ミミノキ 耳の木 (仮名) 
 
Enterolobium cyclocarpum Griseb. (1860-64頃)
← Pithecellobium cyclocarpum Mart. (1829)
← Inga cyclocarpum Willd. (1805)
← Mimosa cyclocarpa Jacq. (1800-04頃)

 
ドミニカ共和国 、ジャマイカ
科 名 : ネムノキ科 Mimosaceae
属 名 : エンテロロビウム属
Enterolobium Mart. (1837)
現地名 : guanacaste (コスタ・リカ)
conacaste (エル・サルバドル)
orejoni (スペイン語)
英語名 : Earpod tree , Elephant ear tree , Devil's ear
原産地 : 熱帯アメリカ。メキシコ中部からブラジル北部、ベネズエラ
用 途 : 緑陰樹、街路樹、修景樹
コーヒーなどの栽培植物のための陰影樹として植えられる
材は軽くて耐水性があるため、ドア・窓・家具・造船材として使われる
 
コスタ・リカ の国の木
 
 
ドミニカでの仕事で郊外へ出かけた時、ほとんど葉の落ちた大きな木に、変な実が生っているのがちらりと見えた。
 
帰りがけに車を止めて、その実を見たとたん「これは耳だ」と思った!
 
道路脇の木 まだ乾期の 3月中旬

 
その後休日にジャマイカに出かけ、ホープ植物園で雄大な木を見ることができた。
湿度の多い地域でも育つそうだが、大きくなるのは乾燥気味の牧草地などだそうだ。
新葉が出だしたジャマイカの木 高さ 20m 弱
 
後ろに下がっても下がってもファインダー (モニター) に全体がはいらない。
 
しかし 81haという広い敷地のお陰で、大きなキャノピー(天蓋)を持つこの木を写すことができた。大きくなると、高さは25~30mになるそうだ。
 
300年間ものイギリス植民地時代に地主であった、ホープ氏の名を冠したこの公園のスタートは1881年。現在は国立だが、例によって名札がほとんど無い.....。
 
でも、伸びのびとした雰囲気と、おいしいランチが食べられる食堂があるなんて、期待以上の植物園でした。
ジャマイカ国立ホープ植物園、 キングストン


 
名前がわかった後で、頼みの『園芸植物大事典』 と 『植物の世界』を見たが、まったく出ておらず、インターネットで調べて 事なきをえた。
 
完全には落葉しなかった葉 新しい葉 と つぼみ

 
ジャマイカに訪れたのは4月上旬で、葉が出ているだけでなく、花が咲き出していた。(上の写真)

←ドミニカ共和国
 
 
実の形から「マメ科」ということはわかっていたが、細かな小葉を持つ複葉の形から、ネムノキ科ではないかと勝手に想像していた。
ようやく咲き始めたばかりのジャマイカの木で、白い花を確認した時は うれしかった。
ジャマイカの木の花

 
若い幹 直径20cm 太い幹 40cm

 
成長するにつれて表皮に裂け目 (皮目) ができていくが、滑らかさは変わらない。線形の葉が落ちた後(葉痕)も長く残る。


 
右の写真上下2枚は、サントドミンゴの植物園にあった木である。
 
花はまだ咲いていなかった。
 

 
名前の由来 ミミノキ Enterolobium cyclocarpum
 
和名: ミミノキ (仮名)
耳という名を付けることに異論は出ない。
 
北米では Elephant Ear Tree が使われているようだが、果実のサイズは大きくても直径 12cm ぐらいなので、「ゾウノミミ」と言うのはちょっとおおげさ。
人の耳より大きいのは確かだか....
 
また別の英語名に Earpod tree があり、「ミミノミノキ 耳の実の木」 は呼びにくいので、単に「ミミノキ」とした。
 
豆の鞘の軸側が何らかの原因で傷つき、伸び悩んだ結果、この形になったものである。

ただ、軸側と豆(種子) の位置が、大きく離れているのが気になる。
ミミノキの実 幅10cm エンドウ (若莢)

 
種小名 cyclocarpum : 輪状果実の という意味
当初の命名は オランダの植物学者 ジャカン (1727-1817) で、ミモサ属 (オジギソウ属)に分類した。
 
リンネよりも20才ほど若く、長命だったジャカンの頃は、Mimosa属のほかに Acacia属と、Albizzia属などが定義されていたが、リンネ派であったジャカンは、リンネに倣ったようだ。
 
その後短い間に、何人かが別の属として命名し直している。
今回は、Wikipedia に「異名」の一覧があったので、命名年を調べることができた。
 
 Enterolobium cyclocarpum Griseb. (1860-64頃)
 
  Pithecellobium cyclocarpum Mart. (1829)
   Inga cyclocarpum Willd. (1805)
    Mimosa cyclocarpa Jacq. (1800-04頃)
 
このほかに、種小名が違う異名もある。
Enterolobium属 ミミノキ属 (仮名) :
ギリシア語 enteron 腸 と lobos 莢 からなり、種子が膨らんで並んでいる果実が、腸 (大腸?) に似ているために名付けられた。
 
ラテン語では enteron は、小腸である。
 
WINROCK International のホームページによると、この属には5種があるという。
 
ネムノキ科 Mimosaceae : 人真似 の意
Mimosa 属のある種の葉が、刺激で次々と動くことにちなんでいる。よく知られているのはオジギソウ Mimosa pudica である。
 
Mimosa属の学名上の命名者はリンネとなっているが、1754年発行の『植物の属』第5版を見ると、リンネは Mimosa属として、トゥルヌフォール(1656-1708)のMimosa属、同じくトゥルヌフォールのAcacia属、そして プルミエ(1646-1704)の Inga属をひとまとめにして Mimosa属としたことがわかる。
 
1753年刊行の『植物の種』でも同じ考えで imosa属にまとめられており、同書には アカシア属の植物名の記載はない。
オジギソウ
Mimosa pudica
伊豆熱川 バナナワニ園
 

 
現地名:Guanacaste
かつてアステカ人やインディオが使っていた「ナワトル語」で uanacaxtle または conacaste に由来しており、耳の意味である。
ナワトル語は現在でもメキシコで使われているようだ。
 
ミミノキ Guanacaste は中米 コスタ・リカ共和国の「国の木」である。
 
さらに、7つあるコスタ・リカの州のひとつに「グアナカステ」という名がついている。
この地域にミミノキがたくさん生えているために、木の名を州名とした。
 
コスタ・リカ共和国 グアナカステ州


Wikipedia より

 
スペイン語の名:orejoni , oreja , árbol de ias orejas
現在のスペイン語で「耳」は「oreja オレハ」。
árbol de ias orejas はまさに「ミミノキ」である。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        Wikipedia、
        NGO団体 WINROCK International のホームページ、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        植物の属 第5版 (復刻版)/リンネ・植物文献刊行會
世界の植物 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ