ハネフクベ 羽根瓢
Alsomitra macrocarpa Roemer (1846)
← Zanonia macrocarpa Blume (1826)
科 名 : ウリ科 Cucurbitaceae
属 名 : ハネフクベ属
   Macrozanonia Cogn. (1893)
別 名 : ヒョウタンカズラ、アルソミトラ
原産地 : マレーシア、インドネシア
用 途 : 種子は熱帯植物園での目玉商品。
 
撮影地 : インドネシア
 
トップの写真は、ボゴール植物園の作業員が見せてくれたものである。
まさか、ハネフクベの種子を目にすることができるとは考えていなかったので、大感激!  詳細は 後半に・・・。

日本各地の植物園では、ハネフクベの魅力的な種子は常に格好の展示品である。
中でも 伊豆熱川バナナワニ園では、種子が滑空する様子をコンパクトにうまく表現していた。

 

ボゴール植物園を訪れたのは1月上旬で、雨期の真っ最中。 といっても、本格的なスコールにあったのは4日間の内、1日だけ。

植物の状態は一般的には「果実」のシーズンだったが、種類によってバラバラで一概には言えない。

ハネフクベに関しては、残念ながら「葉」だけだった。
 
カナリウムの大木に絡みつく ハネフクベ
← この写真は、TBSの「教科書に載せたい!」で使われた。
     (2012年8月7日)

垂れ下がっているのが ハネフクベ である。
たとえ花や若い実があっても、はるか彼方では見ることができないだろう。
 
太いつるの様子 葉 の様子
左の写真は 地面から2mの位置で、つるの太さは10cm以上。写っている葉のほとんどは、カナリウムである。

ハネフクベの葉は ちょうどハートの形をしている。
 
巻きひげ の様子

 
落ちていた 実の様子
落ちてから、相当に日にちが経っている。
丸い実の大きさは 約20cm。 もちろん、中は空っぽ。
 
実の中の 種子
この写真は、京都植物園の「展示品」である。実の下側がみっつに割れる。実の中でも、種子は3方に分かれてつくようだ。
 
名前の由来 ハネフクベ Macrozanonia macrocarpa

和名 ハネフクベ : 羽根が付いた種子がある フクベ
丸い大きな実を「フクベ」 (ユウガオの別名) に例えたもの。

フクベの種子は(恐らく)メロンなどのような小さなものだが、ハネフクベの方は種子だけで 縦 約3cm。

薄い薄い翼の幅は 13〜15cmにもなる。
「ハング・クライダー」のつばさの形 そのものである。
Wikipedia より
 
別名 ヒョウタンカズラ : 瓢箪の生るツル植物
ヒョウタン」の実はどうしても くびれた印象があるため、丸い実が生るハネフクベにはふさわしくない。
ヒョウタン
種小名 macrocarpa : 巨大な実の
20cm あるいはそれ以上の大きな実を付けるところから。
 
Macrozanonia属 : 巨大な Zanonia属 という意味
Zanonia
まずZanonia属を定義したのはリンネで、1737年『植物の属』に、雄しべが5本の「Pentandra」のひとつとして分類している。

属名の Zanonia はイタリアの J. Zanoni 氏を顕彰したものであるが、詳しいことはわからない。

本種ハネフクベは、当初、19世紀ドイツの植物学者であるブルーメ (1796-1862) によって、「Zanonia macrocarpa」と定義された。
ブルーメは Zanonia属 の中に、初めから Alsomitraセクション という下位のグループを作って分類していた。

Zanonia属 の果実は小さく、2つの種子しかできないのに対して、ハネフクベの果実は大きく、無数の種子があるためである。
 

Alsomitra アルソミトラ属 
1846年になって、Max. J. ロエマー (?-?) は Alsomitraセクションを格上げしてAlsomitra属とし、ハネフクベを
  Alsomitra macrocarpa  と定義した。

しかし、この記載内容が不十分だったためなのか、正式には受け入れられていない。

植物園によっては、この学名で表記されているところもある。
また、ものの本やテレビなどでも、単に「アルソミトラ」として紹介されることもあるが、現在は使われていない属名である。

由来は、ギリシア語の「alsos 小樹林」+「mitra 巻き頭巾、ターバン」だが、しっくり来ない。
 

Macrozanonia
ベルギーの植物学者 コニョー C. A. Cogniaux (1841-1916) は、改めて ブルーメの「Alsomitraセクション」に基づいて、1894年に、新たに Macrozanonia属を定義した。
Zanonia属の中で 大きな果実を付ける、という意味である。

Alsomitra を再度使わなかったのは正解で、現在の命名規約では、一度「異名」となった属名は たとえ別の科でも使うことができない。
 
ウリ科  瓜科
「ウリ」の語源は未調査です。  いずれ・・・・

参考までに、
  胡瓜、黄瓜 : キュウリ
  西瓜、水瓜 : スイカ
  南瓜 : カボチャ
  東瓜、北瓜 は、?
  冬瓜 : トウカ、トウガン
  甜瓜 : テンカ、マクワウリの漢名
 
Cucurbitaceae :
ウリ科の基準属は「カボチャ属 Cucurbita属」である。

属名は、ラテン語で ヒョウタンのことだが、語源は不明。
 

ハネフクベ ← 
 フクベ (ユウガオの別名) Lagenaria siceraria Standl. (1930)
和名は「ユウガオ」で、別名「カンピョウ」

フクベの花が夕方に咲いて翌朝萎れるところから、アサガオやヒルガオに対して、ユウガオの名が付いた。
 
ユウガオ の実
写真は「竹風庵慕堂 のホームページ」 から
管理者の田中さんから掲載許可取得済み
いまや、フクベは馴染みの薄い言葉となってしまったが、海苔巻きに使う「カンピョウ 干瓢」を作るための「ユウガオの実」は、今でも地元では「フクベ」と呼ばれているようだ。

属名 Lagenaria は、ギリシア語の 「lagenos フラスコ、瓶」に由来する。ユウガオには色々な形があり、筒状のものもある。
長野市保健所の
ホームページより
 
種小名 siceraria は、なんと「酩酊する」という意味である。

ユウガオの原産地は北アフリカであるが、紀元前12世紀の中国の遺跡から種子などが出土しているそうで、極めて古くから、重要な作物の一つであったようだ。

事典には、ユウガオの実で酒を造るという記述はない。
ユウガオで作った器に注いだ酒を飲んで、酔っぱらうのだろうか?

命名の真相が知りたいところだ・・・・。
 
 トピックス ハネフクベが滑空する理由
 
この、破れのない、きれいなハネフクベの種子。
ボゴール植物園まで出かけたとはいえ、そもそも見ることも、手に入れられるとも考えていなかった。

それが、一日目に いとも簡単に手に入ったのは、植物園の庭師の「内職」のお陰だった。

ビジターが「植物好き」と見るや 作業小屋に誘って、種子の詰まった実を見せてくれる。 こちらは 「えっ、これ 貰ってもいいの?」
と嬉しくなって、紙の間に挟んで大事にリュックに入れる ・・・。

お礼を言ってまた観察に戻ろうとすると、庭師が後から付いてくる。

迂闊にも、初めはなぜ付いてくるのかわからなかった。
が、「なるほど」と合点して、チップを渡したのはよかったが、なにぶんにもインドネシア初日だったため、ルピーの価値の感覚がなくて、とても少ない額だった。
庭師はとても不満そうな顔をしていた・・・。
 

ヘリコプター

カエデ・ヤモメカズラ・ヒマラヤスギ・ニレ・マホガニー・フタバガキ類 など、種子に「翼」がある植物は数え切れないが、ほとんどのものは、風がなければ 回転しながらほぼ真下に落ちる。
イロハカエデ マホガニー
シマモミ フタバガキの一種

グライダー

ところが、ハネフクベは風を待つ必要がない。
たとえ浮力が生じなくても、バランス良く滑空すれば、遠いところに到達できる。
試しに室内で、2mの高さから水平に離してみると、優に5mは滑空する。
20mの高さからだと「50m」、うまく風に乗ればもっと飛ぶのだろう。

ただし、翼の左右のバランスが悪いと回転してしまい、遠くへは飛べない。
左右 非対称な羽根
オブラートのような翼は中央が厚く、周囲ほど薄い。 内側の厚い部分には皺があって、折れ曲がりにくくなっている。 周囲には「輪郭線」のような平らな部分があって、外周部分が特に薄くてしなやかである。

どの角度で離しても、一瞬の後に水平飛行となる。
これは、落下のスピードが速くなると、周囲の柔らかい部分が少し曲がって抵抗となり、向きを変える働きをしているためだ。

翼に厚みがあるわけではないが、この皺・膨らみが、浮力が生じる要素かもしれない。 ポイントを整理すると、
全重量に対して十分な面積の「翼」がある
翼全体が均一の重さではなく、重りとして「種子」がある
翼全体の「図形の重心」よりも前に、種子の重心がある

これらの要素によって、わずかに前傾した状態でバランスが取れ、落下することなく、「前方に」滑空することができるのだ。

ハング・グライダーも、「重り」としての人間がぶら下がらなければ、ひらひらと落下するだけである。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press
        植物の世界/朝日新聞社
        植物學名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎
        Four Guided Walks/Bogor Botanic Garden
        竹風庵慕堂 のホームページ
        Wikipedia
世界の植物 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ