トゲアオイモドキ
Abroma augustum Linn. f. (1782)
← Theobroma augusta Linn. (1768)
科 名 : アオギリ科 Sterculiaceae
APG分類:  アオイ科
属 名 : トゲアオイモドキ属
         Abroma Jacq. (1776)
英語名 : Devil's cotton
原産地 : 中国、熱帯アジア、ミクロネシア
用 途 : 樹皮から取れる繊維は白くて光沢があり、利用される 『朝日百科/植物の世界』
撮影地: シンガポール

スワンレイクの北側に架かる橋のたもとに数本がある。

DNA解析による「APG植物分類体系」によると、アオギリ科も「アオイ科」にまとめられており、「トゲアオイモドキ」ではなくて「トゲアオイ」としなければならないが、本ページは「クロンキストの分類」によっているので、問題ない。

高さ 約 3m 幹の太さは 約 8cm

 
幹の様子 枝垂れる枝
細い枝は枝垂れて低い位置まで伸びている。

枝の基の方の葉はホームベース型で大きく、3カ所が尖っている。長い葉柄は赤みがかっている。

大きい葉
写真の左上隅 若い枝に、和名にある「トゲ」があった。あまり多くはないようだが、観察不足かも知れない。

先の方の葉は細長いハート型で、葉柄がとても短い。
葉脈の構成も違っている。

小さい葉

つぼみ と 花
花は下向きに咲く。 左にある つぼみの状態では花弁が少しだけ見えているが、萼 (と仮定する。もしかすると苞) がまだ裂けていない。それが きれいに5等分される。
萼と花弁の間に、色も中間的な 毛が生えた部分がある。 これは「副萼」としておく。
花弁が落ちると、大きく開いていた萼がすぐに閉じる。(右上)

若い実 の様子
この写真では、左下の花から順番に 果実が大きくなっていく様子がわかる。 下向きだった花柄は急に太くなりながら、上向きとなる。

ほどなく、閉じた萼を押し広げるように、五つの「ヒレ」を持つ果実が大きくなる。 一カ所に2個以上の花 および 実が付くこともある。(左端の実)

大きくなった果実(下) と 開いた果実
どのぐらいの日数が かかるのかはわからないが、黒っぽく熟した実は「パカッ」と割れ、パラボラアンテナのような形になる。

5つの「蛾の触角」のような白い毛の下に、黒い種子が付いている。

さらに乾燥して褐色になった果実
直径は 6〜8cm。
種子はなかなか落ちずに残っている。種子のサイズは長さ3mm。

アオギリの実と種子
同じアオギリ科の「アオギリ」の場合は、この皮(心皮)が若い頃から5つに分かれる。

トゲアオイモドキは 心皮がつながった状態となっている。


名前の由来 トゲアオイモドキ Abroma augustum

和名 トゲアオイモドキ :
トゲアオイモドキは 『朝日百科/植物の世界』にも載っている和名であるが、単純に「木にトゲがあり、アオイに似ている」 で済ませてしまうわけにはいかない。

本種の「どこ」が、どんな「アオイ」に似ているのか、という説明が必要である。
なぜなら、「アオイ (葵)」という和名の植物はなく、ウマノスズクサ科の「フタバアオイ」(徳川家の家紋)や「カンアオイ」、アオイ科の「モミジアオイ」、「タチアオイ」、「ゼニアオイ」などの総称として使われているからで、アオイといっても、種類・形は様々である。

『園芸植物大事典』には、アオイは 「なかでも、タチアオイの意味で用いられることが多いようである」 となっていた。
そこで、私の解釈は・・・・
実が熟して開いた様子が「タチアオイ」の花の形に似ており、「花」の中には猛烈なトゲがあるため、 ということになった。

トゲアオイモドキ タチアオイ

英語名 Devil's cotton : 悪魔の綿
ワタの実も熟すと開いて、中から白い綿が膨らんでくる。
トゲアオイモドキの星形の「剛毛」を「悪魔の綿」と呼んだもの。

ワタはアオイ科である。
ワタ

種小名 augusta : 立派な、崇高な という意味
最初はリンネが命名したもので、 Theobroma augusta 崇高な神の食べ物、とした。 augusta は、初代ローマ皇帝のアウグストゥス(63 B.C. - 14) に由来した形容詞である。 
もし トゲアオイモドキを食べるとしたら、実が若い時に「オクラ」のように茹でて、だろうか?・・・

ほかの部位には特に立派なところはないので、やはり、実が開いた状態を表しているのであろう。 「悪魔の綿」状態の果実を 逆説的に言い表したのか?

なお、リンネも それを訂正したリンネの息子も augusta と記載したが、現在は Theobroma属も Abroma属も「中性」とされ、種小名は augustum と表記されている。

Abroma トゲアオイモドキ属 :
『植物学名辞典』には、ギリシア語で、a 無し + broma 食物 とあった。 つまりは、「食べられない」という意味になる。

もしそうならば、「神の食べ物」とは 天と地の違いがある。

Abroma 属を立てたのは、オランダ生まれでウィーン大学植物園長を務めた ジャカン(1727-1817)で、1776年に本種に
    Abroma fastuosa Jacq. (1776)
と命名したが、種小名に関しては リンネの augusta に優先権があるため、異名となっている。
本種を 『自然の大系 12版』(1768) に記載したリンネは、初め カカオなどど同じ「神の食べ物」という意味の Theobroma 属に分類したことは 既に述べた。

それを リンネの息子が 1781年に、
    Abroma augusta (1781)
と分類し直した。 ambrosia が同様に「神々の食べ物」であることから、別属としながらも 同じ意味の属名に変更したかったようだ。

しかし、すでに定義されていた Abroma に一文字を加えた形であり、現在の命名規約では Abroma と同等と捉えられるため、結果的には新しい属とはならなかった。 命名者としては名前が残っている。
   Abroma augusta → Abroma augusta 
              → Abroma augustum Linn. f.
経緯を表にまとめると以下のようになる。

命名年 学名 命名者 備考
1768  Theobroma augusta  リンネ  現在は Theobroma augustum
1776  Abroma fastuosa  ジャカン  異名、属名は有効
1781  Ambroma augusta  リンネ息子
 = Abroma augusta  → Abroma augustum

Sterculiaceae アオギリ科 :
アオギリ科のアオギリ属 Sterculia の一部に、悪臭のある花や実を付ける植物があることから、ローマ神話の便所の神、Sterculius ステルクリウスの名が付けられた。 ラテン語の Stercus は「糞」である。

参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press
        園芸植物大事典/小学館
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎
        シンガポール植物園ガイド/シンガポール日本人会
世界の植物 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ