アエグレ・マルメロス
Aegle marmelos Correa ex Roxb. ( 1798 )
← Crateva Marmelos Linn. ( 1753 )
科 名 : ミカン科 Rutaceae
属 名 : アエグレ属  Aegle Correa ( 1798 )
英語名 : Bengal quince , Stone apple , Wood apple
現地名 : BEL ベル
原産地 : インド・パキスタンから、カンボジアまで
用 途 : 実を生食で あるいはドライフルーツとして食べ、またジュースとする。
若い葉や新芽は野菜として使われる。
(Wikipedia English より)
撮影地 : パキスタン

パキスタン北西部の街ラホールの大きな植物園、ジーナ植物園で見たものだが、訪れたのは10月で、5mぐらいの高さの枝先に青い実がなっていた。

以前に「マルメロ」を見たことがあったのに、それを忘れていた私は、木に打ち付けられたプレートの学名を見て「ああ、これがマルメロか...」とすっかり納得してしまった。
しかし後で考えれば、マルメロはリンゴの仲間でバラ科、この植物は Rutaceae ミカン科であった。

さて、トップの写真は果実付きの枝を何本か折って地面に置いて撮った写真である。 まずここで、枝を折ったのは私ではないことを言い訳しておきたい。

この木はジーナ植物園入口に近いところにあったが、「マルメロ」を初めて見た嬉しさで、例によって木の根元・幹・ひこ生えの葉や高い所に生っている実などの写真を撮り終えて、全体像を撮ろうかと木から離れた。
私の様子を眺めていた学校帰りの子供たちが、「外国人」である私の気を引こうとしたのか、長い木の切れ端を投げ上げて実を落してくれたのである。
 
名札 小学 高学年かな?


おかげでアップの写真が撮れたが、子どもたちは散歩中の老人に叱られてしまった。
せっかくなので落してくれた実の写真を撮っているうちに、私も全体の写真を撮ることを忘れてしまった。
木の高さは10mもあったろうか。
 
見事に枝ごと落ちた実はまだ若く、熟していない感じであった。
全体に白っぽいのは 毛が生えているためだろうか。
実の中は一般的な「ミカン」とは違って「袋」がないようだ。どのくらい日が経てば食べられるのか。聞いておけばよかった。
 
実の様子 幹を見上げる

 
普通のミカン類の葉は一枚であるが、この植物は3枚の小葉からなる「複葉」である。3枚の小葉という点ではカラタチの葉に似ている。
葉の付け根には柑橘類の特徴であるトゲもある。

幹はひと抱え以上あり、直径 約 60cm。
 
葉とトゲの様子

名前の由来 アエグレ・マルメロス Aegle marmelos

仮の和名 マルメロモドキ
本種には和名がないので仮の名前を付けたい。
種小名にちなんだ 「マルメロモドキ」 はどうだろうか。
 
 
種小名 marmelos: マルメロに似た という意味と思われる
下図の後半部分6行が、リンネが本種について『植物の種』(1753) に記載した444ページの部分である。リンネが分類したのは CRATEVA 属(フウチョウソウ属)であった。 学名は Crateva marmelos となる。
 
現在の学名 Aegle marmelos は、アエグレ属を新設したポルトガルの政治家および科学者であった、ホセ・フランシスコ・コッレアが 1798年あるいは 1800年に分類し直したものである。

 
ところが なぜリンネが marmelos と名付けたのか、その根拠がよくわからない。
 
Marmelo という名の属は今日まで無く、またリンネは、ほかに marmelo という種小名を付けてもいない。
上図 Marmelos の項の2行目以降は『植物の種』以前の書物の参考記述であるが、ここにも marmelo の文字は見当たらない。
 
そして肝心の「マルメロ」に対してリンネがつけた名前は ナシ属 Pyrus Cydonia であり、その記述にも marmelo の言葉は出てこない。
 
推論としては、
リンネは Pyrus Cydonia をポルトガル語で「Marmelo」と呼ぶことを知っており、本種の果実が細かい毛で覆われている点がマルメロに似ているために、種小名を marmelos としたのではないだろうか。
 
Aegle アエグレ属 : ギリシア神話のニンフの名前から
属名の和名は付けられていないようだ。
 
Aegle は、ギリシア神話のヘスペロス Hesperus (宵の明星) の4人の娘たち (Hesperides) のひとりで、「閃光」を表している。
ほかの3人とともに、世界の西の果てにある「黄金の林檎の園」を守っていたという。
本種はミカン科なので、ミスマッチか...。
 
この由来からすると、Aegle marmelos こそバラ科の 「マルメロ」の学名にふさわしい。
 
ミカン科 Rutaceae :
ミカン科と名が付いているが、基準となる属 Ruta属は「ヘンルーダ属」である。

『園芸植物大事典』によると Ruta は、下の写真「ヘンルーダ」の古代ラテン名に由来する とあるが、Rutaの意味は不明である。
 
ヘンルーダ 花の詳細

小石川植物園

撮影は5月27日

 
 参考 マルメロ  −  マーマレードの語源
バラ科 マルメロの学名は Cydonia oblonga Mill. (1768) が一般的で、属名の和名もマルメロ属であり、この属はマメルロ一種のみである。

(Index Kewensis は、リンネが分類した Pyrus cydonia を採用している。研究者によって分類の解釈が違うためである。)
 
マルメロの樹形 マルメロの実
高さ3m程度の落葉小高木。まだ小さな実は 見事な毛に包まれている。 これを見たのは2000年のことであった。
ボストン アーノルド植物園
 
マルメロの葉 マルメロの図

 
図は Wikipedia-Portugues
のページから
 
マルメロ の名はポルトガル語の marmelo の読みである。
ギリシア語では melimelon で meli 甘い+ melon リンゴの意味であるという。
リンゴのラテン語は malus であるが、イタリア語は mela 。

英語には marmelo という単語は見当たらず、quinceである。

図を見ると全体的に「カリン」に似ているが、カリンの果実はもっときれいな楕円形で表面は無毛であり、葉には鋸歯がある点が大きく異なっている。

種小名 oblonga は「長楕円形の」という意味で、実の形に由来している。

属名 Cydonia はクレタ島の古代都市 キドン Cydon に由来するという。 マルメロの原産地は、中央アジアからイランであるが、ギリシア・ローマの時代から栽培され、属名としては間違った産地名が付けられてしまった。

英語の quince も語源は同じようだ。
 

マーマレード

古くから栽培されているという割には、マルメロの果肉は硬くて生食できず、薄切りにして砂糖漬にしたり、ジャム・ゼリー・シロップ漬け、咳止めに使われる。

これらの点も カリンに似ている。

そのデザートをポルトガル語で「マルメラーダ marmelada 」と呼び、今日のマーマレードの語源となっている。

ここでも リンゴに関係する言葉が、現在では、オレンジを代表とする食品の語源となっているのが面白い。
 
参考文献 : Species Plantarum 復刻版/植物文献刊行会
        Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        日本大百科全書/小学館、
        リーダーズ英和辞典/研究社
        羅和辞典/研究社
        Classic Encyclopedia
        Merriam-Webster's Online Dictionary
        Wikipedia English
        Wikipedia Portuguese
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