パンヤノキ パンヤの木
Ceiba pentandra Gaertn. (1791)
 ←Bombax pentandrum Linn. (1753)
別 名 : シロキワタ、カポック、セイバ
科 名 : パンヤ科 Bonbacaceae
属 名 : パンヤノキ属 Ceiba Mill. (1754)
英 名 : kapok tree , silk-cotton tree
white silk-cotton tree
原産地 : 現在では世界中の熱帯地方にあるが、原産地は不明
用 途 : 果実の綿状の繊維を布団、枕などの詰め物に用いる。
撮影地 :
セネガル 、シンガポール
インドネシア 、日本 温室

ダカール市街地のほぼ中心。フランスの援助で建てられた、「フランス文化センター」の中庭にそびえ立つ大木である。
高さは 25 m 以上 ありそうだ。

パンヤノキということは、帰国してからわかったことであり、「パンヤ」が、こんな大きくなる木から採れるものだとは知らなかった。

ぶら下がる紡錘形の果実は10〜30cmにもなり、「カポック」と呼ばれている長い綿毛のついた種が放出される。

上の写真は 10月で、セネガルでは一応雨期であるが、地域によっては乾期に実が生るようだ。
 
立派な 板根

 
板根といえば西表島などにある「サキシマスオウノキ」が有名であるが、実物は見たことがなかった。
初めて板根を見て 感激!

板根は、湿地帯などで地中に酸素が乏しい場合に、横に伸びた根の上側だけが発達したものであるが、板根の下側は土の中にはほとんど伸びておらず、下端で水平に切れているそうだ。

つまり地面に乗っかって幹を支えているだけで、そのまま深く地面の中に食い込んでいるわけではなくて、その先は恐らく通常の「根」となっているものと思われる。
 
1月下旬 乾期の初め の姿 地面に落ちた花

花びらの長さは3cm程度
まだ本格的な乾期ではないためか、部分的にまだ葉が残っている。
うしろのレンガ色の2階建てが「フランス文化センター」の本館。
 
たくさんの蕾が鈴なりになっている(1月)
木が大きいだけに、ただだだ見上げるだけで、葉などの詳細は明らかでない。
 
大きく横に張り出す枝 参考写真 若い幹の刺

生長した幹では刺は無くなる

新宿御苑温室
 
パンヤ科の植物には幹に刺があるものが多い。パンヤノキも若い時には円錐形の白い刺がある。
 
 
シンガポール植物園のパンヤノキ

エコ・ガーデンにある小山の上に植えられたパンヤノキ。
40cmぐらいの幹はまだ緑色で、いかにも若い木だ。
しかし、この木には「トゲ」がない。
 
樹高 約10m (2007年8月)
こちら側(北側)から見ると、あまり板根が発達していないように見える。
 
同じ木を 反対側から
ところが 傾斜に沿って、根が長々と伸びており、根元では板根が「発達中」であった。

地面に近い 茶色くなりかけた部分に較べて、「板」の上部は「緑色」である。これは上に向かって成長しているため、表皮が割れて、中の若い部分が見えている状態である。
 

小山の下へと伸びる根 成長の証
根の表面が膨らんで、緑色の表面に ひび割れができている。
何年かあとには、立派な板根に育っているだろう。
 
葉の様子
若い木だけに、手に取れるところに葉が茂っていて、掌状複葉の様子がよくわかった。

小葉の数は、小さな葉では6枚、通常は7枚のものが多い。

 

ボゴール植物園のパンヤノキ

正門からは遠く離れた「カフェ」の近くに位置する。
この木には、板根にも「トゲ」が残っていた。
 
セネガルの木と同じ形の「板根」
幹の直径は板根の肩(高さ 約 4m)で、1.1〜1.2m。
足下に置いたリュックがスケールとなる。

梢には、熟した果実「パンヤのワタ」が生っており、地面にも大量に落ちていた。
 

 
実の長さは 20cm程度
枝で熟したあとに落ちたものばかりでなく、熟す前に落ちたと見えて、ワタがまだ硬く丸まった状態のものもあった。
 
皮の方に、窪んだ丸い網目状の模様がある。
そのせいで、膨らむ前のワタが独立してトウモロコシ状態になっている。

並び方は、トウモロコシほどきれいではない。
 
種子 長径 5mm
種子は少しいびつな球形で、不定形の突起がある。

地面に草が生えていて乾燥しにくいせいか、ボゴールの木の下では落ちた種子が発芽していて、辺り一面双葉だらけ。
本葉が出ているものもあった。
 
発芽状況


最初の「本葉」の小葉の数は、2枚から5枚まで 様々である。

独立行政法人 森林総合研究所「林木育種センター」のホームページを参考にすると、上の写真は発芽後1ヶ月程度の状態のようだ。
 
名前の由来  パンヤノキ Ceiba pentandra

パンヤノキ
: パンヤが採れる木。
パンヤの名はこの木のインド地方での名前「パニヤ」がもとで、ヨーロッパ人が世界に広めたというが、パニヤの意味は不明。
 
Ceiba パンヤノキ属 :
ケイバ Ceiba は、カリブ海地域のインディアンによるカヌーの呼び名。

大木となるパンヤノキの幹を丸木舟の材料とした。材は柔らかく耐久性は劣るが、加工しやすい利点がある。

10数種類がおもに熱帯アメリカに分布している。
 
種小名 pentandra : 「5雄蘂(ユウズイ)の」という意味。
雄蘂とは植物用語で「雄しべ」のこと。「5雄蘂」は雄しべが5本ということである。

リンネは『植物の種』(1753) で、パンヤノキを Bombax キワタノキ属として記載した。本種以外にも、Bombax ceiba (インドワタノキ)ほか2種、計4種が記載されている。

キワタ類は雄しべの数が極めて多い。そのなかでパンヤノキは雄しべが5本しかないので、リンネはこれを特徴として捉え、 pentandra の種小名を付けたというわけである。

雄しべの数・雌しべの形などの違いから、別の「Caiba 属」が定義されたのはすぐ次の年で、フィリップ・ミラー(1691 - 1771) が新しい属としておこした。
そして、パンヤノキは1791年に Caiba 属に分類し直された。

Caiba 属の雄しべの数はすべて「5本」であるため、パンヤノキの「pentandra」という種小名は意味をなさないことになってしまったが、上記の経緯があったためである。
 
パンヤ科 Bombacaceae : bombycinus (絹の糸の意) から。
ワタのなる木ということから、キワタ科とも呼ばれる。分類学上も「ワタ」の属する「アオイ科」に近い。

熱帯に分布し、果実や種子を食用にしたり、果実の毛を綿のように利用したりと、有用種が多い。

28属200種ほどの小さなグループで、バオバブノキ属、キワタノキ属、トックリキワタ属、パンヤノキ属、ドリアン属、バルサ属、パキラ属などがある。
 
別名 カポック
マレー系の現地での呼び名が糸や木の名前として広まったもの。
 参 考 1

Bombax
キワタノキ属 : ワタのギリシア名 bombax に由来する。
パンヤノキと同じように、種子の毛を利用する。真横に張り出す枝の出方や、葉の形もよく似ている。
下の写真はインドワタノキ Bombax ceiba。
沖縄本島の国道沿いで見かけたもの。刺のある幹が雨で濡れて、赤い色が強調されている。
実験的ではあるが、街路樹として植えられていた。
 

名前の混乱
パンヤノキ Ceiba pentandra と インドワタノキ Bombax ceibaは樹形も似ており、どちらも種(タネ)に生える毛が利用されるところから、共に「パンヤ」「パンヤノキ」「キワタ」「カポック」「セイバ」などの名で呼ばれ、混乱が起きている。

原因の一つは、リンネがインドワタノキに Bombax ceiba という学名を与えていたにもかかわらず、ミラーがパンヤノキ属に、インドワタノキの種小名と同じ 「 Ceiba 」という属名を付けてしまったことにある。

さらに葉の形が似ているためか、シェフレラ属の観葉植物が「カポック」という名前で広く通用しており、混乱に拍車をかけている。
通称カポック
正式にはシェフレラ属の一種
Schefflera arborica
 

 
 参 考 2

トックリキワタ (徳利木綿): Chorisia speciosa St.Hil.
ブラジル原産で、大きく成長すると幹の下部が膨らむために名付けられた。徳利になぞらえた表現は”トックリヤシ”など、ほかにも多く用いられている。

遠目には白くてきれいな幹だが、近づいてみると鋭い刺だらけ!
パンヤノキの刺よりは細く尖っている。とても木登りなどできたものではない。
 

沖縄本島 東南植物園





 

花びらの半分がピンク。
大型でとてもきれいだ。

 キワタ ←ワタ ( 綿 ) : Gossypium hirsutum L . (1753)
現在世界で栽培されている綿には4種あるが、中でもアメリカをはじめとして一番多いのが、日本でも一般にワタと呼ばれている一年草の「リクチメン」である。

古くはメキシコで栽培されていたものが、世界中に広まったものという。
ワタの歴史は極めて古く、今から7,800年も前のエジプトの遺跡からワタの実が発見されている。

属名 Gossypiumは ワタのラテン名 gossypionに由来する説が有力であるが、アラビア語のgoz(やわらかい物)に由来するという説、gossum(腫れ物)に由来するという説もあり、はっきりしないそうだ。
種小名 hirsutumは「粗毛のある、剛毛のある」の意味。
 

右上の写真は花と若い実。
下が割れた実で、まだ綿の
繊維は硬く締まっている。

いずれも 小石川植物園
 



 

植物のトゲについて

植物にも、動物にも刺を持つものがあり、サボテンのように乾燥地帯で蒸散を防ぐために葉が変化したものもあるが、一般には外敵から身を守るためとされている。

しかし、同じ場所の隣りどおしで成長している樹種でも、刺がないものも多い。なぜその木は刺を持つようになったのか。

種が多様化していった時に、突然変異でいきなり全身刺だらけの木ができたのか。
刺がちょっとだけできたものが動物に食べられにくくて、それが生き残っていったのか.....。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社
        森林総合研究所・林木育種センターのH.P.
        スーパーニッポニカ/小学館
世界の植物 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ