カナリウム・インディクム
Canarium indicum Linn. (1759)
科 名 : カンラン科 Burseraceae
属 名 : カンラン属 Canarium Linn. (1754)
英語名 : Java-olive, canarium-nut, galip
原産地 : 熱帯アジア(インドネシア セレベス島、ジャワ島)、パプア・ニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツ
用 途 : 街路樹、作物のための緑陰樹として栽培される。
種子を生や煎って食べたり、菓子にも使われ、また油を取る。 樹脂は香料や薬剤として使われた。
撮影地 : インドネシア
 
1817年にオランダによって開設されたボゴール植物園には、正門から 450mも続く、カナリウム並木のメイン・ロードがある。

この並木は、1830年に就任したドイツの造園家、ヨハネス・エリアス・テイスマンによって植栽された。
樹齢 200年弱 といったところだろう。

ボゴール植物園 第一 カナリウム通り

はっきりとした「板根」があるが、それほど巨大ではない。。
第一カナリー通りの半分以上は池に面しており、その奥は池を隔てて宮殿の敷地となる。

葉の様子 つぼみ
花は極めて小さく、硬いつぼみの状態では直径 4mm程度。
花 (雄花)の様子
事典によると雌雄異株ということである。

すでにたくさん実が生っているところからすると、雌花はもう終わって、これは雄花の2番咲き?かもしれない。
花弁は3枚。雄しべは6本。
実の様子
共に若い果実であるが、右の写真はフラッシュを焚いたもの。
表面に粉が吹いているのがわかる。
サイズは 約2.5cm。大きいものは 4cm以上になる。
落ちていた果実
遊歩道の説明板に、「果実(種子ではなく 核)をキーホルダーに加工したものが、植物園の名物だ」 と書いてあり、実際に売り歩いているおじさんがいて、見せてくれた。

そのままではくすんでいる石果が、ピカピカに磨かれていた。
核 とその中の 種子
きれいな果実を見せられたので、下を見ながら拾い集めたのだが、果実が落ちているところと 落ちていないところがあるなあ、と思っていた。

その場では「皆が拾ってしまうからだ」と考えたが、別の大きな理由は「雌雄異株」にあった。雄株の下には落ちているはずがない。
一番左は黒い「果皮」を付けたまま乾燥させたもの。

「核」は断面が三角形で色は茶色く、尖端に短い3本の白い筋がある。
「種子」を食べるべく、カナヅチで割ろうとしたが恐ろしく硬かった。

当然子房の数も3室だが、小さな果実では種子が ふたつ ないし 一つしかないものもあった。
油を多く含む種子は生でも食べられるが、やはり少し煎った方がおいしかった。
 
名前の由来 Canarium indicum

和名 : なし
種小名 indicum : インドの
学名の indicum に倣って和名を「インドカンラン」としたいところだが、原産地の西限はインドネシアで、「原産地を示す」という意味ではこれも間違いである。

西洋人による発見、そして命名時点の18世紀中頃には、インドでも栽培され、野生化していたのであろう。

ボゴール植物園のガイドブック『Four Guided Walks』の表紙のタイトルは「カナリウム通りのつる植物」で、第二カナリウム通りの並木に絡みつく様子を撮った写真である。
ただし、本文での本種の名前は Canarium commune となっている。
正式名は Canarium indicum の方で、これはリンネが 1759年に出版した『Amoenitates Academici ・・・・、第4版』に記載したものである。
一方で C. commune も、リンネによるもので、1767年『Mantissa Plantarum 植物補遺』に、同じ種を別の学名で記載した。

同じ種とわかっていて名前を付け直したのか、それとも 別種と勘違いしてダブってしまったのか。

commune は「普通の、共通の」という意味である。
 
カンラン属 橄欖属 および カンラン科 橄欖科
中国名の「橄欖」を音読みしたものである。 意味は不明。

「カナリウム」が中国に伝わった時に、「カンラン」になったようにも思う。 音だけを取って、「敢」、「覧」に木偏を付けて「橄欖」としたのではないだろうか。
 
Canarium属 :
「カンラン Canarium album のマレー語の呼び名 canari による」 とのこと。 『園芸植物大事典』

熱帯アフリカ、アジア、北オーストラリア、太平洋諸島に 約75種。
Burseraceae : 人名による
カンラン科の基準属は「ブルセラ属」である。
「ブルセラ族」と間違えてはいけません!

属名は、ドイツの医師で植物学者の J. Burser ブルーサー(1583-1649) を顕彰したものである。
熱帯アメリカに 約80種。 『園芸植物大事典』

 
 トピックス 枝の構造計算

枝折れ

建築設計の仕事をしているだけに、樹木の強度には関心が強い。

台風などの非常時に枝が折れてしまう事があるのは、仕方がないであろう。
しかし、平時に「自分の重み(自重)」で枝折れしてしまうのでは、成長する意味がない。

ひとつの解決策が、「柳に枝折れなし」 である。
しかし、初めから「しなやかな 枝垂れた枝」であるから、水平方向には大きくなりにくい。
土佐 はりまや橋のシダレヤナギ
普通の解決策をひとくちで言えば、「太くなる」である。

幹や枝は、成長するにつれて太くなる。大木は、風で折れないためにも幹が太いのが当たり前である。

枝も太くなる。
ただ構造力学的には、力がかかる方向 すなわち「縦」に長くなれば経済的である。
そして、植物も当然それを「考えている」。
 

枝が「水平」あるいはそれに近い角度で広がる樹形は、少なくない。

ヒマラヤスギ(マツ科)は、よく見かける庭園樹としては大木になり、枝が幹から水平に出る樹木のひとつである。
枝はその後上向きになることもあるが、大木になっても低い位置の枝が残り、「木登り」しやすい。

小石川植物園 本館前のヒマラヤスギも例外ではなく、水平に張りだした枝は 7mにもなる。その巨大な枝の断面は見るからに「縦て長」である。
ヒマラヤスギ の例

通路側に張り出しすぎたために切られてしまった切り口の年輪を見ると、枝の下側が発達した結果だということがよくわかる。
写真ではわかりにくいが、枝の年輪の中心は上から5分の1ぐらいの所にある。

切った後、切り口を保護するために塗料が塗られている。

木は、傷口から腐ってくるのを防ぐために、自分で形成層を発達させる。
すでに上部は、幅で3分の2をカバーし終わっているが、こんな大きな切り口になると、全部が塞がるのに何年かかるのやら。
 

ハンチ hunch

枝の先の方は葉も少なく軽いので、当然、枝は細くても良い。
幹に一番近い部分が「最大荷重」となる。

これは建物の構造体の場合も同様で、さらに地震時にかかる応力の関係で、柱に近い部分の梁端部に最も大きな強度が必要となる。
 
現在はあまり使われないが、昔は梁の両端だけ「梁成 (ハリセイ)・梁背」を大きくする「ハンチ」が使われた。中央部分のコンクリート量が少なくて、経済的なためである。
 


← 斜めの部分をハンチと呼ぶ
Wikipediaから

木の枝は、片側で支える「片持ち梁」なので、幹側が太く、先は細いのが自然な形である。

次の写真のパナマ・ツリー Sterculia apetala では、枝の上側が太く発達している。
パナマ・ツリー の例 (逆ハンチ)
普通の樹形は真っ直ぐ上に伸び、水平に枝を出す。(写真 下右)

ところが ドミニカ植物園の日本庭園では、「盆栽風」に仕立てるため?に高さを抑えられてしまったので、枝が異常に横に伸びてしまった。
樹高よりも枝の長さの方が大きい。

それを支えるために、上側にハンチが付いた形である。
発達した部分は薄いので、次の「補強プレート」に近い。
 

補強プレート

鉄骨造の場合は、鉄の板を添えて補強する。
最近追加された橋桁の「落下防止プレート」などでは、複数枚の鉄板で補強してあることが多い。
 

← H型鋼の壁際に 三角形のプレートを取り付けて、補強している。
 
驚異の補強プレート?

この写真を見て欲しい。
ボゴール植物園でこの巨大なカナリウムを見上げた時、いったいどうなっているのか? 何が付いているのか? 本当に「信じられない光景」だった!
 
Canarium decumanum
横からは「セイウチ」が2匹並んでいるように見える。

まるで錆びた鉄板を打ち付けたようだ・・・。しかもその鉄板が、幹から浮いているように見える。
 
   ↓ 成長中のもの

 
訂正記事
左側の枝にわずかにあった、「成長途中」の茶色いものをヒントに、木が自分自身で作った「自然構築物」ではないか?
と、一度は判断した。

ところがそれは間違いで、『樹木散歩 ボゴール植物園』によると、「オオミツバチの巣」ということだ。

暗褐色のものには 蜜がいっぱいに詰まっているのだという。

 
Canarium decumanum Gaertn. (1791)

 カンラン科カンラン属、モルッカ諸島原産
 
高さ 約 50m

板根の肩までの高さ 5m以上



残った問題は、この2本の枝は「切られた」のか「折れた」のか・・・。

自然のままの状態にしているボゴール植物園で、何十メートルもの高さのところの枝を切るだろうか?

切断面はすでに樹皮で覆われているが、その形は両方とも不規則な形をしていて、チェーン・ソーなどで切ったものではないように見える。

かといって、ミツバチの巣が「補強プレートの役割」を果たすほど 硬いとも思えない。
 
もう一度 訪問する機会があったら、管理者にこの事を確認したい・・・。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        植物の世界/朝日新聞社
        植物學名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎
        Four Guided Walks/Bogor Botanic Garden
        Wikipedia
世界の植物 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ