ナンヨウゴミシ 南洋五味子
Antidesma bunius Spreng. (1824)
← Stilago bunius Linn. (1767)
科 名 : コミカンソウ科 Phyllanthaceae
属 名 : ヤマヒハツ属 Antidesma Linn.
             (1745)
旧科名 :  トウダイグサ科 Euphorbiaceae
現地名 : Buni(スマトラ、ジャワ、スラウェシ)
原産地 : 中国、バングラディッシュ、インド、東南アジア、パプアニューギニア、オーストラリア、ハワイ、ポリネシア
用 途 : 鑑賞樹、生け垣。果実をジャム・ゼリー・ワインなどに加工する。材を使う
撮影地 : シンガポール植物園

バンドスタンドから西側に続く斜面に植えられている。雌雄異株で、雄株・雌株が一本ずつ。写真はすべて 2014.7.3 に雌株を撮ったもの。
樹 形
右側に雄株がある。簡単な説明板があり、1926年に植えられたとあるので、樹齢は 約 90年。

幹の状態
通常は真っ直ぐ伸びて高さ30m以上になるが、この木は根元で枝分かれしている。
前の写真の裏側から見たもの。小さな立て札は「枝に上らないで下さい」という注意書き。幹がでこぼこになるのは、この木の特性。

葉の様子
サンゴジュの葉を思い浮かべた。長さ 10~18センチと大きい。
葉は互生。最近出た葉がみずみずしい。古い枝に果序が付いている。
若い葉には 二枚の托葉が付いている。葉腋にできているのは花芽だろうか。

若い果実の様子
果実の時期だったので 花の写真は無い。これは Wikipediaにあった 開花終了時の様子。

美しい果実
完熟すると黒くなって甘くなり、生で食べられるそうだが、普通はジャムなどに加工される。一つの大きさは10ミリ程度。
前の写真ではほぼ同時に幼果ができるのに、果実の色にむらがあるのは、それぞれの果実が熟す速度がまちまちであるため。まるで 宝石をちりばめたような、というのはこのことだろう。




名前の由来 ナンヨウゴミシ Antidesma bunius

ナンヨウゴミシ 南洋五味子 : 果実の形態から
ゴミシ 五味子 とは、漢方、日本薬局方で マツブサ科のチョウセンゴミシ Schisandra chinensi の果実をいう。本種の赤い果実が、チョウセンゴミシの果実に似ていることから名付けられた。
サラマンドノキ という別名があるようだ。

 ← ゴミシ、チョウセンゴミシ 朝鮮五味子 :
チョウセンゴミシの果実が「甘・辛・苦・酸・塩(鹹)」の五つの味をもつということから「五味子」と呼ばれ、それが植物名となったもの。
日本にも自生するのに「朝鮮」の名が付いているのが不思議。
漢方としての利用が 朝鮮を通じて伝わったのだろうか?

軸の周囲に多くの赤い実が付くところが似ているのだが、両者の果実のなりたちは まるで異なる。
ナンヨウゴミシ チョウセンゴミシ Schisandra chinensis

ナンヨウゴミシは 花序軸に多くの小花が付き
それぞれが 一つひとつの果実となったもの。

次の2枚とともに Wikipedia より
          花       チョウセンゴミシ   伸びた花托に付く果実
チョウセンゴミシは、ひとつの花花床が伸びて軸状になり、そこに多くの心皮が成熟して付く特殊な形の集合果。
左右の写真の は、同じ位置であることを示している。

種小名 bunius
インドネシア近辺の地方名 Buni を種小名としたもの。

ナンヨウゴミシの命名経緯
西暦 学 名 命名者 備 考
1745  Antidesma  リンネ  この属名はビュルマン(1706-1779)が提唱して
 いたもの
1753  A. alexiteria  リンネ  現在は有効ではないようだ
1767  Stilago bunius  リンネ  本種 ナンヨウゴミシ を Stilago属として記載
 結果的には、Stilago属は Antidesma属と 同じだった
1824  A. bunius  スプレンゲル  Stilago bunius を訂正して記載。
Caroli Linnaei Systema Vegetabilium (ed. 16)

BHL Wiki:Biodiversity Heritage Library」より
原書では種小名の頭文字を Buniusとし、固有名詞を表している。

なお、Stilago属の「性」は女性なのに 種小名を buni_us としたのは、 Buni の性が男性であるため。これをふまえて属名を 中性の Antidesma属に変更した時にも、buni_um とはされなかった。

この規定は、命名規約 (メルボルン) 第23条の5 にある。

Antidesma属 : 由来は不明
『植物学名辞典 / 牧野 ら』には、ギリシア語の anti 對(反) + desmos 帯 とあるが、その由来はわからない。

ヤマヒハツ属 : 山に生えるヒハツ の意味
ヒハツ (ナガコショウ) Pipel longum L. はコショウ科の植物で、中国名「畢抜 bi ba」を音読みしたものである。インド・ネパールが原産地といわれ、クロコショウ P. nigra と同様に紀元前から知られていて香辛料として利用された。

ヒハツのインド名 pipali に由来するラテン名から、属名 pipel や 英語名 pepper がおこった。
ヒハツ Pipel longum の果実 Wikipedia より
同属で 日本に自生するのが ヤマヒハツ Antidesma japonicum である。

コミカンソウ科 小蜜柑草科 : 実の形による
コミカンソウ     2007.10.14.
5ミリ前後の小さな実の形が、扁平でミカンに似ているため。
枝に並んだ葉が まるで複葉に見えるのが特徴。セイロン島の原産といわれているが、全世界に広がり、どこにでも いつの間にか生えてくる。本種とはまるでイメージが違う。

Phyllanthaceae :
ギリシア語の phyllon 葉 と anthos 花 を合成したもので、葉のように広がった枝に花が咲く種があることに由来する。
Phyllanthus epiphylanthus
フェアチャイルド熱帯植物園の写真より

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