カイガンタバコ 海岸煙草
カロトロピス・ギガンテア

Calotropis gigantea W. T. Aiton (1811)
←Asclepias gigantea Linn (1753)
科 名 : ガガイモ科 Asclepiadaceae
属 名 : カイガンタバコ属 
   Calotropis R. Br.(1809)
英 名 : crownflower, giant milkwood
原産地 : イランから、パキスタン、インド、インドシナ半島諸国、中国。 海岸近くに生える。
用 途 : 大量に出る乳液は有毒だが、強心作用がある。 また樹皮や根もから繊維が取れ、漁網、釣り糸、紙などが作られた。
撮影地 : 米国 、日本 (温室)

以前に (仮称)ムラサキカイガンタバコ Calotropis procera は掲載しているが、同じ属である。 オアフ島の何カ所かの植物園で見かけた。

高さ 3m強                 2013.7.3
花が紫色なので 初めは Calotropis procera かと思ったが、花の形がカイガンタバコだった。




参考 : Calotropis procera
 (仮名)ムラサキカイガンタバコ


筑波植物園 温室の ギガンテア       2013.4.7
筑波で見た ギガンテア、花が白いのが一般的。

開き掛けの花

花を三方向から見る


名前の由来 カイガンタバコ Calotropis gigantea

和名 カイガンタバコ 海岸煙草 :
海岸近くに生えて タバコに似た葉を持つ というのが由来だろうが、タバコの葉ほどは大きくなく、また 薄くしなやかでもない。 品種改良される前のタバコ葉は もっと厚かったのか?
カイガンタバコ タバコの葉

種小名 gigantea : 「巨大な」という意味
カイガンタバコ属には6種類があるそうだが、本種が特別大きいわけではない。
gigantea の由来を説明するには、リンネが命名した元の名前 「Asclepias gigantea 」を説明する必要がある。
リンネは本種を、『植物の種』(1753年) で ガガイモ科の「トウワタ属」 Asclepias として分類した。 トウワタ属のほとんどは草本で背丈は低い。 一方でカイガンタバコは5mにもなるため、「gigantea 巨大な」という名にしたというわけ。

約半世紀後にカロトロピスに分類し直したのは、イギリスの William Aiton の息子、William Townsend Aiton (1766-1849)である。

以下に カイガンタバコ ともうひとつの代表的な種、C. procera (仮名)ムラサキカイガンタバコ 両者の命名の経緯を示す。

命名年 属名 ・種小名 命名者 備考
1737  Asclepias  リンネ  トウワタ属
@ 1753  Asclepias gigantea  リンネ  最初の記載、現在はカイガンタバコの異名
A 1789  Asclepias procera  エイトン  最初の記載、現在は Calotropis procera の異名
解説: エイトン (1731-1793) は リンネに倣って?トウワタ属に分類した。
Aitonはキュー植物園の植物 5,500種を記載した"Hortus Kewensis" を
1789年に出版した。 カイガンタバコよりは背の低い種であるため、「巨大な」
に対して控えめに、「procera 高い」という名にしたものと思われる。
1809  Calotropis  ブラウン  カイガンタバコ属
1811  Calotropis gigantea  W. T. エイトン  カイガンタバコ
解説: エイトンの息子 W. T. エイトンが、リンネの命名@ を訂正した。
腑に落ちないのは、父が命名した A Asclepias procera を訂正しなかった
こと。 気がついていたに違いないと思うが・・・。
1813  Calotropis procera  Dryander  Aを カイガンタバコ属に訂正


Calotropis カイガンタバコ属 : 海岸煙草属
学名はギリシア語で美しいという意味の"kalos" と、竜骨という意味の"tropis" を合成したもので、小学館の園芸植物大事典によると 「花の各部の美しさにちなむといわれている」 とある。

カイガンタバコ属を立てた R. ブラウン (1773-1858) は、Asclepias トウワタ属を中心に ガガイモ科の花を調べ、ランの花のように特殊な構造を持っていることを 1831年に発表した。 カイガンタバコ属の記載は 1809年だが、この研究の一環で「トウワタ属とは明らかに違う」として新しい属を記載したものと思われる。 ただし、「属」と同時に「種」を記載していないようなのが不思議である。
 

竜骨というと普通、恐竜の背骨とあばら骨を考えるが、マメ科植物の蝶形花で一番内側の花びら、下部が合着した一組のことを竜骨弁(別名 舟弁 k eel )と呼ぶ。

事典には「花の各部」という表現があったが、注目したのはやはり 肥大して曲がった「雄しべ (肉柱体) の部分」だろう。

以前、カロトロピス・プロケラの葉脈に注目したことがあった。 葉の裏側である。 葉緑素が少ないためか、細かな毛が多いためか、白く しかも 出っ張った「中央脈」と「側脈」を 「美しい竜骨」に見立てたのだが、前掲の写真によって 「花 由来説」で納得した。

ガガイモ科 :
定説はないが、「カガミイモ」が転訛したものという説が有力である。 カガミグサ、ジガイモ とも。 しかし由来ははっきりしない。
ガガイモ                  2011.7.26
小石川植物園 分類表本園 花には虫がたかっている
ガガイモは日本だけでなく、朝鮮半島や満州地方にも自生する。

古くは「蘿摩」と書いたそうで、漢和辞典にも 読みはラマ、意味は「ががいも」 として載っている。 「蘿」は つた ・かずら、「摩」は こする ・磨く の意味である。 これは漢名で、種子を乾燥させたものを「蘿摩子」と呼んで、強精薬としたそうだ。 

利用方法が古くに中国から渡ってきたとすれば、ラマイモ → ガガイモ もあり得るのではないか?

果実や種子は 観察したことがない。

Asclepiadaceae ガガイモ科 :
Asclepias トウワタ属 :     人名による
Asclepias の由来にはふたつの説がある。

 @ ギリシア神話に登場する医の神 Asklepios
     杖に絡まった蛇のモチーフは医の象徴となっている。
 A 紀元前1C、ギリシア生まれでローマの名医 Asclepiades

牧野の『植物学名辞典』は、綴りは少し違うものの「医師名」とあるので、A の医師 アスクレピアデス説であろう。

@ のアスクレピオスをラテン語で綴ると、アイスクラピウス(アイスクラーピウス、Aesculapius )になるとのことであり、属名とはかなり違う。 私も A の 医師名説としたい。

いずれにせよ、トウワタには毒があり、一方で解熱・利尿・痛み止めなどに使われるために、医学関係の人物名を冠したものと思われる。

参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        GRIN/アメリカ農務省
        園芸植物大事典/小学館、
        朝日百科/植物の世界/朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎
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