セイロンニッケイ セイロン肉桂
シナモン
Cinnamomum verum J. Presl (1823 or 1825)
科 名 : クスノキ科 Lauraceae
属 名 : クスノキ属 Cinnamomum
Schaeff. nom. cons. (1760)
異 名 : C.zeyianicum Blume (1825)
英 名 : Ceylon cinnamon , cinnamon
原産地 : インド、マレーシア、セイロン(スリランカ)
用 途 : 樹皮を漢方で「桂皮」と称して薬用に、また調理用の香辛料として用いる。
 
撮影地:
シンガポール、日本 温室
 
長らく日本の温室でしか見たことのなかった「シナモン」。
トップの写真は、熱川バナナワニ園で撮影したものである。
 
 
シンガポール植物園では、果物類がまとまって植えられている地区にもあるが、この木は、メインゲートの図書館近くにあったものである。

事典によると、セイロンニッケイは高さ 10mぐらいになる高木で、この木も約 8m。
 
シンガポール植物園の セイロンニッケイ

背が高いだけに下枝がなく、せっかく花が咲いていたのに、望遠にしないと撮影できなかった。
 
花の様子

 
撮影した時は気がつかなかったが、この写真の上部右寄りに、緑色の実が生っている。

肝心の「幹・樹皮」であるが、地衣類が付いていて、色がわかりにくい。
 
樹皮の様子

橙色や黄緑色は、本来の樹皮の色ではないだろう。

スパイスに使う部分は、樹皮と言っても正確には「内皮」である。
 
シナモンスティック

このシナモンスティクは、実は10年前に購入したものである。
密閉シールの袋に入っていたためか、シナモンの香りはまだまだ残っていた。
長さ 8cm にカットされており、厚みは 0.5 〜 1.5mm。

しかし、Wikipedia の記述が正確だとすると、このスティックは「セイロンニッケイ」ではなく、カッシアと呼ばれる Cinnamomum aromaticum など、別の種のものと思われる。
セイロンニッケイはもっと「もろく、柔らかい」イメージである。

セイロンニッケイが最上級とされるものの、ほかの種にも香りの良いものがいくつかあり、ひとくくりに「シナモン」と呼ばれているようだ。

これを粉末にしたものがシナモンパウダーで、スターバックスにも用意されている。

ほかにも色々な商品があると思うが、パウダーと抽出液を・・・。

エクストラの方は料理に使うことはほとんどなく、時々アロマオイルの代わりに使っている。

 
名前の由来 セイロンニッケイ Cinnamomum verum

セイロンニッケイ 
: セイロン(現 スリランカ)産のニッケイ
自生地はセイロンだけではないが、英語名でも Ceylon cinnamonと呼ばれている。

その理由のひとつは、標記のシナモンの学名 Cinnamomum verum とほぼ同時期に、ブルーメ (1796-1862) が命名した別の学名、(現在は異名)「Cinnamomum zeyianicum セイロンシナモン」にある。

同じ属の中で似たような種がある場合、産地の名を付けて呼ぶと、とても分かり易い。

別種 Cinnamomum aromaticum のには Chinese sinnamon という英語名が付いている。
 
種小名 verum : 真実、正義 の意味 
ラテン語で verum は名詞形。 verus が形容詞形で、「真実の・役に立つ」という意味である。

牧野ほかの『植物学名辞典』には、verus として「本家の」を載せている。
いくつかある ニッケイ の中で、これこそが「本家本元の」ニッケイだ、ということだ。

植物の和名や材木・建築業界でも、「△□」あるいは「イヌ△□」に対して「ホン△□」と呼んで、正真正銘、高級材を強調することがある。
例えば、「イヌマキ」と「ホンマキ 本槙」、木材の継ぎ手(仕口)で「サネツギ 実継ぎ」と「ホンザネ 本実」などである。
 
Cinnamomum クスノキ属 : 巻物状の香料 の意味
Cinnamomum の属名は一説に、ギリシア語の「kino 巻く」および「amomos 香料」に由来するという。 『園芸植物大事典』

すでに紀元前2世紀には中国からエジプトに輸出されて、王様たちが使う、極めて貴重な品であったといわれている。

インドを目指す航路を開拓するための大きな動機も、ニッケイ・コショウ・グローブなどの香辛料や、没薬を直接買い付けたり、植民地にして栽培することであった。

Wikipedia 日本語では、Cinnamomum属を「クスノキ属」ではなく、「ニッケイ属」としている。
「Cinnamomum シナモン = クスノキ」ではないので、ニッケイ属の方が正確かも知れない・・・・。

しかし、日本では「クスノキ」が代表であるために、和名ではクスノキ属 と呼んでいる。 約 50種がある。
 
クスノキ 小石川植物園の大木
目通りの直径、1.8m×1.5m

クスの由来はたくさんあるようだが、香りに関係するものに真実みがある。
 
 ・「薫木」、クンノキ → クスノキ
 ・「香す」ことから、カス → クス
 ・「臭木」、クサノキ → クスノキ

などである。
大木になって、時には異様な樹形になるため、

 ・「奇木」、クスシキキ → クスノキ

という説が載っているが、論外であろう。
 
クスノキ 枝振り 紅葉と実 (11月)

 
日本を代表する樹種のひとつである。

クスノキ Cinnamomum camphora J. Presl については、『小石川植物園の樹木』で取り上げている。
 

なお Cinnamomum属 については、学名の出発点である 1753年5月以前に、パウル・ヘルマン(164?-1695) や、トゥルヌフォール(1656-1708) が定義していた。

ところが リンネ(1707-1778) はこの属を「ゲッケイジュ属 Laurus 」として一纏めにしてしまったために、『植物の種』にはCinnamomum属がない。
 
クスノキ科 Lauraceae
クスノキ科の基準になる属は「ゲッケイジュ属 Laurus」である。

クスノキ属の 50種に対して、ゲッケイジュ属は世界に2種しかないが、地中海に自生するゲッケイジュは、ギリシア・ローマの時代から「勝利・栄誉」の印であったのだから、代表となるのも当然であろう。

しかしその名の由来は、ケルト語の「blaur あるいは laur 緑」 ということで、ごくありふれた「常緑」ということが根拠である。
ゲッケイジュの冠を優れた詩人に送って不朽の名声をたたえる、という別の風習への思い入れがあったようである。
 
ゲッケイジュ 葉 と つぼみ

 
小石川植物園
高さ 約7m

 
月桂樹は雌雄の株が別である。
この花がどちらなのかは、後日確認の予定。
 

セイロンニッケイ
  ← ニッケイ 肉桂 Cinnamomum sieboldii Meissn. (1864)
中国南部やインドシナ半島原産だが、古くから日本に伝えられて、栽培されていた。
ニッケイの場合は「根の皮」が健胃剤や菓子類に使われた。

今では、本種の利用は少ないという。
 
ニッケイ 葉 と 果実

 
京都植物園

 
ニッケイの葉は細長くて湾曲しておらず、セイロンニッケイとは明らかに違っている。

しかし、トップの写真とは似ているような気もする。
 
ニッキ飴
 
 

 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        Wikipedia、
        図説 花と樹の大事典/植物文化研究会
世界の植物 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ