キイチゴ属、など | ||||||
アオイ群: | フウロソウ、フトモモ、アブラナ、アオイ、ムクロジ、など | ||||||
キク目 群: | |||||||
キク亜綱: | ミズキ、ツツジ、など | ||||||
シソ 群 : | ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など | ||||||
↓ | キキョウ群: | モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など | |||||
後から分化した植物 (進化した植物 ) | ||
|
小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ |