イヌビワ 犬枇杷 Ficus erecta Thunb. (1805)

 
科 名 : クワ科 Moraceae
属 名 : イチジク属 Ficus Linn. (1737)
原産地 : 関東以西の本州、四国、九州。朝鮮半島南部、台湾
用 途 : 特になし。
『花と樹の大事典』によると、「実を子供が食べる。若芽が食用になることもある。葉は家畜の飼料となる」 とあるが、いずれも過去の話と思われる。
撮影地 : 日本
 
ほとんどの写真は小石川植物園で撮影したものである。
 
林内で横に広がる樹形 高さ 2.5 m
 
ぶら下がる実 (花) 実の断面

赤くきれいに色づくこともある。
実の大きさは、大きくても25mm程度。
 

イヌビワは雌雄異株であるが、これはどちらの「花」かはっきりしない。
幹の様子 黄葉

幹は灰白色できれい。
この木は傾斜地に生えているため、幹が斜めになっている。
 

イチジクと同じく落葉性で、けっこうきれいに紅葉する。
              京都植物園で
名前の由来  イヌビワ Ficus erecta

イヌビワ : 「劣ったビワ」の意味。
正確には、「ビワに似ているが、ビワより劣っている」という意味になる。

イヌを冠する植物はたくさんあるが、「イヌ」はもちろん動物の犬ではなくて、「元の植物・本家に比べて劣っている」あるいは「役に立たない」という意味で使われている。

それはともかくとして、何がビワに似ているのか?
まずは両者の葉を較べてみよう。
イヌビワの葉 ビワの葉


イヌビワの葉は先の尖った「楕円形」で、普通の葉の形である。鋸歯もなく無毛である。
ビワの葉は「狭い楕円形」。
ご覧のように全然似ていない。

やはり似ているのは「実」とすべきであろう。
実の形がビワに似ているが、食べるほどのものではない、ということである。
実際に食べてみたことがあるが、うまく熟していなかったためか、まずくて食べられなかった。

個人的には、イヌビワの別称の一つ「コイチヂク」が適切であると思う。
 
種小名 erecta : 「直立する」という意味。
イヌビワの実(花の集まりで、果嚢という)は葉の腋に付く。前出の写真のように垂れ下がることもあるが、上向きに付いているものを多く見かけた。
これが erecta の由来ではないだろうか。
 
Ficus
イチジク属 無花果属 :
Ficus はイチジクのラテン語の古名に由来しているというが、その古名や意味は不明である。
世界の熱帯から暖帯まで約 800種ある。

「イチジク」の名の由来は、ペルシア語 anjir を音訳した漢名「映日果」(インジェクオ) がイチジクに転訛したもの。『花と樹の大事典』

漢字の「無花果」は中国名をあてて「イチジク」と読ませたものである。
これはイチジクの花が外からは見えない「花嚢」の中にあり、それがそのまま「果嚢」となるところから名付けられた。
イチジクの実 イチジクの葉

 


左の写真の実はまだ青い。
実の付き方はイヌビワと同じ。
クワ科 Moraceae : mor (黒の意) から。
クワに対するラテン古名に由来する。そのもともとの語源はケルト語の mor で、熟した時の黒いクワの実にからきている。
 
アカグワ
日本には6種ものクワが自生しているが、種類を特定できている写真がないため、外国産の写真を載せる。
 
Morus rubra Linn. (1753)
アーノルド植物園
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        花と樹の大事典/植物文化研究会 編
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