アルピニア・プルプラタ
Alpinia purpurata K. Schum. (1904) 
← Guillainia purpurata Vieill. (1866)
科 名 : ショウガ科 Zingiberaceae
属 名 : ハナミョウガ属 
 Alpinia Roxburgh (1820 ?) nom. cons.
英 名 : red ginger
原産地 : 東マレーシア熱帯地域 (スラウェシ島からニューギニア) と推定されている。
『植物の世界・朝日新聞社』
用 途 : 花 (苞) が美しいため、観賞用に栽培される。
撮影地 : ドミニカ共和国 、日本 温室
 

アルピニア・プルプラタは 葉、花ともに美しいために、国内ではどこの温室でも育てられている。
 
1976年に開設されたドミニカ国立植物園には日本庭園(のようなもの)もあり、広い園内を案内する無軌道車(トラムカー)が走っている。
ただし、客が10人以上集まるまで発車しない。
 
ドミニカ国立植物園

アルピニアは、入り口からはずっと離れた林の日陰にあった。
 
高さ 1.5 m程度 葉の大きさは 40cm

 

ショウガ科の花は茎(偽茎)の先に付くことが多い。
下左の写真は花序が出てきたところ。

右の写真は花が咲き進み、花序が伸びきって垂れ下がった状態である。しかも茎の先端から何本もの新芽が出ている。
咲いた花に種子ができ、それが落ちずにその場で芽が出てきたものと考えたが、それは間違いで、『熱帯花木と観葉植物図鑑』に、「先端部に幼芽が生じるのが特徴」 とあった。

10本以上の芽が出ている。これが大きくなると重さで親の茎が倒れ、新芽の元から根が出て新たな株となる、という仕組みであろう。
新しい花序 咲ききった花序

 
赤い苞の株の隣には、ピンク色のものもあった。
ピンク色の苞の間には白いつぼみが見えたが、咲いてはいなかった。

下右の写真は、京都植物園で咲いていた「白い花」である。
ピンク色の苞 京都植物園のアルピニア

園芸品種らしい。
 

この苞の色もまた少し違う。
名前の由来 Alpinia purpurea

和 名 : な し
和名を付けるとしたら「ベニハナミョウガ」となろう。
赤い花の咲く(苞の色が紅い)ハナミョウガ属 である。

「ベニショウガ」では別の意味になってしまう。
「ベニ・アルピニア」も考えられるが、一般にはアルピニア属の名に馴染みがない。
 
種小名 purpurata : 紅紫色の という意味
苞の色が紅色のため。

purpurata および purpurea の種小名を持つ植物は極めて多い。
 
英語名 red ginger : 赤い花の咲くショウガ
英語圏には「紅生姜」は無いので、問題なし。
 
Alpinia属 : ハナミョウガ属、 ゲットウ属
「アルピニア」と聞くと「アルプス」を連想して、高山植物のようなものかと思ってしまう。

アルピニア属は、リンネが『植物の属』(1735) で定義した多くの属の中のひとつであり、イタリア生まれの医師で植物学者の Prosper Alpini (1553-1815) を記念している。

アルピーニは27才の時にエジプトのカイロに渡り、ナツメヤシの研究で植物に雌雄異株の存在を示唆したという。また、コーヒー・バオバブ・バナナなどについての報告を、ヨーロッパで初めて出版した。 (Wikipedia より)

リンネは『植物の種』(1753) で Alpinia racemosa という種を1種だけ記載した。ところがこの種は後にティランジシア属の植物であるということになり、『植物の種』を出発点とする学名の定義では、Alpinia属 をリンネが定義したことにはならなくなってしまった。
 
属名の現在の正式な命名者は Roxburgh (1751-1815) になっている。

熱帯地方に250種以上があり、ショウガ科の約半数を占める大きな属である。
 
 ハナミョウガ 花茗荷 Alpinia japonica Miq. (1867)
← Globba japonica Thunb. ex Mirr. (1784)
チュンベリーが初めに学名を付けたハナミョウガは、関東地方から台湾、中国南部まで分布する Alpinia属の日本での代表選手である。

和名の由来は、葉など全体の姿はミョウガに似ているが、きれいな花を咲かせることによる。
ハナミョウガ
私自身はハナミョウガを見たことがないので、例によって春日健二氏のホームページ『日本の植物たち』から写真をお借りした。
 
こちらは淡い朱色やピンクの色で、温帯生まれのためか、「ベニハナミョウガ」よりも東洋的な姿である。
写真は春日健二氏
(kasuga@mue.biglobe.ne.jp
のホームページより
 

 ミョウガ 茗荷 Zingiber mioga Roscoe (1807)
← Amomum mioga Thunb. ex Murr. (1784)
上記、本物の「ハナミョウガ」はほとんど知られておらず、通常は食材として利用する「茗荷の花穂」のことを、ハナミョウガと呼んでいる。
 
花穂の中にはつぼみがあるわけだが、断面を見ても花の様子はよくわからない。
ハナミョウガ その2
ミョウガの最初の命名者も ハナミョウガと同じくチュンベリーで、種小名は「ミオガ mioga」となっている。
 
当初の分類はショウガ属の親類 Amomum属であった。
マレー原産の Amomum uliginosum の和名は「ショウガモドキ」である。
ショウガ科 Zingiberaceae :
ショウガ科の基準属は ショウガ属 Zingiber である。

学名の由来については『園芸植物大事典』の記述をそのまま引用する。
 
「角形の」を意味するサンスクリット語が転訛したもので、根茎にちなむと思われる。 inchi (根の意) からのマレー語 inchiver と同起源であるといわれる。

引用はしてみたものの、ショウガ科の植物の根が「角形」というのは、どうしても納得がいかない。
 
 参 考
 
フイリゲットウ 斑入り月桃 : Alpinia sanderae hort. Sandder (1903)
ドミニカの Alpinia purpurea の隣には、さらに和名「フイリゲットウ」も植えられていた。
フイリゲットウ
私は一般的に「斑入り」の種は好みでないが、これは きれい!
 
艶やかな深緑に真っ白な斑。

熱川植物園のフイリバナナと共に例外的に好きな斑入り種である。

事典によると原産地はニューギニア島で、花は咲きにくいということである。
和名として「斑入り月桃」の名が付いてしまっているが、 ゲットウAlpinia zerumbet とは別種、つまり「月桃の斑入り」ではない。

「フイリハナミョウガ」としても同じ理由で不適切。
「フイリアルピニア」しかない か?
 
ゲットウ 月桃 : Alpinia zerumbet B. L. Burtt & R. M. Smith (1972)
ゲットーの名は Ghetto (都市の中でユダヤ人が強制的に住まわされた居住区) を思わせ、非常にイメージが悪い。

しかし、ゲットウは漢名「月桃」の音読みであり、致し方ない。

分布は九州南部からインドまでと暖かい地域であるが、耐寒性があって東京でも路地で開花する。

さて、月桃の意味するところは何かとなると、その解説がどこにも見あたらない。
事典の名前の由来で「○○語の△△による」というケースの場合、ほとんどがそこで終わってしまい、元の△△の意味が出ていないことが多い。

桃は中国では霊力のある果実となっている。
「桃」はゲットウの、ピンクがかっている白いつぼみを指すのであろう。
すると、「月に生る桃の実」か?
奄美大島のゲットウ 福岡植物園 屋外
奄美のものは自生状態である。中央に白い花が咲いているが、この写真ではわかりにくい。

福岡のゲットウは温室の前に植えられていた。11月中旬であったが青々としてきれいな葉である。
垂れ下がる花序 花のアップ
花弁は黄色に赤い縞がはいっている。この赤がなければいいのだが...。
つぼみの状態の方がきれいである。
果実には筋がある 黄色から赤へ
 
キフゲットウ 黄斑月桃 : Alpinia zerumbet 'Variegata'
これは正真正銘のフイリのゲットウで、園芸種である。
白の場合と同じように、葉脈に沿った不規則な幅の黄色い斑がはいる。
まあ...、これもきれい。
キフゲットウ
斑のはいっていない緑の葉と橙色の花は、別の植物である。 
名古屋市立東山植物園
 
 
 裸名 nomen nudum について
 
フイリゲットウ Alpinia sanderae の命名者は、hort. Sandder となっており、通常の人名とは異なっている。
 
この hort. は Hortorum (庭園の) あるいは Hortulanorum (園芸家の) の略で、命名規約に基づかない名前であることを示している。
 
フイリゲットウの場合は、hort. の後に固有名詞が続いており、horti Sander & Co. (19c.後期〜20c.前期) の略称である。園芸店や種苗園のカタログに載った例などであり、これも正式名称ではない。
 
 
国際植物命名規約で有効な名前とするためには、以下のような条件が必要となる。
 
 @ ラテン語で植物の特徴を記載し、ほかの種との違いも明確にする。
 A 基準とする標本を伴う。
 B 種や属、目などの「分類階級」に対応した学名を付ける。
 C 植物学関係の雑誌などで印刷物として公表する。
 
 
学名らしい名前は付いているが正式な学名ではないものには、学会用語で「nomen nudum」 (略称 nom. nud. ) が命名者の位置に記載される。
日本語は直訳というか誤訳? した「裸名 (ラメイ)」が使われる。
 
「名前」という言葉に「nude」が付くのは、nude に「無効な」という意味があるためで、「裸」もわからないではないが やはりちょっと 変?
「無効名」とでもすべきであった。
 

もし裸名のままの種を探し出して学会誌に正式に発表すれば、例えば
   Alpinia sanderae hort. Sandder ex Takahashi
などという形で、学名に自分の名前を残す ということができないのだろうか....。
この項の参考文献 
『ビジュアル 園芸・植物 用語事典/土橋 豊』
『園芸植物大事典/小学館』
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        熱帯花木と観葉植物図鑑/誠文堂新光社、
        春日健二氏のホームページ「日本の植物たち」
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