ザクロ 安石榴、石榴
Punica granatum Linn. (1753)
科 名 : ミソハギ科 Lythraceae
旧科名:  ザクロ科 Punicaceae
属 名 : ザクロ属 Punica Linn. (1735)
中国名 : 石榴 shi liu
原産地 : イラン高原を中心とした小アジアから アフガニスタン、ヒマラヤにかけて
用 途 : 奈良・平安時代には渡来したと言われているが、長い間 薬用、観賞用として栽培されていた。
近年では園芸品種の大きな実を、生食・ジュース・香料・着色料として使われるが、日本での栽培は少ないそうだ。

トップの写真は、下の段の目立たない位置に植えられている 栽培品種:③ 。八重で花弁の周囲に白の斑がはいる。

①:樹 形           2011.6.5.
30番通り、標識36番から奥を見ている。典型的な低木の樹形で、高さは 4m弱。栽培すると、時に高くなることがあるそうだ。この木にはトゲらしいものは 見あたらない。

少し先に、弱ってほとんど枯れそうな木が もう一本ある。

②:枯れそうなザクロ

③:下の段の園芸品種 2007.6.24.
2本あるが、無名の品種で 名札は付いていない。

③:ザクロの生え方      2013.10.3.
高木のような主幹はなく、根際から何本もの太い幹が出ている。

③:樹皮の様子         2013.10.3.
左は一年目の徒長枝で、夏に肥大して樹皮に裂け目ができた状態。
右は古い幹で 部分的に剥げ落ちる。

葉の様子        2013.6.18.
薄手でツヤのある葉。この写真では どのような付き方をしているか、よく分からない。
短枝に付く葉
短枝はほとんど伸びず、葉は密にまとまって付く。(束生)
長枝
前年枝の先端附近から伸び出す長枝は、十字対生がはっきりしている。

まれに 互生となる

①:花の様子          2013.6.18.
原則として、頂部附近から伸び出した枝の先端に花が付く。そのため、花後に刈り込むと翌年は花が咲かない。しかし、短枝に付くこともある。

つぼみの様子       2013.6.18.
萼は革質で子房壁と連続しており、果実に最後まで残る。事典によると先端は 5~8裂。

        標準の6裂     花弁が落ちた後で     8裂

花弁の枚数は 通常6枚

花弁数も やはり 5~8枚の幅がある。しっかりした雌しべのある「両性花」と、雌しべが退化している「雄花」とがある。

①:重さで垂れ下がる実     2013.10.3.
①の木には実が生るが、2013年は わずか2個。

ザクロには複数の心皮があって、その特殊な構成は果実を切断しないとわからない。
複数の ”心皮” がある場合、種子の付き方は様々であっても、全体としては放射形に配列されることが多い。
タチバナの果実
中軸胎座

種子は中心部
に付く。
ところが、ザクロは上下二段になっており、しかも上下で種子の付く位置が違う。

上下の境目
外から内部は見えないので いい位置で切れなかったが、斜め下半分が 中心軸に種子が付く「中軸胎座」、上部は子房壁側に種子が付く「側膜胎座」となっている。 (カーソルを乗せると 境目を表示する)

   上部の横断面(側膜胎座)
6室が放射状になっている。種子が付いている台(胎座)は 子房の周囲から隆起しているので 「側膜胎座」。

下部の断面も、その構造がわかる位置でうまく切れなかったので割愛するが、タチバナの果実と同じ「中央胎座」となっている。

果実の先端部
花弁があった部分。 雄しべや花柱までが残っている。

種 子
食べている部分は汁の多い「外種皮」で、それを取り去ると、一般的な「種子」のイメージである硬い種皮(内種皮)に包まれたタネとなる。サイズはまさに 米粒大。

 
ザクロ の 位 置
写真①: D6 a 30番通り右側、標識35と36の間
写真②: C4 d 30番通り右側、標識36の先
写真③: F4 cd 70番通り左手、塀の近く

 
名前の由来 ザクロ Punica granatum

和名 ザクロ : 漢名による
漢名には各種あるが ザクロの元となったのは、現在でも中国名となっている「石榴」セキリュウ または 漢名のひとつ「若榴」ジャクリュウ が転訛したものと言われている。

イラン、アフガニスタン、ヒマラヤにかけてが原産地だが、ヨーロッパでは紀元前 ギリシア時代から栽培されていて、ブドウ、イチジクと合わせて、最も重要な果物とされていた。
種子がたくさんできることから 世界各地で豊穣・多産・教会の硬い結束のシンボルとなる。また、実用的にも様々な薬効があり、染料にも使われた。

ザクロが関係する仏教説話がインドから中国を経て伝わり、日本では「鬼子母神」説話となった。

漢名 安石榴
もともとの漢名は「安石榴」で、「安石」とは 安息 Arshak で ペルシア地方の旧称、「榴」は瘤のことで、ペルシャから伝わった 瘤のような実が生る木 を意味する。

種小名 granatum : 粒状の
ラテン語の「granum 粒、穀粒」からの変化で、ザクロに小さなの種子がたくさんあるため。
英語は pomegranateで、粒の多い丸い実。

Punica 属 :
プリニウス(紀元1世紀 古代ローマの博物学者、政治家、軍人) が使ったというラテン語の古名 punicum による。

punicum は Pūnicus malum(Poeni人のリンゴ)の意味で、Poeni人とは Phoenicia人(フェニキア人)から出た カルタゴの住民。

結局 punicum は、カルタゴ人のリンゴ ということになる。プリニウスが、ザクロはカルタゴから伝わったと考えたためである。カルタゴはアフリカ北部にあった古代都市国家。
カルタゴの位置
Wikipedia
より

ミソハギ 科 :
クロンキストの分類までは 独立した「ザクロ科」があったのだが、APG分類では「ミソハギ科」に統合された。ミソハギ科の代表的な樹木は、サルスベリ属である。
ミソハギ           2001.6.30.
各地の山野の湿地に生える多年草。

和名の由来は何説もあるが、代表的なのは、花穂で供物に水をかける風習があるために、「ミソギハギ 禊萩」が省略されたもの。しかし、花は萩には似ていない。



植物の分類 : APG II 分類による ザクロ の位置
クロンキストの分類では、フトモモ目の中で「ザクロ科」として独立していたが、ヒシ科やハマザクロ科とともに、ミソハギ科の下の属に変更された。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
以前の分類場所 フトモモ目  ミソハギ科、ヒシ科、フトモモ科、ザクロ科、ノボタン科、など
フトモモ目 シクンシ科、ミソハギ科、アカバナ科、フトモモ科、ノボタン科、など
ミソハギ科  ミソハギ属、サルスベリ属、ザクロ属、ヒシ属、ハマザクロ属、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ