ナガバノゴレンシ 長葉五稜子、長葉五斂子
Averrhoa bilimbi Linn. (1753)
科 名 : カタバミ科 Oxalidaceae
属 名 : ゴレンシ属 Averrhoa L. (1735)
原産地 : インドネシアモルッカ諸島 といわれている
英語名 : bilimbi , blimbing , cucumber tree
用 途 :


酸味が強く、カレーやピクルス、あるいは酸味料として使われる。
シュウ酸が含まれているため、インク消しや洋服の染み抜きにも使われる。
ゴレンシほどには栽培されていない。
撮影地 : ガイアナ協同共和国
シンガポール、ドミニカ共和国
南米ガイアナの ニュー・アムステルダム市キング・ストリートで見かけて、これも長い間名前がわからなかったものである。
 
シンガポール植物園で、同じ仲間の「ゴレンシ」の横に植えられていて、実はなっていなかったが、あまりきれいとは言えない花と、特徴のある葉の形でもしや と思い、日本に帰ってから写真を較べてみて、ようやく同じものと判明した。
 
幹に直接咲く花のことを、植物用語では「幹生花」といい、幹から直接ぶら下がる実は、ほかにもカカオやハナズオウなど、ないわけではないが、やはり馴染めない。
 
ガイアナのナガバコ゛レンシ シンガホール植物園

 
枝先に広がる複葉
日本のハゼノキの葉を もっと長くしたような姿である。
植物とは関係ないが、木造の建物がかなり傷んでいる。
 
下から見上げたところ ハゼノキ

 
ドミニカ共和国 サント・ドミンゴの植物園
ドミニカの「ビリンビ」は植えられて間もないと見えて、高さが2m強しかないのに、実の付きは極めて良好であった。
 
幹の様子と花 花のアップ

 


汚らしい幹とみすぼらしい花。

花の径は 約 15mm。
花弁の先端が黒ずんでいる。
そして「短いキュウリのような実」が幹に生る、というわけで、英語名はcucumber tree である。
 
ドミニカ共和国の実


種子の数は少なかった。

「その実は非常に酸っぱいため生では食べられない」と事典に出ていたが、ドミニカの植物園では、一緒に見ていた現地の人がヒョイとつまみ採ってかじって見せてくれた。
 
お裾分けをもらって汁を舐めてみたが、とにかく「酸っぱい」!
 
名前の由来 ナガバノゴレンシ Averrhoa bilimbi
 
ナガバノゴレンシ 長葉の五稜子
葉の長いゴレンシの意味である。
ゴレンシと同じ仲間であるが、見た目には大きな違いがある。
ナガバノゴレンシ ゴレンシの葉
ゴレンシも複葉であるが、小葉の形や長さはともかくとして、その付き方がまるで違う。
ゴレンシは普通に対生に付き、花もその腋 (枝と葉の腋) に付く。
 
かたやナガバノゴレンシの葉は、枝の先に輪生状に付き、花は幹から直接ぶら下がっている。
ゴレンシの花
種小名 bilimbi : 意味は不明である
牧野富太郎 他 著の『植物学名辞典』にはめずらしく、記載がない。
 
ゴレンシの時と同じように、リンネの『植物の種』428ページを見ると、3種のゴレンシ属の中で、ナガバノゴレンシがトップに記載されており、原産地(採取地)はほかのものもすべてインドとなっている。

 
ナガバノゴレンシの項 には3つの参考文献がある。

まず、リンネ自身の著書 『セイロンの植物誌』 Flora zeylanica (1747年) 177ページには 「幹に直接生る果実は、先の丸い長楕円形」 という記載がある。
 
3行目の参考文献の Rumpf. という人物の詳細は不明であるが、"amb."という略称で表されている書物に、「teres 円柱形の Blinbingum」 という呼び名が記載されている。
 
3番目の参考文献が、17世紀オランダ人のリード(Hendrik Adriaan von Rheede 1637-1691) の著書 『マラバルの植物』 Horti Indici Malabarici であり、単に 「Bilimbi」 という記述しかないが、リンネは ゴレンシの Carambola と同じように、リードが書いていたこの名前を種小名としている。

インド南西部のマラバル海岸地帯での呼び名なのであろう。

かくして、一般名としても bilimbi と呼ばれ、そのほかにも bimbli, belimbing, blimbling, biling など、世界各国で様々な名前で呼ばれている。

『マラバルの植物』表紙 :
Wikipedia より
Bilimbiの意味は不明であるが、「酸っぱい」ということに関係するのではないかと、勝手に想像している。
Averrhoa ゴレンシ属 :
属名の読み方は、『園芸植物大事典』では「アウェロア」となっている。
12世紀スペインのコルドバで生まれ、モロッコのマラケシュで没した博学者、 Averroes (1126-1198) を顕彰したものである。
 
アウェロエスのアラブ名は Ibn-Rushd で、哲学のみならず、医師であり神学・天文学・地理学・数学・薬学・物理学・心理学・科学に秀でていたといわれている。
 
Index Kewensis には4種が載っているが、よく知られているのはゴレンシとナガバノゴレンシ 2種である。
 
カタバミ科 Oxalidaceae
カタバミはどこにでも生えている多年草で、この立派な樹木であるナガバノゴレンシやゴレンシと、雑草のようなカタバミが同じ科というのは...不思議である。
 
参考文献 : Species Plantarum 復刻版/植物文献刊行会、
        Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        文明の中の博物学/西村三郎、
        Wikipedia
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