シナアブラギリ 支那油桐
Aleurites fordii Hemsl. (1906)
別 名 : オオアブラギリ
科 名 : トウダイグサ科 Euphorbiaceae
属 名 : アブラギリ属 Aleurites
J. R. Forst. et G. Forst. (1775)
英語名 : China wood-oil tree
原産地 : 中国南部
用 途 : 昔は種子から油を採るために栽培された。
 
桐油は空気に触れると酸化して固まる乾性油で、和紙にしみこませて油紙とし、傘や提灯、雨合羽などに使うために盛んに栽培された。
 
毒性があるために食用にはならないが、その後は印刷用インク・ニスなどに用いられた。
撮影地 : 日本
 
 
小石川植物園にはなぜかアブラギリがないが、「薬園」のすぐ近くに2本のシナアブラギリがある。
 
面積が限られた植物園では木が込み入っていることが多く、往々にしてひょろ長く伸びてしまって、下の方には枝がない。
幸いにしてシナアブラギリの1本は開けた薬園に面しており、枝垂れた枝の花を撮影できた。
 
シナアブラギリ 小石川植物園 (手前が薬園)

 
葉の様子 新葉の様子
葉は浅く3つに分かれるが、小さめの葉では心臓型のものが多い。
 
落葉樹 葉や花は枝先に付く

 
高い梢に咲く花
アブラギリ属は雌花と雄花が別々だが同じ木に両方が咲く、雌雄同株である。
 
実 (ミ) は両方の木に生るのだが、枝垂れた方の枝には雄花が少ない。
最近になって、ようやく両方が咲いている写真が撮れた。
 
事典の記述によると雌花の花弁も5枚だが、この雌花は8枚である。
雌しべの先端は5つに分かれている。
雌花(上) と 雄花(下)
もう1本の木の梢にはいつもたくさんの花が咲いており、雄花は萎れる前に早いうちから落下して、地面が花だらけになる。
 
落ちている 雄花 を集める (4月末)
 
花の直径は 25mm ぐらい。
下の写真は5枚の花弁のうちの2枚を取り去って、横から写したもの。 おしべが「2段」になっているのがわかる。

 
雄花ばかりが目立つ理由は、
 
・雌花は枝先に通常1個 (まれに複数) しか付かないため、数が少ない。
・雄花は花柄ごと (花の形のまま)落下するが、雌花は花びらがバラバラになって落ちるために、目立たない。
 
満開の雌花 花びらが落ち出す
花びらが落ちる前から、子房が小さく膨らんでいる。
 
雌花は終了 子房上位
多くの雄花は、雌花が咲き終わってから開花する。
 
花びらの付け根よりも上に子房があるのが、子房上位。
 
枝先にひとつ付く実 若い実の断面
左の写真は8月下旬で、実の大きさはかなり大きくなっている。
右は9月初め。まだ青いのに落ちてしまう実があり、縦・横に切ってみた。
種子は充実してきているが、まだ小さい。事典によると子房は2〜5室とあるが、5つが多いように思う。
 
このあと種子はもう少し大きくなって、冒頭の写真のように割れて散乱する。
小石川植物園の木を見ている限りでは、ひとつの花序にひとつしか実がならないが、小学館のフィールドガイド『日本の樹木』には鈴生りの写真が載っていた。
 
後日、京都植物園で、複数の実が生っているのを確認した。
 
京都のシナアブラギリ 種子のアップ

 

 
種子を取り出してきれいに洗ってみると、表面にたくさんの突起がある。
 
地面に落ちた種から生えた苗 (京都)

 
名前の由来 シナアブラギリ Aleurites fordii
 
シナアブラギリ 
支那油桐 : 
中国原産のアブラギリ の意味。中国南部が原産である。
 
ところが アブラギリも中国原産で、広東省、福建省に分布するということである。
アブラギリが日本に伝えられたのは 300年前。 ということは江戸時代であるが、まずアブラギリが渡来してその栽培が一般化した後に、シナアブラギリが再度 中国から伝えられた、ということになろう。
 
シナアブラギリは「オオアブラギリ」の別名のとおり、花や実がアブラギリよりも大きく、また取れる油の質も良いそうだ。
種小名 fordii : 人名に由来する。
事典には上記以外の解説がなかったので、ハーバード大学ハーバリアの「植物収集家」というデータベースを検索したところ、中国・香港などで収集を行った チャールズ・フォード Charles Ford (1844-1927) が見つかった。
 
学名の命名者はイギリスの植物学者 William Botting Hemsley (1843-1924) である。
Index Kewensis で検索してみると、ヘムズレイは 1886年から1909年にかけて、13 もの「fordii」という種小名の学名を発表しており、いずれも原産地は中国となっている。
 
ほかにも多くの学者が fordii の種小名で命名しており、いずれも「採取家フォード」が集めた標本をもとに命名したものと思われる。
Aleurites アブラギリ属 : 小麦粉に由来する
ギリシア語の aleuron 小麦粉 からきており、幼葉が白い粉で覆われているため とあるが、シナアブラギリでは顕著ではなく腑に落ちなかった。
 
朝日百科『植物の世界』によると、高さ10mになる常緑の「ククイノキ」の幼葉が、白粉で覆われているように見える ということであった。
 
アブラギリ属は、中国大陸南部から太平洋諸島西部にかけて、5種のみが分布する、数の少ない属である。
 
シナアブラギリ ←
 
 アブラギリ
 油桐 Aleurites cordata
アブラギリ
まず アブラギリの写真がないので、春日健二氏 のホームページ「日本の植物たち」の中から写真をお借りした。
 
満開の花。雨上がりの濡れた葉。
とてもきれいな写真である。
 
いつもありがとうございます。

 
(kasuga@mue.biglobe.ne.jp
> 
名前の「アブラ」はすでに何度か述べたように、この木の実から油が採れることによる。
「キリ」の名は、おもに葉がキリに似ているところから名付けられたものといわれている。
 
またアブラギリの材も、桐と同じく下駄や箱材として使われている という記述を見かけた。特にその炭は漆器を磨く特殊用途に使われるそうだ。
 
ところが、アブラギリの葉もシナアブラギリの葉も、半数近く ? は浅く3裂する。
さらにアブラギリの葉の縁は細かく波打って、表面には艶がある。
この両者の「葉」を較べると似ていないが、最下段のように、それぞれハート形の葉を並べると形はよく似ている。
 
アブラギリの種小名 cordata は「心臓形の」という意味である。
それにしては、3つに切れ込んだ葉が多い。
典型的なキリの葉の形
シナアブラギリの葉
タイルの大きさは 30cm 角
左 キリ 、右 シナアブラギリ
細かいことは言わず、全体のイメージで「油の採れるキリ」ということである。
 
ついでに、幹の比較。
シナアブラギリの幹は、キリよりもイイギリの幹に似ている。
キリの幹 シナアブラギリの幹
皮目がある樹皮にはタンニンが多く含まれるため、染料や皮をなめすのに用いられる。
 
 参考 サンゴアブラギリ
学名は Jatropha podagrica Hook.(1848)
 
同じトウダイグサ科で、ナンヨウアブラギリ属(タイワンアブラギリ属ともいわれる)に属す。
原産地は西インド諸島、中央アメリカ、コロンビアで、高さ30cm〜1m程度にしかならない低木である。
 
中国名は同じく珊瑚油桐。和名とどちらが先についたのかは わからない。
 
種小名 podagrica は「太く膨起せる」という意味で、幹の根元が徳利状に太くなっている様を表している。「トックリアブラギリ」ではなくて、サンゴアブラギリとした名前の由来は、下の写真のように、網目状に咲く花を アカサンゴ (赤珊瑚 Corallium japonicum) に見立てたものである。
 
写真は大森の「Kashiko」という花屋で売られていたものを撮影させてもらったもの。
「かしこ」は普通の花屋とはちょっと変わった、ユニークな花屋である。
 
サンゴアブラギリ 肥大した幹

 
独特の形の葉 サンゴアブラギリの花

 
右の写真がアカサンゴかどうかは不明。(沖縄 那覇のおみやげ店で)
 
地中海のベニサンゴはギリシア時代から装飾用に用いられているという。

 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        園芸植物大事典/小学館、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        フィールドガイド・日本の樹木 上下/小学館、
        Harvard University Herbaria のホームページ、
        春日健二氏のホームページ「日本の植物たち」、
        ギャラリー「Kashiko」/品川区南大井
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