モンキー・ポット
Lecythis ollaria Linn. (1759)
科 名 : サガリバナ科 Lecythidaceae
属 名 : パラダイスナットノキ属
       Lecythis Loefl. (1758)
和 名 : サルノツボ (仮名)
現地名 : Monkey pot tree
原産地 : 中東から東南アジア、マレーシア
用 途 : サルの食用 ?

撮影地: シンガポール

シンガポール植物園には大きな木が2本あり、その実の直径は20cm以上あった。また、簡単な解説板も付いていた。

アメリカネムノキ ( Albizzia saman) をモンキー・ボッド(pod:豆などの鞘のこと) と呼ぶので混乱していたが、こちらはまさに「ポット」。
鈴のような形をしている。
下部にうっすらと線がはいっているが、これが落ちる前の底蓋である。

この「木に実が生っている状態で蓋が取れてしまう」という点が、モンキー・ポットの名前の由来に関係している。
 

 
バンドスタンド近くの傾斜地に生える大木
幅は 約25mもある。道の奥のベンチと較べると大きさがわかるかも知れない。
株立ち状態の幹 幹の様子

 
解説板
解説板には、

「ブラジルナットノキやホウガンノキに近縁である本種は、ベネズエラやブラジルの原産である。一般名も学名も、大きな木質の果実に由来している。(lecythis = 油壺 )。果実の「蓋」が落ちると、猿が手を入れて種子を取る。」
とある。

 
スワンレイク横の大木

 
幹の様子 新緑の様子(1月)

 
できたての実
落ちた花を分解
花の構造は同じサガリバナ科の「ホウガンノキ 砲丸の木」とそっくりである。

中央の紫色の濃い部分は「U字型」に湾曲しており、両面に雄しべがたくさん付いている。
右下は、それを手前に開いた状態である。

雌しべは花の中心にあり、受粉すると上右のように円形の果実ができる。
 
名前の由来 Lecythis ollaria
 
和 名 なし (仮名 サルノツボ)
サルノツボ はどうも語感が悪いので、モンキーポットがいいでしょう。
属名の意味を汲むと「アブラツボノキ」となるが、油壺型の果実は本種に固有ではなく、共通の特徴である。
 
種小名 ollaria : 
牧野富太郎 他の『植物学名辞典』には「コップ型の」という意味が載っていた。
実の形状からすると「コップ」はおかしいので、改めて『羅和辞典』を引いてみると、olla : つぼ、びん、なべ、ollarius : つぼの となっていた。

リンネは『自然の体系』第10版に本種を記載しているが、下記のように、属名が「油壺」という名になっているのに、重複した種小名を付けてしまったことになる。
 
Lecythis パラダイスナットノキ属 :
シンガポール植物園の解説板にもあったように、油壺 oil pot、あるいは 壺・甕 という意味で、この属の果実が壺状の形をしていることにちなんでいる。

26種が中央アメリカからブラジル南部にかけて分布しているという。
 
シンガポール現地名 および 英語名 Monkey pot
木の前の解説パネルには、単に「猿が手を入れて種子を取る」としか書いてないが、『植物の世界』朝日新聞社 によると、「サルが手を突っ込み、欲張ってたくさんの種子をつかむと手が抜けなくなることからつけられたという」とある。

まるで おとぎ話の世界だが、実際の実の穴はかなり大きく見えたので、普通の猿の手なら種子を掴んでも問題なさそうに思えた。
 
サガリバナ科  Lecythidaceae
パラダイスナットノキ属を基準属とするサガリバナ科で、属名と同じである。

サガリバナについては、ホウガンノキに書いた別項を参照していただきたい。
 
 サガリバナ科の一種

名札がなかったので種を特定できていないのだか、ガイアナの首都ジョージタウンの植物園で、パラダイスナットノキ属、あるいはそれに近い樹木を見かけた。
 
樹形 高さ2.5m 横に広がっている

 
曲がった花序の様子
長くて曲がった花序は ホウガンノキ を思わせるが、幹から直接出ている感じではない。
花の形も似ているが、手前で折れ曲がった雄しべは、ホウガンノキと違って雌しべ側に密着している。サイズも小さく 6cmぐらいである。
これは 『植物の世界』朝日新聞社 7-59ページの ブラジルナットノキの花の写真によく似ている。
花の詳細
右の写真は、密着していたお椀型の雄しべ群を剥がした状態。
かわいい実
肝心の実の写真が少しぼけてしまったが、実の大きさはわずか5cm程度であった。

いくら小さい木だとはいえ、果実のサイズや花序の形状が違うことから、モンキー・ポットではなさそうだ。
しかし、実の形はよく似ている。

モンキー・ポットの花も、恐らくこの花と同じような花であろう。

 
  ブラジルナットノキの繁殖方法

本項に何度も名前の出た、ブラジルナットノキ Bertholletia excelsa はパラダイスナットノキ属に近い、ブラジルナットノキ属にただ1種の植物である。

事典によると ブラジルナットノキは大型の木で、45mにもなるという。

    Bertholletia excelsa Humb. & Bonpl. (1808)

2008年4月、ニューヨーク植物園の特別展示で、偶然にもブラジルナットノキなどの展示を見かけた。
ほかにも、Wikipedia や著作権フリーの投稿サイトにあった写真を掲げておく。
ブラジルナットノキの実
果実の大きさは15cm程度と大きくなく、10~25の種子が入っているそうだ。

左側が1年以上かけて完熟して落ちた実。穴は種子の大きさよりも小さいため、サルに食べられることがない。
また殻が非常に固いために、割って食べることもできない。

右側は、展示のために実に「窓」を開けて、中が見えるようにしたもの。
 
ブラジルナットノキの種子と 皮をむいたナッツ

 
葉、果実、種子の拡大図 果実の中の種子


果実のサイズが小型であることがわかる。
ブラジルでは、1万5千年前の南米先住民の貝塚から、ブラジルナッツの食べかすが見つかっているということで、いかに古くから食用にされていたかがわかる。
 
こんな硬いからに包まれていたのでは、繁殖のしようがないように思えるが、研究者が答えを見つけている。

「アグーチ」と総称される耳の短いウサギのような動物(ネズミ目または齧歯目)がおり、丈夫な歯でブラジルナットノキの実を囓って穴を開けて、おいしい種を食べるのだが、後で食べるために地中に種子を埋めておくそうだ。
そして、アグーチが食べ忘れた種子から芽が出るという仕掛けである。
 
ブラジルナッツを食べるアグーチの図
ニューヨーク植物園の 特別展示より
(許可は得ていないが「撮影禁止」ではなかったので)
 
ブラジルナットノキは「アグーチ」がいることを知っていて、こんな硬い実を作ることにした訳ではないであろう。

この「しくみ」が完成するまでの経緯を知りたいものである。
例えば、
初めはブラジルナットノキの実にも、大きな穴が開いていた。
アグーチは餌を穴に埋めておく習慣 (貯食行動) があるので、サルやほかの動物にほとんどの種子が食べられてしまっても、アグーチが食べ忘れた種子でなんとか子孫を残していた。
突然変異で穴の小さいブラジルナットノキが生まれた。
サルなどに食べられることがなくなり、殻をかじって中身を食べられるアグーチは、食べ放題 ・ 貯め放題となった。
それによってアグーチの個体数も増えたが、穴の小さいブラジルナットノキの芽がたくさん出ることになり、現在の状態になった。
 
しかし、穴が開いてサルに食べられてしまう「モンキー・ポット」でさえ、今日まで生き延びているわけであるから、必然性はないわけで、食べられる以上の 大量の種子を作っている という事であろう。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        週間朝日百科/植物の世界・朝日新聞社、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        羅和辞典/田中秀央/研究社、
        Wikipedia、
        ニューヨーク植物園の特別展示
世界の植物 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ