アメリカ カタクリ アメリカ片栗
Erythronium americanum Ker-Gawl. (1826)
科 名 : ユリ科 Liliaceae
属 名 : カタクリ属 Erythronium Linn. (1735)
英 名 : amberbell , trout lily ,
yellow adder's-tongue
原産地 : 北アメリカ東部
落葉樹林の林床に広く分布
用 途 : 観賞用
撮影地 :
アメリカ


樹木を中心に掲載しているが、とてもきれいに咲いていたので、カタクリの仲間を紹介したい。

マンハッタンからイースト・リバーを渡ったブルックリンの植物園。
その中で 「ネイティブ・フローラ・ガーデン」は、ニューヨーク首都圏に自生する草花を集めて落葉樹の林に植栽したエリアで、林の間を細い遊歩道が縫っている。
 
ネイティブ・フローラ・ガーデンの位置
地図はブルックリン植物園のホームページより
 
4月9日 レンギョウが満開
残念ながら、これはネイティブ・フローラ・ガーデンの隣の区域の写真なのだが、東京の季節感より半月遅い感じで、園内は黄水仙や連翹・木蓮が満開で、ソメイヨシノはまだまだ だった。
 
風もなく深とした林の中、ピンオーク(アメリカガシワ)やアカガシワの枯れ葉の間に群生していた。
通常2枚の葉が付いていて、それぞれ花はひとつである。
 
茶色の斑紋がカタクリ属の特徴
アメリカカタクリの斑紋には、よく見ると 褐色の部分と白 (灰色) の部分があり、本来の緑色の部分は むしろ少ない。
 
開くと花弁が反転するが、日本のカタクリほどではない。
花のサイズは、開いた状態で直径5cm ぐらい。

雄しべの葯が黄色いものと褐色のものがあるが、初め黄色で、葯が開くと褐色になるように思われる。
詳しくは観察しなかった。
 
名前の由来 アメリカカタクリ Erythronium americanum
 
アメリカカタクリ : アメリカ原産のカタクリ の意味
『園芸植物大事典』、『植物の世界』、ともに和名がないので一応「仮名」であるが、種小名からしても、アメリカカタクリしか考えられない。
種小名 americanum : アメリカの という意味
原産地を示す。
 
英語名 : 
アメリカ原産だけに、いくつかの英語名がある。

amberbell : 琥珀色のベル

外花被片の外側が褐色であるため、咲き始めはツートンカラーが可愛らしい。

trout lily : 鱒ユリ
葉の褐色の斑紋を、魚のマスの模様に見立てたもの。
 
yellow adder's-tongue
adder は「マムシ、毒蛇」である。
「黄色い舌」は、内花被片のことなのか、黄色い雄しべを指すのか。
 
以下は 『園芸植物大事典』の属名の項に記載されていたもの。

dog-tooth violet : 犬歯スミレ (dogtooth violet)
花はスミレよりもかなり大きいが、細長い花弁を犬歯(糸切り歯)に例えたものであろう。
 
fawn lily : 鹿の子ユリ  ( fawn : 子鹿 )
葉の斑紋を、シカのまだら模様にたとえたもの。
奈良公園のシカ
オス
ただし 子鹿ではない
 
カノコユリのカノコを「カノコ絞り」の模様にちなむ、と書いてある事典があったが、染め物の技術が進展したのは名前が付いた時よりも、ずっと後年(近年)のことでしょう。
 
Erythronium カタクリ属 : Linn. (1735)
ギリシア語で「」の意味の erythros に由来する。
本種などの黄色の花ではなく、ヨーロッパ原産の種 (シュ) に基づいているようだ。

その後に発見されたものは白や黄色の花の方が多く、赤は少数派になってしまった。
属名に 色にちなむ名前を付ける時には、注意が必要ということ。
 
ユリ科  Liliaceae
これも色にちなむ名である。

世界でもっとも古くから栽培されていて、キリスト教のマリアのシンボルでもある、マドンナ・リリー (Lilium candidum) に付けられたギリシア名 leirion と同じ意味を持つ、ラテン古名が lilium であったことによる。『園芸植物大事典』

ケルト語で li が白の意味を表す。

ユリはかなり寒い地方も含めて、広く世界中に分布しており、日本でも古事記や日本書紀にも登場している。

しかし、百合の花の色も、白のほかに 黄・橙・朱・赤・ピンクがある。
 
 
アメリカカタクリ
← カタクリ (片栗) Erythronium japonicum Dence. (1854)
日本、朝鮮半島、サハリンに分布する。
カタクリ
4月2日
 京都植物園
 

 
褐色がはいっている葉は少なく、ほとんどの斑が白であった。
事典にはカタクリの古名「カタカゴ」についての記載がある。

『園芸植物大事典』では カタカゴ (傾籠)。
”傾いた籠状の花という意味であるといわれる”と解説されている。

『植物の世界』ではカタカゴ (堅香子)となっており、由来の説明はない。 大伴家持の歌の用例が出ている。

 もののふの 八十乙女らが汲みまがふ 寺井のうえの 堅香子の花

歌の状況の勝手な解釈
たくさんの若い女が 寺の井戸で争うように水を汲みあっている。
井戸につづく森の斜面には、清楚なカタクリの花が 賑やかに咲き、春の木漏れ日に揺れている。

カタクリは、”どちらかというと寒い地域の日陰や半日陰地で、排水の良い腐葉土を好む。本州中部以西での栽培は難しい” と事典にあるので、奈良の政治家であった大伴家持が実物を見る機会は、ないとは言えないが 少なかったのではないだろうか。

でも 昔は奈良も もっと寒かったかも知れない。
 

カタカゴ
そこで 「カタカゴ 傾籠」の由来であるが...。

確かにカタクリの花の茎は少し傾いている。さらに 花も花茎に対して傾いて咲いている。
そして 反っくり返った状態の花が「籠」に見えないこともない。

  しかし、この花を見て「傾いた籠」という名を付けますか?

意味はともかくとして、万葉集でも「カタカゴ 堅香子」と使われているのであれば、「カタカゴ」と発音されていたのは間違いないであろう。

問題は「堅香子」の漢字をそのまま受け取っていいのかどうかだ。
「香」という字が使われているが、カタクリの花が匂うのかどうかは事典に記載がない。
植物園では大抵が立ち入り禁止の区域で栽培されているので、近づいて花の匂いを嗅ぐことができない。

そして結局、堅香子の意味もわからない。
 

カタ鹿子
私の考えは、
カゴ」という言葉は、英語名にもあるように、「鹿子」ではないかと思っている。
緑の葉に、茶色あるいは白い斑がはいっているようすである。

では「カタ鹿子」の残りの「カタ」は?、というと、うまい解釈が見つからない。
何が傾いているのか? あるいは 何が堅いのか?
*  *  *
後になって、Wikipedia の記述を読んで気が付いた!
カタクリの生態の 葉についての記述である。
 ・種子から芽生えた1年目は「細長い糸状」
 ・2年目から7〜8年程度までは、卵状楕円形の「一枚の葉」
 ・花を咲かせる年になって 初めて「二枚の葉」になる
ということは、花を付けていない「片側だけの鹿の子模様の葉」がたくさんあるということで、これが「片鹿子 カタカゴ」の由来ではないだろうか。
カタカゴ 状態 両鹿子 状態
筑波植物園 ともに 2012.4.7
しかし、カタカゴカタクリ に変化したと考えるのは無理がありそうだ・・・・。


カタクリコ 片栗粉 について
栗 粉
乱獲による減少と人件費の高騰で、いまや「カタクリコ」どころか、「クズコ 葛粉」さえも貴重品である。

もちろん 自分でカタクリの鱗茎を掘ったことなどないが、事典によると、地中30cmもの深さにあって縦長の筒状で、ユリに較べてサイズが小さいということである。

現在市販の片栗粉は、ジャガイモあるいはサツマイモから採る澱粉である。


ここで「片栗」の由来がまた わからない。

クリは古代から利用された植物であるから、「クリコ 栗粉」という言葉も昔からあったであろう。

カタクリに、初めは「カタカゴ」という古名が付いていたとして、それが現在の「カタクリ」に取って代わられたのは、栗粉よりも貴重で上等な粉を「カタ・クリコ」と呼び、それを採る植物を「カタクリ」と呼ぶようになったためではないだろうか。

変遷途中の長い期間、いまのカタクリに対して「カタカゴ」と「カタクリ」の両方の名前が使われていたはずである。
また、さまざまな方言は現在でも使われているだろう。

栗粉よりも「キュッ と堅い感じ」で、「栗粉」はどうだろう...
 

片 栗
カタクリ の別案である。

クリ花は3つがセットで咲くのだが、イガの中で大きくなるのは 通常2つで、大きな楕円形をしている。
クリの実
Wikipedia より
これに対して、もし、不出来な小さな細長いクリの実を「片栗」あるいは「片わ栗→カタクリ」と呼ぶとしたら・・・・・。

「カタクリ」の細長い鱗茎(球根)が、「片栗」に似ているために名付けられたもの、となるのでは・・・?

参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        図説 花と樹の大事典/植物文化研究会、
        Wikipedia
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