シンガポール植物園では、ビジターセンターをはいった広場の 両側に数本が植えられている。
1月は乾期にはいった時期で、多くの木に実が生っている時だった。
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梢に青い実が生っている!
天気が良すぎて、見上げると 実が真っ黒になってしまう。
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丸い実が生っている |

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何とかきれいな写真を撮れないものか・・・
ビジターセンターを背にして左側の木はレストランのすぐ近くで、道路の中のツリーサークルに植えられており、掃除がゆきとどいていることと、まだ熟していないこともあって実が落ちていなかった。
諦めが付かないまま歩き出したら、反対側にもう一本!!
芝生の上には青い実が山のように転がっていた。
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樹形 |
幹の様子 |
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葉の様子 |
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落葉する前に きれいに紅葉するのは、ホルトノキ属の特徴である。
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落ちた葉と実 |
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葉の形は、細長い楕円形だけでなく、元の方で細くなるものもある。
長さは柄の部分を含めずに、 10〜14cm。
青い実はかすかに「シルバーメタリック」となっている!
径 約2cm。
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オールスターキャスト |
でこぼこの核 |
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当然のことながら?、実の色は初めは緑である。(左 中央)
どうやって「青く」なるの?
丸いの実の内部にある「核」も丸いのだが、複雑なでこぼこ模様があり、縦に数本の溝が走っている。
溝の数は 5本が多いが、バリエーションがあるらしい。
核にはたくさんの太めの繊維が付いていた。
ブラシでこすった程度では、溝の間に残ってしまう。
上 右の写真で、それがきれいになっているのは、ピンセットで丁寧に落とした 努力の結果である。
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名前の由来 インドジュズノキ Elaeocarpus angustifolius |
和名 インドジュズノキ 印度数珠の木 : |
わざわざ「インド」と断らずに、単に「ジュズノキ」という別名もある。
直径 15〜18ミリ の核を糸でつないで、数珠が作られる。
観光のおみやげなどとしても売られているそうだ。
数珠にする時は、光沢を出すために さらに磨くようだ。
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メタリック・ブルーの実の方は、乾燥させると果肉が縮んで表面に皺が寄り、色もくすんでしまうので商品にはならない。 |
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英語名 blue marble tree : アオダマノキ (参考名) |
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英語名 blue fig : アオイチジク (参考名) |
fig はイチジク である。
まん丸の実で イチジクという感じではないが、気持ちはわかる。
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種小名 angustifolius : 狭い葉の という意味 |
サイズなどの形容詞を使う時には、「標準」になるものが決まっていないとわかりにくい。
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命名者のブルーメ (1796-1862) はドイツで生まれ、オランダで活躍した。インドネシアジャワ島のボゴール植物園にも勤めている。
1825年から27年にかけて出版した『Bijdragen tot de Flora van Nederlandsch Indie』という本の中で、同時に 10種のホルトノキ属の種を定義している。 |
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学名 |
種小名の意味 |
部位 . |
E. lanceolatus |
披針形の |
(葉 ) |
E. angustifolius |
狭い葉の |
葉 |
E. floribundus |
花が多い |
花 |
E. longifolius |
葉の長い |
葉 |
E. stipularis |
托葉のある |
葉 |
E. tomentosus |
密綿毛のある |
( 葉?) |
E. glaber |
無毛の |
( 葉?) |
E. macrophyllus |
大きな葉の |
葉 |
E. resinosus |
樹脂が多い |
幹 |
E. obtusus |
鈍形の |
( 葉 ) |
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E. = Elaeocarpus 、記載順 (119 〜 123ページ) |
おもに 葉に注目して 名前を付けているのがわかる。
本種 インドジュズの木以外は見たことがないので、それぞれの名前が適切なのかどうか、何も言えない・・・・
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Elaeocarpus属 : オリーブのような果実が生る の意味 |
ギリシア語の 「 elaia オリーブ」と「 karpos 果実」からなり、ホルトノキ(や そのほかの種の)果実が、オリーブに似ていることに由来している。
属名を付けていたのは、リンネより1歳年長の ヨハネス・ブルマン (1706-1779) ということになっているが、もっと古くから名付けられていた可能性もある。
本種 インドジュズの木の実が オリーブに似ていると言っているわけではなく、「ブルマン あるいは昔の人が属名を付ける時に参考にした植物の実(および全体の様子)が、オリーブに似ていた」
ということである。
それがどの種なのかはわからない。
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ホルトノキの実 |
オリーブの実 |
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あくまで 実の形やサイズが似ているのであって、葉などは全く異なる。
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オリーブ Olea europaea Linn. |
オリーブの原産地は はっきりしていないが、南ヨーロッパの歴史上、ブドウと共に重要な植物である。
オリーブが日本に伝わったのは鎖国中の江戸時代である。 18世紀の料理書 (1761) に、「長崎で結実した」という記載があるそうで、実がなったのならば きっと油も搾ったであろう。
『広辞苑』には、「ホルトの油 (アブラ)」が「オリーブ油のこと」と載っている。
オリーブ と ポルトガル は直接の関係がないが、オリーブを「南蛮渡来の木」として「ポルトガルの木」「ポルトの樹」と呼んでもおかしくない。
しかし当時、ポルトノキ (オリーブ)の事を知っていた人は、国内で数えるほどであったろう。
なぜなら、日本でオリーブの栽培が本格化するのは明治の末期からだからである。
先の料理書の約100年後、1863年・67年に、フランスから苗木を取り寄せて栽培が試みられたが失敗。
1879年(明治12年)に再度取り寄せた 2,000本の一部は関西で育ったものの、小豆島で栽培に成功したのは、1908年(明治41年)以降 ということである。 |
『朝日百科/植物の世界』 |
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ホルトノキ属 :
ホルトノキ科 : ポルトガルの木 の意味 |
ホルトノキ科は 10属 500〜600種 があり、その中のホルトノキ属には 約360種があるという。
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ホルトノキ Elaeocarpus sylvestris var. ellipticus |
ポルトガルの木 という意味の名で呼ばれている「ホルトノキ」は、外来種でもなんでもなく、本州西部・四国・九州・南西諸島に広く自生する在来種である。
別名を 「モガシ」 「ヅクノキ」 などと言い、恐らく古くから「ホルトノキ」以外の名前で呼ばれていたはずである。
「ヅクノキ」は「葉が色付く木」ではないだろうか。
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移植が容易、萌芽力が強い、害虫も付きにくいということで、暖地では街路樹にも使われている。 |
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大分市
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その木がどうして「ポルトガルの木」となったか?
いくつかの事典の解説を総合すると、
・「ポルトノキ」はもともと「オリーブ」のことだった
・「ズクノキ」の実をオリーブの実と勘違いした
・「ズクノキ」と「オリーブ」が混同された
・「ズクノキ」を「ホルトノキ」と呼ぶようになった
勘違いをしたのは 平賀源内 (1728-1780) という記述もある。 |
『樹に咲く花/山と渓谷社』
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植物学者がズクノキのことを、「これはポルトの木だ!」と言えば、一般人は「そうですか」 となる。 ?
不思議なのは、ホルトノキは千葉以西のどこにでも生えている木であるから、庶民にとっては昔からおなじみの木のはずである。
もしその「ポルトの木」の意味が「南蛮渡来の木」だという事がわかったら、「それは違う!」と反論しただろうに・・・。
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オリーブモドキ
勘違いではなくて、比喩として名付けた可能性もある。
1823年(文政6年)にはシーボルトが日本にやって来ている。
彼は「出島およびその周辺での活動」という大きな制約を受けながらも、日本人の協力を得て多くの植物採集を行った。
後に刊行する 『日本植物誌』(1835-70) に 「コバンモチ Elaeocarpus japonicus 」 を記載している。
平賀源内が生きていた時代からは 1世紀も後のことであるが、誰かがシーボルトから、「コバンモチ」はElaeocarpus属という仲間で、その名前は「オリーブのような実が生る木」という意味だ と聞かされていたかもしれない・・・。
属名の場合と同じように 「オリーブに似た木」 という意味で、「ポルトの木」と名付けた可能性もありうる。
あえてオリーブに関係する名前を付けるのなら、私は「オリーブモドキ」としたい。
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参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
園芸植物大事典/小学館、
週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
植物學名辞典/牧野富太郎、清水藤太郎、
植物学ラテン語辞典/豊国秀夫、
羅和辞典/研究社、
GRIN Taxonomy for Plants/アメリカ農務省のHP |
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